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みずがめ市場の白黒ねこ  作者: リッチー
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2.ジェスのレストランバー

2.ジェスのレストランバー



 ジェスは茶色い毛並みの犬です。クビの周りだけ白い毛皮がマフラーのように巻いています。

 ジェスは市場のはずれに小さなレストランを開いています。

 メニューそんなに多くはないのですが、どれも美味しいものばかりで、大変人気がありました。

 レストランを開くのは夕方からで、お昼はお休みです。

 午前中、時間のあるときはクネクネ川へいってマスを釣るのがジェスの楽しみ。釣れたマスはお店で料理されてみんなのお腹に消えていきます。

 ジェスの作るマスのムニエルは大変人気がありました。ハーブをふんだんに使い、ソースにたくさんのクリームとトーマスさん特製のブルーチーズが隠し味で入っているのがポイントです。

 またクネクネ川の川っ縁には沢山のハーブが生えていますから、釣りに行ったときにカゴ一杯に摘んでくると、それで2日分のハーブは十分なのでした。

 ジェスは何種類かのお酒やジュースを混ぜてカクテルを作るのも上手です。お客さんはジェスのマス料理に舌鼓をうちながらカクテルを飲んで気持ちの良い夜を過ごすのでした。

 「やぁジェス、もう店は開いてるのかい?」

 ジェスが今夜のオススメメニューの看板を店の前に出しているところにやってきたのは金物屋でアリクイのトマソンさん。

 「こんばんは、トマソンさん。今あけるところですよ。」

 ジェスのお店は少し薄暗く、所々にランプが下げてあり、6人くらいがゆったりと座れるようなカウンターの席があり、4人掛けのテーブル席が4つありました。

 「さあどうぞ。」

 「おじゃまするよ。」

 トマソンさんは大きな体を揺すってお店に入りました。

 カウンターのいつもの席に座ると

 「いつものヤツですか?」

 カウンターの内側に入ったジェスが注文を聞きます。

 「ああ、頼むよ」

 ジェスはシェイカーを取り出すと、氷を詰めてから水を入れました。

 そしてジンのボトルとベルモットのボトルを取り出したら、シェイカーの水を丁寧に捨てて、ジン、ベルモットと注ぎ、シェイカーに蓋をすると、手際よくシェイクします。

 良く冷やしたロックグラスにシェイカーから中身を注ぎ、蓋を開けて数個の氷もグラスに入れ最後にピックに刺したオリーブを沈めて完成です。

 「どうぞ。マティーニオールドスタイルです。」

 トマソンさんは一口すすると、頷きながら言いました。

 「やっぱり仕事の後の一杯目はこれにかぎるよ。」

 「今日はマスがないのでウズラと鶏肉の良いのを仕入れてあります。でもトマソンさんにはこれですね。」

 小皿に山盛りになった黒い小さなものをトマソンさんの前に出しました。

 「そうそう、私はこの黒アリの香味揚げが一番の大好物だよ。」

 そう言うとトマソンさんは長い舌で黒アリの香味揚げを口に運びました。

 「こんばんは」

 入口で声がすると、入ってきたのは白黒ネコのビリーでした。

 「やあ、ビリー珍しいね。どこでも好きなとこに座ってよ。」

 ビリーはトマソンさんの一つ隣の席に座り赤いリュックを反対側のイスに置きました。

 「今朝はピーターと色々あったみたいだから、様子を見に来たんだよ。」

 ビリーはちょっと背の高いイスに腰を落ち着けながら言いました。

 「まぁね。昨日からしっかり下準備をしてあったんだからね。しかたないさ。ビリー、何か飲むかい?一杯おごるよ。」

 「ありがとう。じゃあモスコミュールをもらって良いかい。」

 ジェスは頷くと、手際よく冷えた銅製のマグカップに砕いた氷を入れるとウォッカを注ぎ入れました。そしてライムを4つに切ってその内の1つをカップに搾り入れ、最後にジンジャービアーを注ぎ入れました。銅のマグカップは外側に霜がついていて見るからによく冷えて美味しそうです。

 「モスコミュールをどうぞ。」

 「ありがとう。今日は色々あったから毛針が余っちゃってて、良かったら、これ使ってよ、ジェス。」

 小箱に入れた6本の毛針をジェスに渡しました。

 「そんなの気にしなくても良いのに。逆に商売の邪魔しちゃって悪かったね。」

 トマソンさんがマティーニを一口飲んでから言いました。

 「しかし、ピーターの悪知恵には本当に困ったもんだなぁ。」     

 「そんなことないさ。僕がどうやっても勝とうと思って、ビリーの毛針を買い占めちゃた時に、もう負けてたってことだよ。」

 ジェスはグラスを磨きながら言いました。

 「ま、そう言うことさ」

 入口の方で声がすると、入ってきたのはピーターでした。

 「ピーター!」

 ビリーはちょっとビックリしました。

 ピーターはニヤリと笑ってビリーの後ろを通り過ぎ、カウンターの入口まで行くと手に持っていたバケツをジェスに渡しました。

 「バケツを返しに来たよ。」

 そしてすぐに帰って行きました。

 「なんだ、ピーターのやつ。何か他に言うことはないのかい。」

 トマソンさんはマティーニをグッと一口飲んでから言いました。

 「いえ、トマソンさん。ほら」

 ジェスが見せたのは木の皮でくるんだ、小振りな牛肉でした。

 「ピーターの帰してきたバケツの中に入ってましたよ。お釣りってことですかね。」

 言ってジェスはくすくす笑いました。

 ビリーもなんだか可笑しくなってくすくすと笑いました。

 「ビリー、せっかくだから、こいつを香草ステーキにして半分こしようか?」

 「うんそうしよう。」

 薄暗いジェスのレストランバーが少し明るくなった感じがしました。

 トマソンさんだけが何とも言えない顔をして、ひとこと言いました。

 「ジェス、おかわり」

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