三十六本目 討伐作戦
夢中になって自身の能力を試していたリューセイは、自身の視界にピコピコと点滅するメールのアイコンが表示されていることに気付いた。
メールの送り主はショート、内容はニーズヘッグの討伐に関してだった。
やっと来たか、と無邪気な笑みを浮かべてメールを読み進める。
そこに書かれていたのは集合場所と集合日時。
場所はマルトロスのエイフォルトとは反対側の門の外。
日時は明日の夜七時から、というものだった。
その後はスキルの検証を続けた。
従魔のデメリットも把握出来た。
使役とテイムの差は分からなかったけど、従魔は常に召喚しておけるのは一体だけ。
それ以上になるとどんどん魔力が減っていく。
加えて従魔の種族によって魔力の減少量も変化するらしいようだ。
不死飛竜を二体呼び出したら湯水のように魔力が無くなった。
結構魔力増えたと思ったんだけどな・・・
どうやら大量に従魔をつくることは出来ないみたいだ。
スキルを試し終えて満足したリューセイは、遠足前の子供の様に心を弾ませて就寝した。
翌日、帰宅したリューセイは即座にBFOにログインした。
強敵を相手にする以上、出来る限りのことを試しておきたかった。
集合時間までにゲーム内ではまだ二時間以上の時間があったので、アンデッドワイバーンの騎乗訓練やアークとの模擬戦で時間を潰した。
付与魔法でアークを僕が出来る限界まで強化したけど、それでも物足りない。
アークが申し訳なさそうに落ち込んでいた。
僕はアークを鍛えることに決めた。
暗黒騎士であるアークのステータスは僕よりも高い。
それなら必要なのは技術だ。
Lvを上げるのもいいかもしれない・・・モンスターがモンスターを倒しても上がるかな?
張り切って修行方法を考える僕をアークが引き攣った顔(仮面で見えないから予想)で見ていた。
何でだろう。
アンナとテッド(不死飛竜 雌・雄)も模擬戦に誘ったら情けを求めるような目で見てきた。
解せない。
二頭ともアンデッドとは思えない見た目だけど、炎を吹くことが出来ないらしい。
理由はアンデッドだから。
鱗が健在だから炎の攻撃に弱い、ってことはないみたいだけど。
やっぱり体の中は炎に弱いらしい・・・気を付けないと。
《死霊創造》で創ることは出来るけれど、やっぱり死んでほしくない。
アークとグリム(黒霊妖馬)、それにアンナとテッドには愛着があった。
ゾンビ達のことは聞かないで欲しい。
いつか消費魔力の問題を解決して全員で模擬戦を出来るようになれば・・・!!
そう言ったら全員が引いていた。
何故に。
もう少し練習したい気持ちを押さえながら、マルトロスへ転移した。
どうせならアンナかテッドに乗っていこうかと考えていたリューセイは、ナイアードと話していた姿を見て絡んできた男を思い出してやめた。
「すみませんが、この辺りにポーションを売っているお店はありませんか?」
「ポーション?それなら―――」
街行く人からポーションを販売している店を聞いたリューセイは、集合時間を意識しつつその店に向かった。
店の名前は『水龍神の鱗』。
ナイアードはかなり崇められてるみたいだ。
ポーション関係なくないかな?一応薬屋って話なんだけど。
言われた通りの道を進むと、水色の壁をした建物に辿り着いた。
ふとその壁が何で出来ているのか気になった。
店の雰囲気や造りが歴史を感じる古めかしい様子なのに、壁から塗料が剥げた様子が一切ない。
多分これは素材の色何だろう、と考えて集合時間のことを思い出す。
あまり遅れるのはよくないだろう。
足早に店に入る。
チリン、と心地よい鈴の音色が耳に入る。
店内にいたのは優しそうな雰囲気の銀髪の老婆だった。
リューセイが軽く会釈をすると、相手も同様に返した。
(―――?なんだろ)
その仕草と纏う雰囲気にリューセイはどこか違和感を覚え老婆を見る。
あまりじろじろ見るのも失礼だと考えたリューセイはすぐに視線を店内の商品に移した。
置いてあったポーションは主に二種類。
どちらも試験官を短くしたような小瓶に入っている。
一つは赤い蓋をした体力回復ポーション。
品質によって色合いは異なるものの、どれも赤に近い透明な液体が入っていた。
もう一つは青い蓋をした魔力回復ポーション。
体力回復の方と違いどれも青系統の色だった。
鮮やかな液体を見つめ、意外とドロドロしてたり濁ってたりしないんだな、と考えながらも品質を見て回る。
置いてあるものの中で最も高いものは(品質:普通)だった。
それでも値段は5000Gとかなり高い。
それ以外は(品質:劣)というもので、こちらは2000G。
二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二
〈体力回復ポーション(品質:普通)〉
HPを最大で20%回復するポーション
傷の上に振りかけるか、飲んで使う
飲んだ場合は全身の傷が満遍なく回復するが、振りかけた場合はその部分だけを回復する
一度飲んでから三分間飲むことは出来ない
二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二
普通の方でこんな感じだから・・・イベントの(品質:最良)はかなり高価で手に入りにくいものだったんだろう。
まぁ今更気にするものじゃないけどね。
魔力回復ポーションは飲む以外だと意味がないみたい。
魔力回復ポーションと体力回復ポーションをそれぞれ五本ずつ、どちらも普通の品質の物を買った。
その後リューセイは老婆のことを特に気に留めることなく店を出た。
集合場所に辿り着いた時には既に相当な人数が集まっていた。
全部で五十人近くいると思う。
見れば蓮華さんの聖天騎士団の姿もあった。
ショート達、紅鎧の姿を見つけたリューセイは声をかけた。
「やぁショート。楽しみだね」
「おう!・・・普通は緊張すると思うぞ」
「あら、数日ぶりね」
「やっぱり来たか!!Lvも相当上がったみたいだな」
「上がりすぎな気もするが・・・」
まぁイベントでね、と紅鎧の面々と親し気に言葉を交わすリューセイを見て周囲のプレイヤー達は首を傾げる。
あれ、コイツなんか見たことないか、と。
イベントにプレイヤー側で参加した者達はほとんどがリューセイと戦っているのだが、髪の色が変わったせいで気付いていない者、恐怖で記憶を抹消している者、気付いていながらも冷や汗をかいて視線を向けないようににしている者など、理由は様々であるものの、リューセイに話しかける者はいなかった。
何度も自分達が負けている相手に挑むことを無邪気に楽しみだというリューセイをほとんどの者は奇異な目で見ていた。
冷や汗を流している者以外。
現実時間で夜七時、作戦が開始された。
全員の前に立って開始宣言をしたのはなんとショートだった。
"紅鎧"の二つ名通り深紅の鎧を纏ったショートが声を張り上げる。
「お前らあぁぁ!!今日こそあの蛇野郎をぶっ倒すぞオオオオ!!!」
「「「「「オオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」
それぞれが武器を掲げ、雄叫びを上げる。
マルトロスの住民が何事かと騒ぐ中、プレイヤー達は憎きニーズヘッグ討伐のために歩き出した。
ニーズヘッグの居場所まではモンスターがいないらしい。
まぁ、とんでもない化け物らしいからそれも分かるけどね。
それよりこれ・・・ご近所迷惑考えてる??
『従魔について』
使役状態の従魔がいると魔力が減少する。
減少量は一匹ならどの種族でも回復量が上回る。
しかし二匹目からは消費量が一気に上がる。
その増加量は種族によって変化する。
呼び出した順番や使役した順番に関係なく弱い種族が一匹目としてカウントされる。
二匹目からも弱い種族順。