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リアルチートは突然に _ゲーム初心者の最強プレーヤー_  作者: Lizard
第二章 ボス(プレイヤースキル的な)
29/65

二十九本目 擬竜の咆哮

――どうしてこうなった。


今、僕の目の前には合計11人のプレイヤーがいる。


「お前らっ!!さっさとコイツぶったおすぞ!!」

「「「「オオオオオオオオオオ!!!」」」」


「近づかせるな!大鎌の間合いに入るんじゃねぇ!!」

「畜生ッ!魔法の詠唱なしとか卑怯だろ!!」

「これが……()()()()……」


これだよ。

さっきから彼らがしきりに叫んでいるこの言葉。

"黒の悪魔"。

もう一度言う。どうしてこうなった。


(僕ってそんなに怖く見えてるのかなあ……)


真剣にそんなことを考える。


雰囲気を出すために黒妖を大鎌に変えたのはあるけど。

それにしても……出会い頭に「ヒィッ!?」って悲鳴をあげるのはどうなんだろう。

そんな人を化け物みたいに……失礼な人たちだなぁ。


既にイベント二日目が始まって三時間近く経過している。

一日目はまだ良かった。

しかし、二日目になると妙な二つ名で呼ばれることが多くなった。

一番多かったのが"死神"。

それ以外にも"黒の悪魔"だの、"魔王"だの、"黒鬼"だの、酷いものでは"黒い怪物"なんてのもあった。

誰が怪物だよ、誰が。


黒が多く入ってるのは、十中八九僕の見た目のせいだね。

黒髪、黒いコートに赤と黒の大鎌。

黒髪も大鎌も「この方が雰囲気ありそう」なんて安易な考えで変更した。


今思い返すと本当に安易だった。

実はこのイベント、始まった時点からボス側の装備や見た目は変更出来ない。

その代わり壊れても壊れた時点で僕のいるボス部屋にいたプレイヤーを全滅させれば自動修復される。

これはありがたいと思うんだけどね。


まさか髪の色を戻すことすら出来なくなるとは思わなかった。

僕の髪が黒くなっているのは、〔髪染め玉・黒〕というアイテムを使ったから。

「髪を黒にしてみよう」と考えた僕はその方法を探した。

結果、すぐに見つかった。というかどの街でも売ってた。

見た目は小さい黒球だけど、特殊な粉を固めたものらしい。

頭の上で割ると粉が髪に付着して黒くなる。

本来ならゲーム時間の一日で元の色に戻る。


けど、『イベント中見た目を変更出来ない』という制約のせいで戻らなかった。

どうなってるんだコレ……

考えても意味がない、ということで戦い続けた結果があの名前。

なんでだ。



そんなことを考えながら、淡々と敵を切り捨てる。

イベント中、強いプレイヤーはほとんどいなかった。

魔法使いは詠唱が長すぎて隙だらけだし、剣士や重戦士は首か足元、大抵どっちかを簡単に攻撃することが出来た。そんな相手ばかりだった。

たまに強い人もいたけど……カイルと比べるとどうしても弱く思える。

そもそも戦闘力上位12人は今回のイベントでボスやってるからなぁ。


だから僕が期待してるのは強い()()()()

ショートいわくパーティとして有名なのは三つ。


『川上特攻隊』

『黒炎小隊』

『勇者パーティ』


ちなみに全部通称。

決して本人たちが名乗っているわけではない、らしい。

既に川上特攻隊と黒炎小隊とは戦闘済み。

川上特攻隊はその名の通りリーダーの『KAWAKAMI』さんを筆頭にして特攻しまくってきた。

硬い鎧で身を包んで後先考えない特攻。動きが単調すぎたから避けるのは難しくなかった。

パワー系のモンスター相手なら有効かな。

自爆魔法を使って最終的に自爆。


黒炎小隊は黒い鎧に身を包み、二人の前衛が敵を食い止めて残り四人が火属性の魔法を撃つ。

数の多い相手やモンスターにはいいと思う。

けど僕の場合は一人だけだし前衛の間をすり抜けて後衛を倒すのは難しくなかった。

最終的に焦った後衛が前衛に全力の魔法を当てて自爆。


そして残る勇者パーティ……未だに来ていない。

もうすぐイベント終わっちゃうんだけど……まさか来ないってことはない、よね?

ちなみにこのパーティは男一人の女五人という異色のパーティらしい。

この場合紅一点とは言わないよね。なんて言うんだろう?


まぁそれは置いといて。

勇者パーティの名前の由来はリーダーの男性が持っている剣が「なんか聖剣っぽい」という理由らしい。

適当すぎない?

ショートはパーティメンバーの女性割合も理由の一つって言ってたけど……どういうことだろ。


とにかく、その勇者パーティがまだ来てないんだよなぁ……。



「ガッハ!?」


と、そんなことを考えていたら殲めt、戦闘が終わった。


さて、次の相手は誰かな?


