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異境のテラン 〜live in another grand earth〜  作者: wahnfried
◇第壱部◇   『異境の門』
11/24

第11話

改稿版

――――帰還編‐2――――





エステルの重い絆の言葉をどう表現したらいいだろうか。


静かに彼女を感じながらそう思った。

起きてしまったことに人間はどうしようもなく無力だ。大切な人を失った感情はよくわかる。

しかし、彼女達の話はそれ以上の情報を伝えてきた。

とてもではないが、個人レベルの同情や共感で済ませられるものではなかった。


もしも、彼女達を始め、この世界の人間の多くが遣る瀬無い感情抱いているとしたら。

どうしようもない悲しみや怒りが解消されないまま、今日まで歴史が続いているとすれば。


その予想はフォルカを慄然とさせた。



今まで聞かされた話だけでも、恐ろしいほど闘争が繰り返されている世界だと思った。

一夫多妻がまかり通ることだけを挙げても、この世界での生存競争の激しさがわかる。


地球でいえば、戦争ばかりしていた中世の時代のようだ。

しかし、この世界は男女比が崩れるほど過酷な闘争。その辺りは地球の比ではない。


セレンから借りた本の内容、彼女達の風習、王族による支配体制、そして文化レベル。

不明な点も多く、魔法というアドバンテージがあるとはいえ、発展の経路は地球と酷似している。



そして、それこそが問題だった。


今、この世界では様々な国家が覇を競っているという。

だが、争いが永続するはずもない。いつか勝者と敗者を決定づけるだろう。

今後の戦争で世界の基軸国となった国が誕生すれば、世界は次の段階に進む。


次に起こり得る時代の節目は、平民による支配体制への反逆。

つまり、革命。


地球と違い、この世界では個々の力が巨大だ。


ある程度のスキルがある者ならば、今の地球でいえば個人で戦闘機を保有しているに等しい。

エステルやセレンの話を換算すれば、どんな支配体制だろうと長続きするはずがない。



競争は人の間にどうしようもない軋轢を生じさせるものだ。

競争の中では、誰かを踏み台に、犠牲にしなければ生きていけないのだから。


そうした競争の結果の末にもたらされた平穏が一体何を生むのか。

勝者への妬みと怒り、嫉妬はどうしても生じ、王族的な支配では不満を解消しえない。


この軋轢は王族を敵とみなし、明確な敵を得た平民は革命に立ちあがる。

押しつけられた不条理の捌け口として、現存の支配体制を否定するのだ。



そうして新たに生まれた支配体制が取る道は2つだろう。

民主政治を取るか、正統な古来王権の復活。


…自分の種族を鑑みると、どちらに転んでも悲惨な運命しか待っていない。


今の自分が覚醒してしまった純血の"血盟種族"は、かつてこの世界を統一した唯一の存在だという。

その勢力は、力で勝る他の純血種族を圧倒したとまで言われているらしい。

セレン曰く、現存する国家の7割以上が血盟種族が建国した統一国家の分家とのことだ。


その分家が今尚勢力を保っているのは危険すぎる。マイナス要因だらけだ。


革命時に自分の存在が公になれば、その末路は恐ろしい結果にしかならない。

自分は政治の"傀儡"として徹底的に利用されるか、世界統一を阻害する者として抹殺されるかだ。


なにせ、古来の王族の末裔という旗頭は何にも勝る大義名分だからだ。

国にとってみれば、活かすか殺すかの二者択一しかない。中庸など有り得ない。



自分はこの世界の革命の節目にいるのかもしれないという思いを抱いた。

確証とまでは言えないが、そう感じさせるものがエステルの涙から感じられた。

少なくとも、今の世界はいつまでも続かないというは予感がした。


(この悲しみをなくしたいと皆が強く願った時、また別の流れが生まれるのか…

 戦乱の流れや行く末を見極めないと危険だ。時代が動く時に俺の運命も決まる)


