人外さんは存外構われたいらしい
まだ高校に行きません。凪の日常が続きます。
「んー! 起きるかぁ!」
午前6時。
凪は布団に起き上がり、大きく伸びをする。
一戸建てでの、一人暮らしの休日の朝は忙しい。
のんびり寝てなどいられない。
なぜなら、家のメンテナンスをすべて一人でこなさなければならないからだ。
通常の家事に加え、家の片づけ、補修など、やることはたくさんある。
加え、庭の花壇の手入れ、水やり、草むしりなどは、かなりな労働を強いられる。
今はまだ3月だからましだが、これから新緑の季節。雑草との闘いが待っているのは必然である。
その戦いを制するために、まだ寒い季節のこの時期に、少しでも相手の戦力をそいでおきたいものである。
「さあて、やるか」
通常の家事を終え、朝食による休憩を終えた、午前9時。
この時間になると少し暖かさを感じる。
凪は腰まである長い黒髪を後ろで一つに縛り、軍手をしながら、リビングの窓から庭へと向かった。
母の美佐子は、植物が好きであった。
庭は芝生。煉瓦に囲まれた大きな花壇。そして結構な高さの柿の木がある。
できれば、母が愛していた庭を維持していきたいが、芝生の手入れは結構な手間がかかる。
花壇の花は言わずもがな。果たして凪1人でやれるかどうか。
凪は一度首を振ると考えをやめた。
「今やれる事をやる。今日は草むしりっと」
ここのところ、時間があれば、草むしりをしていたおかげで、目立った雑草はない。
「何事もコツコツとやる。一気にやろうとするといやになるからね」
凪は庭を眺め満足そうに頷いた。
と、庭の端にある柿の木が気になり、ふと目を止めた。
「あ?」
柿の木は両親がこの家に越して来た当初に植えられたものである。
その為、結構な中堅どころの立派な木に成長していた。
その柿の木の、一番下にある枝に、奇妙なものが生えていた。
枝の太さは成人女性の二の腕位。そこにちんまい木が逆さに生えている。
(確か先週まではなかったよね)
細かく枝分かれした全体的にまあるくまとまった枝ぶり。明らかに柿の木ではない。
柿の木に寄生している。
凪がじっとみていると、それはぶるりと身を震わせた。
取って。取って。俺、お買い得だよとでも言っているようである。
(面倒臭そう)
凪は目を細めると、さっと逸らした。
「さ、早く草むしりしよう。今日は裏手を重点的にやるか」
凪は柿の木から離れるように歩き出す。
(私は何も見なかった)
柿の木はいつもの通り。
今は冬。手入れもいらない。
そう心の中で唱えていた凪の耳に、ぱきっと軽い音が。
反射的に音の方向に目をむけると、まるこい木が地面に落ちていた。
先程の音は、まるこい木が自主的に折れた音だったらしい。
凪が見つめる中、それはコロコロと転がり、凪の足もとでぴたりととまった。
「はあ」
ここまでされては無視できない。
凪は諦めて、そのまるこい木を持ち、リビングに入り、テーブルに置いた。
「後で棚にでも飾るか」
よく見るとオブジェに見えなくもない。
母親が大事にしていた柿の木から生まれたものだ。捨てるには忍びない。
そう思いつつ、凪は庭に戻り、草むしりを続けた。
「はあ。今日はここまでにしよう」
無心に草をむしり続けて1時間半。凪はやっと満足して、立ち上がった。
両手を腰に当て、グーンと伸ばす。
「うー気持ちいい」
抜いた雑草が入った大きなゴミ袋が1つ。これを燃えるゴミの日に出せば、処理完了だ。
ゴミ袋を家のごみ置き場におき、やれやれと家の裏手から庭先に戻り、軍手をとりながら、リビングに戻った凪は目が点になった。
「え」
先程テーブルに乗せていたまあるいちんまい木があった場所に、茶色い木製のブレスレットが乗っていた。
これはどうみても先程のちんまい木が材料になっているとしか思えない。
「え。誰が作ったの? まさか自作、自作なの? なになに? 私にこれをつけろって事?」
思わずそう漏らした凪に答えるように、ブレスレットが白く輝いた。
「なぜ木が光る。怪しすぎるでしょ」
これはもはや、触るのもはばかれる。
かといってこのままにもしておけない。
凪はため息をつくと、同じテーブルに置いてあったスマホを手に取り、調べ始めた。
「なるほどね」
どうやら、先ほどのちんまい木はやどりぎと呼ばれる木で、それで作ったものはその持ち主に幸運をもたらすものらしい。
「あーそー。幸運をね」
ブレスレットは心なしか威張っているように思える。
「でもなあ、私あまりアクセサリーとか興味ないし、茶色一色は地味だよね」
今度はブレスレットが傷つき、震えているようにみえるのは気のせいか。
案外ナイーブなのかもしれない。
それにしてもブレスレットになっても、意志があるのだろうか。
人外さんはなんとも変幻自在である。
「まあ、でもここまで誠意を示されたら、無視もできないか」
凪はブレスレットを取ると、左手首にはめた。
「学校にはしていけないけど、せっかくだからなるべくつけるね」
凪に答えるようにブレスレットが震えた。
喜んでくれているのだろうか。
それならば何よりである。
(それにしても、自己PR強いなあ)
持ち主を選ぶにしても、ここまでする?
人外さんってみんなそうなのか?
ぐう。
その時、凪の腹が抗議の声を上げた。
「まあいいけどね。さあて、少し早いけど、昼ご飯に焼きそばでも作るかな」
凪は気分を切り替えると、キッチンに向かった。
やどりぎって、本物見た事ありません。見たいなあ。
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