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月狐(げっこ)は結び、剣が舞う【第二話 アマイモノ】

作者: 狩屋ユツキ
掲載日:2019/02/04

【台本利用規約】

ここに置いてある台本については、商用、無償問わず自由にお使いいただけます。

報告の義務はありません。

但し自作発言、大幅な内容改変などはお控え下さい。


出来たら作品名、URL、作者名をどこかに書いていただけると嬉しいです。

月狐げっこは結び、剣が舞う

作:狩屋ユツキ


第二話 アマイモノ



【人物】


焔ノ塚 天音(ほむらのづか あまね)

表記は焔ノ塚 アマネ

炎を操る妖狐

見た目は20歳前後

一人称は俺

湖月こげつ所属



雪居立 更紗(ゆきいだち さらさ)

表記は雪居立 サラサ

触れたものを凍らせる雪女

見た目は20代前半

一人称は私

湖月こげつ所属



花嵐 風車(はなあらし かざぐるま)

不問

表記は花嵐 カザグルマ

風で物を切り裂く鎌鼬

見た目は10代後半

一人称は自分

湖月こげつ所属



黒鋼 霧都(くろはがね きりと)

表記は黒鋼 キリト

背中に翼を生やして飛べ、簡単な術を使える鴉天狗

見た目は10代後半にも20代前半にも見える

一人称は俺

此日このひ所属



邪 目目(よこしま めめ)

表記は邪 メメ

影を操る妖狐

見た目は15歳前後

一人称はメメ

海古かいこ所属



春舞郭 希咲(はるまいくるわ きさき)

表記は春舞郭 キサキ

様々な術が使える人食桜

見た目は30代前半

一人称はわたくし

海古かいこ所属



河時鳴 夢路(かわときなり ゆめじ)

表記は河時鳴 ユメジ

重力を局地的に操る化けなまず

見た目は背の低い10代後半から20代前半

一人称は僕

海古かいこ所属



ヒトケガレ

人間に穢れ(ストレス)が溜まって変生へんじょうした化物。

※キリトと兼ね役



【使用時間】

70分程



【配役表】

アマネ:

サラサ:

カザグルマ:

キリト・ヒトケガレ:

メメ:

キサキ:

ユメジ:


男:女:不問

3:3:1

――――――――――――――――



キリトN「ある夜のことだった。今、俺の眼下で一人の女が逃げている。ヒトケガレに追われて、誰もいない街を助けを求めながら走っている。……ヒールが折れて女が転ぶ。ヒトケガレがゆっくりと迫る。ヒトケガレが腕を振り上げる。その瞬間、そのヒトケガレの後ろに違う女が降り立った」


キサキ「ヒトケガレにえにしの深い者は反転した世界にも迷い込める……本当のようですわね。わたくし、この目で見たのは初めてだったので、ついついのんびりと見学してしまいましたわ」


キリトN「きょを突かれたらしいヒトケガレは動きを止め振り返り、泣いて酷い顔になった女はぽかんと口を開けてヒトケガレの背後に降り立った女を見ている。……先に我に返ったのは逃げていた女だった。助けて、と降り立った女に向かって叫んでいる。歳も背格好も変わらない女に向かって助けてとは、余程切羽詰まっているのだろう。無理もない。命の危険に直面することなどなく育ってきたに違いないのだから」


キサキ「あらあら、うふふ。可愛らしいこと。そうですわねえ……今からすることで貴女は結果的に助かるのだけれど、ちょっとばかり覚えていられると困りますの。今日のことは、全て忘れていただきますし……今から行われることは全て見なかったことにさせていただきます」


キリトN「そう言ってヒトケガレの背に降り立った女はにこやかに、穏やかに笑った。まるで場違いなその笑みは、ヒトケガレにさえも異様に映ったのだろう。改めて闖入者ちんにゅうしゃを意識したヒトケガレはくうから降り立った女に向き直り、ぐるると喉奥を鳴らして威嚇した」


キサキ「あらあら、うふふ。こちらも可愛らしいこと。“世界の修正”で元々この邂逅かいこうはなかったことになりますけれど……念には念を入れておきましょうという話ですよ?」


キリトN「ちらりと、微笑む女がこちらを……俺を見た、……ような気がした。……否、有り得ない。俺は今、女の遙か上空に滞空たいくうし、遠見とおみの術を使ってこの情景を眺めているのだから。実際、女は少し首と視線を動かしたように見えただけで、俺の姿に気を取られたような雰囲気はなかった」


キサキ「『春舞郭はるまいくるわことよ、力持つ花びらとなりてこの者達に永劫の夢を、幻を。ゆぅら、ゆぅら、我が舞い散る花弁かべんの中で眠りなさい』」


キリトN「ヒトケガレと対峙する女の背から桜の花びらが吹き出し、世界が薄紅色に染まる。言葉が終わるか終わらないかのところで、先程まで路上に座り込んでいた女の方がどさりと音を立ててその場に倒れ込んだ。ヒトケガレは花びらから顔を守るように腕を掲げて唸っている。そんなヒトケガレに無防備すぎる歩みで、桜吹雪を生み出した女は一歩歩み寄った」


キサキ「うふふふふ、美味しそう…………では、……“いただきます”」


キリトN「桜吹雪は更に強まり、俺のいる彼らの頭上から全てを見ることはできなくなっていた。それは桜色のドームだった。舞い散る桜が消えるまで、今、行われていることを見ることは叶うまい。……数分後、桜吹雪が弱まり、場が開けた。だがそこにはもう、あの女も、ヒトケガレもいなかった。いたのは、倒れ伏す、あの逃げ回っていた女一人。そして……桜の花びらが一枚。……それを確認すると、俺はその場を飛び去った。倒れ伏したままの女を助ける必要はない。世界が反転すれば……貧血でも起こしたか、ヒールが折れて転んだとき運悪く頭を打ったかレベルのこととして処理されるだろうから」