だが、自分の破滅は必然という持論を結局のところ肯定してしまっただけだった。

同時にどこからか、"そんなことはさせない"というさざめきが聞こえたのは気のせいだろうか。


――が、



「△□×※◆◎☆±ΘΠ▼φ℡Ж∞‡‰Å∑Ω∮ッッ――――?!?!?!」


――いきなり絶叫が響きわたった。

  驚いて周囲の鳥が逃げ出していく。


思わずセレンを振り向き何事かと確認する2人。


「どしたの? セレン」


とりあえずエステルが心配して問いかける。

だが、セレンには気にかける余裕などないようで。


「大変なんだよ大変! ちょ、ちょっと、コレ見てくれないか!?」


こちらへセレンが駆け寄ってきて手の内のアミュレットを見せてくる。

差し出されたアミュレットをエステルと一緒に覗き込む。釣られてカノンも一緒にヒョイと覗き込む。


「――例の"天空の雫"とかいうアミュレットか。でも、そんなに驚くほどのことがあったの?」


「……ウソ?! アミュレットの解呪ができたの?!」


相変わらず美しいアミュレットだ。宝石や紋様が神秘的な魔力を燈している。

そんなよくわかっていない此方とは違い、エステルは一拍間をおいて驚愕していた。

カノンはナニ?って感じで首をかしげている。


「?? 解呪できたってどういうことだ?」


エステルの反応で大変なことが起きたとは察するも、

今一よくわかってない様子のフォルカにセレンとエステルが興奮しながらも説明する。


「よく見て! 紋様や宝石が光を取り戻してるだろう? 天空の雫の封印が解けたんだよ!」


「そうそう! これでやっとソウマの力を隠す目処が立ったわ!」


「…あぁ、なるほど。それが君達が言っていた秘策か」


納得した。どうやら色々ゴネて塞ぎこんでたアイテムが目を覚ましたってわけだ。

自分の力を人前で封印してくれるとは言っていたが、どうやるのかは任せっぱなしだった。

目処が立ったのなら、迷わず旅を続行すればいいだけだ。


「……あんまり驚かないんだね」


「なんか無性に負けた気がするわ…」


何故かガクッと項垂れるパートナー2人。

とはいえ、もう此方は色々経験し過ぎて感覚が麻痺しかけているのだ。

多少の事は、"ふーん"で済ませてしまう。


「そ、そんなに凹まなくても…。でも、旅が楽になるのは運がいい。ルート探索が一層確実にできる」


アミュレットには導きの力があると聞いていた。とはいえ、自分の能力的にあってもなくても大差ないのだが…。

あれば便利だけど、なくても何とかなる範疇だ。


「確かに旅は楽になるね。最短距離を導けるようになる。。

 …それよりも、これでソウマが町に着いてからの生活に目処が立ったわけだ」


とりあえず気を取り直したセレン。

自分の存在の秘匿の鍵はこのアミュレットが握っていたようだった。

なら、アミュレットがどういう仕組みで自分の存在を秘匿するのかも聞いておかなければならない。


「アミュレットで俺の力を遮断するのか。だから解呪に必死になっていたんだな…。

 一応遮断の仕組みと注意事項を教えてくれないか?」


「了解~。セレン、専門のあなたが教えてあげて。あたしよりもよく知ってるでしょ?」


「わかった。…わからないことがあったら遠慮せず聞いてほしい」


「あぁ、勿論。お願いするよ、セレン」


「まかせて。まず…、天空の雫の力の本質が大空との契約にあるってことは知ってるよね」


「それは色々エステルの看病をしてる時に聞かされたよ。なんでも世界樹の森でも迷わなくなるとか」


ファンタジーとはいえ、これくらいのことなら教わった。大したことじゃない。

エステルの看病と言うと、先ほど踏んだ地雷を思い出して仕方がない。若干鬱だ。


「その通り。大空と契約して澄心体認の英知を主に与えてくれる。これはあらゆる迷いに有効なんだ。

