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人外さんは存外ルックスは関係ないらしい

「おはよう、貴本くん」

「ああ、おはよう」


 凪は教室に入って来た貴本に気づき、挨拶をした。

 貴本と交流を持つようになって気づいた事がある。

 それはこの男、どうも人外さんに好かれやすいらしいのだ。


 学校という場は、人外さんには住みやすい場所のようで。

 学校という人間が作り出す場が好きなのか、そもそも学校が立っている土地自体が人外さん向きなのか理由はわからない。

 けれど、小、中と学校に通って、学校に住み着いている人外さんの存在をちらほらと感じた。

 この学校にも大きいの、中くらいの、ちんまいのの気配が、そこここにする。

 凪の感想としては、


(この学校、人外さん多いなあ)


 だ。人外さんにとってこの高校はまた殊の外住みやすいのかもしれない。

 だからなのかこの貴本、まだ朝なのに、もう小さいのをいくつかひっつけている。


「あー、貴本くん。ちょっと来なさい」


 凪は片手をちょいちょいと動かし、彼を呼ぶ。

 貴本はカバンを自席に置くと、素直に寄って来た。


「なんだ?」

「いいから。少し頭下げて」


 貴本は無駄に怖い顔を更にしかめながらも、頭を下げる。

 その彼の顔を見て、凪の隣席の戸田は、顔を引きつらせた。


「あー。ごめんね。戸田くん。これはね、ただ単に困惑してるだけだから。威嚇してる訳じゃないからね」

「あ、ああ」


 そう言われても怖いのだろう、戸田はさっと席を立つと、教室を出て行ってしまった。

 もうすぐ朝のホームルームである。

 戸田が間に合うように帰ってくるのを祈る。


「ほら、貴本くんも気をつけて。クラスメイトを威嚇しないように。笑顔、笑顔だよ」

「ああ」

「うん。怖い。要練習だね」

「‥‥‥ああ」

 

 気持ち貴本の肩が下がる。

 顔とは反比例して貴本は傷つきやすいようだ。


「ごめんごめん。練習すれば、表情筋もよい働きをしてくれるようになるよ。うん。多分。きっと」


 凪は少し口が引きつる。

 そんな凪に対し、貴本は片方の眉を器用に上げる。

 その顔もまた怖い。


(うそがつけない自分が憎い)


 凪は誤魔化すように、ごほんと一つ咳をする。


「ほらほら、もうちょっと頭を下げて」


 貴本は何も言わず、また少し頭を下げた。

 貴本の頭が、凪の目の前に来る。


 うすーいぼんやりしたものが、彼の髪に2つ。


(はーい。離れて離れて)


 凪はそれを手で払った。

 ぼんやりした人外さんは、それで、彼からふよ~っと離れる。


 凪には、祓う力はない。

 が、こう存在の薄い人外さんは、こちらが意識をして、手で払うと大概離れてくれる。


「よし。いいわよ」

「ああ」


 貴本は理由も聞かず、自席の凪の後ろの席へと着いた。

 凪がやってる事を、薄々気づいているのかもしれない。


(それにしても、人外さんに好かれやすいなあ)


 凪はううむと、机に教科書をしまいながら、独りごちた。



 昼休み。友達になったクラスメイトの石塚美都(いしづかみと)柏葉万里(かしわばばんり)と机をくっつけた凪は、弁当を取りに、教室の外にあるロッカーに向かった。

 廊下にある2段に並んだ小さいロッカー群。凪のものは一番端の上だ。これもあいうえお順で決められていた。


「もう少ししたら、保冷剤がもっと必要かも」


 ロッカーから弁当を取り出しながら、呟く。

 これから気温が益々上がって行く。

 毎回購買部で昼食を買うなんて、不経済な事はできない。

 食中毒に気をつけながら、弁当持参しなければならない。


(まあ、たまには購買部に行くのもいいけどね)


