表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

人外さんは存外主張が激しい

 今年の初め、私、八代凪(やしろなぎ)は、両親を交通事故で亡くした。

 病没ではなく、事故で。それも2人一度に居なくなってしまった。

 ぽっかりと大きな穴が心に開いた。

 埋める事ができない大きな穴。

 そしてすぐ思ったのは、この先どのようにして生きて行こうか、だった。

 両親よ、薄情な娘で申し訳ない。

 私は一人っ子で、中学3年だ。

 両親が亡くなった後の手続きすべて自分で行わなければならないのか。

 何から手を付けてよいのか途方にくれた。


 葬式は、町内会の人が助けてくれ、なんとか行った。

 長年住んでいる一戸建て。昔ながらの町内会の結束も固かった。

 こういった非常時に、出張って来る近所のおばちゃんには本当感謝である。


 そこに更に助っ人が現れた。

 父の友人の弁護士、御手洗さんである。

 親しくしていた親戚はいない為、両親は自分たちにもしも何かあった場合、私が困らないようにと、父が頼んでいたらしい。

 彼はどこから聞きつけたのか、葬式に駆け付けると私に替わり色々と手配や手続きをしてくれた。

 更に私のたっての希望、今まで通りこの家で暮らせるようにしてくれた。

 ちなみに御手洗さんによると両親の遺産や保険金があるので大学までの学費は心配ないと力強く頷いてくれた。

 そして今後後見人として私をサポートしてくれるとの事である。

 感謝で、御手洗さんの家の方向に、足を向けて寝られない。



「あら、凪ちゃんお帰りなさい。すごい荷物ね」

「はい。今日は、日用品で足りないものを買い出しに行ったので」

「そう。偉いわね」

「いえ」

「そうだ。もし寂しくなったら、いつでもうちに遊びに来てね。おばさん、待ってるからね」

「はい。ありがとうございます、おばちゃん」


 凪はぺこりと頭を下げると、家の門を開けた。

 向かいの家の前で(ほうき)を持って手を振っているのは、小川さんだ。

 小さい頃から凪を知っているから、両親が亡くなってからよく声をかけてくれる。

 葬式の時も、一番初めに仕切ってくれたのが、この小川さんである。

 前までは少しお節介なおばさんと思っていたのを、全力で謝罪したい。


「おばさん、いい人だ」


 玄関に入り、靴を脱ぐと、荷物をしまう為、キッチンへ向かう。


「おかずのお裾分けもしてくれるし」


 まだ自炊に慣れない凪にとって、食料の差し入れは、本当ありがたい。


「だけど、さっきの心配はいらないかな」


 両親がいなくて寂しい。

 通常一人暮らしだと静寂が重かったりする。

 同じように凪の家が静かかといえばー。


 実はそうでもないのである。



 みしみし。


(ああ、今日も人外さん、来てるんだあ)


 一階のリビング。午後8時25分。

 凪は両親がいなくなってから食事は、リビングで食べる。

 ダイニングで食べたほうが片づけなども早いのだが、1人で食べるのはやはり寂しい。

 従ってリビングのテーブルで、テレビを見ながら食事をとるのが、ここのところの習慣である。

 今も夕食をとりつつ、テレビでは、今凪が楽しみにしている連ドラの真っ最中である。

 なのに。


 みしみし。


 凪は天井を見上げる。

 誰もいない筈の2階。2階の部屋を斜めに横断していく足音。


(ここのところ多いな。人外さんもイベントとかあるのかな)


 これは両親が生きている頃から聞こえていた音である。

 不思議と聞こえているのは、凪のみ。

 両親は全く聞こえていないようであった。

 本来なら、泥棒かどうか見に行くべきなのかもしれない。


 が。


(うむ。めんどい)


 十中八句泥棒ではない。

 今までの経験からそう断言できる。


(なので、このまま無視。今、私は忙しいのだ)


 みっし、みっし。


 1人ではなく複数の歩く音。先ほどより大きく響く。


「はいはい。気づいてますよ」


 そう呟きつつ、凪は目をテレビから離さない。

 今丁度ドラマが佳境に入ったところである。

 見逃したくない。


 なのに。


 ドンッ!


 何か大きなものを落としたような音。


「わっ!」


 流石の凪も驚いて、天井を見上げた。


「もう!」


 凪は観念して、渋々立ち上がると、リビングの壁に立てかけてあった竹刀をとり、2階へと向かった。

 竹刀は一応泥棒だった時の防犯用である。

 ただし一度も使われた事はない。

 階段を上り、リビングの真上付近にある、元祖母の部屋兼仏間に向かい、部屋をのぞく。

 案の定そこは誰もいない。

 静かな部屋があるだけである。


「もう」


 凪は少し不機嫌になりながら、リビングへと戻った。

 案の定、ドラマのクライマックスを見逃した。

 念の為にと録画をしていたので、凪は機会を操作して、ドラマの続きを見る。


 2階からの物音はぴたりとやんだ。

 どうやら、凪が見に行ったので、満足したようである。


 毎日ではないのだが、たまーにこうして2階に見に行かないと、不満というようにああして大きい音を出す人外さんがいるのである。

 家の中を横断する人外さんを凪は一度も視た事はない。

 足音と気配だけだ。

 ある時は1人だったり、がやがやと大人数だったり。

 ほかの家でも聞こえているのかわからない。

 なぜ人外さんの足音が聞こえるのか。


 凪の考えではおそらく凪のうちの近くにある火葬場に行き来しているのではないかと思っている。どこから人外さんがやってくるのかは不明だが、凪の家が丁度通り道になっているのではないか。


 小さい時には音に気付かなかった。

 中学になってから音に気付いた。

 凪の耳がよくなったのか。人外さんの通り道が変更になったのは不明である。

 ただ、その足音の他、ベッドに入って目を閉じると、内から外から小さな音や気配が結構する。

 視えないが、凪の家は賑やかである。

 不思議と怖いと思った事はないので、悪さをするものではないと思っている。

 その人外さんの出す音を子守歌にしながら、眠る。

 静まり返った家で寝るより、断然寂しくない。


「おやすみなさい」


 その凪の声に答えるように、部屋の隅でカチッと音が1つ響いた。

新連載ですが、思いついた時に書くので、完結はかなり先になります。

長ーい目で見ていただけたらと思います。

それではよろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