サラサ「アマネー、ヤコちゃんはどうしたのよ、ヤコちゃんは」


アマネ「事務所に帰ってくるなり聞くのはそれかよ!ただいまとか所長お疲れ様ですとか色々あんだろ!!」


サラサ「だって、七面倒臭い事後処理から帰ってきたら暑っ苦しい野郎一匹しかいないんだもの、気になるじゃない。ねえ、ヤコちゃんは?」


アマネ「ここ数日はユタカのところで仕事だ。主に先日メメが作った“成長するヒトケガレ”について調査する名目で秋宝条あきほうじょうと共同調査。レポートは読んだろ?俺様が作った完璧な奴」


サラサ「あーあの、小学生が書いたみたいなレポート。一応読んだわよ、頑張って解読しながらね。ヤコちゃんのレポートは纏まってて読みやすいのに、なんで今回に限ってアマネが書いたの?」


アマネ「お前本当に失礼だな!!!!俺だってあんなクソ長いレポート書きたくなかったわ!!!……だけどヤコは秋宝条あきほうじょうと元々繋がりが深い家柄の出だし、やりとりするならヤコって先方せんぽうから言われちゃ手が空いてるのが俺しかいなくてだなあ……!!」


カザグルマ「それで時々誤字脱字で意味不明の文章が出来上がったってわけですね。納得です」


アマネ「カザグルマ!いたのかよ!!」


カザグルマ「サラサさんがずかずか歩いて行くから置いてけぼり食らったんですよ。追いついて部屋に入ったのはさっきです。そうしたらアマネさんの悲痛な叫びが聞こえてきまして」


サラサ「頭が筋肉の男はこれだから駄目なのよ。いっそユタカさんがうちの所長だったら良かったのにぃ」


アマネ「秋宝条あきほうじょうは不可侵!大体俺以外にここを務められる奴なんていないだろ!なあカザグルマ!」


カザグルマ「ええ、自分はアマネさんで良かったと思いますよー。扱いやすいですしー、力に関しては役に立ちますしー、……扱いやすいですしー」


アマネ「……言いたい放題だな、お前ら……」


サラサ「で?私達を呼び戻したってことは次のヒトケガレ候補がいるってことでしょ?資料、見せてよ」


アマネ「あー……それなんだが……」


カザグルマ「なんですか、歯切れ悪いですね」


アマネ「先日ヒトケガレに変生へんじょうした……らしいんだが、消えた」


サラサ「したらしい?消えた?どういうことよ、それ」


アマネ「いや、変生へんじょうはした。したのは確実だと思われる。だがそのヒトケガレの存在が綺麗サッパリ人間の世界から消えてやがる。変生へんじょうしたのは青坂静江あおさかしずえ、30代、普通のOLで独身だ」


カザグルマ「写真とか無いんですか」


アマネ「あると思うか?」


カザグルマ「…………」


アマネ「経緯としては、会社でずっと虐められていたらしくそれを溜め込み、今回変生(へんじょう)したらしい……ってところまではわかってるんだが、それ以上は不明。現に、既に“世界の辻褄合わせ”の所為で、青坂静江あおさかしずえの存在自体、親、友人、知人、会社、……全ての記憶、記録から全て抹消済みだ。さっきのカザグルマに答えるなら、写真はおろか、戸籍含む文書一つ残っていない」


カザグルマ「……相変わらずエゲツないですね、“辻褄合わせ”は」


サラサ「世界にとって既にヒトケガレとなったものは要らない者……誤植ミスは全て消去して本は書き直されるものよ。……それらの情報源は?」


アマネ「うちの諜報部。……サラサ、そう睨むなよ。うちの諜報部だって頑張ってるんだぜ?“辻褄合わせ”の後にこれだけの情報を掴むのも結構苦労したはずだ」


サラサ「でも最近はずっと此日このひ黒鴉くろからすに負けっぱなしじゃない!もしかしたら今回も、あの忌々しい鴉ならもうちょっと詳しい情報があるんじゃなくて?!」


カザグルマ「まあまあサラサさん、落ち着いて、落ち着いて。部屋の温度がどんどん下がってますよ、このままじゃアマネさんも自分も凍っちゃいますよぉ」


サラサ「あらいけない。私ったらつい“冷たく”なって」


アマネ「ただ確かにサラサの言葉にも一理ある。後で俺直々に黒鴉くろからすも当たってみるさ」


カザグルマ「でもまあとにかく、今わかっているのはそれだけってことですね。それならそれでいいじゃないですか。今回は後手で救えなかった。それは残念極まりないことです。でもヒトケガレ以外の誰も被害を受けていない。それはとても良かったことです。そういう風に考えませんか?」


アマネ「見た目以上に本当、お前は大人っていうかクールっていうかドライっていうか……。……人間が一人消えてるんだぞ。普通そんな風に割り切れるか?」


カザグルマ「割り切るんですよ。幸いにして自分は切ることに関してはアマネさんよりもずっとずっと長けているので割り切るのも得意なんです」


サラサ「……腑に落ちないところがあるけれど、カザグルマの言う通り今回は割り切るしかなさそうね。……じゃあ、この話は此処までにして、お茶でも入れてくれる?カザグルマ。私のお茶は勿論――」


