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猫又さまご一行、ご来店

 はい、マスター。

 キャノーラ油と、グレープシードオイル、オリーブオイルはエキストラヴァージンオイル、白絞油、大至急買って参ります!!

 ああ、お客さま。本日もようこそ。

 あっ、はい。本日は猫又さまご一行が急きょご来店でして、わたくし急いで油を買ってこなくてはならないのです。

 

 ――ユズリハさん。

 

「はい、マスター。すぐ行って参りまぁ~す」

 ではでは、お客さまわたくしはひとまず失礼いたします。

 

 

 

 

 宙をくるりと旋回すると、彼女は姿をくらます。

 なんでも、彼女がまともに使える二つの術のうちだとか。もうひとつは、人化の術だとかで、それを使いよく人間界に降りて買い物を楽しんでいるのだとこっそり教えてくれた。

 私はいつものカウンター席に着く。

 とマスターが心得顔で、

 

 ――どうぞ。いつものでよろしいですか?

 

 コトンとおしぼり。

「はい」

 私がそう頷けば、おしぼりでくつろいでいる間にお馴染みの『ジン・ライム』が差し出された。

 う~ん、まずはこれで喉を潤すに限る。

 そうして私は、店の奥でなにやら談義に花咲いている猫又さんたちの会話に耳をそばだてた。

 

 

 

 

 

「サラダオイルはやはり好いですな。この喉ごしがなんともいえません。

 それをいうと、最近(ちまた)で出回っている○コナなどというのは()しからんですよ」

「おや、わたくしめは健康のためエ○ナを愛飲しておりますが。・・・・・・慣れますとアレも中々」

「グレープシードオイルも健康に良いとか?」

「わたくしは、オリーブオイルのエキストラヴァージンがこの頃お気に入りですの」

「オリーブオイル!? いやいや、わたくしめはアレの、あの独特の味といいましょうか香りがなんとも苦手で・・・・・・」

「まぁ・・・・・・ふふっ。お年寄りにはあの風味の理解はご無理かしら」

「マスター、おかわり」

「君は相変わらずの悪食(あくじき)ぶりだね」

「重油のどこが悪いッ」

「悪い・・・・・・て君、重油など普通は口にするモノではないよ」

「油には違いあるめェ」

「まったく、わしは君のその趣味の悪さは到底理解できぬな」

「なんだとッ!」

「まぁまぁ、お二人とも。ここでの揉め事は厳禁ですわ」

「ふんっ」

「ケッ」

「あっ!? マイカイさま、ここは火気厳禁です!!」

 

 

 

 

 

 えっ? と思った時には既に遅く。

 

 

    ボォンッッ!!!

 

 

 火球が見る見るうちに膨らみ、迫ってくる。

 あぁもう駄目だと、私は思わず手をかざし目を瞑った。

 と、視界が黄金の光で覆われる。

 

 

 

 

 

「お客さま、大丈夫ですか?」

 恐る恐る目を開ければ、案じ顔のユズリハが私の顔を覗きこんでいた。

 ゆっくりと手を降ろす。

 そして、おもむろに自分の様子を確認した。

 うむ、怪我も火傷もない様子。多少、煤だらけの感は否めないが・・・・・・ははっ。

 

 

 

 

 

 まったく、びっくりです。

 お使いを終えて急いで帰ってきたならば、お店が火球に包まれているのですから。

 ああ、それにしてもそれを食されるマスターの金色なる姿のなんと神々しかったことでしょう。わたくしが同じ九尾狐などというのは、ホントとてもおこがましい気がいたします。

 ゆらゆらと舞う九本の尻尾も、大変うるわしゅうございました。

 そしてさすがです。

 お客さまは誰ひとり怪我をしておりません。見事な結界術です。多少煤で汚れてしまったご様子ですが、それもマスターが手を一振りすれば解決です。

 お店も、あっという間に元通りですよ。

 なんでも、お店は幻術の産物なのだそうで・・・・・・あっ、お客さまご心配なく。barで饗される物はすべて本物です!

 それにしても、マイカイさまにも困ったものです。

「あのさ、いつもなの・・・・・・?」

 あぁ~、はい。あの、いつもというわけではないのですが、たまにありますねぇ。

 

 ――まったく困りますよ、マイカイさま。今年に入って何度目ですか?

 

「て、マスター言ってるね」

 

 ――仮にも七長老のおひとりなのですから・・・・・・

 

「七長老って?」

 はいぃ~、マイカイさまは、猫又の七長老のお一人なんです。

 煙管(きせる)を好む方で、当店は火気厳禁なのですがたまぁにやってしまうのですよね。

 しかも今回は、重油好きのロウカンさまがご一緒だったのがなんとも・・・・・・。

 申し訳ございません、お客さま。わたくしがお客さまがご来店の際、一言ご忠告するべきでした。

 

 

 

 

 

 私は目の前で小さくなって頭を下げるユズリハを眺めた。

 確かに、あんな状況下で火気があればああなるのは、それこそ火を見るより明らかだ。

 だったら、先にその『マイカイさま』とやらの煙管を没収しておけばいいではないか、と私は心の中で静かに毒づいた。

「いいよ、いいよ」

 私はユズリハの頭を撫でる。

「いや、まったくいい経験をさせてもらったよ」

 フッフッフ。説教する九尾狐に、説教されている(しかも長老の)猫又。

 これだから、bar『FireWheel』通いは止められない。

 ということで気を取り直して。

「マスター、ウィスキー。ストレートでね」

 

 ――では、マイカイさまのツケで。とっておきのをお出しいたしましょう。



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