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リアルチートは突然に _ゲーム初心者の最強プレーヤー_  作者: Lizard
第三章 蛇帝ニーズヘッグ
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五十本目 身勝手な彼

やや雰囲気変えてみました。

久しぶりの投稿!!イェーイ


――翌日の早朝


すぅっ、と。

龍成は自室のベッドから身体を起こした。

幼い頃からの生活で、今ではもう必ずと言っていいほどに朝の目覚めが良い。

やや寝癖のついた髪を片手で整え、洗面所へ向かう。

冷水で完全に意識を起こし、澄み渡るような感覚に身を任せながら敷地にある道場へと歩を進める。

『覇城家』は現在『武術教室』――自衛手段を得るための――を営むことで家計が賄われている。

武術教室に使われている道場ではあるが、普段は龍成の修練場にしており、早朝の"日課"を行うのもこの場所だ。


黒い袴と白の上着という剣道と柔道の道着を合わせたような衣服に着替え、木張りの床を歩く。

その片手には一本の木刀が握られている。

内側に金属を埋め込むことで真剣に近い重さを持たせた、鍛錬用の特別製である。


軽く肩を回し、足を伸ばし、指を動かす。

睡眠により凝り固まった体をほぐし終え、木刀を上段に構える。

道場の床を踏みしめ、深い呼吸の精神統一。

まずは振り下ろしの素振り。

一回一回無駄なく振れているか、振った木刀に意識を集中した上で。

ヒュンッと風を切る音が僅かに響く中、極限まで研ぎ澄ました集中をもって木刀を上段に構え、再度振り下ろす。

徐々にペースを速め、微調整を加え、「整った」と、そう感じた時身体の流れを変える。


単調な振り下ろしから薙ぎ払い、袈裟斬り、斬り上げ、足を踏み出しながらの突き。

一通りの動作を終えて多種多様な攻撃を想定した対処に移る。

一言で言ってしまえば想像練習(イメージトレーニング)である。


開始から三十分が経ち、龍成の体の温度がやや上がる頃、道場を訪れるもう一つの影があった。



「おはようございます、兄様(にいさま)



