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異境のテラン 〜live in another grand earth〜  作者: wahnfried
◇第壱部◇   『異境の門』
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第1話

感想・評価頂けると励みになります。

拙作ではございますが、楽しんで頂けると幸いです。

改稿版

遥か遠い彼方、異世界、パラレルワールド…

古から人々を魅了する今此処ではない何処か別の場所。

それを糧とした物語は数多ある。人は己の心をそこへ飛ばすことで楽しむ。だが傍観者ではいられなくなることもある。


これは、そんな地へと足を踏み入れた一人の物語…

彼の旅がどのような結末を描くのか誰もわからない。

ままならない世界に翻弄されながらも、自らの誇りを胸に生きるそんな人の物語。








―――――始まりの日―――――



運命に出会うということを実感した人は今までにどれだけいるだろうか。

大概そんなものは明確な形をとっておらず自覚しえない。


だが今彼に起こっている状況は運命以外の何といえるのか!

見たまま在りのままを言うならば




――荒野の小屋を出たらどこかの密林でした。




「な、なにごとっ???」


正直な感想として、白昼夢でも見ているのかと思った。目の前の光景はそれほど異様だった。

だが、覚醒している意識がそれはないと抗議してくる。

即ち、このありえない風景が現実であると。


薬物など摂取した経験もなければ幻覚を見るほど疲れてはいない者には甚く刺激的な風景であった。

それは知識人であればあるほど2次関数的にインパクトを与える劇薬であった。


(有り得ん。…断じて有り得ない。ただ両親の趣味を確認しただけだぞ?!一体なんだこれは?!)


常人を超えた趣味の世界を見て、心が煮過ぎた餅のようになっていたのは否めない。

裏でコソコソやってる友達の部屋にワクワクしながら入ったら、趣味を超えていて怖気を感じる…。そんな感じだ。


しかしだ。しかしである。

世の中限度というものがある。いたって健康体を自負する人間にとって現実逃避は悪行だ。


考えがまとまらないまま小屋の外を見渡すも、そこは今までいた場所ではないと冷やかに伝えてくるだけだった。

熱砂の暑さとは違う暖湿な熱気が徐々に身体を満たしていく。

時が経てば経つほど、この光景が現実であるということを意識させられる。


――自身が正常であるなら世界が変わったという事に相違ない。


認めたくないが、それを受け入れざるを得ない事態だという認識は徐々に浸透していった。

とはいえ、この様なとんでもない理屈は想定範囲外だった。

どんな科学の作用があったとしても説明がつかない。それはもう呆れるほど説明がつかない。


最早頭の中はパニック寸前である。


五感が狂った?

ホログラフィック?

脳内麻薬で幻想?

いきなり土地ごと拉致された?


空気は熱砂特有の熱さから湿度が高い温暖な空気へとかわっている。光も暑く厳しいものから穏かな日差しに変わっている。

全身に意識を集中させても五感の狂いは見いだせない。健康体そのものだ。


ホロフラフィックと思いたいが…。

金持だった両親が高価な悪戯で仕掛をした可能性はあるが、温度や日照まで変化させられるはずもない。

第一実用化されてないはず。そんなものが実用化されたら世界情勢が狂う。


自分で薬物を摂取することなんてあり得ない。

前回のメディカルテェックは全て優良だったのだ。心身ともに健康体なはず。

長期的に薬物を投与された可能性はゼロのはず。


土地ごと拉致ってそれこそ有り得ない。振動も与えずにどうやって運ばれたんだ?

