七本目 異常な剣術、異常な魔法
龍成には彰太が嬉々として話すので中途半端なゲームの知識があります。
龍成が初めてBFOの世界に入った、その翌日。
「龍成っ!おっはよーーう!!」
「ああ、おはよう彰太」
教室で彰太が背中をたたいて声をかけてくる。
「なぁなぁ、どうだった?BFO!」
「ああ・・・君には感謝しないとね。中々楽しめる相手がいたよ」
「そうかい・・・それならこっちとしてもスポンサーに我儘言った価値があったってもんだぜ!!」
なぜだろう・・・彰太のスポンサーに対する罪悪感が・・・
「覇城君もBFO買ったの?」
そう言って話しかけてきたのは・・・えっと・・・
[藤堂・・・]
彰太が僕の耳に顔を近づけボソッと呟く。
そうそう!藤堂愛梨さん!!
「おはよう藤堂さん」
「・・・うん、怒らないから、本当のことを言って?私の名前忘れてた?」
「ごめん忘れてた」
「何回目だと思ってるの!!」
あれ?藤堂さんが若干涙目で怒り出した。
怒らないって話じゃなかったっけ・・・
「いやお前・・・これは怒らないとか無理だろ・・・俺が覚えてるだけで10回は超えてるからな」
あれ?そんなに?っていうか彰太にも見捨てられたよ・・・
「いやぁ、ごめんごめん」
「ごめんごめんじゃないわよ!怒らないって言ったからこれくらいにしておくけど!」
いや、それはもう手遅れじゃないかな?
「ははっ、今度はちゃんと覚えるからさ」
「それ前も聞いたわ・・・」
あれ?そうだっけ?
「お前ほんと・・・興味のあることは異常なほど覚えるのに興味ないことは全く覚えないよな・・・」
いや、それだとなんだか藤堂さんに失礼じゃないか
「・・・お前が考えてることは何となく分かる。それだと藤堂さんに興味がないみたいで失礼じゃないか、とか考えてんだろ?でも実際そうだろ?」
「おおー」
「いや、おおー、じゃねぇから。何よく分かったね!みたいな顔してんだよ・・・」
「どうでもいいとか思ってるわけじゃないんだよ?ただ・・・どうしても趣味の方に頭がいっちゃうんだよね」
「お前・・・趣味(鍛錬)だろうが・・・お前が授業ちゃんと聞いてるってのがいまだに信じられねぇよ」
「あぁ、それなら大丈夫。意識を授業に向けながら戦闘時の反応と対処をイメージしてるから」
「いやどうやるんだよそんなもん。お前頭の中に数人分の頭脳があるんじゃねぇ?」
「そんなことはないと思うよ?ただ二つのことを同時に処理してるだけだから」
「それが異常だっつってんだよ・・・」
「ねぇ・・・私の事忘れてないかしら?」
「「あ」」
「あんたたち・・・」
藤堂さんが凄いジト目で見てくる。
いやー自然に忘れちゃってたなぁ。
「俺は無罪だ。俺は藤堂の名前をこいつみたいに忘れたりしてない」
「いやそんなキリッとした表情作って言っても無駄よ?一時的に私の存在忘れてたことには変わらないからね?」
「あははっ」
「ちょっと!何笑ってるのよ!」
「ごめんね。何というか・・・平和だなーって」
「いやお前爺か」
「爺ね」
「酷いなぁ・・・」
爺って・・・苦笑いしか出ないよ。
「で、最初の話に戻るけど・・・龍成、もBFO買ったの?」
「うーんと、買ったんじゃなくて彰太に貰った」
「貰ったって・・・赤羽はなんでそんな余裕があるのかしら・・・」
「企業秘密だ」
「いやなんの企業よ」
「企業秘密だ」
「・・・まぁいいわ」
藤堂さんは彰太がプロゲーマーなんてことをやってるのは知らない。
「でもなんでそんなBFOの話題に食いついてくるの?」
「ああ、お前は知らなかったか」
ん?何の話?