カザグルマ「はいはい、つめたーいアイスティをご用意いたしますよー。アマネさんはあつーいほうじ茶、ですよね。あとあまーいお茶菓子」


アマネ「……おう」


カザグルマ「お土産に七福神のお饅頭買ってきてますから、それをお出ししますねー」


アマネ「……!!!!七福神の饅頭だと……!!!なんでそれを早く言わねえんだ、すぐ出せ、ほら出せ、さっさと出せ!!」


サラサ「……全く、男のくせに甘いものに本当目がないんだから……」





ユメジ「キサキ」


キサキ「ユメジさん。メメさんのお屋敷で会うなんて珍しい……どうかなさいました?」


ユメジ「ここならお前がいると思って。……先日、僕が作ったヒトケガレ、食べただろう」


キサキ「あら、あれはユメジさんが作ったヒトケガレだったんですの。そんなこととは露知らず……申し訳ありません」


ユメジ「……ふん、悪いなんてこれっぽっちも思ってないような笑顔で言わないでよ。……まあいいんだけどさ。あれはあくまで実験体。自然偶発的(しぜんぐうはつてき)にヒトケガレを大量生産できないか考案中の一つだから、野良に近い形で生み出してる。僕の気配は殆どしなかっただろう?」


キサキ「殆どどころか皆無でしたわ。ユメジさんの気配がすればわたくし、食べるのを止めておりました」


ユメジ「メメの力をこちら側で保管して上手く使う……メメも同意している実験だよ。僕は妖狐じゃないからヒトケガレを祓えないし生み出せない。でもヒトケガレを生み出せる者が増えればそれだけ“世界”は混乱する。だったらヒトケガレを生み出す力に特化したモノを作り出せばいい……とは、あのメメにしちゃいい考えだよね」


キサキ「メメさんは世界に対して敵愾心てきがいしんが強いお方ですので、そういうことには非常に頭が回るんですよ」


ユメジ「キサキは人を褒めるのが本当に下手だよね……それじゃメメを貶しているようにしか聞こえないよ」


キサキ「わたくしは他人を褒めも貶しも致しませんわ。するのは正当な評価だけ……ふふ、ユメジさんの評価、お聞かせしましょうか?」


ユメジ「止めとく。どうせろくな気分にならないだろうから……っと、噂をすれば、だ」


メメ「ユメジちゃーん。キサキちゃーん。どうしたのぉ?メメのお屋敷に来たって知らせがあったからぁ、探してたんだよぉ」


キサキ「ご当主にご挨拶も無しに上がり込んで申し訳ありません」


メメ「いいんだよう、キサキちゃんもぉ、ユメジちゃんもぉ、メメの仲間だからねぇ。尤もぉ、仲間じゃなかったらぁ、殺してるところだけれどぉ」


ユメジ「メメ、偶発を装ったヒトケガレの量産は上手くいっている。ただ、問題があるとすればそいつらは野良に近い性質を持ち、僕達の言うことをあんまり聞かない。外で出会ったときは気をつけて」


メメ「そうなのぉ?うーん、改良の余地ありありだねえ」


キサキ「そういうのは出会ったらどうしたら良いんでしょうか。一応海古(かいこ)の所有するヒトケガレに値するなら何か見分けがないと、わたくし……」


ユメジ「いいよ、煮るなり焼くなり好きにしちゃって。元々このメメの屋敷もこの研究も、海古かいこの中でも浮いた存在なんだ。僕達のしていることは海古かいこの意思に反してはいないけれど属してもいないからね」


メメ「海古かいこのおじいちゃんたちはぁ、湖月こげつにヒトケガレを処理させてぇ、此日このひに後始末をさせてぇ、海古かいことしての存在さえ存続できればいーい、って考えだからねぇ。最早ぁ、海古かいことしての世界転覆なんてぇ、夢としか見ていないだろぉし」


ユメジ「だから僕はメメに手を貸すと決めたんだ。僕は諦めない。妖怪がこの世界をおびやかし、“世界”が妖怪を認めるのを諦めない」


キサキ「わたくしも。メメさんの元でならお腹いっぱい食べられる未来が見えましたもの。今のようにこそこそ人に紛れて食事をさらうのではなく、堂々と妖怪としてお食事をしたいものですわ」


メメ「メメは今の“世界”が嫌いだよぉ。綺麗事で埋め尽くされて、汚いものをなかったコトにするこの“世界”がねぇ。だから“世界”に嫌がらせができるならなんだって良いんだぁ。だからぁ、ユメジちゃんもキサキちゃんも、メメのために、自分のために、どんどん、どんどん、頑張ってよねえ。あはっ、あはははははははっ!!」





キリトN「今日も湖月こげつ海古かいこも平和だ。尤も、平和なのが良いとは限らない。平和とは即ち平穏でありぬるま湯であるというのが我があるじにして世界の王になるべき御方おんかたのお言葉だ。ぬるま湯に浸り続ければどんなものもふやけて役に立たなくなる。ある程度の刺激が“世界”には必要だ、だから此日このひは勿論、湖月こげつ海古かいこも必要なのだ――俺はそのとおりだと思うし、その通りであるべきだと思う。あの御方おんかたの仰ることに間違いなどあってはならないし、あるわけがないのだ」


アマネ「探したぜ、黒鴉くろからす


キリト「ふん、ここがよくわかったな、炎の狐。匂いでも辿ってきたのか?」


アマネ「空飛ぶ鴉が匂いを残すってんならそうしたさ。ちゃあんと地道に目撃情報を洗って、お前のいそうなところを片っ端から潰してったってだけ。探偵の基本は足なんでね」


キリト「沢山のビルの屋上を全部回ってきたってわけか?俺が見張り台にしているビル全部とはご苦労なことだ」


アマネ「おーう労え労え。うちの所員は誰一人俺を労ってくれるやつがいなくてな。お前くらいのもんだぜ」


キリト「……そりゃ本当にご苦労様。報われねえな、アンタ」


アマネ「……黒鴉くろからす、聞きたいことがある。先日一匹のヒトケガレが消えた。……青坂静江あおさかしずえ、この名前に聞き覚えはないか」


キリト「ある、と言ったら?」


アマネ「此日このひの王様には今許可をとっている。許しが出たら洗い浚い全部俺に教えてくれ」


キリト「準備が良いな、炎の狐。我が王に先に挨拶したのは褒めてやる」


アマネ「お前があの王様に心酔しているのは誰の目にも明らかだからな。……っと、……ほら、王様のお言葉だ。全部、話せとよ」


キリトN「俺は狐から渡された電話を受け取り、王のお言葉を聞く。短い、「全てを教えてやれ」という言葉に込められた王の意に俺は「仰せのままに」とだけ返し、狐に電話を放って返した」


