四十八本目 (あっさり明かされた)カイルの過去と進化
そうだ、この際だし聞きたいことは全部聞いちゃおう。
「カイルって何者?」
「リヴィア王国第一騎士団元団長だ。後一応騎士爵の爵位も持ってるぞ」
あっさり答えてくれた。
少し拍子抜け……でも内容は明らかに重要な役職だな。
「リヴィア王国って……今いる国のこと?」
「そうだが……それも知らなかったのかよ」
「……」
確かに、今思えば知識不足が酷すぎる。
住んでる――というかは分からないけど――国の名前を知らないって……
常識が無さすぎる。
「えーっと、第一騎士団って?」
「この国を守護する騎士団の一つだ。第四まであって第一は王家の直属、要は一番つえェ騎士団だ」
うわー……そこの元団長って。
明らかに超重要役職だね。
「カイルって……分かってたけど、凄かったんだ」
「何か腹立つなオイ。まぁ『剣王』なんて大層な称号持ってたからな。成り行きだよ」
成り行きでその役職はいいんだろうか。
「へェ、珍しいな。お前がそこまで話すなんてな。『元団長』様?」
そんな事を話してるうちに、スージーが戻ってきた。
そういえば……何で辞めたんだろ?騎士団長。
「うるせぇ。さっさと飯出せよコラ」
「カツアゲかよオイ!!ほらよ」
スージーが作ってくれたのは、やや細長いパン、こんがりと焼けた肉食欲を誘う匂いの肉だった。
どちらも木皿とマッチしている。
「味付け猪肉の味噌焼きだ。旨そうだろ?」
確かに、凄く美味しそうだ。
味噌が〈ヨルム〉にあるのは驚きだけど。
「それと、お待ちかねのエールだ!!」
ドンッと音を立て、スージーさんは小さな樽の様な器をカウンターに乗せた。
特に言葉を発することなく、カイルが凄い勢いで食べ始めた。
お酒もどんどん飲んでるけど……大丈夫なのかな?
「……カイルのペースに付き合ってると保たねぇぞ」
スージーさんが小声で耳打ちしてきた。
どうやらカイルは酒豪らしい。
とりあえず、木皿に添えられたフォークを手に取り、肉を口に運ぶ。
「―――!!美味しい……」
「だろォ?」
表面はパリッとした食感、噛むと肉汁がジュワッと……
なんてありきたりな言葉しか思いつかないけど。
とにかく味噌の味が猪肉と合ってて美味しい。
パンと一緒に食べると、さらに旨かった。
「―――で、何で辞めたの?」
「お前ストレート過ぎんだろ……」
少しずつエールを飲みながら、一杯二杯と飲んでも酔う様子の無いカイルに話しかけた。
カイルはやや躊躇いながらも、口を開いた。
「……ニーズヘッグに王国軍が潰されたって言ったな?」
「うん」
――うん?まさか……
「第一騎士団だよ。俺が団長やってた時のな」
「………」
予想通りだった。
「世界樹の一部は、稀にだが突然現れる。世界が変革を迎えた時だとか言われてるが、詳細は分からん。で、その世界樹の一部が、今回と同じように国内に生えちまった」
「――それで、ニーズヘッグが来ちゃったと」
「そういうわけだ。あのバカな内政官ども、危険だから倒してこいなんて無茶言いやがって……」
……今ので大体分かった。
要は王国の偉い人に言われて討伐しにいって、返り討ちにされたと。
「はぁ……俺が戦ったのもニーズヘッグの分体だったはずなんだが……情けねぇ。俺よりずっとレベルの低い奴が一人で撃退しちまったってのにな……」
うーん、でも僕の場合見逃された様な感じだったからなぁ。
あのまま続けてたら間違いなく死んでただろうし。
「なーにが王国最強の剣士だ……情けねぇ……」
「オイオイ、昔の事ぶりかえすなよ。飯がまずくなるだろ」
ちなみに、スージーさんも一緒に味噌焼き猪肉を食べている。
店主、それでいいのか。
しかしなぁ……カイルを慰めるのは僕じゃ逆効果だし。
とりあえず話題を変えよう。
「ねぇカイル、『進化』って何?」
「――!!」
僕がそう言うと、項垂れていたカイルが跳ね起きて凝視してきた。
「お前……もう100Lvになったのか。…そうか、ニーズヘッグの……」
「うん。ニーズヘッグ撃退したらね」
ニーズヘッグを撃退した後、力がみなぎる感覚があったかと思えば、Lvが上がっていた。
100Lvまで。
その結果、ステータスに『Race』が追加されていた。
そこには、『人族(進化可能)』と書かれていたんだ。