 ……ところでソウマ、真面目に聞いてる? ちゃんと聞いてくれないと怒るよ?」


「いやいやいや! 真面目に聞きます真面目に」


セレンはこっちの心境なんてすっかりお見通しのようだった。

だから、そんなしてやったりみたいな笑顔をしないで欲しい。くそぅ。


「わかったなら良し。…続けるよ。

 その大空との契約なんだけど、これは世界との契約と似たところが少しある。これの応用で君の力を隠す。

 迷いの昇華、迷いの遮断がこのアミュレットの力の本質。中でも後者の迷いを防ぐ力を利用して、周囲に影響を与える血盟の力を遮断する。

 簡単にいえば、純血種族特有の力の"臭い"を外に漏らさないようにするってこと」


なるほどなるほど。見えない保護服を身にまとうということか。

そんな付属効果もアミュレットにあったとは驚きだ。…しかし、魔術を展開する側のセレンが大変そうに思える。


「なんかすごいね。でも、そんな手間がかかりそうなな事をしたら何か大きな代償とか発生するんじゃないか?」


これが一番気になる。体を蝕むような代償があるなら、現実的な秘匿策とは言い難い。

しかし、こちらの心配を余所に2人とも全く気負った様子がない。


「大丈夫よ。セレンはあなたの祝福を得て大きく魔力を増しているわ。そんな下手は打たないわよ。

 それに、セレンはタレスでも有数の魔術師なのよ? ずっと少数精鋭のトワネスティーに居るのは伊達じゃないのよ」


「ま、まぁ、そういうこと。以前の僕ならきつかったけど、今なら単独でも十分可能になってるはず」


「……セレンやエステルって実はすんごい人達だったんだね」


はかとなく漂わせる自信がこちらへ伝わってくる。

彼女たちにとってこの程度のことは難事ではないようだ。潜った修羅場の数が違うのだろう。

ゴホンと咳払いをして軽く照れを誤魔化しながらも、セレンがさらに魔術効果について説明を続けてくれる。


「効果時間についてだけど…、恐らく半日しかもたせられないから半日毎に魔術の補正が必要になるね。

 それに、君が本気で祝福する、もしくは害意を持てばアミュレットの束縛は簡単に吹き飛ぶと思う。

 だから、なるべく人と交流する時は心の中にちょっとした障壁を張ってほしい。心で軽く疑問を唱えるだけでもいいから。

 ちゃんと注意した事を守ってくれるなら、ソウマが血盟族の生き残りだっていうことは何とか防げると思う」


ふむふむと頷きを返す。やはりセレンは頼りになる子だった。とりあえず、タレスへのファーストコンタクトは上手くいきそうだ。

それを尻目に、セレンはポンッと手を叩いて説明に補足をかける。


「あ、これが一番重要だった。

 言い忘れてたけど、直接相手と接触して好意や悪意を持つのは一番ダメ。こればっかりは絶対防ぎようがない。君の力は強すぎるから。

 諸々の懸案事項を考えると、ソウマが町を出歩くときはなるべく僕が一緒にいたほうがいいね。非常時対策のために」


「なるほど、本当にセレンは頼りになる。…あ、そうだ。瞳や髪の色についてはどうするつもり?」


なんか他力本願極まりないが、生憎自力ではどうしようもないので問いかけた。

…微妙にヒモっぽい気がするのは何故だろう。


「それはソウマに直接幻影魔術をかけることで何とかするつもり。

 君が受け入れてくれるなら魔術効果は増大するから半日はもたせられるはず。勿論、君が魔術を否定すれば簡単に消えちゃうけどね」


「黒髪はターバンとカノンを使っていくつか保険をかけるわ…。でも、緋色の瞳については保険のかけようがないわね」


フォロー案についてはエステルが説明してくれた。だけど目についてはどうしようもないようだ。


(……ん? 目を隠す? そのための手段が必要ということか?)


