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みずがめ市場の白黒ねこ  作者: リッチー
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7.冬のお買い物

7.冬のお買い物



 本当に寒い日が続いたホーリー郡のカラス岳ではスキーが楽しめます。

 ビリーの家があるカラス岳の低い場所では雪は積もっていませんが、少し上に行くともうすっかり雪で真っ白。

 子供たちはスキーの板を担いでビリーの家の前を通り、上の方まで歩いていきます。

 子供たちはビリーに温かいミルクやお菓子をもらったりするのが楽しみで、スキーの帰りにはきまってビリーの家に遊びに来るのでした。

 ある朝のこと、ビリーはふかふかで暖かいコートを着て、いつもの赤いリュックサックを背負うと、みずがめ市場までお買い物に出かけることにしました。

 このところ寒さのせいで家に閉じこもることが多かったビリーですが、子供たちが楽しみにしているミルクやお菓子が少なくなってきたからです。

 今日のビリーは、トマソンさんの金物屋さん、シンプソンさんの果物屋さん、トーマスさんの牛乳屋さん、スチュワートさんのお肉屋さん、ワットさんのお菓子屋さん、マーカスさんのパン屋さん、そしてジェスのバーによってから、家に帰る予定です。

 夕方には子供たちがスキーから帰るまでには全部回らないといけません。

 「うわぁ、寒いなぁ・・・。」

 ピューっという音を立てながら冷たい風がビリーの耳元を通りすぎます。

 ビリーは小さくなりながら市場へと急ぐのでした。

 「やあ、ビリー。寒いね。」

 金物屋のトマソンさんはお店の奥の方でパイプたばこを吹かしていました。

 「本当に。」

 「それで、今日はどうしたんだい?」

 「ランプの油が切れそうなので、買いに来たんです。」

 「そうかい。ビリーのうちはそんなに大きくないから、小さい瓶のでかまわないね?はい。どうぞ。」

 トマソンさんはランプの置いてある棚の奥の方から茶色い小瓶を出して、ビリーに渡してくれました。

 「ありがとう。」

 「この頃はどうしていたんだね?」

 「家で色々と売れそうなものを作ったりしてます。」

 「そうか、また顔を見せに来てくれよ。」

 ビリーはお礼を言うとトマソンさんの店を出ました。

 次はお隣のシンプソンさんのお店です。

 「こんにちは」

 「ビリー!このところ顔を見ないからどうしてるのかと思ったよ。」

 「うん。家でこんな感じの飾りや小物を作ってたんだ。毛針が売れない時期にはこれを売ろうかと思って。」

 ビリーは赤いリュックサックからキラキラと光るネックレスを取り出して見せました。

 「おや、きれいだねぇ。」

 シンプソンさんはネックレスを手に取ると、真っ白なふわふわの毛で覆われた胸に当ててみました。

 「いいねぇ。それでビリー、どこに売るかはもう決めてるのかい?」

 「ううん。まだなんだ。今日も10本くらい持ってきたんだけど。」

 「それなら、私が預かって、友達に紹介してあげるよ。」

 世話好きで噂好きのシンプソンおばさんはたくさんの友達がいるのでした。

 「ほんとう?ありがとう。じゃこれお願いしますね。」

 ビリーは3本残して6本のネックレスをシンプソンさんに渡しました。

 「その3本は肉屋の看板娘たちにだね?」

 シンプソンおばさんはにっこり笑いながら言いました。

 「うん。」

 ビリーは赤くなりました。

 ビリーはシンプソンおばさんのお店でリンゴを3つ買うと、向かいのトーマスさんのお店に向かいました。

 「こんにちは。」

 「やあ、ビリー。元気だったかい?」

 山羊のトーマスじいさんはゆっくりと言いました。

 「うん。今日はチーズとミルクを買いに来ました。」

 「おやおや、ありがとう。チーズは何がいいのかな? ブルーチーズがおすすめだよ。」

 「それじゃ、ブルーとカマンベール、ゴーダ、モッツァレラを1つずつ。それと、ミルクを1ダース配達してもらいたいんだけど。」

 「はいよ。おやすいご用さ。おーい、ジョン。ビリーの家にミルク1ダースとチーズの、配達に行っとくれ。」

 トーマスさんはお店の裏手に声をかけました。

 「はいよ。ビリーいらっしゃい。一緒に乗っていくかい?」

 まだ年の若い山羊のジョンがひょいと顔を出しました。

 「ううん。まだ寄るところがあるから。ありがとう。」

 ビリーはお礼を言うと、今度はスチュワートさんのお肉屋さんへ向かいました。

 「やあ、ビリーしばらくだね。」

 「こんにちは、スチュワートさん。今日はコロッケをかいにきました。」

 「いつもありがとう。エルザ、ビリーが来たよ。」

 お店の奥が少しにぎやかになって、すぐにエルザが顔を出しました。

 「ビリーくん。」

 『ビリーくん。』

 一瞬遅れて、ローザとアンナが顔を出しました。

 「おいおい、みんな来ちゃ、仕事が止まっちゃうだろ。」

 スチュワートさんは苦笑い。

 「スチュワートさんごめんなさい。これはエルザ、これはローザ、これはアンナ。」

 ビリーはリュックサックからネックレスを取り出すとそれぞれに渡しました。  

 「うわぁ、すてきね。」