アマネ「あぶねっ!!……今日び、電話一つ10万円を軽く超えるんだから大切に扱えよな!!」


キリト「俺の電話じゃないしな。……俺が見たのはただの女がヒトケガレ……変生へんじょうした青坂静江あおさかしずえに追われている姿と、そこに……多分どこかのビルから飛び降りてきた変な女が居たってことだけだ」


アマネ「ふぅん……その飛び降りてきた方の女は……当たり前だが人間じゃ有り得ない、な」


キリト「桜」


アマネ「は?」


キリト「その女は桜を操る妖怪のようだった。だが俺の手持ちにそんな能力の情報は無い。あのとき見ただけでも湖月こげつといった風じゃなかったし、今お前がここにいるってことは間違いなく湖月こげつの奴じゃないってことだ。勿論、此日このひでもない。となると残りは」


アマネ「海古かいこか。……あそこは元々秘匿主義ひとくしゅぎだからな。能力の開示はしてない奴のほうが多い」


キリト「弱点晒すべからず、ってことだ。お前だって俺の能力は知らないだろう」


アマネ「此日このひ湖月こげつも別段隠してないってだけで、能力は元々ひけらかすもんじゃねえからな。妖狐である俺の焔ノ塚(ほむらのづか)雨ヶ崎(あまがさき)秋宝条あきほうじょう、お宅の狂乱魅きょうらんみ辺りはどうしても知れてるが……同じ妖狐でもメメのよこしま家の能力はこの間初めて知ったし」


キリト「よこしまメメの力は影を操る……だったな、確か」


アマネ「ユタカの情報か。そうだよ。ヤコ……雨ヶ崎(あまがさき)自慢の水狐すいこが影の槍で散らされちまった。ありゃ相当の威力だと見たね」


キリト「……。……くだんの女、桜にまつわる妖怪を調べてみたが、特に有名なものは上がってこなかった。だから多分、生まれて間もない――人間が作り出した“新しい”妖怪、都市伝説や物語からの生まれだと推測できる」


アマネ「俺も今それを考えてた。となると………厄介だな。対策の打ちようがない。そいつがヒトケガレを“どうにか”したのはわかってるが、……戦うとなると面倒だ。戦わないで済むことを祈るぜ」


キリト「帰るのか」


アマネ「必要な情報は得たからな。……ああそうだ、お前の名前を聞き忘れてた」


キリト「名前?俺の名前を聞いてどうするんだ」


アマネ「いつまでも黒鴉くろからすじゃ気分よくねえだろ。ほれ、名前」


キリト「……黒鋼くろはがね、キリト」


アマネ「オーライ、キリト。情報さんきゅ。困ったことがあったら、オニーサンに相談しな。湖月こげつ探偵事務所はいつだってお客さんをお待ちしてますとも」


キリト「……閑古鳥が鳴いているだけのくせに」


アマネ「うっせー!!!」


キサキ「……あら、こんなところにいらっしゃったのですね」


アマネ「何だ?お前。誰だ、……どこから、来た?」


キリト「お前は……」


キサキ「説明は後ですわ。今わたくし達、凄く凄ーく、我慢、しておりますのよ?」





サラサN「さて、これはアマネと黒鴉くろからす……黒鋼くろはがねキリトがお喋りしている時間よりも少し前のお話」


カザグルマ「人知れず消えたヒトケガレ……情報はほぼ皆無。それで今日は情報収集を兼ねた見回りが主な仕事ってわけですねえ」


サラサ「全く人使いが荒いってのよ。真っ昼間からヒトケガレが出るのなんかそうそう無いし、ましてや私達が歩いてるくらいで遭遇してたらそれこそ――」


メメ「あれ?」


ユメジ「げっ」


キサキ「あらあらまあまあ」


カザグルマ「……嫌なのと鉢会っちゃいましたねー……」


メメ「嫌なのとはぁ、ご挨拶だねえー」


サラサ「誰が好き好んで海古かいこと表参道で仲良く談笑しなきゃいけないのよ。……こんなところに何か用?」


キサキ「パンケーキを食べに来たのです」


カザグルマ「は?」


キサキ「ですから、パンケーキを頂きに来たのです。最近新規オープンしたお店が美味しいとSNSで有名になっていましたので、わたくしどうしても一口頂きたくて、皆様に無理を言ってここへ」


ユメジ「甘いものは嫌いじゃないし、そこのパンケーキ、フルーツたっぷりで体にも良さそうだからメメにも食べさせてやろうかって話になって」


キサキ「メメさんは放って置くとジャンクなものばかり召し上がっておられますので……」


メメ「いいじゃーん!カップラーメン最高ーぅ。カップ焼きそば最高ーぅ。ポテトチップス愛してるーぅ!」


キサキ「パンケーキは生クリームたっぷりのを頼みましょうね」


メメ「いえーい。生クリーム最高、フレーク大盛りでよろしくーぅ」


サラサ「……海古かいこってこんな平和な組織だとは思わなかったわ」


ユメジ「年がら年中物騒な組織のほうが可笑しいと思うべきだけれどね。そこら辺は年がら年中頭が春の湖月こげつにはわからないかな?」


カザグルマ「誰かさんの所為で年がら年中忙しくしているから、他の組織の仲良し小好し具合まで探ってる暇がないんですよ、自分たちには。ということで、パンケーキを食べに行くならどうぞご勝手に。今日は平和だってことで自分達も気楽に見回りができるってものです」


