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五十九本目 龍人顕現


 戦場が、白光に覆いつくされた。

 皇国、王国関係なしに誰もが目を瞑り、細める。

 やがて光が収まり――



 ――オオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!



 咆哮が、轟いた。



「う、嘘だろ」


 ある者は、目を疑った。


「な、なんだよあれ……ふざけんなよ……」


 ある者は、怒りと恐怖をないまぜにして悪態をついた。



「……これは」


 戦王は、言葉を失った。

 あらんかぎりに目を見開き、その魔力量に驚愕した。


 外見は、竜の特徴が更に濃くなった、という程度の違いでしかない。

 鱗は広がり、以前にもまして硬質になった。

 水色だった目は金色(こんじき)を宿した。

 角はより洗練された輝きを放っていた。

 以前は細々としていた尾は、身の丈ほどの長さになっている。


 ――そして、全ての部位が白光を纏っている。


 よく見ればその白光は流動していた。

 指一本分ほどの厚さがあり、目敏い者にはその白光が()()()()()()()()ことも理解出来た。

 しかし黒色の鱗は、その光を微塵も反射しない。

 その異常さが、以前にも増して際立っていた。



「……おお」


 そして、その魔法を使った本人すら感心していた。

 幾人かは、その様子に何事か言おうとしたが、やめた。

 「いやなんでお前が驚いてんだよ」などと言って標的にされることを恐れたのだ。


「多少見た目が変わっただけ、とは言えないようですね……」

「うん、そうみたい」

「……ツッコミませんからね?」


 アランは呆れた様子だったが、同時に目の前にいる青年の様子に鋭く目を奔らせていた。

 魔法が発動する前、アランは()()()()()()全力で槍を突き出した。

 しかし青年(リューセイ)は、詠唱を始めた直後から、異常なまでの技術を発揮した。

 いかな戦王とて、全力を出した状態で槍を突き出す前に動き出し、躱された経験はなかった。

 少なくとも、一度の『進化』を経験してからは。

 突き出す前に動いたからこそ劣る速度で躱せた、と言えなくもないのだが。

 どの道油断していい相手ではない、とアランは理解していた。

 例えレベルが100以上離れていようとも。



「んー、そういえば、お互い名乗ったかな?」

「……いえ、そんなことはしていませんね」


 唐突に、そんなことを言い出した。

 特に疑う必要もないだろう、とアランは素直に答えた。


「それじゃあ名乗ろう。僕はリューセイ。よろしく?」

「アラン・グレイヴァルです。【戦王】などとも呼ばれていますが。宜しくお願いします」


 首を傾げながらそんな事を宣う青年に、アランは苦笑して応えた。

 「よろしく」などと、敵同士であるにも拘らず。

 本当に変わった人だ、と。

 何より明らかに時間制限のある魔法を使用しておいて、呑気に会話することが。

 それが自信から来る余裕なのかは、戦王にも分からなかった。


「……それでは、始めましょうか」

「そうだね」


 お互い、武器を構える。

 それに伴い、白光が揺れた。

 純粋な白の光は、武器である刀も覆っている。


「――」


 先に動いたのは、アランだった。

 『生命力還元(ライフリダクション)』により強化された身体能力で、青年へと迫る。

 それに対して青年は、合わせるように刀を突き出した。

 そして槍は――白光の表面を滑った。


「くッ!?」


 そのままの勢いで突き出された刀を、アランは顔を逸らして何とか避ける。


(予想はしていましたが、厄介ですねッ!)


 白光は火花を散らすことも無い。

 優しく押すように、それでいて力強く、槍に反発した。

 『龍気』とでも言うべきそれは、正しく防御(まもり)の力。

 純粋な魔力の塊であり、それでいて物質的な質量を持っている。

 霊槍(ミスティルティン)は生命力を吸収するが、残念ながら魔力は吸収できない。

 正面から突き刺すことが出来れば破れるだろうが、発動者(リューセイ)がそれを許さない。

 故にこの防御は、この場において絶大な力を発揮した。


 そして。


「フッ、はァッ!!」


(力もッ!!上がってるじゃないですか!)


 そう、何も効果は『龍気』のみではない。

 竜人から、龍人へ。

 一時的に種族を高めるこの魔法は、当然の如く膂力を強化する。

 龍人の鱗。

 龍人の尾。

 龍人の身体能力。

 いわば《半竜化》の完全上位互換。


 しかしそれは、時間制限(タイムリミット)がごく短いことを意味していた。


(長時間は、使えないなぁ)


 良くて一分、とリューセイは心中で嘆息した。

 『進化』して高まった魔力が、湯水の様に流れ出ていく。

 槍が白光に触れる度、動作の度に魔力が消費される。

 幸いなことに、《半竜化》よりは燃費がいい。

 しかしそれも大差があるわけではない。

 正しく高消費(ハイリスク)高強化(ハイリターン)

 短期決戦用、だからこそ力でもアランと渡り合えている。

 アランの霊槍の能力がどれほど持続するかは分からないが、少なくとも一分より短いことはない。


 間違いなく、先に強化が消えるのは自分だ。


「だからこそッ!楽しいんだよ!!」

「――ッ!とんだ戦闘狂い(バトルジャンキー)ですねッ!?」

「自分でもびっくりだよ!」


 そう。

 この世界(ヨルム)に来るまで、ここまで自分が戦いを楽しめると思っていなかった。

 戦うことは嫌いじゃないし、強くなるのは好き。

 それが今までの自分の在り方だった。


 だが。


(毒されてる、いや変化してる)


 今の自分は、戦いが楽しい。

 強くなることも楽しい。

 強敵と戦いたい。

 強くなるために目標が欲しい、と考えていた自分は、いつの間にか変わっていた。

 いや、恐らくどちらも自分の"性格"なのだろう。

 そして自分は、BFOを始める前より強くなっている。

 平和な日本では、『実戦経験』など滅多に得られないから。


 ――ゲームも案外、悪くない。


「本当にッ!楽しそうですね!!」

「うん、楽しい」


 リューセイがそんなことを考えている時。

 アランは、心中で焦り、慄いていた。


(やはり……《アーツ》を使っていない)


 《アーツ》。

 リューセイに「好みじゃない」とほぼ切り捨てられかけているそれ。

 スキルレベル以上の効果を発揮する技。

 斬撃を飛ばす、などということも可能であり、本来ならば戦闘において重要な役割を発揮するもの。


 だが、しかし。

 リューセイには、《アーツ》使用時独特の『違和感』がない。

 飛ぶ斬撃などは分かりやすいが、それ以外。

 ただ鋭くした斬撃を放つ《アーツ》等は、どうしても本人の技術との差から『違和感』が生じる。

 だが、それが無い。


 アランは、《アーツ》を当然戦闘に組み込んでいる。

 《飛斬》の槍版、《飛突》という『突きを飛ばす』《アーツ》を何度も使っているし、高速の突きを放つ『閃突』もそうだ。

 【槍術】系統の《アーツ》意外にも、様々なものを使っている。

 だというのに。


(馬鹿げた反応速度……いえ対応能力、とでも言いましょうか)


 目の前の青年は、その全てに対応してくる。

 時折驚いた様子はあるものの、明らかに小さい。

 正直に言って「そんな馬鹿な」と言いたくなるレベルである。

 どんな精神をしているのか。



 リューセイはアランが焦燥していることには気付いている。

 しかしその理由までは分かっていなかった。

 強いて言えば「あの槍ってそんな疲れるの?」と考えていた。


 両者が微妙にすれ違う中、戦闘は佳境を迎えた。

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