龍成と同じ道着に身を包み、恭しく礼をする。

丁寧な口調の彼女は覇城理華、龍成の妹だ。

二歳年下の妹を見ながら笑みを浮かべ、挨拶を返す。



「おはよう。珍しいね。この時間に来るなんて」



現在時刻は早朝五時を過ぎたところである。

普段理華が起きるのは更に三十分ほど後の事で、大した差ではないものの龍成にとってはそれが珍しく思えた。

それというのも彼女は毎日の習慣――寝る時間や起きる時間といった――が変わってしまうことを好かないからだ。



「いえ……久々に兄様に胸を借りるのも良いかと思いまして」

「久々……だっけ?」

「はい!!最近あまり構ってくださいませんから!!」



その言葉に、龍成は苦笑しか返すことが出来ない。

確かに最近は家に帰ってもBFOををプレイすることが多いので、必然的に道場に来る時間も減っていた。

今日の放課後は武術教室に参加しようかな――とそこまで考えたところで、連鎖するように〈ヨルム〉での出来事を思い出した。


進化した自分の姿、能力を見てあまりにも疑問点が多すぎた。

その場にいたカイル達に聞こうとするも、彼らもまた呆然としており多少の会話のみでログアウトしたのだ。

分かったのはどうやら僕の進化先は珍しい種族だったということだけ、詳しくは次にログインした時に――時間が厳しかったので――ということになった。

興味深いものは多かった。

明らかに特異な種族始まり、妙なスキル、変化しすぎたその見た目もそうだ。


次にログインした時はやることが山積みだな、と。

苦笑を続ける龍成を不思議そうに見ていた理華だったが、そこでようやく声をかけた。



「兄様?」

「ああ、ごめん。始めようか」

「はい!!」



満面の笑みをすぐに引き締め、理華は木刀を構えた。

理華が持つ木刀も龍成の物と同じ重量を増やした特別製だ。

当たった場合は痛い、では済まないかもしれない。

しかしそれを気にする様子もなく、理華は足を踏み出し、木刀を振り下ろす。


振られた木刀を恐れることなく龍成は片手に持つ木刀を動かす。

両手で振られた木刀(ソレ)の腹に添えるようにして突き出された木刀は相手の力を受け流し、弾いた。

しかしそれを予想していたかのように理華は弾かれた勢いのままに回転し、足元を薙ぎ払う。

(すね)へと迫る木刀に笑みを浮かべ、龍成は軽く飛んで躱す。


理華はその動作にも驚く様子は無く、すぐさま木刀を引いて突きの体勢へと移る。

高速で突き出された木刀は空中にある龍成の胴体へと直線で向かい――


――弾かれた。

体重の乗らない体の動きだけでの薙ぎ払い。

通常ならば跳んでいる瞬間は隙だらけの状態になる。

しかしそんな常識など打ち壊すように対応する兄の姿に、さすがに理華も目を見開く。

打ち合った際の衝撃にも体勢を崩すことなく、龍成は地面に降り立つ。

この光景を見れば剣道を始めとした武道を習う者は呆然とするだろう。


"試合"という言葉では表せない、むしろ"戦い"という言葉が似合うような。

一連の流れだけでも、双方の技術が非常に高いことは誰であっても理解できてしまう。


木刀を構えた龍成は、次は自分の番だと言うように駆け出した。

振り下ろされた木刀を受け流そうと構えた理華は不意に不味い、と。

そう感じた。

木刀と木刀が衝突する寸前、龍成持つ木刀が軌道を変えた。

対応する術もなく、次の瞬間には理華の首に木刀が添えられていた。



「……参りました」

「うん、強くなってる」



助言をするわけでもなく、ただ短い一言。

しかし理華は、その言葉に頬を緩めた。

構えていた木刀を下ろす。

先ほどの出来事を思い浮かべ、息を吐く。

兄が振った木刀は自身の木刀に当たる寸前で軌道を変え、兄は体を回転させた。

丁度一周する形で木刀は理華が当たる――と、そう思った時にぴたりと止まった。

凄まじい勢いでの回転にも関わらず瞬時に勢いを殺したのだ。

筋力に任せているわけでもなく、力を入れるタイミングが重要な動作。


理華が兄を相手にして手にもっている木刀――重量を増やした――を躊躇なく振れるのは、単に兄のかけ離れた実力が理由だ。

当たらない。そう理解しているから。

どれだけ自分が全力を出したところで、龍成の意表を突いたところで、瞬時に対応される。

気後れしているわけではない。

ただ、確信がある。

自分が兄に勝てる時は来ない、と。

しかしそれで良かった。理華が己を鍛える理由は、龍成に少しでも近づくため。

負ければ悔しい。しかしそれと同時に誇らしく思えた。

兄は強く、人の感情に聡いくせに女心や恋心に疎く、大人っぽく、時に子供っぽい……

そんな性格の兄に、彼女は憧れたのだから。


兄と全力で打ち合い、打ち負ける。

それでも、楽しくて、嬉しかった。

龍成という人間は、不思議なところが多い。

人によっては不気味に思う一面も、兄にはあった。

普段は明るく優しいように見えても、稀に見せる『人と違う価値観』は、他人との間に僅かな溝を作る。

憧れる者と、恐れる者。

その両方が、彼の周囲には存在している。


しかし彼女は知っていた。


彼はいわゆる合理主義だ。

合理的に"為したいことを成す"その姿勢は合理的で、それでいて感情的。

優しく見れる時もあれば、冷たく見える時もある。

けれど――けれど彼は。



覇城龍成が厳しく、激しく、強さを求めるのは。

『守りたいときに守る力』を欲しているから。


彼は己を『身勝手』だと評する。

しかし彼のことを知っていれば、その言葉を疑問に思うだろう。


けれど、彼の考えを、価値観を聞けば。

その言葉は正しく、彼を表している。


彼は何も、その言葉を悪く思っていない。

『大切な人を害することを決して許さない』

それの何が悪いのか。

彼は『身勝手』に誰かを守る。それだけなのだ。

正義も悪も関係なく、ただただ『身勝手』に己の意思を突き通す。



彼が力を揮う時は、必ず自分の為だ。



けれど――


――『自分の為に事を成す』





それは決して、『自分以外の為にはならない』という意味を持たない。

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