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みずがめ市場の白黒ねこ  作者: リッチー
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4.みずがめ市場のカーニバル

4.みずがめ市場のカーニバル



 今日のホーリー郡は雨の多い季節が終わり、本格的に暑くなり始めたそんな日です。

 山猫のスチュワートさんは朝から大忙しです。

 スチュワートさんはみずがめ市場のお肉屋さんです。でも、売っているのはお肉だけではなく、スチュワートさんの作るコロッケは大人気。

 午前中の間に昨日に仕込んだコロッケは全部売れてしまい、午前中に仕込んだコロッケは午後に全部売れてしまうと言った具合です。

 スチュワートさんまだお店を開ける前から仕込みを初めて、開店と同時にお客さんの列が始まるくらいですから、本当に大忙しです。

 スチュワートさんのお店は、奥さんのメアリーさんと3人の三つ子の娘が手伝っています。

 娘の名前はアンナ、ローザ、エルザといいます。3人ともとっても働き者で、それにとてもかわいかったので、市場の人気者でした。

 コロッケには極上の挽肉と沢山のタマネギと、もっと沢山のジャガイモが使われていました。

 大きなボールに沢山のふかしたジャガイモと炒めたタマネギ、挽肉を合わせて、こねていきます。味付けは塩とこしょうと隠し味にラードを入れています。あとはヒミツのハーブを少々。

