四十本目 決着
「うわぁ・・・アレはヤバいな」
禍々しい赤色の魔法陣。
それも、途轍もなく巨大な。
魔法陣のことを詳しく知っているわけではない。
けれどアレは不味い。
まさかちっぽけな魔法の矢が出てくるだけ、なんてことはありえない。
恐らく・・・数打っても当たらないから面での攻撃に来たってところかな?
経験上魔法陣の大きさは魔法の規模で変化する。
本当にあの規模の魔法が出てくるとしたら・・・
思わず身震いした。
「ハハッ・・・『蛇帝』なんて大層な名前持ってるんだから、それぐらいはするか。それが本気かは知らないけど・・・早めに決めた方が良さそうだ」
少なくとも、あれはニーズヘッグにとっても弱い力じゃない筈だ。
【無謀な英雄】の効果でステータスが上がってる今なら・・・賭けてもいいかもしれない。
どれくらい上昇するのかは知らないけど・・・ニーズヘッグほど格上の相手なら上がり幅も少なくない筈。
失敗したら・・・死ぬよね。
まぁ、それはそれで・・・格上の相手にここまで戦えたなら、悪くない。
「けどさ・・・死ぬ気は無いんだよなぁ!!!」
――――【王の剣】
ぽつりと、そう呟いた。
黒妖の刀身が白い光を放つ。
【王の剣】。武器の攻撃力と耐久が上がる。
けれど今重要なのはそっちじゃなくて。
魔力を黒妖に籠める。
残った魔力のほとんどを注ぎ込んだ。
手に握る黒妖が更に輝きを増す。
既に目くらましになるほど眩しい。
【王の剣】は魔力を使って次の一撃を強化するスキル。
そして【撃龍閃】は物理攻撃の威力次第で威力が変化する。
【撃龍閃】は魔力を消費して威力を上げることも出来るけど、物理攻撃を強めた方が上昇幅が大きい。
逢魔の分も、全て次の一撃に注ぎ込む。
外しても、効かなかったとしても終わり。
正真正銘の賭け。
でも・・・だからこそ気分が高まる。
余計なことを、この一撃以外のことを、全て思考から外す。
魔法陣が強く輝く。
ついに発動するのかと思ったら、移動しだした。
二つの魔法陣がニーズヘッグの正面まで移動し、重なる。
どうやら攻撃を警戒してるみたい?
まぁ、それならそれで。
やることは変わらない。
【撃龍閃】用を残して、魔力を籠め終わった。
身体強化系の魔法でどんどん魔力が減ってる・・・あんまり時間はないな。
二つの魔法陣が合わさってより複雑な模様になった巨大な魔法陣。
それが眩く輝きだした。
まるで太陽がもう一つあるような、そんな感覚だった。
辺り一帯が赤に染まる。
世界そのものが色づいたような錯覚を覚える。
『グゥゥルオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』
蛇帝の咆哮。
大地が震え、頭を打つ様な感覚に陥る。
けれど、本気を感じさせるその轟音に笑みさえ浮かんだ。
「・・・光栄だな。蛇帝にそれだけの力を出してもらえるなんて」
この言葉は嘘じゃない。
全力だとは限らない。
だとしても、だとしてもそれに近い力を出してもらえる。
圧倒的な格上相手に。
それが素直に嬉しかった。
刀を上段に構える。
――――全てを切り裂き
――――悉くを両断する
――――遮るものを許さず
――――敵の全てを凌駕する
神経を研ぎ澄まし、全力で振る。
その一念だけを心に留める。
ニーズヘッグの魔法陣から、膨大な量の光が放たれた。
それは、天から降り注ぐ紅色の光。
まるで蛇帝のブレスを巨大化したような魔法。
途方もなく巨大な魔力の塊。
けれど、範囲が広い分、対抗できないわけじゃない。
大気を焼くような魔法を前に、心を鎮める。
黒妖を振り下ろした。
僕が今出来る、全力の一撃。
刀を振る直前、ニーズヘッグが身体を逸らしたのが見えた。
―――僕が思い描いた通りに
振られた刀身から、巨大な魔力の刃が放たれる。
赤い光線とぶつかった瞬間、膨大な魔力が唸り、一瞬も拮抗することなく白い魔力の刃が斬り進んだ。
けれど蛇帝の魔力は散ることが無く。
左右に分かれた魔力は、そのまま押し進む。
轟音と、破壊の波。
僕の立ち位置から数メートルほど離れた地面を紅い魔力が駆け抜ける。
全て終わった時には、僕の左右の地面が抉れ、消し飛び、深い崖になり―――
『ギャゥァアオオオオオオオオオオアアアアアアアアアア!?!?!!』
――――蛇帝の隻翼が、地に落ちていた。