四十七本目 蛇帝の想い
「ま、百頭竜っつっても名ばかりで、実際に百も頭があるやつは聞いたことがねぇし……竜ですらねぇんだが。バケモンには変わりねぇけどな」
百頭竜……ニーズヘッグが……
「つまり……僕が戦ったのは、その頭の内の一つ……一匹だと」
「そういうわけだ。どれだけの頭があるのかは知らねぇが、少なくとも五つ以上。俺が前に見た時……遠目でだけどな。その時は、それだけしか頭が無かった。実際はもっと多いだろう。頭一つっつっても、王国軍を軽く潰せる力はあるんだがな」
「なるほどね……」
あれが……あのニーズヘッグが、いくつもある頭の内の一つ。
ただの分身か……
「――――最高じゃないか」
「まぁそりゃ驚……いや今なんつった?」
「最高だ、って」
やっぱり……流石、この世界で『最強種』なんて呼ばれてるだけはある。
それでこそ……それでこそ、倒しがいがある。
「…………はぁ。お前の感性が分かってきた気がするぜ」
「それは良かった」
肩を竦めて、そう返した。
「まぁニーズヘッグの事は一旦おいとくぞ。『最強種』について語るなら、話は数千年前に遡る」
思った以上に、『最強種』の歴史は長いらしい。
「今から……約八千年前。この〈ヨルム〉の世界には、『四忌厄災』っつー、最低でも一体で国を亡ぼせるモンスターがいた」
「もしかしてそれが?」
「ああ。いわば『十二体の最強種』の前身だな。元々は、今みたいに十二体じゃなく、四体しかいなかったわけだ」
「でもさ……例えばナイアードみたいな、龍神とかはそれに近いと思うんだけど?力で見れば」
「水龍神か……確かに、力だけで言えば十分『最強種』クラスだ。だが、この『四忌厄災』ってのはな。何も力だけじゃねぇ。名前通り、人間にとっての危険度、厄介さ、そんなのも考慮に入れて選ばれてるからな」
「へぇ……」
でも、ナイアードは積極的に人間を襲ってる感じは無かったけど。
どちらかというと、ナワバリを守ってる感じかな?
「『覇国光狼』、『黒蟲皇アスタロト』、『海世巨鯨』、『始原龍アラビド』……この四体のモンスターはいわば元祖『最強種』だ。時代は流れ……新たに生まれた、若しくは認知されたモンスターが追加され、『十二体の最強種』なんて名前に纏まったわけだ」
おお……どれも気になる名前ばかり。
というかニーズヘッグ以外知らなかった。
「今までに……『最強種』が討伐された記録はねぇ。――つっても俺の知識は、古文書に載ってただけのもんだからな。実際に見た奴がいない以上、どこまでほんとか分かりゃしねぇ。中にはここ数百年発見報告がねぇやつもいるしな。……まぁ、見つけた奴が殺されてるだけの可能性もあるが」
「……まぁそうだよね」
カイルは……多分、普通の人間だ。
数百年前の事も分からないだろう。
……例え、ゲームであっても。
「んで、あとは……あれか。ニーズヘッグがあんな場所にいた理由か?」
「うん。やっぱり気になるからね」
「ああ、そうだ。あの巨大樹、何だと思う?」
「えっ?何って……世界樹じゃないの?」
僕がそう答えると、カイルはしてやったり、という表情で笑った。
「世界樹ってのも間違いじゃねぇ。間違いじゃねぇが、あれも本体じゃねぇんだよ」
「本体…じゃない?」
「おう。あれはな、世界樹が伸ばした根……その先から生えただけの、いわば世界樹の子供みたいなもんだ」
「――!それはまた……凄いね」
「だろう?何せ大元の世界樹の大きさは、あれの数十倍はある。少なくともな」
ほんとにとんでもない。
是非とも、本体の方を見てみたいところだ。
「――あれ?でも、それがニーズヘッグと関係あるの?」
「あるんだなこれが。ニーズヘッグってのは……元をたどれば、世界樹の巨大な洞で育っただけの一匹の蛇だったんだと」
「……それってつまり」
「ああ。今も蛇帝の本体は世界樹の洞の中、ってわけだ」
それは、良いことが聞けた。
世界樹……是非ともいつか行ってみないと。
「そんでもって、ニーズヘッグは今も、自分の育て親たる世界樹を守ってる。だからこそ、世界樹の根から伸びた、あの巨大樹も……アイツにとっちゃ、兄弟みてぇなもんなんだよ。木だけどな」
道理で……あんな風に巻き付いて守ってたわけだ。
あの言葉の意味も……