サラサ「そうね、じゃあ私達はこれで。精々思いっきり時間を使って楽しんできて頂戴。その方が世界は物凄く平和でしょうから」


ユメジ「ふん。精々その平和を有り難く享受きょうじゅしてると良いよ。直に僕達海古(かいこ)の力を思い知ることになるんだからね」


サラサ「そうさせないのが私達の使命」


キサキ「さあさ、そろそろ参りましょう。急がないと予約の時間に間に合わなくなってしまいますよ?」


メメ「それは困るぅ。ユメジちゃん、キサキちゃん、行こー?じゃーねーぇ、湖月こげつのお二方ーぁ」


カザグルマ「……行きましたね」


サラサ「本当にパンケーキ食べに行っちゃったのかしら……。にわかには信じがたいけれど、見た目だけならわからないでもない組み合わせだけに気になるわ……」


カザグルマ「……そういえば気付きましたか?よこしまメメはともかく、残りの二人……自分は見たことがない奴らでした」


サラサ「気付かないわけがなくてよ。……背の低い男の方をユメジ、男より少し年嵩としかさの女の方をキサキと呼んでいたわね」


カザグルマ「……ユメジは聞き覚えがあります。確か……河時鳴かわときなりユメジ。最近海古(かいこ)で新しい研究を始めたらしいんですが、その筆頭だと」


サラサ「その情報源は?」


カザグルマ「うちの諜報部です」


サラサ「ふうん。アマネの言う通りうちの諜報部も頑張ってるみたいね。……キサキの方は?」


カザグルマ「残念ながらデータ無し、ですね。そもそも、あんな女性が居たら目立ちそうなものですが。落ち着いていて大人しげに見えましたが、見目に華と……なんとも言えない毒気がありました」


サラサ「本当に最近入ったのかもね……海古かいこは出入りが激しいから」


カザグルマ「何にせよ、警戒するに越したことはありません。……あれ?」


サラサ「?どうしたのよ、カザグルマ」


カザグルマ「……この匂い……気配……まさか!!」


サラサ「ちょ、ちょっとカザグルマ!!そっちはさっき海古かいこの連中が歩いていった方……!!」





メメ「ふんふんふーん、ぱんけーきー、ぱんけーきーぃ。バターと生クリームたっぷりパンケーキぃー」


ユメジ「屋敷を出るまでは嫌だ引きこもる宅配ピザ万歳とか言ってたくせに一度ひとたび外に出るとこうなんだから、メメは本当にガキだよね」


キサキ「ふふ、そこはメメさんの可愛らしいところでもありますわ?いつまでも子供のように、我儘で、奔放で、無邪気で、容赦がなくて、愛らしくて、残酷。わたくし、そんなメメさんだから海古かいこに入ったのですもの」


ユメジ「それにしたって連れ出す名目にパンケーキとは……キサキも十分子供っぽいと思うけれど」


キサキ「あら、女はいつまでも少女なのですよ?甘いものとスパイスと素敵なもので出来ているのです」


ユメジ「それなんだっけ……、まあいいや。まさか僕も連れ出されると思わなかったけれど、それもまあいいとして。腑に落ちないのは、キサキ、普通の食事で君のお腹は満足するの?」


キサキ「しませんわ?私のお腹を満たしてくれるのは唯一つ。でも美味しいものを美味しいと食べるのは大好きです。だって娯楽ってそういうものでしょう?必要がなければ必要がないだけ楽しいものですわ」


メメ「メメはぁ、美味しいものを食べるとお腹が一杯になるけどぉ、キサキちゃんは不便だよねぇ。本当、もっと妖怪が生きやすい世界になって欲しいものだよお」


ユメジ「だから僕らがこうやって頑張ってるんだろ……って、……ん?この、気配……」


キサキ「ああ、いい匂い。……パンケーキの前に、美味しそうな匂いがしてきましたねえ」


メメ「ん?んん?パンケーキのお店はすぐそこだけど、この匂い、は……」


ヒトケガレ「キャシャアアアアア!!!!!」


メメ「(棒読みで)ぎゃー。ヒトケガレがガラス破ってビルから降ってきたー」


ユメジ「メメ、驚いているように聞こえない。というか、いつの間に世界が反転してた……?」


カザグルマ「やっぱりヒトケガレの匂い!!」


サラサ「はあ、はあ、……か、カザグルマ、ちょっと、スピード落として……って、こんな昼間からヒトケガレぇ?!」


キサキ「あらあら再びお揃いで」


サラサ「はあ、はあ、……っ白々しい、アンタ達の仕業なんでしょう!!」


メメ「今回はぁ、メメ達関わってないよぉ。パンケーキ食べに行くだけだったんだものー」


カザグルマ「え、じゃあ野良ってことですか?やだなあ、海古かいこが関わってるならまだしも、野良の対処は、自分、あんまり好きじゃないんですよねえ……」


ユメジ「そんな悠長なこと言ってないで、来るよ!!!」


ヒトケガレ「シャァっ!!!!」


キサキ「うふふ、美味しそう……食べてもいいですかぁ?」


サラサ「駄目っ!!食べるってのがどういう意味か考えたくもないけど、湖月こげつの前でヒトケガレを殺すのは絶対に許さないんだから!!!」


カザグルマ「とはいえ傷付けずには無理ですよ。自分達には追い返すレベルしか……!!」


サラサ「そうね、妖狐が居ないと浄化は……あ」


メメ「ん?」


カザグルマ「……一応お聞きしますが、よこしまメメ」


メメ「んん?」


サラサ「浄化……出来たり、する?」


メメ「……、……、……え、ええええええええええええええええええ?!?!?!?!メメがアレを浄化するのおおおお?!?!?!無理無理無理、メメ、浄化の術なんてやったこと無いし、覚えてないし、そもそもやりたくないし!!!!」