戦闘が終わった瞬間、扉が開いた。

どうやらもう次が来てたみたいだ。


入ってきたのは六人組。

男性一人に女性五人。全員が若く、多分僕と同じくらいの年齢。

男性は金髪に金色の甲冑、美しい装飾の金色の長剣を持っていた。


……派手だなぁ。

というか特徴が"勇者パーティ"と被ってるな。

もしかして?


「情報通り大鎌に黒ローブ、コイツが"死神"のようだ!!」

「ユーヤ。なんだって関係ない。さっさと倒すだけ」

「油断はダメだよ~」

「油断じゃない」

「打合せ通りに行くぞ!」


六人が一斉に武器を構える。


「君たちが勇者パーティ、かな?」

「おおう?そんな風に呼ばれてるな」

「不本意ながらね!!」


やっぱりか。タイミングいいなぁ。

というかその呼び名はやっぱり嫌なんだ。


「そうか・・・じゃあ、ちょっとだけ試させてもらうよ」

「――?何をだよ」

「まだイベントで使ったことのない奥の手、かな」

「は?」


口角が上がるの感じた。

まぁ、楽しみになるのも仕方ないよね。


―――全力を試させてもらおうじゃないか。


「〔願いは力、欲するは鱗――〕」

「――ッ!メル!!リリア!!」

「分かってる!」

「了解。〔水よ、流れるままに敵を穿て《アクアランス》〕!!」


 詠唱を開始する。

 この魔法は詠唱が少し長い。


空気を切り裂き、矢がリューセイへと迫る。

矢を追尾するように水の槍が飛来する。



首を傾け、詠唱を続けながらも大鎌を振るう。

その動作だけで矢は顔の横を通り過ぎ、水の槍は切り裂かれ、弾ける。


「〔竜よ、その半身を我が身に宿せ〕」

「嘘っ!?」

「化け物ッがぁっ!!」



勇者パーティの面々には、はっきりと焦燥が浮かんでいた。

ユーヤと呼ばれた男が詠唱を止めんと斬りかかる。

しかし、その全てが弾かれ、()なされ、受け流される。


「〔腕、脚、体。竜の体躯は顕現せり〕」

「――ッ!?このっ!ふざっけんなぁっ!!」


ユーヤは必死に斬りかかるが、どうやっても当たらない。

魔法は詠唱が長ければ長いほど、威力や効果も上がる。


『闇夜の獄宮のボスプレイヤーは無詠唱で魔法を使う』


広まっていたその情報のせいで、ユーヤは余計に焦っていた。

そして、詠唱しながらユーヤの攻撃を軽くあしらうその姿はさらにユーヤの焦りを加速させ、それ以外の五人はあまりに異常な光景に呆然としていた。



 詠唱の終盤。既に僕の体の一部は竜の(ソレ)へと変わりかけている。


「《半・竜化(ドラゴニュート)》」

「うおっ!?」

「「きゃぁっ!?」」


詠唱が終わり、リューセイの体から衝撃が走る。

剣を振り下ろそうとしていたユーヤは踏ん張ることが出来ず、パーティメンバーの(そば)まで吹き飛ばされる。

食い入るように見ていた五人の女性は衝撃に眼を閉じて手で覆った。


六人全員がリューセイの姿を見ようと瞼を持ち上げ、呆然とした表情を浮かべた。



リューセイの頬が黒い鉱石のような鱗に覆われ、人間にはない捻じれた角が側頭部から生えていた。

水色に輝いていた目は金色に怪しく光っている。

ローブの(そで)が無くなり、露わになった腕は光沢のない漆黒の鱗で覆われ、大鎌を掴む手には鋭い爪が伸びていた。

足元には履いていたブーツの姿はなく、代わりに力強い爪の生えた黒い竜の足へと変化していた。

あまりの変化にユーヤ達は武器を構えることも忘れ、その姿に見入っていた。



「ゥルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」


大地を揺るがす咆哮が(とどろ)く。

鳴り響く大音量は最早人の物ではなかった。


その時になってようやく勇者パーティの六人は武器を構えた。

半ば反射的な行動だった。

―――が、それ以上体が動かなかった。絶対的強者の圧力を前に手が震え、ゲームだということも忘れて涙目になり、身体は完全に硬直していた。



(勇者が恐怖で動かなくなるとはね……いや、それよりもこの魔法、やっぱり気が昂っちゃうみたいだな)

頭の片隅の冷静な部分でそんなことを考える。


ちなみに、この魔法は発動時のMP消費1500、10秒毎にMP消費200、最大発動時間30秒というものである。ハッキリ言って完全なコスト過多。杖刀がなければ発動することすら出来ない。

それどころか、リューセイが気づいた黒蛇の杖刀のとある能力がなければ発動は出来なかった。

故に長時間発動することは出来ず、超短期決戦型。それがこの魔法である。



(というかコレ、絶対やりすぎたな)


