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みずがめ市場の白黒ねこ  作者: リッチー
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0.白黒ねこ

0.白黒猫


 ある山の中腹に一軒の家が建っています。

 家は木と石と土で出来ていて、ドアのノブが金ぴかに輝いていました。

 家の前には小さな池があり、3匹のマスが気持ちよさそうに泳いでいました。

 家の後ろには大きな木が1本と中くらいの木が1本と小さな木が1本生えていました。

 風が吹くと3本の高さの違う木がそれぞれにザワザワ、サワサワ、サラサラと歌声を上げるのでした。

 この辺りは気候が穏やかで、夏は暑くなりすぎず、冬は山の上の方にはスキーが出来るくらいの雪は降ったけれども、風邪をひくほどは寒くはなりませんでした。

 春になると、たくさんの花がさいて、家の周りはちょっとした花畑のようになりました。

 今はまだ春にはまだ早くて冬が終わるくらいの時期で、太陽は少し西に傾き、お昼と言うには少し遅くて、夕方にはまだ早い時間でした。

 山の麓から続く道を家のあるじが帰ってきました。

 それは、立派なヒゲに金色の目、ピンと立った耳は三角で、よく手入れされた毛皮は真っ黒にツヤツヤとしていて、お腹だけが雪のように白い毛皮の白黒猫でした。

 白黒猫は町の市場へ買い物に行った帰りです。

 まだ春になっていない季節は気がつくとすぐにお日様が山陰に沈んでお月様が顔を出します。

 白黒猫は寒いのが苦手なので、早めに家に帰ることにしたのでした。

 「思ったより早く着いちゃったな。」

 白黒猫は背負っていた赤いリュックサックを揺すりながら、なだらかな山道を家の前に到着しました。

 池をのぞくと3匹のマスに言いました。

 「ただいま。今晩のおかずは誰に決まったのかな?」

 するとマスの姉妹はこう言いました。

 「ずっと話し合ってるんだけど、それが決まらないのよ。明日の朝までには決まると思うわ」

 「そう。じゃ、明日の朝食のおかずは誰か、決めておいてくれよ。」

 そう言うと金ぴかのドアノブを回して家に入りました。

 家に入るとすぐ右側が台所、水を入れておく水瓶や、料理をするための丁度良い高さの台があります。台所の横で部屋の向こう側の壁にはストーブが有ります。左の奥の壁には窓があり、その下には気持ちよさそうなベッドがあります。部屋の真ん中には小さなテーブルが1つと椅子が2脚、だいたいそれくらいがこの部屋の全部です。

 白黒猫はテーブルにリュックサックをよいしょっと置くと、ストーブに火をつけに行きました。

 ストーブは薪ストーブで、黒い鉄で出来ていました。

 白黒猫はストーブの隣に積んである薪の中から、細い枝を5本と中くらいの薪を3本と太い薪を2本選び出し、ストーブのふたを開けると、細いのを5本、その上に中くらいのを3本、最後に太いのを2本積み上げました。

