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みずがめ市場の白黒ねこ  作者: リッチー
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1.ビリーの毛針屋

1.ビリーの毛針屋



 今日も市場は大変にぎやかです。

 まるで迷路のような細い通路の両側にお店がたくさん出ています。

 白黒猫はいつも通り、果物屋さんのと金物屋さんの間、ミルク屋さんの向かいの壁に小さな敷物を敷いて、小さな毛針屋さんを開きます。

 「やあ、ビリー」「おはようビリー」

 果物屋さんのウサギのおばさんや、金物屋さんのアリクイのおじさんが挨拶をします。

 ビリーというのが白黒猫の名前です。

 「おはよう、トマソンさん。おはよう、シンプソンさん。」

 金物屋の背の高いアリクイがトマソンさんで、果物屋さんの太ったウサギがシンプソンさん。

 白黒猫のビリーは金物屋さんのおうちの軒下を借りてお店を出しているのでした。

 お店と言っても壁に「ビリーの毛針」と書いてあるだけです。

 今の季節は冬と春の丁度中間くらいで、寒い日は寒いし、ぽかぽかする日はぽかぽかしていましたから、川のマスたちもよく食べる日もあれば、川底でじっとしているときもあるそんな季節です。まだ、ビリーの毛針が飛ぶように売れる時期ではないのです。

 「今日は何本用意してきたんだい?」

 トマソンさんが長い鼻をぶらぶらさせてビリーに聞きます。

 「今日は18本用意してきたんだ。」

 ビリーの家の前の池に住んでるマスの姉妹が、18本の毛針を美味しそうだと言ったから、今日売る毛針は18本。

 でも、トマソンさんや、その他のビリーの毛針を買ってくれる人たちは、そんな話を知りません。いつも売りに来る本数がバラバラなので、欲しくても買えないお客さんがたまに出ます。

