二十八本目 闇夜の獄宮
無双回(´・ω・`)
――イベント開始から12分
"闇夜の獄宮"内部にて――
一つのパーティが暗闇の中、宮殿の最奥、その扉の前へと到達した。
彼らは六人の現実でも仲の良い学生パーティであった。
しかも平均Lvは58という、BFOの最前線でも戦えるLvである。
「やぁっとついたぁ~~~!!!」
「って言うほどかかってないでしょ」
「思ったより楽勝だったな!」
三人の男女が口々に喋り出す。
ボスを目前にすれば、気分が高揚するのもおかしくなかった。
「ちょっと!!油断大敵!いつまでも気を抜いてちゃダメよ!!」
それを注意したのは気の強そうな女性、と言うにはまだ若い、中学生ぐらいの女の子だった。
「でもよー、ここまで雑魚ばっかだったろ?ボスだって大したことねーんじゃねーの」
それに対して明らかにボスを舐めた態度を取っているのは、盾役の少年である。
「おいおい・・・このイベントの内容を忘れたのか?」
「そうだね、このイベントはプレイヤーがボスを務めるんだ。言っただろう?戦闘力上位の12名の内の誰かだよ?油断していい相手じゃないし、詳しいことは分かっていないけどボスだけステータスが強化されてるかもしれないって」
「それはそうだけどよー・・・」
少年を諭すように宥めるのは、軽装に剣を持ったの少年。
冷静に状況を俯瞰してみることが出来るこの少年は、このパーティのリーダーを担っている。
リーダーの少年が言っているのは間違いなく正論と言えた。
実際はこのダンジョンのボスは一切BPを自身の強化に使っていないので、その点では間違っているが。
しかし、重戦士の少年が文句を言いたくなるのはある種当然のことだ。
これまでの道中で現れたモンスターの最高Lvは30、素材も大して喜べるものはなかった。
このパーティはいくつかのダンジョンに挑戦している。
そのせいで通常モンスターの強さでボスの強さがある程度決まる、という感覚が根付いているのだ。
「ねー、もういいからさっさと入っちゃお?どんな相手でもボコればいいっしょ?」
「・・・まぁやることは変わらないけどね。油断していい相手じゃない、ってことは覚えておいて」
「はいはーい」
リーダーの少年の苦悩が増す中、彼らは扉を開き、中に入った。
扉の中は、一見屋上に見える円形の広間になっていた。
しかし、円形の縁には壊れた壁があり、扉の上部の壁に残っている石煉瓦が元は屋根のついた場所であった表していた。
六人から見て円の反対側には、死神が持つような鎌を片手に携え、黒いローブを纏った黒髪の男が笑みを浮かべながら佇んでいた。月明りに照らされた端整な顔つきが妙に不気味に見え、六人は緊張感から唾を飲み込んだ。
その青年が持つ鎌は、刃の色がまるで血のように赤かった。
《ダンジョンボス『リューセイ』との戦闘に入ります》
「やぁ、ここに来たのは君たちが初めてだね」
「え?は、はい」
まるで近所の子供に話しかけるような気軽さでかけられた言葉に戸惑いながらも、リーダーの少年だけは言葉を返した。
「それじゃ、構えて」
黒髪の青年の言葉が終わった瞬間、まるで巨大なモンスターを前にした時の様な威圧感が男の体から湧き出た。
少し前までの戸惑いは既に無い。六人全員が剣を、弓を、杖を、各々の武器を構えた。
青年を注意深く観察すると、腰に一本の刀が差してあるのが見て取れた。
刀と大鎌という異様な組み合わせではあるものの、武器を持っていながら取り出さない相手に舐めているのか、という怒りが沸いた。
「始めようか」
青年が呟いた瞬間、青年の姿が消えた。
気付けばいなくなっていた、という方が正しいが。
「―――あッ!?」
「「「「「なっ!!?」」」」」
一番後ろで構えていた杖を持った少女が消えた。
青年とは違い、光に変わって消えたのだ。