「私も持ってるのよ。買ったのは一応初期よ。運がよかったわ」
「ああ、そういうことか」
「そ、だから赤羽ともたまーに情報交換してるんだけど・・・私はそこまで時間使えてないから二ヶ月以上経っても中々進まなくてね・・・友達と一緒にやってるんだけど。彰太だって学生なのに、なんであんなに進んでるのよ?」
「はっはっは!技術がちがぁう!!」
「へー・・・」
「なんだその反応は!!」
まぁ・・・プロゲーマーなんてやってるんだからそれも事実だと思うけどね。
BFO以外のVRゲームもかなりやりこんでたみたいだし。
「でもそんなに進んでるの?」
「ええ。彰太は一応トップギルドのギルドマスターよ?」
「あー。そういやそんなこと言ってたね」
「おうよ!」
「でもギルドが何かよく分からないんだけど・・・」
アルミリアさんも言ってたけど、プレイヤーの集まりってことくらいしか分からない。
「あー。そういや説明してなかったな。ギルドってのは・・・パーティが六人までってのは知ってるか?」
「ああ、そうなの?」
「パーティってのは基本的に一時的なもんだ。だからもっと大人数で組みたい、ずっとそのメンバーで動きたい、みたいな時にギルドを作るんだよ。要は大きめのチームみたいなもんなんだがな。大人数の仲間での集まり、くらいに考えりゃいい」
「なるほどねー」
「で、コイツのギルドはBFOのプレイヤー達の中で一番攻略が進んでるのよ。だからトップギルドなんて呼ばれてるの」
「へぇ、確か・・・"紅鎧"だっけ?」
「おう!覚えてたか!」
「何で私の名前は覚えてないのにそれは覚えてるの!?」
いや何でって言われても・・・何でだろうね
「何よその胡麻化すような目は・・・」
「・・・まぁ、それはおいといてさ」
トップギルド・・・面白そうだね。
「やっぱりいるのかな?とんでもなく強い人たち」
「おう!いるぜ!って言いてえとこなんだが・・・一応そこのトップ俺だからな?」
なんだ・・・
「オイコラ何で露骨にがっかりしてやがる」
「でも実際、彰太は全プレイヤー中最強、なんて言われてるのよ?」
「へぇ・・・それなら今度模擬戦でもしてみようか・・・」
「ほう・・・?いくらお前でもそんな低Lvで勝てると思うなよぉ・・・?」
彰太も獰猛な笑みを浮かべる。
あはは、それは楽しみだね。
「なんか・・・赤羽が負ける未来しか見えないわね」
「いやちょっと!?昨日始めたようなやつと二ヶ月やってる最前線プレイヤーだぞ!?」
「確かに・・・理屈で考えたら"紅鎧"なんて呼ばれてる赤羽の方が強いんだけどね?やっぱり・・・ね?」
「なんだよその分かるでしょ?みたいな目は・・・実際分かるのが悔しい」
あれ?"紅鎧"?
「おーい彰太」
「ん?」
「"紅鎧"って彰太のギルドの名前じゃないの?」
「ああ、龍成は知らないか。彰太のギルド名は彰太自身の二つ名から来てるのよ」
「おう!トップクラスのプレイヤーには二つ名がつけられことがあるんだ!まぁプレイヤーの中の通り名みたいなもんだけどな」
「へぇ・・・"紅鎧"ね・・・確かにそんな感じの色の鎧着てたけど」
「まぁ、そんな風に呼ばれてたもんだからな・・・ギルド作ろう!って時に名前どうする?ショートの二つ名でいいんじゃね?ってなった」
「なるほど・・・単純すぎて心配になってくるよ」
「いや言いすぎじゃね?実際は結構悩んだからな?」
キーンコーンカーンコーン
予鈴がなった。
「っと、授業始まるな。まぁまたゲームの中で話そうぜ!フレンド登録してるしな!」
「分かった。聞きたいこともあるからね」
さて・・・授業&イメトレの時間だ。
~~~~~
放課後
「おう龍成!BFOの時間がやってきたぜ!!」
彰太がやり遂げた表情とサムズアップをしながら声をかけてくる。
「そうだね・・・今日は昨日よりもいい相手に会えるといいんだけど」
「それだけ聞くとなんかナンパ野郎みてぇだな・・・」
「失礼な・・・」
学校を出る。
僕の家は学校からかなり近い徒歩10分強で家に着く。
「またな!」
「うん、またね」
彰太と別れ、自分の部屋に入る。
夕飯の下ごしらえをし、準備を終わらせた。
ベッドに横になりVREXを被る。
視界が明るくなった。
「BFO、起動」
~~~~~~
目が覚めると、見知らぬ屋根の下に立っている。
この場所は教会だ。これは今日学校で彰太から聞いていたので驚くことはない。
街中でログアウトすると自動的に各街にある教会に飛ばされるらしい。
さらに、死んだときもここに転移することなる。