 そんなとき、ビリーは次の日の美味しそうな毛針の予約をその人のためにとっておくのでした。

 お昼前に、山猫のスチュワートさんとツキノワグマのランディーさんが2本ずつ毛針を買ってくれました。今日はお客さんが少ないようです。

 お日様が真上から差してくる頃になると、ビリーもお腹がすいてきたので、赤いリュックサックからアップルパイとチーズ、それにミルクを取りだしました。

 「もうお昼ご飯かい?」

 それを見ていた、おむかいのミルク屋さんの年老いたヤギがビリーに声を掛けました。

 「うん、お腹がすいたんで、ちょっと早いけどね。トーマスさん」

 ヤギのトーマスさんは目を細めて言いました。

 「美味しいオレンジ風味のクリームチーズがあるんだが、そのアップルパイと交換しないかい?」

 ビリーは昨日の夕ご飯もアップルパイだったので、喜んで交換してもらうことにしました。

 クラッカーに乗せたクリームチーズは本当に美味しくて、ビリーは幸せになりました。

 お昼ご飯を全部食べるとお腹一杯で今度は眠くなってきました。

 ビリーは壁にもたれて目を閉じると、本当にお日様が気持ちよくて、フワフワしてきました。

 「ビリー。起きろよ。」

 本当に今、夢の中に入っていこうとしていたビリーを起こしたのは、ジェスでした。

 ジェスは茶色い毛並みの犬です。

 「なんだ、ジェスか?なんのよう?」

 ビリーはまだ眠そうです。

 「それはないだろう?せっかく毛針を買いにきてやったのに。」

 ジェスもビリーの毛針を使っている釣り人です。

 「ああ、ありがとう。ふわぁ~。」

 ビリーはあくびをしつつ、箱のふたを開けてジェスに見せます。

 箱の中には14本の毛針が並んでいます。

 「よし、全部おくれ。」

 ビリーはびっくりしました。

 「ちょっと待ってよ、まだお客さんが来るかもしれないから、買い占めはやめてよ。」

 ビリーは毛針の入って箱を引っ込めます。

 「なんだよ、客が買いたいって言ってるんだから、売るのが商売だろ!」

 ジェスは耳を後ろに寝かしてうなり声を上げます。

 それを見ていた金物屋のトマソンさんが止めに入りました。

 「ジェス、どうしたんだい?いつもの君らしくないんじゃないかね?」

 「そうだよ、ジェス。ビリーが困ってるじゃないか!」

 シンプソンおばさんも声を上げました。

 ジェスはきまりが悪そうです。

 「なにかあったのかい?」

 ビリーが聞くとジェスがわけを話し始めました。

 「さっき、ピーターと市場の入り口で会ったんだ。」



 「やあ、ジェス」

 ピーターは赤い毛並みのキツネです。

 「やあ、ピーター、こんなところで何をしてるんだい?」

 ピーターは釣り竿を下げていました。川や池に行くのなら分かる格好なんですが、市場に来るには変な格好です。それでジェスが訪ねたのでした。

 「いやね、今日の朝にね、80匹も大きなマスを釣ったんだけど、あんまりたくさん釣れたんで、僕一人では食べられない。それで市場へ売りに来たんだけど、ちょっと目を離したすきに、みんな逃げ出しちゃったみたいなんだ。きみ、僕の釣ったマスを見なかったかい?」

 ジェスは目を丸くしました。

 「この季節に80匹のマスが釣れるわけないじゃない。」

 ジェスもこの辺りでは有名な釣り名人でしたから、

 「どんなにがんばっても、20匹以上のマスが釣れるなんてことないさ。」 と言いました。

 「それが釣れたものは釣れたんだよ。でもどうやらみんな逃げていってしまったようだ。」

 ピーターは残念そうに言うのでした。

 納得できないのはジェスの方です。

 「そんなバカな話があるもんか!80匹もいたマスが、こんな市場の真ん中で逃げてなんか行くもんかい!」

 ピーターの目がきらりと光ります。

 「じゃあ、ジェスは僕が嘘をついてるというの?」

 ジェスはそこまで言われて少しあわてましたが、ハッキリと言いました。

 「僕をからかっているんだろう?」

 「からかってなんかいないよ。本当に釣れたんだ。じゃあ、明日、僕とマス釣りの競争をしよう。僕がまた80匹釣ったら信じてくれるだろう?」

 「ああ、良いよ。朝からクネクネ川でマス釣り競争だ!」



 クネクネ川はビリーの家の裏を山から麓へと下る綺麗な川です。

 ビリーは言いました。

 「今の季節に80匹もマスを釣るなんて、僕も無理だと思うよ。」

 今の季節の寒い朝などはビリーの家の前にいるマスの姉妹たちも食欲がありません。

 「でも、もし本当にピーターがたくさんのマスを釣ったら、負けちゃうじゃないか。だからビリーの毛針がたくさんいるんだよ。」

 ビリーは考え込みました。

 「そりゃ、そういうことなら売っても良いけどさ・・・。」

 ピーターがビリーのお店に毛針を買いに来たことがないのでまぁ良いかとも思いました。

 ジェスはビリーの毛針を全て買っていきました。

 「やれやれ、今日はもう店じまいだよ。」

 ビリーは敷物をたたみ、赤いリュックにしまい込みました。

 そこへ声が掛かりました。

 「やあ、ビリー、毛針を売ってくれないか?」

 それはキツネのピーターでした。

 「ピ、ピーター。」

 ビリーはちょっとびっくりしました。

 「どうしたんだい?」

 ピーターはニヤニヤと笑いながら言いました。

 「ごめん、今日はもう売り切れちゃって、店じまいなんだよ。」

 「ええ?そうなのかい?困ったなぁ・・・どうしても毛針がいるんだよ。」

 ピーターは相変わらずのニヤニヤ笑いをしながら言いました。

 ビリーはなぜか、ピーターが全然困っているようには感じませんでした。

 「明日じゃダメかい?」

 ビリーはピーターが毛針を欲しがっている理由を知っているので、声が少し小さくなりました。

 「明日朝から釣りに行くんだよ。ジェスとね。でも仕方がない。おじゃまさま。」

 ピーターはあっさりと帰っていきました。

 それを見ていたシンプソンおばさんがビリーに言いました。

 「きっと何かたくらんでるよ。」

 ピーターはずるがしこいキツネで有名なのでした。

 ビリーはちょっと気になりながらも、自分の買い物をして家に帰ることにしました。

 「ビリーこれを持ってお行き。」

 シンプソンさんがリンゴを2つビリーに持たせてくれました。

 「ありがとう。じゃあ、また明日。さようなら。」

 赤いリュックサックを背負うと少し気分が楽になりました。

 今日の夕食のメニューはクリームシチュー。お向かいのトーマスさんのお店でミルクを買って、ハリネズミのアンディさんの八百屋でジャガイモとニンジンとタマネギを買って帰ります。