 それから薪のまた隣に置いてあるバスケットから、栗のイガを取り出して柔らかい肉球を傷つけないように気をつけながら細い薪の間に挟みました。

 それから、マッチを取り出すと、シュッと火をつけ、その火を栗のイガに移します。

 栗のイガはすぐにパチパチと音を立てて燃えながら細い枝に火を移します。

 細い枝に移った火は、今度は中くらいの薪に移り、最後は太い薪に火が移って、全体が燃え始めるのです。

 白黒猫は中くらいの薪に火がついたのを確かめると、鉄の扉を閉め、空気穴を調節し火がよく燃えるようにしてやってから、やっとテーブルのところに戻りました。

 白黒猫は赤いリュックサックからリンゴを3つ、小麦粉を一袋、バターを1箱、チーズを1個、卵を5個、最後にミルクを1本取り出しました。

 キッチンの隣にある棚に、買ってきたリンゴやらバターを片づけると、夕飯の支度に取りかかりました。

 今日のメニューは最初からアップルパイと決まっていたのです。

 明日の朝はホットケーキ。

 白黒猫は魚が食べられないのでした。

 「マスの姉妹は僕が魚を食べられないのを知ってるんだろうか?」

 そう思うと、白黒猫はクスクスと笑いながら小麦粉を練るのでした。

 パイ皿にすっかりアップルパイの準備を整える頃には、薪ストーブがほどよく熱くなっていたので、パイ皿をセットして、後は焼けるのを待つばかり。

 白黒猫は窓から夕焼けを見ながらベッドに横になるのでした。

 お月様が顔を出す前にアップルパイは焼き上がり、白黒猫はあまり熱いのが食べられないので、お月様が出るまでアップルパイが冷めるのを待ちました。

 辺りが暗くなると、白黒猫はランプを取りだし、明かりをともします。

 ほどよく冷めたアップルパイを半分と少し食べたところで、白黒猫はお腹一杯になりました。

 「残りは明日の昼食にしよう」

 白黒猫は残りのアップルパイを紙で丁寧に包むと、棚にしまい込みました。

 さて、これからが白黒猫のお仕事の時間です。

 道具をテーブルの下からひと揃い出してきます。

 それはきれいな鳥の羽や鹿の毛やキラキラと光る細い糸でした。

 その他に釣り針がたくさん。

 白黒猫のお仕事はマスを釣るための毛針を作ることでした。

 毛針は虫の形をした釣り針のことで、マスが虫と間違えて食べに来るのです。

 白黒猫は釣り針をカチッと動かないよう鋏にはさむと、色とりどりの羽や糸でまるで生きている虫のように毛針を作っていきます。

 白黒猫の作る毛針はよく釣れると、町の釣り人たちに大人気でしたから、15本も毛針を作ると、その日のご飯代くらいにはなったものです。

 白黒猫は30本の形の違う毛針を作ると、紙の箱に並べます。

 紙の箱は小さな部屋に区切られていて、毛針1本に1つの部屋と30個の部屋にそれぞれが収まりました。

 「さて、今日の仕事は終わり。もう寝よう。」

 白黒猫は、辺りをきれいに片づけ、ストーブに太い薪を1本入れると、ランプの明かりを小さくして、ベッドに潜り込みました。

 山から少し冷たい風が吹いてきて、3本の木をザワザワ、サワサワ、サラサラとならしましたが、フワフワの暖かい布団にくるまれた白黒猫は気持ちよく夢の世界へと入っていきました。

 朝になると、ベッドのすぐ上にある窓にムクドリがやってきて、窓をコツコツと叩きます。それが白黒猫の目覚まし代わり。

 白黒猫は暖かい気持ちの良い夢を見ましたが、どんな夢かは忘れてしまいました。

 「おはよう。」

 あくびを一つすると、白黒猫は窓を開けました。

 ムクドリが窓から入ってきて天井の梁にとまります。

 白黒猫はタオルを用意すると、家の裏を流れている小川に顔を洗いに行きました。

 小川の水はロープを結んだバケツですくいます。

 まだ川の水は冷たくて、白黒猫は一気に目が覚めました。

 「おはよう」

 マスの姉妹にも挨拶をします。

 「朝食のおかずは誰に決まったのかな?」

 白黒猫は尋ねます。

 「それがまだ決まらないのよ。今日の夕方には決まると思うわ。」

 マスの姉妹は答えました。このやりとりはマスの姉妹が小さな池に引っ越してきてからもう2年と82日も続いていました。

 「じゃあ、夕食のおかずは誰か、決めておいてくれよ。」

 白黒猫は朝食の準備に取りかかります。

 まずは、ストーブに中くらいの薪を入れてまた火をおこします。

 小さな火種になっていたストーブのおき火たちは、すぐに元気を取り戻して薪を燃やし始めます。

 小麦粉、卵、ミルクを混ぜて、ホットケーキの生地の完成です。

 白黒猫はストーブの上に黒い鉄のフライパンを乗せて、熱くしたら、ホットケーキの生地を流し込み、後は待つばかり。天井ではムクドリが朝ご飯を心待ちにしています。

 白黒猫の朝ご飯はいつもホットケーキ。ムクドリと半分ずつ食べます。

 ムクドリはそんなにたくさん食べられないので、子供たちに持って帰ります。

 お腹もふくれて、ムクドリも帰っていきました。白黒猫もお出かけの準備をします。

 昨日の夜に作った30本の毛針の箱を持って池の前までやってきます。

 「マスさんたち、この虫が食べたい?」

 一つ一つの毛針をマスの姉妹に見せていきます。

 「その虫は美味しくなさそうだわ」「そっち虫は美味しそうね」

 3匹のマスの姉妹は口々に白黒猫の作った毛針を選んでいきます。

 マスの姉妹の気に入った毛針を残して、それ以外を別の箱に入れて、お出かけの準備は出来ました。

 白黒猫の毛針がよく売れるのはマスがたくさん釣れるから。マスが選んだ毛針だから。 今日も赤いリュックを背負った白黒猫は町の市場へ毛針を売りに行きます。

 夕方の少し前、お昼の少し後、果物と小麦粉と卵とミルクとバターとチーズを買って白黒猫はまた家へつづく坂道を登ってくるのでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 白黒猫さんが猫にもかかわらず、魚姉妹を食べないのが優しかったですね。 [気になる点] 朝食にホットケーキはともかく、晩ご飯にアップルパイは意外でした。 栄養とか大丈夫かなぁ?
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