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六十一本目 不穏な気配


「……嘘だろ」


 大軍を押し分けて進み、ようやくそこに辿り着いた【剣王】――カイルは、その光景を見て呆然と呟いた。

 重要な敵一人を逃がしてしまうという失態、更にはその敵が『蛇帝』を呼び出してしまった結果。

 それが、目の前の惨状であった。

 大地は割れ、()()、破壊の限りを尽くされたその惨状。

 一定以上『世界樹の根』に近い場所では一切損傷がないため、余計に際立って見える。


 そしてその事態を生み出した張本人――モンスターだが――は、どこに行ったのか。



『何だ、貴様も殺してほしいのか?』

「……そんなわけ、ねぇだろ」


 そう答えるのが精一杯だった。

 過去にカイルが率いる騎士団を潰した大蛇は、()()()()()()()カイルを覗き込んでいる。

 その巨体にも関わらず、呆然としていたカイルの背後にその存在はいた。

 どうやって音を出さずに移動したのか、などと聞く余裕はない。しかしそれ以上に気になることがあった。


「確か、首は一本だけじゃなかったのか?」

『重傷を負わされたというのに、のこのことそのまま出ていくわけがあると思うか?』


 言われてみれば、その通りだった。

 一本で討伐されかけた。

 ならば首を二本に増やす。

 単純な力の増強。

 ただしそう簡単に首を増やせるのなら、という話だが。

 本体とは遠く離れているというのに、唐突に首が増えるというのは少々理屈に合わないような気がしないでもない。


(……まぁ、最強種(こいつら)相手に常識が通じるはずもねぇか)


 だがどうする、と自問する。

 目の前には国を滅ぼせる災厄。

 敵とはいえ『人間』が手を出した以上、国とまでいかずとも近くの街を滅ぼす、ということは十分にあり得ることだ。

 『最強種』とは気まぐれで街を地図から消す存在なのだから。

 しかし立場上、極力早く戦場に戻らねばならない。

 カイルにはあまり時間が無かった。


「……お前は俺達を、滅ぼす気なのか?」

『ふん。手を出してこなければ何もするつもりなどない』


 その言葉に、安堵と共に僅かに拍子抜けした。

 ニーズヘッグに関しては様々なことが語られており、史実として残っている物の中にはその残虐性を描いたものも多くある。

 カイルとて、彼の大蛇について多く知っているわけではないのだ。


『……悪意を持って、これ以上何か仕掛けようというのなら……次は問答無用で滅ぼすが?』

「――ッ……ああ。何もさせないようにしておく」


 特に何か仕掛けるつもりなどない。

 だが『蛇帝』に問答無用で滅ぼす、などと言われてしまえば。

 【剣王】が冷や汗をかくのも仕方がないことだろう。

 そもそも今回の件で『蛇帝』の首一本を撃退したところで意味などないことが証明されてしまった。

 ニーズヘッグを本当の意味で倒す方法は本体を相手取る以外、存在しない。

 ならば王国にも、皇国にも。

 それどころかこの大陸には。『蛇帝』に打ち勝つ方法が……無い


(あらためて、とんでもないな。……いや、今更か)


 カイルはその恐ろしさを再認識した。

 元々喧嘩を売るつもりなど皆無だが、馬鹿な国の重鎮共にもこれを理解させねばなるまい、と。

 『最強種』とは、体が大きいだけの存在だけではないのだと。

 能力に見合った知能が有る。

 故に倒すこと、討伐することは……至難を極める。

 そもそも『最強種』を正面から討伐出来る力がもしも、仮に、在ったとして。

 本当に()()()()()()()()()()()のだから。

 人間が工夫を凝らして身を護るのと同じ。

 確認されている『最強種』は、その多くが"自分の力"以外にも討伐されない要因を持っている。

 それを王国最強は理解していた。


「……それじゃ、俺は自分の場所に戻るとするよ」

『勝手に戻ればいい。……ああ、そうだな。貴様に一つ頼み事をしておこう』

「――! 何だ?」

『以前、我に手傷を負わせた者をここに連れてこい。少々用があるのでな』

(何だと……!? つまりはリューセイのことだよな? 一体何の……ってそれどころじゃねぇ!!)


 カイルは何かに気付き、大いに焦った。

 そのリューセイは……戦場にいる。

 ここからそう遠くない場所だ。

 リューセイに言われたダラド将軍の討伐は、既に成された。

 部外者の手によって、だが。思い返してみれば本当に呆気なかった。

 ニーズヘッグの力が上昇していたとはいえ、ダラド将軍は逃げることも出来ず殺された。

 リューセイが戦った当時よりも上のLvで、だ。


「分かった。連れてこよう……」

(本当に滅茶苦茶だよなアイツは……)


 そしてその滅茶苦茶なアイツは、戦場で【戦王】と相対している。

 Lv200を超える世界有数の猛者と、だ。

 実力で言えば()()()()()()()()、装備も合わせてしまえば今のカイルよりも上。

 リューセイが負けてしまえば、当然死ぬことになるだろう。

 『冒険者』は復活出来るとはいえ、すぐにとは限らない。

 そうなってしまえばニーズヘッグの場所に連れて行くのも、当然遅れる。

 『蛇帝』の意向を無視するのは……流石にマズい。

 そもそも当の【戦王】……アラン・グレイヴァルの対処も問題だ。


(ちっくしょう……面倒なのは消えたってのに! 一番厄介なのが残ってるとは……)


 ダラド将軍は『透過』という非常に厄介なスキル持ちだった。

 その能力故に『世界樹の根』が展開していた結界もすり抜けることが出来た。

 今回の戦争において、一番の強敵は【戦王】だ。それは断言できる。

 しかし最も重要なのは誰だったかと言えば、間違いなくダラド将軍だ。

 故に始めから危険視されていた。


(まぁ、今更気にしても仕方ねぇが)


 既に殺されてるしな、と。

 そこまで思考したところで、カイルは妙な違和感を覚えた。

 物をすり抜ける能力を持ったダラド将軍は……ニーズヘッグに殺された。

 Lv100を超え、『進化』して人間を超えたダラド将軍が。


(……ちょっと待て)


 『透過』。

 その能力の発動範囲は……戦場を戦うことなくすり抜けたのだから、まず間違いなく生物は可能だろう。

 ならばニーズヘッグは?

 発動に制限があり、『透過』出来なかった?

 有り得るだろう。

 そもそもあのニーズヘッグが"大切な兄弟"足る『世界樹の根』に手を出した相手を、逃すはずは……


(いや……そもそも腐ってもLv100越え……)


 ニーズヘッグから逃げ出すだけの能力は……あるかないかで言えば、間違いなくある。

 だが『蛇帝』が気づいている様子は無かった。



(……大丈夫か、コレ)


 冷や汗が止まらない。

 もしもダラド将軍が生きていると仮定するならば……逃げ出した後、どこに向かう。




 ――そしてカイルの嫌な予感は、当たることになる。


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