 さて、翌日。

 ビリーは市場でマスを売るピーターを見かけました。

 「おはようピーター。」

 「やあ、ビリー。マスはいらないかい?安くしとくよ。」

 バケツの中には10匹ほどのマスが入っていました。

 「いや、僕はマス食べないからいいよ。」

 「かわった猫だな・・・。じゃあな。」

 ピーターは上機嫌でまた、マスを売り始めました。

 ビリーがいつもの場所へ来るとシンプソンさんが果物屋の店先から飛んできました。

 「ビリー!聞いたかい?」

 ビリーがリュックをおろす暇さえなく、シンプソンさんに捕まりました。

 「え、なに?」

 「ピーターだよ。」

 「ピーターならそこで会ったよ。上機嫌でマスを売ってたよ。」

 やっとリュックをおろしながらビリーは言いました。

 「そのマスをどうしたと思う?」

 「ジェスと行ってクネクネ川で釣ったんだろう?」

 ビリーが答えると、

 「そう。あのマスは全部ジェスが釣ったんだよ!!」

 シンプソンさんはあきれたと言うように大きく手を広げて言いました。



 「おはよう。今朝も寒いね。」

 町はずれのクネクネ川の一つめの橋で待ち合わせをした、ピーターとジェスは時間通りにマスを釣り始めました。

 ただ、競争だけでは面白くないので、勝った方が二人の釣ったマスを全部もらえることになりました。

 朝、まだ早かったので、水が冷たくてマスたちは川の底の方でじっとしたまま動きません。

 ピーターはニヤニヤとしながら、釣り竿を持ったまま釣り始めません。

 ジェスは不思議に思いつつも、竿を振ります。

 マスは目の前を美味しそうな虫が通り過ぎると、寒いのを我慢してぱくっと食いつきました。

 それはビリーの沈む方の毛針でした。

 マスが、しまったと思ったときにはもうジェスの網の中に取り込まれていました。

 ジェスは水面に浮かぶ毛針と水の中に住む虫のように見える沈む毛針を使い分けて、2時間で12匹のマスを釣り上げました。

 ジェスが夢中で釣っていると、ピーターがやってきました。

 「やあ、釣れてるようだね。」

 ピーターはニヤニヤしながらジェスの釣れた魚を入れる籠の中をのぞきながら言いました。

 「ピーターは釣れたのかい?」

 竿を休めてジェスは聞きました。

 「いやね。昨日、ビリーの毛針を買いに行ったら、早い時間なのに売り切れてて買えなかったんだよ。」

 ピーターはニヤニヤとしながら言いました。

 「それは・・・」

 ジェスは口ごもってしまいました。

 「それで、今日は釣りたくても毛針がなくって釣れないから、僕の負けでいいよ。」

 ピーターがニヤニヤ笑いのまま言いました。

 ジェスはますますきまりが悪くなって言いました。

 「いや・・・僕の負けで良いよ。」

 そしてマスをピーターに渡すと家に帰ってしまいました。

    

 「と、言うわけなのさ。」

 シンプソンおばさんはビリーに話しました。

 「それで、ピーターはマスを売っていたんだね。昨日、ピーターが来たときに何か変な感じがしたんだ。」

 「そうさ、ピーターはジェスが毛針を全部買っていくことが分かっていたんだよ。それで、釣りに誘ったんだよ。」

 ビリーは考え込みました。

 「そんな釣りをしてもちっとも楽しくないだろうなぁ・・・。」

 マスを食べない白黒猫のビリーは釣った魚はそのまま川に逃がしてあげます。

 ビリーはいつものように小さな敷物を敷いてお店を開きます。

 「やあ、ビリー。今日は美味しいスモークチーズがあるよ」

 お向かいのトーマスさんが声を掛けます。

 「ありがとう。お昼に買いに行くよ。」

 今日も良い天気で市場はにぎわっています。

 今の季節は寒い日は寒いし、ぽかぽかする日はぽかぽかしていましたから、川のマスたちもよく食べる日もあれば、川底でじっとしているときもあるそんな季節です。まだ、ビリーの毛針が飛ぶように売れる時期ではないのです。

 白黒猫のビリーは壁にもたれて、お日様を浴びながら、お客さんが起こしてくれるまで気持ちよく昼寝を始めました。

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