なんでも、プレイヤーの復活はこの世界では「冒険者に対する創造神の加護」となっているらしい。
故に死んでも創造神の加護により教会で復活できる、という設定だとか。
まぁこの世界の創造神は要するにこのゲームを作った人物になるので間違いじゃないか。
「さて・・・まずは渓谷に向かおう」
向かう先は渓谷。
レッサーナーガを練習台にする。
~~~~~~
「到着、っと。さて、レッサーナーガを呼び出そう」
まずは・・・そうだな、剣術のスキルを試す。
沼のそばに近寄ると、水面が泡立つ。
そこから出てきたレッサーナーガの数は、8匹。
群れとしては小さめだけど、ちょうどいい。ただの実験なんだから。
8匹のナーガが飛びかかってくる。これなら、この技がちょうどいいかな。
「《バックジャンプ!》」
その声と共に、かなり加減をして後ろに跳ぶ。
すると、急に速度が速くなる。
恐らくこれがシステムの補助だろう。
「けどやっぱ・・・自分でやったほうが早いな。いや、Lvが上がれば変わるんだろうか・・・?」
《バックジャンプ》のアーツよりも自分で飛んだ方が速いし遠くに跳べる。
これは少なくともしばらくは使わなくて良さそう・・・
レッサーナーガ達は先ほど僕がいた場所から動かない。
警戒しているのだろう。
それなら―――
「今度はこっちから―――
《スラッシュ》」
速度を緩めた大振り。
しかしそれは、言葉を発した瞬間に加速。
3匹のレッサーナーガを切り裂いた。
けれど・・・これも遅い。
今度はしっかりと振りつつ、《スラッシュ》を使う。
その速度は先ほどよりも速い・・・が、これは僕の振る速度だ。
システムの補助が働いている感じはしない。
恐らく、一定の速度以上だと効果がないのだろう。
「アーツは二つともダメ・・・か。次は魔法だな」
先ほどの一撃で5匹のレッサーナーガは既に全滅してしまっている。
再び沼に近づいても、レッサーナーガは現れない。
他の沼に向かおう。
しばらく歩いていると、沼のほとりにレッサーナーガが見えた。
しかし今までは沼に近づかないと姿を見せることはなかったので首を傾げていると、
レッサーナーガ達の視線の先に四人にプレイヤーがいた。
戦っている・・・けどな・・・
「ここで倒しちゃうと横取りになっちゃうんだよね・・・」
そういえば、未だに他のプレイヤーの戦いを見たことがない。
視線をプレイヤーに向けると、その顔にはどこかで見たような覚えが・・・
「あれ?昨日の四人組かな」
そう、彼らは昨日僕が初めてレッサーナーガの群れと戦っているのを見物していたパーティだ。
うーん・・・このままだと全滅するな、あれ。
「あのー!!手助けはいりますかぁ!!」
叫んで意思確認。
彰太がよく言っていた。ゲームのマナーを守らないといつか身を亡ぼすと。
一見助けが必要なように見えても勝手に助けに入ると後で厄介事になるかもしれない。
「!?誰だあんた!!」
「誰でもいいでしょ!!すいません!!助けてください!!」
よし、意思確認は済んだ。
ちょうどいいから魔法を試してみようかな。
手の平に魔力をため、魔法を発動する。
ゆっくりと手を動かしていく。舞を踊るような気分だね。
魔法を発動、魔力を溜める、魔法を発動。
これを繰り返す。
手の軌跡に炎の塊が現れ、その姿を細く尖ったものへと変えていく。
多分できるだろう、と思ってやってみたが、思った以上に上手くいった。
空中に留まる炎の槍。《ファイアジャベリン》だ。
身体から魔力が減ったのを感じる。けれど、まだ余裕はありそうだ。
魔力は少な目にしたけど、うまく当てれば問題ないだろう。
《ファイアジャベリン》の数は約20。これだけあればレッサーナーガの群れを屠るには十分だろう。
一斉に発射。
飛ぶ方向と動きはイメージすることで変わる。
使うのは二回目だけど・・・まぁ出来ないこともないだろう。
炎の槍はどれも突然飛び出し、その先端をレッサーナーガへと埋める。
しかし、それだけでは威力は足りないだろう。
この炎の槍には少しアレンジしてある。槍の部分はわずかにでも刺さればいい。だから、普通より細く尖らせた。大切なのは・・・
相手の体を削るための、火薬だ。
全ての槍がレッサーナーガに刺さる。
そして、次の瞬間、炎の槍が爆ぜた。
笑みが浮かぶ。
はははっ、上手くいってよかった。実験成功、ってとこかな。
僕がやったことは単純。炎の槍は細い。が、明らかに籠めた魔力よりも小さく見える。
だが、実際は違う。確かに大きさは消費したMPに比べ、小さいだろう。
しかし、内包する威力はむしろ増えたんじゃないだろうか?