それなら非常に誂え向きの品が手元にあったりする。


「その場しのぎにしかならないけど。実は、それだけには対応策がある…かな?」


あるにはあるけど、使うべきか否か判断に迷う。

頭の上のカノンも主の様子を察してか首を傾げている。


「え、何かいい案があるの? いい案があるなら言いなさいよ」


「ソウマ…、出し惜しみは感心しないな」


出し惜しみしてたわけじゃないんだけど、と口の中で言い訳しつつ、考えついた切り札をバッと掲げる。


「これなんだが――、Sunglassっていう代物だ。 目を隠すならこれで十分かもしれない」


なんと、両親の遺産であるサバイバルキットにはもれなく特典が付いていた。

ター○ネーターファンなら外せないだろう厳つい逸品。とはいえ、専用ポーチまでついていたのは無駄としか言い様がない。

さすが趣味の世界の産物。でも何故か色々と窮地を救われている気がする。


「え? ナニその真っ黒な眼鏡。さんぐらす?? 確かに目は隠せるけど、目の前見えなくなるんじゃない?」


「まぁ、とりあえず掛けてみなさいな。かけたらわかる」


「……あれ?! ちょっと薄暗くなるけどちゃんと見える! これ何のマジックアイテム?!」


トラ耳にメガネを掛けてエステルがすごーい!と驚く。。

しかし、セレンは先ほどからこちらを胡乱な目で眺めていた。


「……一応それで瞳の問題も解決できるけど」


「――できるけど?」


はて、一体何か問題でもあるんでしょうか、レディ? 自分が出せる案はこれが限界ですが。


「めちゃくちゃ目立つよ。そんなアイテム持ってる人なんて他に知らないし。

 必死に隠そうとしてるのに自分から目立ちたいなんて酔狂だね?」


「………なるほど」


なんという冷静な突っ込み…! 言われてみればまったくもってその通り。

目立っちゃいけないのに目立つという嫌なジレンマ。

それより前言撤回! 両親の遺産は俺を確実に追い詰めている。


「ま、まぁ、安全には代えられないかな」


「そ、そうだよね。体は名を表すともいうし」


セレンの言葉が逆なのは意図的なのか。俺が変態だと言いたいのか。

しかし、変態じゃないって強く自信を持って否定できない自分も居るのが悲しい。


「う…、やっぱこれはやめといた方が――」


『他に代案があるの?』


「――何にもない…」


声をそろえた問いかけに答えられるはずもなかった。


――だが、これは仕方ないことなのだろう。

  ある意味死に直結しそうだが四の五の言っていられない。


いくら身を隠そうと血盟の力が消え去るわけではない。

全ては平和に、穏やかに暮らしていくために必要なこと。


もし、自分が血盟族最後の生き残りだと知れ渡れば、その反響は恐ろしいものとなるだろう。

両親の遺産を巡り、親族が激しい争いを繰り広げていたことが脳裏に浮かぶ。


革命前でも国家レベルで自分を巡る争いが起きてもおかしくはない。かつて、血盟族はその争いで滅びたのだから。

身体が分けられるモノではない以上、独占権を巡って血で血を洗う争いが起きるかもしれない。


故に、自分の存在は何としても秘匿しなければならない。

セレンとエステルはずっとそのことを考えていてくれた。

彼女達には感謝している。だから、此方もできる限りの手を打つ必要がある。


妥協は許されない。





その夜、水が出る蔓を酒代りにし、家だった洞から持ってきた干し肉をメインに軽い夕食をとった。

今は夜の警戒中。警戒に関しては自分以上の適任者はいないだろう。


"天空の雫"が使えるようになった今、此方の負担は軽減されたが、セレンの負担は大きく増した。

無理はさせられない。今は明日のためにぐっすり寝込んでいる。すぐ傍でカノンも一緒に熟睡している。

これからの夜の警戒は俺とエステルが交代で受け持とう。役割分担だ。

見張りの間に、自分も色々と特訓ができるし、考えもまとめられるので一石二鳥だ。



「……ソウマ、そろそろ交代の時間。あなたも疲れてるんだから眠らないと」


焚き木の横で寝そべっていたエステルがゆっくりと起き上がり、声をかけてくる。

目が少しとろけているが、寝起きのご愛嬌だ。


「あぁ、もうそんな時間か。――見張りって長い長いと思ってたけど、過ぎてみれば何ともないもんだ」