 「きれいね。」

 「かわいいわ」

 スチュワートさんは感心しました。

 「これはビリーが作ったのかい?大したもんだなぁ。」

 「うん。毛針の売れない季節にアクセサリーを作って売ろかと思って。果物屋のシンプソンさんが友達に紹介してくれるって。」

 「そうかい、それはよかったなビリー。シンプソンさんならたくさんの人に紹介してくれるだろう。」

 「ビリーくん、ありがとう。」

 『ありがとう。』

 「おや、ビリー。あたしの分はないのかい?」

 メアリーさんも顔を出して言いました。

 「おいおい、メアリー。」

 スチュワートさんはしょうがないなぁという顔で笑いました。

 「ごめんなさい。メアリーさん。残りのネックレスは全部シンプソンさんにわたしちゃったんで・・・。」

 「ビリー、冗談よ。」

 メアリーさんは笑いました。

 「ああ、そうだ、1つだけ作った指輪なら」

 ビリーが指輪をわたそうとするとメアリーさんが言いました。

 「それは、あげる相手が違うんじゃないのかい?」

 「え?」

 ビリーはエルザと目があって真っ赤になりました。

 「あはは、やっぱりあたしが貰っとくよ。ありがとう。」

 メアリーさんはそう言ってビリーから指輪を貰いました。

 「さあビリー、コロッケが揚がったよ。あんまりからかわれないうちに持って行きな。お代はいいよ。」

 スチュワートさんが木の皮でくるんだコロッケをビリーに渡してくれました。

 「スチュワートさんありがとう。」

 そういうとビリーは逃げるようにスチュワートさんのお肉屋さんを後にしました。

ビリーは急いで、ハリネズミのワットさんのお菓子屋さんでキャンディーとチョコレートを。

 オナガザルのマーカスさんのパン屋さんでバゲットと食パンをかって、やっとの思いでジェスのバーにたどり着きました。

 この頃ジェスのレストランバーはお昼過ぎにはカフェとしてお店を開け始めました。

 なぜなら、今の季節、ジェスはマス釣りができないからです。

 「やあ、ビリー。どうしたんだい?疲れた顔して?」

 テーブル席に座り込んだビリーを見ながらジェスは言いました。

 「うん、いや、いろいろあってね。」

 「いろいろあるよねぇ。」

 突然後ろのテーブルから声が掛かってビリーはびっくり。

 「ピーター!」

 いつもピーターには驚かされるビリーでした。

 ピーターはいつものにやにや笑いでコーヒーを飲んでいました。

 ビリーはジェスの方を見ると、ジェスは肩をすくめただけで何も言いませんでした。

 「さて、ビリー。やっぱりあれだね。エルザのことかね?」

 ビリーはドキッとしてピーターを見た後またジェスを見ましたが、こちらに背中を向けています。どうやら後ろ向きで笑っているようです。

 「・・・。」

 ピーターはジェスに

 「ごちそうさま」

 というと、お店を出て行く前に振り返ると言いました。

 「早くしたほうがいいよ。エルザは人気があるからね。」

 そういうと今度は本当に出て行きました。ビリーはピーターの後ろ姿を見て顔は絶対にニヤニヤと笑っているに違いないと思いました。

 「ビリー。何にする?」

 やっとジェスが含み笑いを納めてビリーの注文を取りに来ました。

 「紅茶を・・・」

 そういって、手に提げた包みからコロッケを1つ、ジェスに渡しました。

 「ありがとう。なるほど、そうか。」

 ジェスはコロッケをかじりながら言いました。

 「ピーターはビリーの持ってるコロッケの包みを見てエルザのことだと思ったんだね。」

 ビリーもコロッケを食べながらうなずきました。

 「そうに違いない。でも別にいいじゃないか。放っといてくれてもさ。」

 少しご機嫌が斜めのビリーです。

 ジェスは残りのコロッケを口に放り込むと言いました。

 「まぁ、そんなにむくれてないで。ピーターもあれでビリーたちのことを気にしてるのさ」

 そして、ビリーのために紅茶を入れてくれました。

 紅茶にミルクと砂糖を少し入れてかき混ぜていると、気持ちが少しずつ穏やかになってくるのをビリーは感じました。

 「まだまだ暖かくならないねぇ・・・」

 カウンターの中でジェスが釣り竿を振るまねをしながら言いました。

 「うん。そうだね。」

 ビリーとジェスの間に静かな時間が流れていきました。

 お店の真ん中にある薪ストーブの上でケトルがゆっくり白い湯気をたてています。

 奥の壁につられている柱時計が小さな音でコチコチと振り子を動かしています。

 「そろそろ行くよ。子供たちにミルクを温めてあげないと。」

 ゆっくりとした時間を楽しんだビリーが席を立ちました。

 「そう。またおいでよ。」

 ビリーはジェスに紅茶の代金を払うと荷物を背負いなおしました。

 ドアを開けるとちらちらと雪が舞っています。

 「ごちそうさま」

 ビリーはぶるっと体を震わせて市場を抜けて家へと向かいました。

 お昼と言うには少し遅くて、夕方にはまだ早い時間、ビリーはたくさんの荷物を背負ってカラス岳の家へとクネクネ川にそって坂道を上ります。

 子供たちがスキーから帰ってくる前に温かいミルクを用意するために。

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