 そう思った時、ふとロッカーの上側にある窓から、中庭を見た。

 そこに、パンを持った貴本の姿。

 食べる場所を探しているのか、周囲を見回している。

 凪が見つめる中、目標を定めたのか、貴本の歩きが明確になった。

 広い中庭のにあるアメリカキササゲの木に向かっている。

 アメリカキササゲは6月から7月にかけて白い花を咲かせる落葉樹である。

 見たところ、丁度よい日陰になっており、涼しそうな場所だ。

 しかし、そこは場が悪い。人外さんが好む場所だった。

 ちんまい人外さんが、陰を作っている。

 そのまま行けば、貴本はまた引っ付かれるだろう。


「もう!」


 すかさず、凪は叫ぶ。


「貴本くん!」


 貴本が凪の方を見る。

 ロッカーに身体を預け、窓から顔と腕を出し、ちょいちょいと手招きをする。


「ちょっと、教室に来て!」


 数分後、貴本は、凪のいる机の脇にやってきた。


「なんだ」

「あー。うん。えーとね」


 美都と万里がいる手前、理由を話しづらい。

 その2人はというと、美都は貴本に怯えているのか縮こまり、万里は興味津々といった視線を向けてくる。

 ちなみにこの2人、美都はふんわりした美少女であり、万里はショートカットが似合うボーイッシュな美少女である。


「その、パンなんて珍しいなって思ってさ」

「ああ、弁当はもう食った。足りなかったから、パンを買った」

「そう。結構食べるね」

「ああ。弁当の量を増やしてもらう」

「お母さん大変だね」


 貴本は、凪の頭一つ分背が高い。もう180センチは越えているだろう。

 維持するエネルギーも凪より遥かにいるに違いない。

 部活も運動部である。食べても食べてもすべて消費してしまうのかもしれない。

 全く羨ましい限りである。

 貴本が机に広げられた凪の弁当をじっと見つめている。


「食べる?」


 凪はつまようじに刺したベーコンのアスパラ巻を彼に差し出した。

 彼は素直に受け取り、口に入れる。


「美味しいでしょ」

「ああ」

「素直でよろしい。じゃあ、このタコさんウインナーもあげる」


 貴本の目にちらりと喜色が走る。


「くだらない事で呼んでごめんね。後、あのさっき行きかけてた木の下に行ったらだめだから。違う場所でパン食べてね」

「わかった」


 貴本はこくりと頷いて、教室を出ていった。


(やれやれ。2人にばれずに注意できた)


 そして今度パンを食べる場所が、人外さん好みの場所ではない事を祈る。


 人外さんに悪気はないのかもしれないが、寄られると体力気力が落ちる。それだけならいいが、病気になりやすい。

 若宮みたいなのは例外なのである。

 できるだけ、人外さんとは関わらない方がいいのだ。

 凪がほっと内心で安堵していると、さっきまで怯えていた美都が呟いた。


「わんこ」


 もう一人の友人、万里も力強く頷く。


「わんこだわ」


 2人の目がぎらぎらと輝いている。

 凪はちょっとひいた。


「ど、どうしたの」

「凪限定のわんこ。乙女の大好物」

「大型犬ね! 顔は整ってるのに、表情が凶悪なのが、ポイントだわ!」

「これで一本書ける」


 美都は何を書こうというのか。


「真っ先に読ませて!」


 読者第一号宣言をする万里。


「なに?!」


 たまにこの2人についていけない事がある。


「無意識。上等」

「そうね! でも上から目線で従えるのもいいわ!」


 もはや、凪には意味不明である。


「あー、ご飯早く食べちゃわないと昼休み終わっちゃうよ」


 凪や弁当そっちのけで話している二人にそう声をかけながら、凪は自分の箸を取った。


(貴本くん、犬じゃないし)


 彼はれっきとした人間である。

 どこで犬と判断されたのだろうか。


(いずれにしても、彼には人外さんに好かれないように訓練が必要かも)


 凪はタコさんウインナーを食べながら、彼にどう切り出すかに思いをはせた。



少しづつ、凪と貴本の距離が近づきます。

微妙な距離感が好きです。


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