「そんなモノよ? 色々なことを考えて仲間の顔を見つつじっと待つ。長いようで、実は案外耐えられるもの」


「――それは、君が本当に仲間のことを大切に思ってるからさ」


「なら、あなたも仲間を大切に思ってるってことね」


……エステルが隣へスッと座ってくる。

これは彼女なりの信頼の証し。一緒にいたいという意思表示。

期待を裏切るのも性に合わないので話しかける。

…手に握った岩片で特訓するのはやめないが。


「エステル、ちょっとだけいいかな?」


「ええ、どうしたの?」


「いやね、さっきはありがとう。…俺の考えが至らない所が多いってよくわかった」


「そうね~。ソウマは考えてるんだか、考えてないんだかよくわからないわ。

 でも支え甲斐があるってコトにしとくから大丈夫よ」


「下手をするとヒモになりそうで嫌なんだけど…」


「別に垂れ下がってもいいわよ? あたしたち以外に垂れ下がるのは許さないけど」


「怖いなぁ。あんまり男を甘やかすと図に乗るよ?」


「ふふっ、その時はちゃんと修正してあげる。あたし達を舐めちゃダメよ?」


エステルは激しい性格をしているが懐が広い。強い女性だ。


「…ところでさ、タレスの町ってどんなところなんだ?」


ちょっと強引に話題を変えた。

過ぎたことを考えるより、これから起こる楽しいことを考えたいから。


「そうね…、タレスの町は住み慣れたらいいところよ。ちょっと治安は悪いけど、皆開放的だし―――」



エステルが嬉しそうに語るタレスの町を黙って聴き続ける。興味深い話ばかりだ。新たな暮らしに期待が高まる。

一体どんな人たちと対話できるのだろうか。どんな冒険が待っているのだろうか。

…その暮らしはきっと刺激に溢れているのだろう。


――手に握った岩を砂塵に返す作業を繰り返しながら聞き入る。。



「――その時シェスカがなんて言ったって思う? 相方と取り合いになってるのに――

 ってソウマ、さっきから何してるの?足元に砂山が出来てるじゃない」


楽しそうにいろんな話をしてくれるエステルを、こちらが何をしているのか気になったのか問いかけてくる。

別に秘密にしているわけではないので、素直に教える。


「ああ、これか? 石を握りしめて砂にしてるんだ」


「石を握っただけで砂にするってどういうことよ…? どんな怪力の男でも出来るわけないわよ」


普通はそうだろう。エステルは怪訝そうな表情だ。


「血盟の力の応用さ…。君らに俺の力がどういうものか教わって力の使い方はずっと研究してきた。

 イメージの幅を広げるだけで色々と便利だよ」


実際に見せた方が早いと思い、足元に広がった砂を掬いとり、エステルへ見せる。


「エステルに質問。これは何?」


「何って…、ソウマの足元にあった砂じゃないの?」


「残念ながら不正解」


手の平の石へ"集え"と意思を通わせる。

そう思うや否や、砂は綺麗な球形状の石へと一瞬で変貌した。


「――なっ。一体どういうこと?!」


「ははは、じゃあこうすればわかりやすいかな?」


案の定エステルは混乱して目を白黒させている。


その疑問を解くべく、今度は手の平の石へ"分れよ"と命じる。

すると石は一瞬のうちにただの砂へと姿を変えた。

魔法も何も使わない異様な光景。これが意味すること。


「――そっか。祝福と破壊、血盟の力の具現化…」


「正解。この石とさっきの砂は同じものだよ。

 砂粒一つ一つが手を取り合う、つまり祝福すればそれは石となる。

 逆に否定すれば手を離して砂になる。単純なことだ。

 これを上手く使いこなせるようになれば、防御不可能な攻撃が出来るし、どんな攻撃からも守れるようになる」


「…やっぱり純血種族なんだね。あたし達混血族には逆立ちしてもそんな力を手に入れることはできないわ」


「力の大きさで価値を判断するのは良くないよ。工夫次第で差は縮まるし、逆に上回ることもある。

 …その証拠に、君達の団長だったバニッシュという人は一人でも純血種族と渡り合えたそうじゃないか」


「あの人は特別! 混血族とは思えないほどの力があったもの」


「はいはい、そういうことにしとくよ」


「意地悪だ…」


エステルは少し拗ねてしまった。

人なりを全く知らないのにバニュッシュという人間を自分が語るのもおかしな話だ。