あの槍は、圧縮してある。
圧縮すれば密度は上がり、敵を貫くための強度も上がる。
けれど、これだけではレッサーナーガを倒すためには足りない。
大きさ自体は小枝程度しかないのだから。
故に、それほどに圧縮された炎は、僕の制御から離れた瞬間、爆ぜた。
正確に言えば膨張したのだ。
だが、その膨張する速度はレッサーナーガの体を穿つには十分すぎたようだ。
四人組を囲っていたレッサーナーガの群れは、全て緑の光に変わって消えた。
その四人組はというと・・・
「な、なぁおい、今何が起こった?」
「レッサーナーガが破裂したように見えましたけど・・・」
「いや、今の・・・レッサーナーガに刺さってた赤い矢みたいなのが爆発してたよ・・・?」
「つーか・・・あんたは昨日の・・・」
「あ、あのー。さっきのはあなたの仕業ですか?」
尋ねられたら別に隠すような事でもない。
「そうです。大丈夫ですか?」
「マジか・・・なぁあんた、さっきの魔法はなんて言うんだ?」
「うん?《ファイアジャベリン》だよ?」
「「「「ハ??」」」」
うわぁ奇麗に揃ったなー・・・じゃない、なんでそんなに驚いてるんだろ?
「え、えっと、言いたくないならいいですけど・・・」
「え?いや、だから、さっきのは《ファイアジャベリン》だよ?それを圧縮しただけ」
「えぇ!?あ、あの・・・一つお聞きしていいですか?」
多分同じくらいの年齢・・・の気の弱そうな男の子に聞かれる。
服装的に魔導士なのかな?杖もってるし。
「いいですよ」
「じゃあ・・・あの、さっきあなたが放った魔法・・・かなり上位のものなのかと思ったんですが・・・相当な数を同時に撃ってましたよね?あれ・・・詠唱してました?僕が見たとき手を動かすだけで発動してたように見えたんですが」
「ああ・・・してません。あれはただ個別に発動したのを撃たずに手元においてただけです」
「はっ!?いやいや魔法ってのは詠唱しねぇと発動できねぇだろ」
「いや、レックス・・・魔法に詠唱は絶対に必要なわけじゃないんだ」
「へ?でもお前いつも詠唱してんじゃねぇか」
あれ?もしかして魔法の発動方法の詳しい内容ってあんまり知られてない?
「うん・・・いや、僕自身がそうだと確かめたわけじゃないんだけど・・・公式サイトに魔法についての記事があってさ。詠唱っていうのは魔法を発動するのに必要なのは魔力とその魔法を完璧に近い形でイメージすること。で、詠唱っていうのはそのイメージを補うためのものなんだって」
「つまり・・・この人はその完璧なイメージができてるってこと?」
「うん・・・そういうことになる。詠唱を省くようなアイテムや装備は知らないし。でもね、完璧なイメージっていうのは、普通は無理なんだよ」
「どういうことだ?」
「魔法を完璧にイメージするってことは、例えば火の初級魔法の《ファイアボール》だと、その温度、形状、性質、見た目・・・みたいないくつもの事象を同時に思い浮かべるってことなんだ、ってその記事に書いてた」
「受け売りかよ。にしても・・・そんなもんできるもんなのか?」
「普通は出来ないんだってば・・・中には魔法を詠唱で発動することをずっと繰り返して、一時的になら頭の中でそのイメージが出来るようなる人もいるって聞いたけど・・・それはその魔法一種類のみだし。けど、もし自由に完璧なイメージが出来るなら、元々システムに存在してる魔法を弄ったり、新しい魔法を作ることすら可能、なんだって」
「マジか?それじゃあ敵を倒す、みたいな魔法作ればいいだろ?」
「レックス・・・そんなイメージは不可能でしょ・・・そんな抽象的というか、概念的なイメージじゃ魔法は発動するわけないでしょ。それに複雑なものはそれだけイメージが困難になり、さらにMPの要求量も増える」
「そりゃそうでしょ・・・レックスが馬鹿なのは分かるけど・・・」
「おいっ!?今なんか最後に変な言葉が聞こえたんだが!?」
「気のせいよ」
四人組パーティの中で一番大人びた女の子と鎧の青年、レックスの会話を聞いて若干和む。
彰太と藤堂さんのこれに似たやり取り見たことあるなぁ・・・
「えーっと、少しいいですか?」
「んあ?あ、敬語はなしで頼む。俺らと同じくらいの年だろ?」
「分かったよ。普通に話させてもらう。えっと、HPは大丈夫?」
「あー・・・俺はまだ大丈夫だが、お前らはどうだ?」