それだけのエネルギーを一瞬で捻出し、あまつさえ中にいる者に気づかせないなどありえない。

しかし、一番非理論的な理屈が現実的というのも笑える話だ。

こではまるで…、まるで魔法としか思えない。


現実的な理屈、突拍子もない憶測、オカルト等々、様々な考えが去来する。

しかし、どれも意識を検束しえない。現代を生きる者を納得させるだけの説得力を全く有していなかった。


軋りが聞こえそうなほど必死に考え込む中では、周りに些事が起きても気にするはずがない。

第一、そんな余力があるはずもない。


バタバタと鳥が小屋にとまってくるが気ならない…はずだった。

そう、鳥程度が目に入ったとしてもすぐ意識しなくなるはずだった。


思考が止まる。鳥に目がいった瞬間、今までの思考の積み重ねが全て凍りついた。

止まり木があったから止まったにすぎないであろう彼奴の行動は別段不思議ではない。

嘴で毛づくろいするのは微笑ましい。前脚で毛並みを整えるのも猫みたいで愛嬌がある。


「おぃ…、前脚ってどういうこと…?」


思わず疑問が口を吐く。

そう、問題は鳥と思わしき鳥類の姿だった。


*鳥類…鳥綱の脊椎動物の総称。体は羽毛で覆われ、前肢が翼となって飛翔(ひしょう)に適し、くちばしをもつ、卵生の恒温動物。

    世界中に約8600種が分布。とり。


脳内で鳥類の定義を再点呼したがまったく異常なし。

鳥とはそういう生き物のはずだ。


(ちょっとマテ。頼むからマテ。あんた何で羽根の他に後脚と前脚がついとるんですか?!)


鳥の羽とは前足が進化した形である。それに加えて前足があるというのは鳥類の構造上ありえない。

そう、ありえないのだ。突然変異したとしても、鳥の前脚が羽以外の機能を持つことなど!


(こんなのダーウィンもいってないよ?進化のアンチテーゼ?ってことは世紀の大発見かっ? こ、こんなの見たら…)


