六十三本目 戦後
投稿が……遅れやしたm(_ _;)m
「リュー―――セーーイ!!」
リューセイとアランが会話を繰り返していた時、突如そんな声が響き渡った。
なんだなんだと兵士達が騒めき、その間を数人がかき分けて進む。
ちなみに既に皇国兵の大半が後退し、割れた二国の兵士達の間にリューセイとアランを含める数人が陣取っているのが現状である。
「この声は……」
リューセイは聞き覚えのある声に目を見開き、居てもおかしくないかとすぐに納得する。
一方アランは首を傾げていた。
この状況で大声を上げるような人間に心当たりが無かったためだ。
そして兵士達の隙間から現れたのは……赤髪の男を先頭にした数人の男女。
紅色の鎧を纏った男は、リューセイに向けて疾走――そして、跳躍。
「リューセイッ!! こんなとこにいやがぶへらっ!?」
べちこんっ!
という気の抜ける音共に赤い髪の男――ショートは、地面に叩きつけられた。
リューセイの手によって。
「な、何しやがるっ……この悪魔め……!!」
顔についた土を払いながら起き上がり、ショートは抗議した。
何故自分がこんなことをされねばならない、理不尽だ、あんまりだ、と。
だが。
「突然飛びかかられたのと……何か気持ち悪かったから?」
悪魔は真顔でそう告げる。
それに対して畜生めぇ、と大地を叩くショート。
「漫才はそこまでにしなさい……」
呆れた様子で額を抑えるエスティア。
「今のはギルマスが悪い……ぷふっ」
肩を震わせながら追撃するリリー。
「これは同情できないな」
肩を竦める雷蔵。
「くぅっ……ギルドメンバーが冷たいぜ……まるでキンッキンに冷えた液化窒素の様にっ!!」
この期に及んでふざけるショート。
「ねぇ、聞いてる? ふざけるのはそこまでにしなさい」
「あっはい、すいません」
「全く……まぁいいわ。久しぶりね、リューセイくん」
「うん、久しぶり。ところで何でこんなところに?」
「こっちが聞きてぇよ……俺らは皇国の将軍と"水色の髪と黒いローブの青年"が戦ってるって聞いて駆けつけ、颯爽と助けに入る……ことは出来ずに、来てみたらもう終わってたってわけだ。理解できたかね? リューセイさんよ。ねぇ、俺の気持ちわかる? ねぇ、分かる? ねぇ」
イチャモンをつける不良の如く宣うショートに、リューセイは爽やかな笑みを浮かべ――
「黙ろうか」
バチーンッ、と。
デコピンである。
本来あるまじき音と共に、ショートは地に倒れ伏した。
「――あいったああああああ!?」
「自業自得だな……」
ごろごろと地を転げまわる。
ショートの慟哭と雷蔵の呟き。
苦笑するアランは、容赦のないリューセイの対応にやや頬を引き攣らせていた。
◇◇◇
「つまりは……あれか? 俺らが必死に兵士と戦ってる間に、お前は戦闘を楽しんでハッスルしてたと……?」
「ショート、話が進まないから黙りなさい」
「あっ、はいスマセンっした」
「えーっと、その解釈は……まぁ間違ってるとは言わないけど、それだけじゃないからね?」
「間違ってないんだ……」
「間違ってないんだな……」
真顔で宣うショート、笑ってない笑顔で諫めるエスティア、苦笑しながら訂正するリューセイ、慄くリリー・雷蔵。
「意外ですね……」
心底意外そうに、アランはリューセイを見ていた。
どう見ても戦闘狂いな戦い方からは友人と談笑する光景は想像できなかったのだ。
「心外だなぁ」
正確にその意味を読み取り不服そうな表情で――内心では苦笑しながら――リューセイは言葉を投げかける。
しかし次の瞬間には、先ほどまでの軽い雰囲気を吹き飛ばすような神妙な顔へと変わっていた。
その表情を見て何かを察したアランもまた、表情を引き締める。
「さて……本題に入ろうか」
その言葉に、ショート達ギルド紅鎧のメンバーも口を閉ざす。
リューセイが口を開く――その寸前。
「――ぁぁあああああああああああっ!!」
「うおおっ!?」
「わっ!?」
「何!?」
突如聞こえてきた声に、リューセイを除くその場に居た全員が空を仰ぐ。
その視線の先には、空中から凄まじい勢いで落下する人物。
そして突如乱入してきた何者かは、完璧に勢いを殺し着地した。
その人物を見てやはりリューセイを除く全員が目を見開く。
「あー、やっぱりカイルだったか」
「おぉ……【戦王】が負けたってのは、事実だったみたいだな」
そんな暢気な声と共に笑みを浮かべるリューセイ。
そして落下してきた人物――カイルは、感嘆の声をあげた。
「何かあった? 空から降ってきたりした」
「……何かあったも何も……追いかけてた将軍がニーズヘッグと戦闘になったみたいでなぁ。生死の確認も出来てなくて、っておいリューセイ、それまさか……」
カイルが目を見開き凝視する先にあるのは、頭部が原型を留めていない肉体。
既にその命が消えていることは明白だった。
具体的に問われたわけでもなかったが、リューセイは首肯を返す。
それを見たカイルは苦々し気に表情を歪める。
今初めて気付いたという様子のショートやリリーは、狼狽えていた。
「どうやらそういうことみたいだね」
「ああ……すまねぇ。任されておいて面目ない」
「いいよ別に。ニーズヘッグに死体を完全に消されるよりはマシだったから」
気にしなくていい、と首を振るリューセイは、意味ありげにアランへと目を向けた。
それまで厳しい表情で黙っていたアランは、覚悟を決めた様子で口を開く。
「【剣王】、貴方に話があります――」