キサキ「浄化の術は妖狐のみの術ですものねえ……」


ユメジ「それにメメがヒトケガレを浄化する理由はないだろ。ヒトケガレに暴れさせればそれで良いんだから」


メメ「そ、そうそう、そうだよぉ!!メメ、アレが暴れて街が壊れたらそれでいいんだもんー」


サラサ「それでパンケーキがご破算になっても?」


メメ「うっ」


カザグルマ「予約なしじゃ食べられないようなパンケーキなんですよね?きっと美味しいんだろうなあ」


メメ「う、ううっ」


カザグルマ「この辺一体が壊れたら“世界”はどのくらいこの街の状況を改変してこのヒトケガレの破壊をなかったことにするんでしょうね。もしかしたら新規オープンのお店なんてなかったことにしちゃうかも」


メメ「う、う、うううううううううう」


ユメジ「メメ……なんて意志薄弱な」


キサキ「それがメメさんの可愛いところです」


メメ「……っでも無理ー!!メメ、本当に浄化の術覚えてないんだもんー!!だったらあのヒトケガレ殺しちゃうー!!邪魔ぁー!!『影よ、我が名、よこしまにおいて命ずる。あの異形、影の槍にて仕留めよ』シャドウランサー!!」


カザグルマ「させません!!『花嵐はなあらしの名にかけて、両手に鎌持ち眼前の全てを切り刻まん!』真空破斬しんくうはざん!!」


メメ「あー!メメの槍が細切れにー!!何するんだようー」


カザグルマ「言ったでしょう、湖月こげつの前でヒトケガレを殺すこと相成りません!ヒトケガレは浄化して救う対象です!!」


メメ「そういうのが面倒だって言ってるのにー……」


ユメジ「じゃあこういうのはどう?今回限り僕達も協力してあのヒトケガレを此処に留める。その間に湖月こげつ、お前らの巣でのほほんとしてる妖狐を一匹連れてくる」


サラサ「協力、してくれるっていうの?」


ユメジ「パンケーキを邪魔されてメメの機嫌が悪くなるよりは良いからね」


キサキ「では、お迎えはわたくしが今から行ってまいりましょう。幸いにして……先日わたくしを見ていらっしゃった方の近くに湖月こげつの狐さんもいらっしゃるようですから」


サラサ「先日見ていらっしゃった方?」


キサキ「さあ、余所見は危険ですよ?」


ヒトケガレ「キィイイイイイ……」


サラサ「くっ……じゃあ任せたわよ。嘘だったら後でカチンコチンに凍らせてあげる!」


キサキ「あら怖い。うふふ、では、失礼を。『春舞郭はるまいくるわことよ、力持つ花びらとなりて我が姿隠したまえ。そして我が身を、我思い描く者のところへ、ふわり、はらり、ひらひらと、風に乗せて』……」


カザグルマ「消えた……これは……桜の花びら?」


サラサ「カザグルマ、本当余所見してる間はないみたいよ!!『我が手よ、雪居立ゆきいだちてのひらよ、それ自体が雪の結晶であることを今ここに』!はぁあああああっ!!!!喰らえ、雪波掌せっぱしょう!!」


