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リアルチートは突然に _ゲーム初心者の最強プレーヤー_  作者: Lizard
第三章 蛇帝ニーズヘッグ
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三十八本目 蛇帝の怒り


『妙な気配がすると思って来てみれば・・・取るに足らない雑魚とは・・・我に手間をかけさせおって!!』


ニーズヘッグから怒気が漏れる。

それだけで大気が巨大な重量を持ったような錯覚を覚えた。


《グランドモンスター、『蛇帝ニーズヘッグ』との戦闘に入ります》


(・・・グランドモンスター?)

聞きなれない単語に首を傾げる。


「畜生ッ!!なんでこんなとこに・・・!!お前らぁ!全力で逃げろ!!撤退だ!振り返るんじゃねぇぞ!!」


ショートが叫ぶ。

戸惑いながらも多くの者が従った。

しかし、一部の者は恐怖から動けず、落下してきた岩石に潰されて死んだ。



「くっそ・・・!何だって今回に限って・・・!!」

「ショート」

「何だ!?今余裕ねぇんだが!?」


ショートに並走していたリューセイが声をかける。



「僕が足止めするから、とりあえず全力で逃げて」

「はぁ!?おまっ、足止めって―――」

「多分あいつがここに来たのは僕のせいだから。それじゃ、行ってくる」

「お、おいっ!!」



止めようとするショートの声を振り切り、ニーズヘッグに向けて駆ける。



(《ハイスピード》、《ハイストレングス》、《ハイディフェンス》、《竜腕》、《竜脚》・・・!!)


身体強化系の魔法をひたすらかけながらニーズヘッグの様子を観察する。



二二二二二二二二二二二二二二二二


『蛇帝ニーズヘッグ』 Lv???


十二体の最強種の一体にして蛇の王

二二二二二二二二二二二二二二二二


 Lvは見えない。

 まぁそれは予想通り。

 結局一人で戦うことになったけど・・・望むところだよ。



『む?なんだお前は・・・いや、この気配・・・』

「多分、僕が君の『探し物』だよ。ニーズヘッグ」

『ほう・・・我を前にして怯える様子もないとは・・・雑魚ではないようだな』

「どうだろうね」


肩を竦めてそう答えるリューセイに、ニーズヘッグは鼻を鳴らして睨みつけた。



 蛇にしては表情豊かだなぁ・・・


リューセイの暢気(のんき)な感想を知らず、ニーズヘッグが首をもたげる。

巨大な口が開いた。


ニーズヘッグが持つ真っ赤な舌の奥が黄色く光っているのが見える。

その輝きを生み出しているのは膨大な魔力。



「毒じゃないのか・・・」


 蛇だからナーガの同じで毒を吐くのかと思ってたけど・・・違うみたいだ。

 というかアレって・・・!?