「私は正直厳しいわね・・・解毒用も回復用もポーションがきれてるし・・・」
「私もですぅ・・・装備の耐久も結構ギリギリ・・・」
「じゃあ、実験に付き合ってくれないかな?」
「は?実験?」
四人が全員驚いた表情をする。
まぁそりゃそうだよね。
実験を手伝え、なんて突然言われたらこうなるよね・・・
「僕はまだ回復魔法を使ったことがなくてね。無詠唱で出来るかどうか試してみたいんだけど」
「あぁそういうことか・・・って、ハァァ!?使ったことないって、お前聖法士だろ!?じゃあなんだ!?ずっとポーション使ってたのか!?」
「うん?ああいや、そうじゃなくて、まだ攻撃を受けたことがないんだ。だから、ちょうどいいかなーって思って。使用不可になる時間も調べたいし」
その答えを聞いた瞬間、四人の口が開いたまま硬直する。
あれ?
「どしたの?」
「あ、あなたね・・・攻撃を食らったことがないってそんな・・・ッ!!???」
それまで呆れと驚きの混じった表情をしていた女の子が驚愕の声を挙げながら後退る。
どうしたんだろ?んー・・・?
「んー・・・?何だろ?どっかで見たような・・・?」
顔をよく見ようとして近づく。
「近いわよ!!!こないでっ!!」
「え?ああ、分かった。ごめん?」
首を傾げる。
女の子の顔に見覚えがあった。
「お、おい・・・アイリス、どうしたんだ?」
アイリスって言うのか・・・あ、頭の上に表示されてた。
Lv28・・・ってそんなことはどうでもいい。
アイリス・・・んー・・・何か引っかかるような・・・
ん!?アイリス・・・アイリ、ス・・・?
まさか!?
「もしかして・・・愛「ストップ!ウェイト!!待って!!!」」
なんか全力で止められた。
あ、そうかゲーム内で本名言っちゃダメだよね。
なんて考えていたら、僕の口を手で塞いでいたアイリス―――
藤堂愛梨さんが、突然後方に跳んだ。
「あ、アイリス?本当にさっきからどうしたの?」
もう一人の女の子がアイリスさんに尋ねる。
けれどアイリスさんは顔を真っ赤にしてその女の子の声が聞こえていない様子。
改めてアイリスさんの顔を見る。
うーん・・・なんで気づかなかったんだろ?
アイリスさんの髪と目はどちらも水色。
好みの色だ。
「ご、ごめんなさい」
「ん?いいよー。それにしても・・・こんなところで会うとはね」
「え?アイリスさん、知り合いですか?」
「え、ええ・・・」
「あ、ところでさ、さっきの実験の話どうする?」
「え?お前・・・このタイミングでその話するか?まぁ失敗しても特に困ることはないし良いと思うけど・・・」
レックスに若干呆れ感じで言われる。
まぁいいや。とりあえずアイリスさんに試してみようか。
「アイリスさん、やってみていいかな?」
「え?ええ・・・」
「じゃあ始めるよ。えーっと・・・」
回復魔法・・・か。こんな感じかな。
人間の自然治癒を加速・・・多分これでいいだろう。
さっきの男の子の話だと、魔法の内容によって消費するMPが決まるっぽいから・・・
傷を元通りにするようなイメージではダメだろう。
細菌・・・は多分ゲームだからいない、はず。
自己再生に必要なものを魔力で補うイメージ・・・
僕の手から濃いピンク色の光が出る。
その色は、もはや紫や赤に近いようにすら見える。
すると、アイリスさんの体にあった赤い損傷エフェクト、と僕が勝手に呼んでる傷部分の赤色が消える。
結構MP消費しちゃったけど・・・ヒールのMP消費は40だったか。
ステータスウィンドウを出すと、
――――――
MP:296/636
――――――
と表示された。
あ、さっきのレッサーナーガでLvが2上がっている。
んー・・・詳しくは分かんないけど、
少し弄った《ファイアジャベリン》×約20発と無詠唱の回復魔法で半分強消費するのか・・・
下手な使い方はダメだな。
「嘘・・・!?何この回復速度・・・?」
「お、オイ・・・傷が全部消えたぞ。アイリス、HPは?」
「えっと・・・全快してるわ・・・」
「マジか・・・あんだけ食らってたのに一回の回復魔法で全回復するとはな」
「多分だけど、無詠唱で使ったら使用不可時間はないんだと思う」
「だとしたら凄い便利だねそれ」
「えっと、もう一人の・・・ラフィさん?」
「はい!」
「もう一回使うよ」
「は、はいっ!!」
身体強張りすぎじゃないかな?