「つ、捕まえる!!サンプルにしてやるから覚悟しろ!!!」


「クェ? クェェーーー!」


絶叫一発、鳥(?)へ転がっていた手頃な石を投石。興奮のあまり加減できずに威力が殺傷設定だったのはご愛嬌。

しかし見事に外し凹む馬鹿が一人。ついでに足を滑らせて尻もちまでつく。

見た感じどうしようもなく哀れだった。


「くそっ、退化した狩猟本能のせいかっ」


…彼の凹む方向が若干間違っているのは気にしてはいけない。



しかし、未知との遭遇は思考の迷路に区切りをつけた。

グダグダと結論を得ない考えを据え置き、ようやく周囲を落ち着いて見渡すほどの冷静さを回復したのだが、、


「――ここって地球じゃないんじゃ…?」


遂に、本能的に忌避していた選択肢へたどり着いた。

理屈を蹴飛ばすとんでもないものを見てしまったのだ。

絶対に考えたくないことだったが、思考を飛ばした直感はそれが正しいと訴えかけてくる。


先ほどの鳥類といい、周囲の木々にしても地球上のものとは装いが違うのだ。

一見でかい普通の広葉樹なのだ。新種とか、希少種と言われたら納得するかもしれない。

見た感じただの木なのだ。

葉っぱで寝れそうだよ~、とか

上に行くほど葉っぱが少ないよ~、とか とにかくそんな感じなのだ。

だが、


「き、木が動くなんて…」


木は動かない。これは世界常識である。なのに此処の木々はジワジワと自律運動をしていた。どんどん木々が入れ替わっていくのだ。

見たら自分の正気を疑うこと間違いなし。ぶっちゃけ気持ち悪いことこの上ない。


これだけならまだよかった。

蠢く樹木に目まいを感じて空を見上げた光景は極め付けだった。


「ちょっとまて!太陽が2つあるだと?!」


これには思わずヒステリックに叫ばざるを得なかった。

決定的だった。ここが地球ではない何処かであるということが。

認めざるを得なかった。何の因果かはわからないが、絶望的状況に叩き落とされてしまったということが。


必死になってそれを否定できるモノを探したが、ここが異世界と結論付ける結果しかなかった。

論より証拠という言葉がこれほど恨めしいこともないだろう。


何をどう探しても自分は一人だけであり助けすら呼べない。

ただ在るのは自分自身と質素な小屋と両親の遺産のみ。

今まで自分が暮らしていた世界が、絶対だと思っていた世界がこうも簡単に砕け散るモノだったとは予想だにしなかった。


気がつけば地が目の前にあった。

その時はじめて自分が無様に這い蹲っていることをしった。

ここが地球だという根拠を探そうにもどうにもならない。今自分がいる場所以外、地球の名残はなかった。


小屋の前に止めておいたはずのBMWはすでになく、確認すれば携帯電話も圏外。

衛星通信を試みても反応はなく、インターネットも機能しない。

加えて、動植物の全ては自分が知っていたものではない。


わかったことは一つだけ。

周囲と明らかに土地構造が違うことから、

小屋の周囲約50メートルに渡る一帯が円形にわたって地球から異世界へ転移したのだろうということだけだった。

その地球の名残でさえ移動する木々のため埋もれようとしている。

まるで侵食される今までの自己概念を見ているかのようだった。



「まさか、自分がこんな目にあうとは半日前なら思いもしなかった。お目出度いことだな」


異世界に埋もれる地球をなす術なく見ながら唯一できたこと……、必死にここが地球だと証明しようとした自分を嘲笑うことだけだった。

状況に困惑し、絶望し、自虐、自己嫌悪を覚える。自分の価値など最早ないという思い。

自分が果たさなければならない役割、誓いが砕ける音が聞こえたような気さえした。



だが、そんな中でも自分の中に屈しない思いが有ることも自覚する。

両親から望まれた役割、力を持つ者の責務、それから解放された自我が初めて芽吹いた。


「異世界か…。それにしても俺はラッキーだ。少なくとも生きていける環境に来ることができた」


(そう、現状は嘆いても変わらない。恐らく此処にいる地球人は俺一人だけ。一人きりで生きていかなければならない)


「今までの生い立ちは他者と比べれば幸福だった。その付を払うと思えばこれも納得できないことじゃないよな」


(人生の差引は零だ。不幸になったから諦めるのはおかしい。巻き返してこそ遣り甲斐がある)


「どんな状況だろうと屈するものか。俺はこのまま終わるなんて絶対に嫌だ」


(そうだ!絶望している暇などないんだ!諦めるとしても出来ることを全てしてからだ)


ふつふつと自分の中で熱くたぎるものを感じる。

本能と理性が入り混じった生への渇望。ただ一人でも生きる覚悟を決めた瞬間溢れ出す感情。

周囲の願いや、将来の責務から解放された圧倒的なまでの解放感は孤独を埋めていった。


(あぁ、これが自分の願いなのか)


今まで自分という存在の価値をここまで意識したことはなかった。自分を囲む全てが温かいスフィアの様に包んでくれていた。

与えてくれた世界の代償として周囲の願いに応えること、責務を果たすのは当然のことと考えていた。

そこに迷いはない。


だが、我欲のままに行動する自分は、意識されることもなく封じられ続けていた。

世界の事柄を知り、それを統べる者の一員として生きる。

彼が彼として生き、偉大な両親の息子として生きる限り避けえない運命だった。

そこに我欲など存在する余地はなく、彼自身もそれを疑わなかった。


しかし今、その全ては砕け散った。

生まれたてのとも言える自身を世界に晒して思うこと。


現状に希望はない。ならば探せばいい。どこまでも希望を求め続けて最後に倒れればいいではないか。

両親の墓前で誓った言葉を嘘にするつもりなのか。そんなことは許されない。死んでも許されない。


自分の誓いは曲がりえない、ということだった。




―――そして、身体が、魂が命じるまま、悲しいほど澄み渡る蒼穹へと解き放つ。

   絶望に這い蹲りながらもそれでも上を向きながら。



「俺は――、生き抜く!!」



遥か遠い異世界にて。

フォルカ・蒼麻・メンハード、孤独と絶望に耐える決意の叫びであった。









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