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みずがめ市場の白黒ねこ  作者: リッチー
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6.みずがめ市場のクリスマス

6.みずがめ市場のクリスマス



 ホーリー郡に冬が来ました。

 白黒猫のビリーにはちょっと苦手な季節です。

ビリーは寒いのが苦手です。でももっと違う意味でビリーは冬がすこし苦手なのです。

 マスたちは秋のうちに沢山食べて少し太ったら、水の底の方でじっと動かないで春が来るまで大人しくしています。

 ビリーの家の前にある小さな池のマスの姉妹も静かに眠っているようです。

 そんな訳で、毛針は売れない季節になるのです。

 一年中暖かくてマスがよく釣れたらなぁと、思っても季節は変わり毎年寒い冬がやってくるのです。

 さて、町ではクリスマスの準備で大忙しで、ビリーは器用な手先でクリスマスの飾りを作っては売るのが冬の初めのお仕事です。

 このお仕事は本当のところ、毎日の毛針屋さんよりも沢山のお金を貰えます。

 ビリーは秋が終わるとすぐに、色とりどりの飾りを作りクリスマスまで毎日、トマソンさんの金物屋さんに売りに行きます。

 トマソンさんはビリーの作ったクリスマスの飾りをお店に並べてお客さんに売ります。 みずがめ市場のどこのお店も、ビリーが作った飾りをお店に飾ることになるのです。

 ビリーが作る飾りは手が込んでいて、材料も良いものを使っているので、大人気。

 すぐに品切れになるほどでした。

 でもビリーはやっぱり毛針を作って釣りを楽しむのが好きなのでした。

 そんな話をトマソンさんに話すとトマソンさんは言いました。

 「いいかい、ビリー。そりゃ自分が楽しい仕事はいいに決まってるさ。でも、みんなが喜んでくれる仕事があって、それで暮らしが出来るなら、本当はそれが一番良いことだと私は思うよ。」

 ビリーは、毎年、クリスマス前にずっと働いて、クリスマスが終わったら、ジェスのお店を手伝ったり、シンプソンさんの果物屋さんを手伝ったりして過ごします。お金は十分あるのですが、かといって、家でゴロゴロしているのはどうも気が進まなかったからです。

 クリスマスの日には毎年ジェスのバーでパーティーです。今年も盛大に盛り上がることでしょう。

 そして今日はいよいよクリスマスの日です。

 朝からビリーはクリスマスの飾りをトマソンさんに買ってもらい、すぐにジェスのバーへ行きました。お店はまだ閉まっているのですが、パーティーの準備のためにジェスと待ち合わせをしていたからです。

 「やあ、ジェス。遅くなっちゃった。」

 「いや、いつも手伝ってもらって悪いね。」

 ジェスは椅子に乗り、ツリーの上の方に飾り付けをしていました。大きなツリーはビリーの作った飾りできれいに飾られていました。

 ビリーはリュックから特別に大きな星の飾りを取り出しました。

 「はい、ジェス、この星をツリーのてっぺんに飾ろうよ。」

 ジェスは星飾りを受け取るとツリーの一番上に飾りました。

 「うん、すごく良いよビリー。これは立派だ。」

 椅子から降りるとジェスは満足げに腕を組んでうなずきました。

 それから二人は壁に特別大きなリースを吊したり、とても一人では出来なかった飾りつけをしました。

 「さあ、これで飾り付けが済んだぞ。ビリー、ありがとう。お腹すいたろう?お昼はなんかご馳走するよ。」

 「ありがとう。そう言ってくれると思ってたよ。」

 ビリーは笑顔でカウンターに座りました。

 「夜はパーティーで豪華になるから、簡単なもので良いだろう?」

 そう言うと、ジェスは鶏肉を細かく切ると刻んだタマネギと一緒に炒めて、塩コショウをふり、白ワインを入れました。煮たってアルコールが抜けるとご飯を入れて、ケチャップで味付けをしました。そして別のフライパンでオムレツを作り、お皿にケチャップライスを盛りつけるとその上にオムレツを乗せ、包丁で軽く切り目を入れました。するとオムレツはするりと二つに割れてとろとろの中身を外側にしてかわいいオムライスが出来上がりました。