メメ「しょうがないからメメも協力したげるー。……詠唱省略、シャドウランサー!」


カザグルマ「槍の……切っ先が丸い?」


メメ「殺しちゃ駄目なんでしょー?だったらあのおねーさんの近接攻撃を邪魔しないようにぃ、足止めしたげるぅ。あとはどうとでもしてくれればいいからーぁ」


ユメジ「僕は暫く見学させてもらうよ。疲れることは極力避けたいし、僕の技は最後に取っておきたいしね」


カザグルマ「どっちにしろ海古かいこと共同戦線なんて考えたこともなかったですよ……!!っと危ない、真空破斬しんくうはざん!!」





アマネ「どういうことだ、我慢してる、って」


キサキ「来ていただければわかりますわ。場所は表参道。ここからなら、幸いにして走っていただければそう遠くはありませんでしょう?」


アマネ「十分遠いわ!!!状況の説明もなしに走れる距離じゃねえぞ!!!」


キリト「……状況次第では俺の翼でんでやる。……女、状況を説明しろ」


キサキ「わたくしのことはキサキとお呼びくださいませ、黒鴉くろからす様。お噂はかねがね」


アマネ「状況を説明しろって言ってんだ!!」


キサキ「その時間が惜しいと言っております。一言で申し上げるならば、先程の言葉で十分かと。それから、是非妖狐の方は鼻を利かせて欲しいものですわね」


アマネ「あん?鼻……?……この匂い……まさか、ヒトケガレ!!」


キリト「野良が出たか」


アマネ「っち、今はヤコの匂いが近場にねえ。それならアレに近いのは確かに俺だけだ……」


キサキ「では、お早く。わたくしは一足先に戻ります故。『春舞郭はるまいくるわことよ、力持つ花びらとなりて我が姿隠したまえ』」


キリト「なっ、……消えた……」


アマネ「畜生、なんだってんだ!!この間から俺は絶対働きすぎだ!!!おい、キリト、悪いがその翼借りるぞ!!」


キリト「……ヒトケガレに世界を壊されるのは此日このひの本意ではない。仕方ない、付き合ってやる」





キサキ「只今戻りましてございます」


ユメジ「思ったより時間食ったね、キサキ」


キサキ「……少し寄り道をしてまいりました。それにちょうど、妖狐と黒鴉くろからすのお二方も到着したようですよ」


アマネ「どういう状況だこりゃ!!」


キリト「海古かいこ湖月こげつが共同戦線張ってる……」


キサキ「思ったより早いお着きですね。……だから言いましたでしょう?わたくし“達”、凄く凄ーく我慢してますの、って」


サラサ「もいっちょ雪波掌せっぱしょう!!ええい、何なのこのヒトケガレ、異常に素早い!……ってアマネ!!遅い!!」


カザグルマ「真空破斬しんくうはざん!!サラサさんを狙うヒトケガレの爪を切り落とせ!!アマネさん、早く早くこっちですー!!」


メメ「シャドウランサー!……ふえー……メメ手加減疲れたぁああ」


アマネ「お、おう、今行く!!(手を打ち鳴らし)『炎よ、我が命に応えよ!我が名焔ノ塚(ほむらのづか)において、全てを焼き尽くす炎はじゃなるものだけを焼き払う清浄たる浄火となって我が両脚に宿れ!』緋炎滅脚ひえんめっきゃく!!っだらあ!!」


ヒトケガレ「ギャァアッ?!」


サラサ「ふう、あとはアマネに任せて一旦退却……っと」


カザグルマ「そう言えばユメジさん……、でしたっけ。出る幕はなさそうですね」


ユメジ「それはどうだろうな。あのヒトケガレ、野良だけれどそれなりに強いみたいだよ」


アマネ「詠唱省略、炎の檻ッ!!……っち、足が速ぇ!メメ、サラサ、カザグルマ、手伝うなら最後まで手伝え!!」


メメ「嫌だようー……もう疲れたもん」


ユメジ「メメはああ言ってるし、頼れるのは湖月こげつの面々だけど……」


サラサ「私、これ以上は溶けちゃうわ」


カザグルマ「ヒトケガレとアマネさんの動きが早すぎて、下手に手を出したらアマネさんごとスパッといっちゃいますよぅ」


ユメジ「となると」


キリト「……なんで俺を見る」


ユメジ「此日このひの諜報にして戦闘員と伺っているよ、黒鴉くろからす黒鋼くろはがねキリトさん。まあ、今回は戦いに直接参加しなくてもいい。ただ、僕をあのヒトケガレの真上まで運んでくれ。その背中に生えた黒い黒い翼でね」


キサキ「あら、わたくしの幻惑術で惑わせてもよろしくてよ?」


ユメジ「それ、僕にまで効いちゃうじゃないか。大体の幻術は範囲が広すぎる。今回一番手っ取り早いのは僕をあのヒトケガレの頭上から落とす。これが一番の策だと思う」


キリト「……お前は、どんな力を持っているんだ?」


ユメジ「それをこれからお見せするんだよ。特別サービスでね」





アマネ「オラァ!!!……っ、本当に足の早い……!!せめて、この足さえ止められれば俺の炎狐乱舞陣えんこらんぶじんが使えるんだが……炎の檻じゃ技の出が遅くて奴を捕まえきれねえ……」


ユメジ「そこの炎の妖狐!!」


アマネ「頭上?!……なんだありゃ、キリトがチビを抱きかかえて飛んでる……?」


ユメジ「今から僕がそのヒトケガレの動きを数分止めてやる!!だから一瞬で良い、そのヒトケガレを上方向へ飛ばせろ!!」


アマネ「う、上方向?一瞬ったってそれができりゃ苦労し……、……そうだ、あの手があるか」


キリト「早くしろ!こいつ、なんかお前より小さいのに凄く重い……!!」


ユメジ「失礼だな!!これでも多分、お前よりずっと歳上なんだぞ!!!」


アマネ「(手を打ち鳴らし)『炎よ、全ての根源にして全ての形の有り様よ、その様を曲げて我に従え』!はああああっ、炎の檻!!」


サラサ「あっ、バカ、自分が炎の檻に突っ込んでってどうするのよ!!自分が黒焦げになるじゃない!!」


ヒトケガレ「キシシッ!!!」


カザグルマ「また避けられた……!!っ、アマネさん?!」


アマネ「ああ避けていいさ。だが、さっきから見てりゃお前、利き足が右なのか、絶対に焦ると右へ逃げるんだよなあ!!だから、逃げるならそこだ!!喰らえ、緋炎飛翔脚ひえんひしょうきゃく!!」


カザグルマ「ひ、ヒトケガレを炎の蹴りで……」


キサキ「あらあら見事に打ち上げましたねえ」


アマネ「これで文句ねえだろ海古かいこのチビ!!」


ユメジ「チビは余計!!今だ、黒鴉くろからす、離して!」


キリト「やっとか……!!ほらよ!!!」


ユメジ「(手を打ち鳴らして)『我が名は河時鳴かわときなり。我が名は地に在りて水に在りてその全てを統べるもの。無に在りてゆうに在りて我が名を知らぬものは無し』喰らえ、重力、十倍!!!」


ヒトケガレ「ギャォッ?!ぐ、オオオオオオ……!!!」


アマネ「ぎゃあああああっ?!ヒトケガレが隕石みたいに堕ちてきやがった!!!避けるのが数秒遅れたら、俺ごと潰れてたじゃねえか、馬鹿野郎!!」


サラサ「……重力を操る力……それがあのおチビさんの力ってわけね」


カザグルマ「ヒトケガレが、あの小さな体に踏みつけられて押し潰されてるみたいに見える……」


ユメジ「よっ、と。……重力変化は僕から離れると10分しか保たない。だから後は任せたよ、炎の妖狐!」


アマネ「おうともよ!(手を打ち鳴らす)『炎よ、燃やし生み出す全ての覇気の源にして原祖の存在よ!浄火は浄化に通じるものなり!!』炎狐乱舞陣えんこらんぶじん!!」





キリト「つ……」


メメ「疲れたあああああー……」


キサキ「あらあら、一番働いたのは湖月こげつの皆さんだというのに、海古かいこ此日このひもだらしのないところがあるのですねえ……うふふ」


ユメジ「一番働いてないキサキが言うもんじゃないと思うよ。……さて、後始末は全部湖月(こげつ)に任せていいんだよね?僕らは元の通り、パンケーキを食べに行くんだから」


