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六月の晴れ

生徒会長

作者: とわ

「失礼しま~す」


放課後。

トントンと軽くノックし、野村じゅんは生徒会室のドアを開けた。


普段はひろみを待たずに先に帰っているじゅんだったが、今日は帰りに、一緒に百智雷への誕生日プレゼントを買いに行く予定だった。そのため、生徒会の仕事が終るこの時間まで、学内で暇をつぶしていたのだった。


「あれ?ひろみは?」


ドアを開けるとそこには、先月のクロス、つまり生徒会選挙にて、生徒会長に当選した市川千夏ただ一人が、クロス会に与えられた机で書き物をしていた。

一年生でありながら生徒会長に当選するだけあって、市川はかなりの切れ者だった。特進クラスで常に第3位の成績を維持しているのに加え、中学でも生徒会長を務めており、その名は他校にまで知れ渡っているほどだ。『彼に任せておけば間違いはない』と思わせる雰囲気を持ち、また逆に、『正当な理由がない限り、彼に逆らうことは許されない』という噂もあった。もちろん、じゅんもその噂は知っており、この部屋には市川のみだという事実を知ったとき、正直ドアを閉めて帰ってしまおうかとも考えた。

しかし『誰にでも平等に』の精神の野村は、果敢にも市川に挑む事にしたのだった。


「真柴は今、職員室に届け物をしている。何か用事か?」


どんな鬼生徒会長かと気負って話しかけたじゅんは、市川の優しげな表情と声に拍子抜けした。

『女にモテそうな優男』という雰囲気だな、とじゅんは思った。


「いや、一緒に帰る約束してたから迎えに来たんだけど…まだ終ってないのか?」


さっきまでの緊張が解け、クラスの友人たちに話しかけるような軽い気持ちになっていた。


「届け物が終ったら今日は終りの予定だ」


「そっか。じゃ待ってるか」


「あぁ、そこのソファーで待っているといい」


「ん、サンキュ」


そういってじゅんは、黒いふかふかのソファーに腰を落ちつかせた。




5分くらいは経っただろうか。

その間、仕事の邪魔をしてはまずいと思いじゅんからは話しかけなかったし、市川からも話しかけられることはなく、部屋には沈黙が落ちていた。


「なぁ、なんか手伝う事あるか?」


その沈黙に耐えきれなくなったじゅんは、何かしていれば落ちつくだろうと思いいたった。


「では、そこに積んである資料をホチキスで留めてくれるか?」


「了解」


これくらいなら簡単にできるぞ、と始めた仕事を黙々と片付けて行った。

あと2、3束で終るというとき。


「それを職員室の雨森先生に持っていってもらえるか?」


まぁ暇だしそれくらいなら、と思い。


「ん」


そう言いながら、先ほど作った資料を抱え込む。


「保健室側のドアから入ると近いぞ」


「分かった」


両手で抱え込んだためドアが開けられないな、と思ったときには、市川がドアを開けてくれていた。

礼を言って部屋を出て、じゅんは職員室へ向かった。




*   *   *




「失礼しま~す」


職員室のドアをなんとか自力で開けて入ると、ドアから3つ目の机に目標人物・雨森更也が座っていた。


「先生、会長から資料預かってきました」


「あ、ありがとう」


任務完了とばかりにその場を立ち去ろうとしたじゅんの目の前には。


「…じゅん?」


待ち人・真柴ひろみが立っていた。


「ひろみ!あ、そういや職員室に届け物とか言ってたな」


「あ、あぁ…まぁ……」


とういうひろみの腕には、大量のプリントが載っていた。

ついでになぜか、目が泳いでいる。


「ありがとう、真柴くん。あ…っ」


どうやら雨森先生の手伝いをしていたらしい、と思い当たった瞬間、ばさばさっという音と共に、雨森の机に載っていた、先ほどじゅんが運んできた資料がその場に散乱した。


「……」


がくり、と肩を落とすひろみを尻目に、じゅんは落ちた資料を拾う。


「名前、知らないんだけど…ありがとう」


なんだか頼りなさげな笑顔を向けられる。

大丈夫だろうか?この先生、と思った矢先、


「あ…」


今度は机の上のファイルがばさばさっと床に落ちた。

どうやったらそこの物が落ちるんだ?という疑問を持ちながら、じゅんは再び拾う手伝いをする。


「いや、ホント悪いね」


本当に申し訳なさそうに謝る雨森。


「先生、この資料は俺たちで作りますね」


「え?でも、それまでやってもらうなんて…悪いよ」


「いえ!全っ然大丈夫なんでっ!先生は……ほら、その仕事片付けちゃってくださいっ!!」


それでも『申し訳ないよ…』と言っている雨森に対し、


「こ、こいつもいるし、すぐ終りますよ」


ひろみはじゅんの肩をばしばし叩きながら答えた。ひろみの必死な様子に、じゅんは頷くことしかできなかった。




*   *   *




「なんなんだ?いったい…」


ひろみが持っていた新しいプリントを持って、裁断機のある部屋へ移動した。

ひろみが裁断したやつを、じゅんがホチキスで留めるという流れ作業をしながら、じゅんはひろみに質問した。


「お前、市川のやつに仕事押し付けられたのか…?」


「いや?オレが『仕事ないか』って聞いたら、これ頼むって…」


ひろみは、はぁ、とため息をつきながら肩を落とした。


「あいつはな…俺も一緒に仕事するようになってから知ったんだが、人使いがすっっっっごく荒いことで有名らしいぞ」


「は?」


「俺たちの性格とかを見極めた上で、そいつに一番合った仕事を、さりげな~く、しかし強引に押しつけるんだ」


あぁ、とじゅんは納得した。

先ほどのとろそうな雨森先生。ひろみは困っている人を見ると助けずにはいられない性格だから、ひろみのおせっかい心を刺激するあの先生のところに送りこみ、仕事を早く、確実に行わせたのではないか、という考えに行きついた。

ついでに自分は、そのひろみのサポートとして送りこまれたと考えれば、筋が通っている。


「だけど、その人選は的確で、やっぱり結果的に効率もいいもんだから、だ~れも文句言えないんだよなぁ……」


たまに考えナシに突っかかってくる奴がいるけど論理的に返されて終り、と、首を切る真似をしてみせた。


「これから1年…ヘタしたら2,3年弱はあいつにコキ使われるんだろうなぁ……」


はぁ、とため息をつきながら再び肩を落とす親友を眺め、じゅんは「ぷっ」と吹き出した。

『こいつってつくづく苦労性なんだよな』と、じゅんは思うのだった。

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