今は攻撃の準備段階だろう。

その光景が、不意にナイアードのとある攻撃と重なった。



「―――まさかっ!!?――《竜棘(りゅうきょく)の盾》!!」


リューセイが防御用の魔法を行使したのとニーズヘッグの魔力が放出されたのはほぼ同時だった。

ニーズヘッグの魔力が収束し、急激に膨張。

一条の閃光となってリューセイへと迫った。

ニーズヘッグの攻撃・・・それは本来竜や龍が使う技。

ブレスだ。



ニーズヘッグのブレスが放たれると同時、リューセイの前に奇妙な壁が現れる。

真っ白な石のような何かの表面に、鉱石のような光沢を持つ黒い鱗が張られた壁。

ブレスと垂直になるように張られたその壁の中央には巨大な棘が生えている。

壁自体も平らではなく、棘と壁の端の間がカーブが描くようにへこんでいた。



リューセイが選んだ《竜棘の盾》という魔法は、〈ヨルム〉において複合魔法、または合成魔法と呼ばれる代物である。

元の魔法は【竜魔法】Lv10で習得出来る《竜骨(ドラゴンボーン)》と《竜鱗(ドラゴンスケイル)》、そして【錬成魔法】。

《竜骨》と《竜鱗》は防御用の竜の鱗と骨を生み出す単純な魔法である。

しかし単純であるが故に汎用性が高い。

元々体の表面に鱗や骨を形成するこの魔法を、【錬成魔法】を使って壁にする。

骨で土台を作り、その表面に鱗を張る。

奇妙な形はこの魔法が対ナイアードのブレス用に考案されたものであるからだ。



ニーズヘッグのブレスとリューセイの盾が衝突する。

ブレスが棘に正面からぶつかり、棘の頂点で分散される。

莫大な質量のブレスが壁の表面を伝い、受け流される。

逸らされたブレスは散り散りになって周囲の地面を焼いた。


この特殊な形状は、直線的な攻撃であるブレスに非常に強い。

棘も先へ行くほど魔力で固められている。




しかし、当然《竜棘の盾》も無傷ではない。

鱗が剥がれ、骨が削られ、中央の棘も先端が割れ始めていた。

支柱として地面に突き刺された骨もボロボロになり、元々あった場所から盾自体が数メートル後退していた。



『ほう・・・妙な防ぎ方をする。その魔法・・・竜の物だな?』


(あれ?僕が竜の力を持ってるのは気付いてなかったのか。

  ナイアードと違ってそこまで細かく分からないのかな?)



ニーズヘッグには答えず、ちらりと後ろを見た。

未だプレイヤー達の背中が見える。

リューセイが躱せる攻撃を態々(わざわざ)受け止めた原因がこれだった。

もしも先ほどのブレスを止めていなければ、多くのプレイヤーがその一撃で葬られただろう。



(かなり魔力使ったな・・・回収しておくか)


《竜骨》と《竜鱗》は魔力で骨と鱗を形作る魔法である。

そのため、残っていれば魔力としてある程度は回収できる。

しかし、当然ながら生み出して回収するだけでも使った魔力が全て帰ってくるわけではない。

骨と鱗を形作る分の魔力は戻るが、魔力を変換する際の、いわば燃料となる魔力は戻ってこない。

加えてニーズヘッグのブレスにより破損した分は回収することが出来ない。

最強種の一角の攻撃を防ぐ盾だ。回収しても消費した魔力量は大きかった。



リューセイが盾を吸収した瞬間、ニーズヘッグが閉じていた口を開く。

先ほどよりも少ないが、それでも人間を消し飛ばすには十分すぎる魔力が煌々と口内で輝いていた。

リューセイが顔を驚きに染めた瞬間、二度目のブレスが放たれた。



抉られるように地面が消し飛ぶ。



『我の前で油断するとは・・・愚かな』

「してないさ」

『む――ッ!?!』


消し飛んだ、と。そう判断したニーズヘッグは、油断していた。

自分で馬鹿にしたように。

声が聞こえたのはニーズヘッグの顔のすぐ傍。

慌てて動いたところで遅すぎた。



――――ガアアアアアッ!!??


魔法で作り出した音ではない、ニーズヘッグの素の鳴き声が轟く。


ニーズヘッグの身体は異常なまでに硬い。

故に傷つけられることなど滅多にない。


久しく感じていなかった痛みに呻いていたニーズヘッグは、左の目が見えないことに気付いた。

同時にズキズキと響くように目の奥が痛む。



――――GGRUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!



ニーズヘッグの怒りの咆哮が大地を揺らす。

音が駆け抜けた地面に罅が入った。



「煩いなぁ・・・」


鬱陶しそうにそう呟いたのはニーズヘッグの目を潰した張本人だ。

【風魔法】と強化した身体能力を用いてニーズヘッグの身体を駆けのぼり、魔力を流した黒妖を瞳に差し込んだ。

そのついでに目の奥を【火魔法】で焼いた。




(痛そうだなぁ)


どこか他人事のような感想を思い浮かべながらも、冷静に勝ちの目を探った。

しかし、ニーズヘッグの怒り狂った顔を見た時、額から冷や汗が流れた。



「そのサイズで回復するとは・・・とんでもないね」


そう、先ほど抉った筈の目が治っていた。

まだ完治はしていないが、明らかに傷跡が小さくなっている。



(一番脆いはずの目があの硬さで・・・しかも回復するって・・・)


半ば呆れた表情を浮かべて目の前の存在を分析する。

ニーズヘッグの眼球の硬さは信じがたいほどだった。

石、または鉄に匹敵するほど。

眼球は生物の身体の表面で最も柔らかいと言っても過言ではない。

恐らくそれはニーズヘッグも同じだろう。

それが石や鉄ならば、鱗や肉はどれほどなのか。



「いや、それともゲームらしく弱点でもあるのかな・・・?」


そうは思えないな、と苦笑いしながら自分の言葉を否定した。

ニーズヘッグは圧倒的な存在。

BFOはショートが言う他のゲームと違い、『現実的なファンタジー』の様に思える。



(そう都合よく弱点があるなんて・・・無い気がするんだよなぁ)