突然の悲鳴に驚愕に目を見開き背後へ振り返るも、既に遅すぎた。
「がはッ!?なん、で―――」
振り返った先で見たのは、首に赤い線が描かれ驚愕と痛みで顔を歪める弓を持った少年の姿。
普段は冷静に状況を判断出来るリーダーの少年も、この時ばかりは相手が悪く、何が起こっているのか全く分からなかった。
散らばっていたら駄目だ、そう考えて指示を出すためやや震えながらも声を張り上げる。
「全員背中合わせに固まっ――ッ!!??」
指示を出そうとした時、首を打たれる激しい衝撃と共に数メートル程とばされた。
「「「コウタ!?」」」
驚愕に目を見開く三人を見据えながら、コウタと呼ばれた少年は首に手を当てた。
するとそこには、氷で出来た棒が刺さっていた。
自分のHPが減っていくのを感じながら、思考を巡らせる。
このままでは死ぬ、そう思った少年は急いで親指ほどの太さの棒を抜こうとするが、むしろHPが減るだけで一向に抜ける気配がない。
(ヤバい・・・これは・・・)
そう考えた時、少年の体は光に変わり消えていった。
残された三人はリーダーが死んだことに一瞬唖然としたが、最後の指示を守る為三人それぞれ別の方向を向きながら背中を合わせた。
黒髪の青年はすぐに見つかった。
未だ笑みを浮かべながら、重戦士の少年の正面に立ち止まっていたのだ。
重戦士の少年は恐怖に顔を歪めながらも、自身の本分を全うするため左手に持った盾を構えた。
青年が手に持っていた大鎌を振る。
大鎌の軌道から斬撃が飛ばされ、少年達へと迫った。
「ケンスケ!!」
「分かってる――おらぁっ!!」
ケンスケと呼ばれた少年は気合の声と共に盾でその斬撃を弾く。
残された三人は全員が前衛。
この状況なら問題ない――三人はそう思った。
否、そう思っていた。
「足元にも注意した方がいいよ」
「「「え?」」」
青年の声に三人はようやく自分たちの足が動かなくなっていることに気づいた。
三人の足を石が覆っていたのだ。
見れば、青年の足元から三人の足元までがわずかに隆起した地面で繋がっていた。
そして、急いで力任せにその石を破壊しようとした。
が――それが決定的な隙となり、三人は首に奔った痛みに苦悶の声を発しながら光になって消えた。
◇◇
リューセイは消えていく三人の少年少女を見つめながら、やや落胆の色を顔ににじませていた。
最初に六人がリューセイを見失った時、リューセイはある魔法を発動していた。
それは《竜脚》という【竜魔法】Lv6で入手した魔法である。
効果は《竜腕》の足バージョンである。
この魔法によって脚力を強化し、人が認識しづらくなる歩法を用いて六人の認識から完全に外れたのだ。
色々と試せたのは良かった。
「この方が雰囲気に合ってるかも」という理由で『黒妖』を変形させて作った大鎌を人間相手に使えたこと。
特に返しのついた氷の矢をリーダーらしき少年に使った時、継続してHPが減ることを確認出来たことも儲けものだった。
けれど、全体的に物足りなさを覚えた。
先ほどの六人は全員Lvが見えなかった。
つまり全員が自分よりLvが上なはずだったのだ。
にも拘わらず、終わってみれば実にあっさりとしたものだった。
このダンジョンは、ボス部屋に他のパーティが入っている間は入ることが出来ない。
一度に入ることが出来るのは18人だが、最初に開いてからすぐに閉じるようになっており、19人目以降は弾かれる。
一度ボス部屋の中に入ってきたプレイヤーを倒せば、MPやHPが回復するようにもなっている。
(自動で回復するシステムは便利だけど・・・今回はHPは減らなかったなぁ。まぁ、次はもっと強い人が来てくれることを願おう)
期待を胸に、再びプレイヤーがやってくるのを待ち構える。
――己が求める、『強者』がやってくるよう祈りながら。