リューセイは確信した。



未だ音が反響する中、リューセイが足を踏み出す。

恐怖の中でユーヤ達は、そこまでを()()()()()


次の瞬間、ユーヤを含む三人が光になって散った。


「・・・え?」


その言葉を漏らしたのは残る三人の内の誰か。

目の前には片手で大鎌を振りぬいた体勢のリューセイがいた。


(不味いな・・・これ以上やるとこの娘達の生活に支障が出そうだ)


リューセイは自分がやったことを悔いた。

本当はもう少し手加減して時間を引き伸ばすつもりだったのだ。

しかし、《半・竜化》は戦意を向上させる効果がある。

この魔法に慣れればその効果は抑え込めるが、リューセイはまだ数回しかこの魔法を練習していなかった。

むしろ冷静な思考が多少残っているだけ凄まじいとも言える。


目の前の三人に視線を向ける。

完全に戦意を喪失し、涙目になって顔を青くしていた。


(腰が抜けるってゲームでもあるんだろうか・・・)


そんなことを考えながら、魔法を解除した。


「あー……ごめん、ちょっとやりすぎた」

「「「ひっ!?」」」

「……」


完全に萎縮し、三人で固まって震えている。


(どうしよう……)


流石にこの状況で容赦なく大鎌を振るうのは抵抗があった。

戦意のなくなった相手と闘っても意味がない、という思いもあったが。



「うぅ……うえぇ」


ついには三人の内の一人が泣き出してしまった。


(本当にどうしよう……)


流石に焦り、なんとか宥めようとするがイマイチ効果がない。

ついさっきまで殺す気全開だった相手に突然「落ち着け」と言われても落ち着けるわけはないのだが。


「ごめんね。もう何もしないから泣き止んでくれないかな?」

「ひぐ……うぅ……」


 同い年……ぐらいだと思うんだけどなぁ。


声を出して泣いているのは一人だけだったが、残る二人も顔を蒼白にして蹲っていた。

その様子に思わずリューセイは妹を思い出した。

幼い頃はよく泣いていた妹を。


気付けば、リューセイも意識しない内に微笑を浮かべ少女の頭に手を伸ばしていた。


「……ふぇ?」

「――っと、ごめん。ええっと、妹を思い出してね」

「――――!!」

「わっ、ごめん。ダメだったかな」


咄嗟によくわからない理由を述べる。

頭をなでられた少女が顔を赤らめ、俯いた。見れば耳まで真っ赤に染まっている。

年の近い女性の頭をなでるのは失礼だったか、と慌てて手を放し、謝罪を口にする。

リューセイの様子がおかしかったのか、他の二人は涙を拭って顔に笑みを浮かべていた。


「何だか戦う気が失せちゃいました……どちらにしろ勝てないと思いますが」

「そうッスね……強すぎッス……というか戦闘時とそれ以外のギャップが凄いッスね……」

「あはは……僕ってそんなに怖い?」

「「それはもう」」


リューセイは困ったように頬をかく。

全面的に肯定されては、苦笑いするしかなかった。


「ところで名前、聞いてもいい?」

「……分かりました。私は"レイア"です」

「"ラックル"ッス」

「……」

「ほら!ネアも自己紹介ッスよ!」

「――ハッ!」


放心していた少女が頭を上げ、やや顔を赤らめながらリューセイを睨む。


「よくもアタシの頭を……!」

「ごめんごめん。ついね」

「~~ッ!!」

「ネアちゃん!」


リューセイの態度に食ってかかろうとした少女をレイアが宥める。


(どうやら恐怖はなくなったみたいだね……斬った三人には悪いことしちゃったなぁ)


流石にあの魔法を使う必要はなかった、と今更ながらに後悔する。

何せあの魔法は発動中、弱いモンスターなら逃げ出すような魔法だ。


「……ネアよ。よろしく……」

「よろしく。僕はリューセイ」


後半は細々とした消えそうな小声だった。



「よろしくね。……ところで、どうする?君たちが戦いたければもう一回相手になるよ。……僕としては気が進まないけど……」

「……どうします?私としてはやめとくべきだと思うんですが」

「戦いたくないッス……負けるのが目に見えてますし」

「……アタシも、かな……」


(あれ、意外だな)


先ほどの様子からネアは挑もうとするんじゃないか、というのがリューセイの予想であった。

しかし、当のネアは尻すぼみの声を発した後は俯いてしまっている。


「戦わずに終わる方法ってあるの?」

「リタイアシステムがあります」

「へぇ、そんなのがあるんだ」

「はい。今なら使えるはずです」


それは助かるなぁ。


「それなら、お願いできる?」

「分かりました……」

「リューセイさん!また会いましょうッス!!」

「うん?分かった」

「あ、えっと私も――」


ネアが言い切ることは無く、三人の姿は消えた。


「さて……イベントの方はどうなったかな」


時間を見ると、イベント終了5分前だった。

その後、他のプレイヤーが来ることは無くイベントは終わった。

レナ⇒レイア

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