 「さあどうぞ。特製オムライスです。」

 「美味しそうだね。いただきます。」

 ビリーは熱いのが苦手でしたが、ハフハフ言いながら、すぐに食べてしまいました。

 その様子をジェスは目を細めてうれしそうに見ていました。

 「あー、美味しかった。」

 「どう致しまして。それだけ美味しそうに食べてくれるとこっちがお礼を言いたいくらいだよ。」

 ビリーは少しきょとんとしてから言いました。

 「そうか、そうなんだ。」

 「どうしたの?」

 ジェスは何のことかわかりません。

 「わかったよ、ジェス。これが本当の良いことなんだよ。」

 ジェスには何がなんだか全然わかりませんでしたが、ビリーの目が輝いているのを見ると静かにうなずきました。

 「なんだかわからないけど、ビリーがわかったんならそれでいいや」

 「今日はお店の手伝いをさせてよ。みんなの楽しむ顔が見たいんだ。」

 ビリーが言うとジェスも応えて言いました。

 「ありがとう。そう言ってくれると思ってたよ。」

 二人は笑いながらパーティーの準備に取りかかりました。



 夕方、日が暮れるとみずがめ市場はクリスマスの飾り付けで一杯になりました。

 「おとうさん、早く行こうよ!」

 アンナとローザが先に行ったエルザを見ながらスチュワートさんの手を引っ張ります。

 「もう、エルザったら先に行かなくってもねぇ?」

 「そうよね。ねぇ?お父さん?」

 アンナとローザが言うとスチュワートさんは笑いながら応えました。

 「まぁ、良いじゃないか。おまえ達も今日はクリスマスなんだ、先に行って自分の一番座りたい席を取りに行っておいで。」

 それを聞いた二人は目を丸くして

 「そうだわ!急がなきゃ!!」

 と、スチュワートさんを放り出してジェスのバーまで飛んでいきました。

 「やれやれ。今日のビリーはゆっくり座ってなんていないと思うがね。」

 パイプの煙をぷかりと吐かしてそうつぶやきました。

 「あら、どうしました?」

 スチュワートさんの奥さんのメアリーさんがお店の戸締まりを終えてやってきました。

 「ん?なんでもないよ。お?雪だね。夜には辺りが白くなるだろうね。」

 そう言うとメアリーさんの手を取るとバーへと向かいました。

 今日にぎやかなのはパーティーを開いているバーやサロンだけで、みずがめ市場の他のお店はきれいな飾り付けとは反対に静かに雪に降られていました。

 「メリークリスマス!!」

 ジェスのバーではみんなの笑顔がはじけていました。

 ビリーとジェスは大忙し。座っている暇なんてありません。

 スチュワート家の3姉妹はビリーが忙しくしているので、最初はそろって少し不機嫌でしたが、すぐに機嫌を直してそれぞれにみんなと楽しげに話をしていました。

 今日のお店はオーブンの熱が冷める暇なくお料理が運び出されます。

 ジェスがお料理と飲み物を作り、ビリーがテーブルやカウンターに運びます。

 「やあ、ビリー。今日はジェスの手伝いかい?」

 ランディーさんが声を掛けます。

 「はい。みんなの笑顔が見たいから。」

 「そうか。」

 ランディーさんはクマらしくにっこり笑うとうなずきながら蜂蜜酒のグラスを傾けました。

 トマソンさんは相変わらずいつものカウンターの席に座り、いつものマティーニを飲みながらオオアリクイらしい小さな目でにこやかにお隣のシンプソンさんと話をしています。ちょっと太ったウサギのシンプソンおばさんは普段ジェスのバーへは来ないので、初めのうちソワソワしていましたが、みんなの笑顔にすっかり楽しくなり

「なんて楽しいんだろうね!子供達も独り立ちしたし、今度から私も寄らせてもらうよ。」と言うほどです。

 狐のピーターもいます。

 「この前ね。足が6本もある鶏を見つけたんだよ。ローストチキンにしたらさぞ食べごたえがあると思ったんだけどね。さすがに足が速くてね。逃げられちゃったよ。」

 相変わらずホラ話をしながらにやにや笑いでコニャックを飲んでいました。

 「さあ、ビリー、これが最後のローストチキンだ。これを出したら、僕らもお店で楽しもう。」

 ジェスが言うと、お店のお客からワッと歓声が上がりました。

 テーブルの真ん中に置かれた今夜5つめのローストチキンはランディーさんの手で、5つの皿に切り分けられて、最初の2つがビリーとジェスに渡されました。

 「お疲れ様二人とも、美味しい料理をありがとう。」

 「ジェス、ビリーありがとう。」

 「美味しかったよ。でもまだ終わらないよ。全員そろってお祝いをしよう。」

 「やあ、ビリー、お疲れ様。ゆっくり飲んでよ。」

 みんなが声を掛けてくれます。

 ビリーはうれしくなって少し涙ぐみながら

 「みんなありがとう」と言いました。

 「ビリー、ありがとう。お疲れ様。」

 そう言いながらビリーにキスをしたのはエルザでした。

 お店の中はまたわぁっと言う歓声で一杯になりました。

 「エルザ!」

 「ほらビリーくん、上を見て。」

 ビリーが上を見上げると、ジェスの釣り竿に吊した宿り木が、頭の上にぶら下がっていました。

 その竿はピーターが差し出したものでした。

 「クリスマスイブの日には、宿り木の下では好きな人にキスをしても良いことになってるのよ。知らなかった?」

 「ピーター!?」

 ビリーが言うとピーターはにやにや笑いをしながらウインクをしました。

 アンナとローザはスチュワートさんの隣で声をそろえて。

 「エルザずるーい!!」

 お店はさらに盛り上がり、まだお酒を飲んでいないビリーが誰よりも真っ赤になりました。

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