それた話を戻すべく口を開く。


「――まぁ、そういうわけで特訓をしてたわけさ。どれだけ早く高い密度で力を具現できるか鍛えてた。

 一段落したらどれだけの規模で力を反映させられるか鍛えないとなぁ…」


「それって、ソウマが本気で人間を殴ったらミンチになるってこと?」


「いや、人間とか生きてる動物には色々構造が絡み合ってるみたいで上手くいかないんだ。

 世界樹の森で獲物相手に色々試したけどうまくいったことがない。

 内臓破裂くらいはするかもしれないけど、即死はさせられないと思う」


「…十分エグイ攻撃だと思うわよ」


彼女はその様を想像したのか、何とも言えない嫌な表情をしていた。

確かに、対人攻撃で使えば相手は地獄の苦しみを味わうことになるだろう。


「とりあえず対人で使うことはない予定だから安心して。

 でも馬車くらいの大きさの岩なら、今でも1発で壊すことは出来ると思う。…さすがに全部砂に返すのは無理だけど」


「そっかそっか…。でもそれが使いこなせれば"じゅうき"の代わりになりそうね」


「その通り。あれは予備がないから使いどころを間違っちゃいけない代物だからなぁ」


エステルの言は正しい。こんな特訓をしているのも脱銃火器を目標にしているからだ。

地球から補給物資でも送ってくれるならこんな苦労はないが、それこそ無理な話。

どうやって戦う術を確立するかエステルと話を咲かせる――。


「――でも、今日はこれくらいにしとくよ。明日も旅は続くから少し休ませてもらう」


この手の話は切りがなかった。仕方がないので合間を縫って話を保留する。

エステルも心得たようで、すぐに納得する。


「はいはい、ソウマが頼りなんだからゆっくり休んで~」


彼女がポンポンと自分の横をたたく。

そこで寝ろと言っているのは明白で。苦笑しながらも甘えさせてもらう。


「ありがと。それじゃお休み、エスエル」


「――おやすみなさい」


エステルがどんな顔しているのかわからない。だけど、その声はとても穏やかで優しかった。

彼女の温もりと香りを感じながら眠りへと落ちていく…。正しく、夢心地だった。






ハプニングの連続だった初日を越えた以降、旅の速度は一気に加速した。

特に何も問題が起こることはなく、今までのことが嘘だったのかように予定通りに進むことができた。

確実に睡眠で回復できる距離を進み、決して無理をしない。


食料や水は森で補給した。もちろん銃器については徹底的に温存した。本当に無駄弾は打てなくなったのだから。

合間に暇があれば、疲れない範囲でエステルの剣の打ち込みにも付き合う。勘が鈍っては彼女も困るのだろう。

その繰り返しで世界樹の森を突き抜けた。


アミュレットの力と血盟の力のコンビネーションは素晴らしいようで、

なんと6日でタレスの町が見えるところまでやって来た。どうやら通常の半分近くまで日程を短縮できたらしい。

これにはエステルもセレンも驚いていた。特殊能力万歳である。



「あれが、タレスか…」


感慨にふける自分を静かにセレンとエステルが見守ってくれる。何時ぞやとは立場が逆転したかのようだ。

ようやく、旅の目的のひとつを果たせた。どうしても物思いに耽ってしまう。


タレスの街。

―――正式名称、混血族・ヴァルネスト王国領タレス第五南東防衛城塞都市。


思った以上に重々しい雰囲気を漂わせる町だった。

純血種族から身を守るため、蔓延る盗賊を防ぐため、戦争に勝つため。

国家の主要都市はどこも城塞都市だという話は聞いていた。しかし、実際初めて見にするとかなりの威圧感がある。

しかし、あの町こそ新天地。希望の光であり、仲間の故郷なのだ。


「俺にできることはここまで……。これで君たちを生還させることができたってことか。

 これからは此方がお世話になるよ。セレン、エステル」


「ああ、今まで君に助けてもらった恩は忘れていないよ。今度は僕達が助ける番だ」


「その通り。――ようこそ、ソウマ! あたし達の町、タレスへ!!」


「――ああ。 これからもよろしく頼む!」




すべてはこれから。過去の恐れも迷いも、これから起こる全てのために。

さぁ、新たな一歩を踏み出すのだ――!







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