まぁいいや、もう一回、っと。
「今度はさっきより少な目の魔力でやってみたんだけど、どう?」
「早・・・!HP半分近かったのに全回復してます・・・!」
ふむふむ・・・この人は弓を背負っているから弓士だろう。
弓士は分類的には近接職だ。
武器自体は遠距離なんだけど、中距離で戦うことが多いからだと思う。
だから、HPは聖法士の僕よりも上がりやすいはず。
この人のLvは・・・25Lv。
僕のMPは・・・
――――――
MP:238/636
――――――
58、減っている。
ヒールなら一回でMP消費40のHP50回復だから・・・
弓士のHP半分近くがこれで回復するって結構効率がいい気がする。
「なぁ・・・一つ聞いていいか?」
「どうしたの?」
「リューセイ・・・お前昨日は13Lvだったよな?なのに今はLvが見えない・・・何があったら一日でこうなるんだ?」
13?クリムゾンボアを倒した後に見た時は8だったはず・・・
あ、昨日レッサーナーガの群れを一つ倒した後だったっけ。
ん?Lvが見えない?
「えっと、Lvが見えないってどういうことだい?」
「は?お前知らねぇのか・・・Lvが相手よりも低いと相手のLvが見えないんだ」
「え、そうなの?」
「ああ。俺のLvは28だからな。お前は13Lvから一日で俺よりも高くなったってことだ」
「なるほどねぇ・・・Lvに関しては、多分あの後さらに戦ったからだね」
「あの後どんだけ戦ったんだよ・・・まぁいい。今回は助かったよ。ありがとな」
「どういたしまして。さて、それじゃあ僕はそろそろエイフォルトに帰るよ」
気づいたら結構話してたなぁ。
「ちょ、ちょっとっ!!」
「ん?どうしたの?」
歩き出そうとするとアイリスさんが引きとめてきた。
「どうしたの?顔赤いよ?」
「――!?!き、気にしなくていいからっ!!えっと・・・フレンド登録しない!?」
えっと・・・気迫が凄いんだけど。
「別にいいよ?」
「―!!申請送るわ!」
急に嬉しそうになった・・・藤堂さんってこんなコロコロ感情変わる人だっけ?
アイリスの方だから?
――――――
《 アイリス からフレンド申請が来ています。承認しますか?》
Yes. or NO.
――――――
Yesっと。
「それじゃあ、僕は一旦戻るよ。頑張ってね」
後に残された四人は・・・
「へーぇ・・・アイリスさん・・・そうなんですか?そうなんですね?」
「なっ!?何よ!!違うわよ!?さっきの人のことは別に―――」
「えぇ?アイリスさん、私はまだ何も言ってませんよ?」
「!?!?は、謀ったわねラフィ!!」
「ふっふっふ・・・何のことやら」
「なぁ・・・アイツら何やってんだ?」
「さぁ・・・」
「なぁクラッド、リューセイのことどう思った?」
「・・・正直、化け物、って感じ。剣術も魔法も異常。それもどっちもシステム的な強さじゃない・・・あれは彼自体の強さだと思う」
「やっぱそうだよなぁ・・・俺らもフレンド組んどきゃよかったかもな」
「そうだよね・・・今度会ったら組んでもらおう」
「おう」
魔法のアレンジ・・・やばい「こんな魔法書きたい」って感じが止まらない。
主人公がビーターと呼ばれる日が近いかもしれない。