 ボールから取り出して小判型に丸く同じ大きさにしていくお仕事は長女のアンナです。

 丸めたコロッケに粉を振って卵をつけます。これは次女のローザのお仕事です。

 続いて、ふかふかのパン粉の衣をつけて丁寧に箱に並べるお仕事が三女のエルザのお仕事です。

 3人は手際よく自分の仕事をこなしていきます。

 もうすぐ開店時間の10時になります。なんとか午後に売る分のコロッケのもとが完成しました。

 「さぁ、少し休憩したらお店を開けるよ。3人ともよく頑張ったね。」

 スチュワートさんは3人の娘に言いました。

 お店の奥から奥さんのメアリーさんがそれぞれのマグカップに入ったコーヒーを5杯もって来ました。

 メアリーさんは奥で午後の支度分のジャガイモを沢山ふかしている最中です。

 「さあ、今日もがんばるわよ。」

 メアリーさんは元気いっぱいです。

 コーヒーを飲みながらスチュワートさんはコロッケを揚げる油の温度を測りました。

 温度計は180度になっています。

 「よし。じゃあみんな、お店を開けるよ」

 「はぁ~い」

 娘たちは元気に返事をすると、表の扉を開けに行きます。

 今日も良いお天気で、また午前中なのにふわっと熱い風が舞い上がります。

 『いらっしゃいませ~』

 娘たち3人は声をそろえて開店のご挨拶です。

 「おはよう。ローザ。コロッケ2つちょうだい。」

 一番乗りのお客さんは白黒猫のビリーでした。

 「おはよう、ビリー君。おとうさん、ビリー君よ。コロッケ2つお願いしま~す。」

 「はいよ。コロッケ2つ。」

 スチュワートさんは、コロッケの生地を揚げ油に入れました。

 コロッケは小さくジュっと音をならして油に沈みました。

 「やあ、ビリー。今日のお昼はコロッケにしてくれたのかい?」

 と、エプロンで手を拭きながらスチュワートさん。

 「うん、今朝は早くからジェスとびっくり湖で釣りをしていたんだ。それで弁当を用意してなくて。」

 ビリーは釣り竿とバケツを指さしながら言いました。

 「それで、このマス、おみやげに持ってきたんだ。よかったら食べてよ。」

 それはビリーが腕を広げたくらいもある大きなニジマスでした。

 「わぁ、すごいのね。ビリー君」「すごいわねぇ」「うん、すごいねぇ」

 娘たち3人も大喜びです。

 「ありがとう。じゃぁ、コロッケは私からのお返しにしておくよ。」

 「ありがとう。スチュワートさん。」

 言っている間にコロッケは揚げ油の上に浮いてきて、パチパチとかジュとかにぎやかに音を鳴らして、きつね色になってきています。

 スチュワートさんは手早く網でコロッケをすくうと、油切りの網の上にコロッケを置くとパセリの粉を軽く掛けました。

 「さぁ、揚がったよ。」

 「はぁ~い。」

 エルザがコロッケを包む木の皮で包むとビリーのところへ持って行きます。

 「はい、ビリー君」

 「ありがとうエルザ。」

 「ビリー君、今日の夜は?」

 「うん、お店が終わったらびっくり湖の方へ出かけるよ。」

 「そう。私たちもびっくり湖へ行くわ。一緒に行こうよ。」

 「じゃあ迎えに来るよ。」

 ふと見ると、ビリーの後ろにはもう5人もお客さんが並んでいました。

 「さぁ、今日も忙しくなるよ。じゃあね、ビリー。」

 ぱんぱんと手を叩きながらメアリーさんが言いました。

 エルザが小さく舌を出しながらお店の奥に引っ込み、ビリーは挨拶をすると自分のお店に向かいました。

 お昼頃になる少し前、午前中に売る分のコロッケがなくなってしまいました。

 スチュワートさんはメアリーさんに合図をすると、メアリーさんは並んでいる最後のお客さんのところに行って、次から並ぼうとするお客さんに言うのでした。

 「売り切れなのよ。ごめんなさいね。お昼からこの券を持ってきてくれたら順番を飛ばして先にお渡ししますから勘弁してね。」

 コロッケはスチュワートさんが揚げて、お肉を売るのはメアリーさんの仕事なのですが、メアリーさんが外に行っているときは三人娘の仕事です。

 「こんにちは。ロース300グラムですね?少々お待ちくださいませ~」

 冷蔵庫から取り出したお肉を大きな包丁で切り分けます。

 秤に乗せて300グラムを少し超えてもそれはおまけ。

 木の皮でくるんで、お客さんに渡します。

 三人は声をそろえて、

 『ありがとうございましたぁ~』

 「さあ、一段落したらお昼にしようか?」

 スチュワートさんがお昼休みの札をお店に出すと、今朝ビリーが持ってきた大きなマスをムニエルにしてランチタイムです。

 「ビリー君すごいねぇ。こんな大きなお魚どうやって釣るんだろう?」

 エルザはしきりに感心しています。

 「あら、お父さんだって大きなお魚、釣ってくることあるじゃない。」

 アンナが言いました。

 「でもこんなに大きいの釣ってきたことあるかしら?」

 ローザが言いました。

 それを聞いていたメアリーさんが言いました。

 「ビリーは毛針屋さん。お父さんはお肉屋さん。それぞれに得意なことがあるのよ。」

 スチュワートさんは、お肉を切る大きな包丁を砥石で研ぎながら家族の話を楽しそうに聞いていました。

 夕方少し前になるとまたスチュワートさんのお店は忙しくなります。

 夕飯の支度に、お店の仕入れに、とコロッケやお肉が飛ぶような勢いで売れていきます。

 それに今日は特別な日です。

 みずがめ市場のカーニバルの日なのです。

 今日だけは夜になると閉まってしまうお店も、遅くまでお店を開けてお客さんをお迎えします。

 みんなが今夜一番楽しみにしているのは花火です。

 大きな花火をびっくり湖近くで打ち上げるのです。

 スチュワートさんのお店は夕方でお肉は終わりにして、お昼から仕込んだコロッケだけを売り始めます。お客さんはコロッケを持ってびっくり湖へ向かい花火見物をするのです。 ジェスのレストランバーではお店の前にテーブルを持ち出し、ジュースや果物を売っています。

 みずがめ市場のお店はそれぞれに工夫してお客さんを楽しませます。

 果物屋のシンプソンおばさんはジュースを金物屋のトマソンさんはキラキラ光るおもちゃを売っています。

 この日だけは子供も大人も夜遅くまで楽しく過ごすのです。

 ドーン!

 一発目の花火が上がったようです。

 ざわめくような歓声が市場に広がります。

 「こんばんは。」

 仕事を終えたビリーがエルザたちを花火に誘いに来ました。

 「やあ、ビリー。娘たちを迎えに来てくれたのかい?」

 「ビリー君?早く行こうよ。」「行こう」「行こう」

 三人は飛び出してきました。

 「ビリー、これを持って行きな。」

 スチュワートさんが木の皮にくるんだコロッケを4つ持たせてくれました。

 「ありがとう、スチュワートさん。」

 みずがめ市場は沢山の人たちでいっぱいです。

 子供たちは手に手に色とりどりの風船を持っています。

 沢山の人たちが、びっくり湖へ続く道を歩いています。

 ビリーがエルザたち3人とびっくり湖近くの小高い丘へ登っていくとそこには沢山の人たちが花火を見物していました。

 ヒュルルルル・・・ドーン!!

 「わぁ、すごいねぇ!」

 花火の光に照らされたみんなの顔は花火に負けないくらいの笑顔でした。

 お昼間の暑さが和らいで涼しい風が丘をながれてゆきます。

 みずがめ市場では本当に暑くなったこの時期にカーニバルを開きます。

 そして楽しい夜は夜更けまで続くのでした。

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