花に名前はいらない
気まぐれ野郎のトンプソンは俺のアイデンティティ。機嫌がいいときは悪魔のように笑うが、機嫌が悪いときは屁をこいて空返事をする。
俺はイキったバーの前に立ち、トンプソンに合図する。今日は機嫌がいいみたいだ。
俺とトンプソンはバーの扉を蹴飛ばし、乱暴なリズムを店内に響かせた。俺の脳みそにアドレナリンとドーパミンが大量に流れ込む。トンプソンもいつも以上にボルテージが上がっている。
イキったガキ、ケバい女、カクテルを振る店番、バカな野郎どもを、棚に並べられたまずい酒と同様にぶちのめしてやった。
「おっと俺としたことが」と言わんばかりにトンプソンが俺に弾切れを知らせる。店内に目をやると、白いワンピースの寂しい女が血を一滴も浴びずにハイボールを飲んでやがる。
「こいつは俺が始末しよう。」俺はトンプソンに囁き、銃を納め、女に近寄った。女は手を取ってどこかへ連れて行って欲しそうな目で俺を見た。
「お望み通り。」俺は女の手を取りバーを出た。
バーを出たところで、俺は胸元からコルトを取り出し、女の心臓を撃ち抜いた。全身から力が抜け、地球に抱き寄せられる彼女の美しい表情は、俺に永遠という言葉の意味を理解させた。
「バカな女だ。」そう言って俺は女のポーチから拳銃を取り出し、幸せそうな女の唇に口付けをした。俺は女に背を向けると、ボルサリーノを被り直し、ダサいバーを後にした。