アマネ「ぱんけーき……?」


サラサ「あんまり深く突っ込んじゃ駄目よ、アマネ」


カザグルマ「自分も信じられないですけれど、今回手伝ってくれた理由はパンケーキだったりするんです」


キリト「パンケーキ如きで海古かいこは動くのか……」


メメ「パンケーキ如きっていうなぁー。生クリームたっぷりパンケーキの破壊力はぁ、さっきのヒトケガレなんかぁ、目じゃないんだからねぇ」


ユメジ「まあ、そういうこと」


キサキ「うふふ、ではまた。次お会いするときは、出来れば敵同士が、良いですわねえ」


サラサ「……私は出来れば今日みたいなハチャメチャでも敵じゃないほうが有り難いんだけどな」


キサキ「あらあら可愛らしい。でも、わたくし達海古(かいこ)湖月こげつは相容れぬものとして作られた組織。今回はパンケーキに免じて、ということで、甘ったるい邂逅となりましたが……次は無いものと、お考えください」


カザグルマ「あ、街が戻ってきましたよ」


キリト「……」


カザグルマ「へえ、翼は簡単に仕舞えるんですね」


キリト「当然だろう。仕舞えなかったら目立つし……それに厨ニ病(ちゅうにびょう)とか言われるし」


アマネ「言われたことあるんだな……」


キリト「いちいち煩いぞアンタ!!!」


サラサ「まあまあ、とりあえず一件落着。そこに転がってる元ヒトケガレが起きたら話を聞いて、問題なさそうなら放置で私達も帰りましょう」


カザグルマ「お土産にクレープ買いません?今日一日超頑張った自分とサラサさんにはホイップ多めでお願いしますね、アマネ所長!!」


アマネ「あっ、てめぇ、こんな都合のいいときだけ所長扱いしやがって!」


サラサ「いいじゃない、実際頑張ったんだしぃ。ねーえ、所長ー」


キリト「じゃあ俺は甘くない食事系のクレープにしてくれ。ツナ多めで」


アマネ「なんでお前にまで奢ることになってるんだよ!!!!!!」


キサキ「(小声で)……黒鴉くろからす様」


キリト「ん?」


キサキ「(小声で)……先日の覗き見、あまり心地良いものではありませんでした。他人の“食事”は、覗き見るものではありませんよ?」


キリト「(小声で)……っ、気付いて……?!」


キサキ「(小声で)気付けば衣服に舞い込む花びらのように、わたくしの目はどこにでもある……お気をつけください?あまりわたくしの機嫌を損ねると、その素っ首、いつ“食い荒らされるか”、わかりませんから」


キリト「(小声で)……なら、その花、このくちばしで先に食い荒らしてみせる」


キサキ「(小声で)うふふ。ではその時を、楽しみにしていましょう」





アマネ「またレポート……」


サラサ「今回は私も手伝うから。誤字脱字が無いように校正だけだけど」


カザグルマ「自分は事後処理がちゃんと終わってるか確認に行ってきますねー。“世界”のことなんで、多分大丈夫だと思いますけれど、ヤコさんとユタカさんにも連絡しておきますのでご心配なく!!」


アマネ「今回俺カッコ良かったと思うんだけど!!ヒーローは遅れて駆けつけるものっていうお約束も守ったし、実際祓ったの俺だし、頑張ったと思うんだけど!!!」


サラサ「そうねえ、アマネにしちゃあ頑張ったし格好良かったわよ?でも、レポートは書き直し」


アマネ「なんでだよ!!!」


サラサ「誤字脱字が多いって言ってるでしょこの脳筋!!」


アマネ「漢字なんか大嫌いだ!!専門用語なんて大嫌いだ!!!!」


サラサ「いい加減ここの所長ならレポートくらいヤコちゃんに頼らずに書き上げなさーい!!」





キリト「……あの女……只者じゃなかった。ただの妖怪ですらなかった。あの妖気、あの……言葉。術式から考えて名字は春舞郭はるまいくるわ……。だがそんな名は聞いたことがない。桜を操るのはわかっている。だがあまりにもそれでは範囲が広すぎる……。これは我が王に報告すべきだろう。だが、まだだ。春舞郭はるまいくるわキサキ……、……もう少し、調べてみる必要がある」





キサキ「ふふ、今後、少し面白くなりそうですわ」


ユメジ「機嫌がいいね、キサキ。なにか面白い玩具でも見つけたの?」


キサキ「そうですわねえ……玩具というより、指先に遊ぶ花びらのようなものでしょうか。吹けば飛んでしまう儚い存在ながら、わたくしを存分に楽しませてくれる……ふ、ふふ」


メメ「さっき食べた、パンケーキみたいな?」


キサキ「良い例えですわ、メメさん。命は、甘くて、蕩けるようで、ふわふわと柔らかで……うふふ、お空の小鳥さんがわたくしの花を食い散らかすのが先か、それともわたくしの根本で小鳥さんが死に絶えるのが先か……甘い甘いお菓子でも食べながら、ゆっくりとその時を待つことに致しましょう」




【連絡先】

@MoonlitStraycat(Twitter。@を半角にしてください)

kariya.yutuki@gmail.com(@を半角にしてください)

反応が早いのはTwitterのDMです。

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