ニーズヘッグが鎌首をもたげる。

勝つ方法を探る時間もなく。

ただの蛇とは違う、幾層にも連なる牙が迫る。



 【風魔法】でブースト(後押し)しながら地面を蹴って回避。

 地面にニーズヘッグの牙が突き刺さり、それでも止まらずに地面を砕いて進む。

 土煙で首から上が見えなくなった頃、ようやく止まった。

 衝突の衝撃で周囲の地面もまとめて弾け飛ぶ。

 僕が立っている地面もガラスのように割れた。


(大きさや重量だけじゃない・・・体中筋肉の塊って感じだなぁ)


 降り注ぐ巨大な質量を持った岩石を躱しながら、思考を巡らせる。


(あの身体をどうやって斬るか・・・そもそも普通に斬ったところですぐに治るだろうし・・・魔法、も通らないだろうなぁ)


 それなら・・・内側から壊すしかない。



 埋まっていた首を外に出して憎悪の視線を向けるニーズヘッグを一瞥し、魔法を構築する。

 必要なのは胴体に辿り着く時間。

 最高の手段(一番良い)のは・・・目くらましだ。



「《豪炎の槍(フレア・ジャベリン)》」


右手を開き、振りかぶる。

その指一本一本の先に、圧縮された炎の槍が現れる。


見た目は細い枝ほどの大きさ。

その実数十倍の炎を圧縮して出来た超高温の槍。



 放り投げるようにして腕を振るう。

 5本の槍は線に見えるほどの速度で飛翔し、ニーズヘッグの顔に衝突する。

 その瞬間、着弾点から5か所同時に爆炎が広がり、顔を覆いつくした。



相手がただのモンスターであれば、それだけで戦いが終わっていたかもしれない。

しかしニーズヘッグとは悠久の時を生きる蛇の王。

その程度の攻撃では鱗をを焼く程度にしかならない。



「まぁ、目隠し出来ればそれでいい」



地面が砕けるほどの力で跳び上がる。

風魔法で加速しながら、水魔法で空中に足場を作り駆けあがる。

【水友の証】の効果。強く蹴れば崩れるが、一時的な足場としては十分に使える。


ニーズヘッグの頭上にまで昇ったところで、重力に身を任せる。

『風』で背中を押しながら、黒妖を真下へ向ける。

全身の力を利用して、刃を突き刺した。



「―――ハァァァッ!!!」

――――グァアアアアアア!?!


ニーズヘッグの悲鳴が辺りに響く。

間近で発生する大音量に鼓膜が破れそうになる。



「―――爆ぜろ!」


顔を顰めながらもリューセイは黒妖に魔力を流し込んだ。

ニーズヘッグの頭部に埋め込んだ切っ先から火魔法を発動する。


爆音と共にニーズヘッグの口から炎が漏れる。

身体を焼き進む炎。

更に流し込まれる爆炎。




「――《破砕》」


加えてリューセイが【龍堕衝】を使った。

このスキルは魔力で衝撃を生み出す至極単純なものだ。


内部に発生する衝撃、幾度にも重なる。


一層ニーズヘッグの悲鳴が大きくなる。

黒妖を中心として螺旋状に鱗が弾け飛ぶ。


更に追撃を加えようとしたところで、ニーズヘッグが振り落とすことを諦め、押しつぶさんと頭を裏返して地面に振り下ろした。



 咄嗟に黒妖を引き抜き、跳び退いた。



「さて・・・治るのにどれくらいかかるのか」


言いながらインベントリから魔力回復のポーションを取り出し、栓を外して素早く飲み干した。


「・・・美味しくないなぁ」


 言い表すなら薬草の味、だろうか。

 とにかく不味かった。

 まぁ、それはしょうがない。



瓶をインベントリにしまうと同時、()()が飛来した。

即座に跳び上がったリューセイの真下の地面が吹き飛んだ。



 目を見開いてニーズヘッグに視線を向けると、大蛇の周囲に煌々と光り輝く数十の球体が浮かんでいた。



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