ゲームオーバー
俺は自分の部屋にいた。
俺はここが好きだ。俺は、ここにいる時だけ、『俺』という存在になれている気がする。
手の中には、使い慣れたコントローラー。それは目の前のゲーム機に接続されている。
俺は28歳のゲーマーだ。
ここ、間違えるなよ?あくまで『ゲーマー』だからな?間違っても『ニート』なんて言うなよ?
おっと、とか言ってるうちに勝っちゃった。
画面にはwinの文字が大きく表示されている。
「はぁ...流石に飽きたな...」
俺はここ数年、ずっとゲームばかりしている。
いいよな?好きこそ物の上手なれって言うしな。
現に俺は様々なゲームの大会に出ては連戦連勝、賞金も貰っている。そのため、親も俺に定職に就けとは言い難いのだ。
だって、ね?金は稼いでるし、文句無いっしょ。
おっとノックだ。この部屋に来る人は親オンリー。内容は基本飯かお使い。飯にはまだ早いからお使いかな?
「何?母さん」
「晩御飯のお使いに行ってほしいんだけど...」
やっぱりな。
普通の息子なら嫌がるだろう。だがしかーし!俺は親孝行なので断ったりしないのだ!
「オッケー、何買ってくればいい?」
俺は内容を聞き、金を貰って愛車サイクロン777号(自転車)を漕ぎ出した。
最近運動不足だからか体が重い...別に太ってる訳じゃ無いが、これだと太ってまう...
そんなことを思いつつ、地元のスーパーに向かう。あと踏切を一つ越えればスーパーは目の前だ。
その時、俺は見てしまった。小さな子供が、踏切の中に入っていくのを。
そして、何というグッドタイミングなのか、ちょうど電車が来てしまった。
更に、更にである。誰も気づいていないのだ。マジかよ...
と、まぁこんなことを考えながら俺は自転車を乗り捨て、走り出した。
俺の行動を見た人が線路の上を見て悲鳴を上げる。
それと同時に俺の足も悲鳴を上げる。
情けないことにもう息も切れ切れである。
それでも何とか子供を拾い上げる。が、既に目の前に電車が迫っていた。
その時俺がとった行動は本当に信じ難いね。
なんのためらいもなく、子供を放り投げたんだから。
飛んでいく子供と目が合う。まだ人生というゲームを始めたばかりの目だ。
俺はその子に一言。
「頑張れよ」
俺は、人生をクリア出来なかった...悔しいな。
俺は電車の車輪に巻き込まれ、肉片となった。
俺は、真っ暗な道に一人立っていた。
遠くに分かれ道がある。右は白く、左は黒く輝いていた。
あれか?天国と地獄の入り口か?
俺は迷わず右に進む。だって地獄なんか行きたくねぇし。
しかし、いくら歩いても近づいている気配が無い。それぐらい遠いのか、それとも...
とにかく俺は歩いた。歩いて歩いて歩きまくった。何が何でも行き着いてやる!
〜5分後〜
「はぁ、はぁ、も、もう無理...歩けない...」
なんとまあさっきまでの威勢はどうしたのやら。
てか、ここあの世だよな?なんで体力の概念があんだよ...
俺が腰を下ろそうとした時、突然、自分が落下する感覚を覚えた。
見ると、肩の下に緑と青に輝く穴があり、俺はそこに落ちたようだ。
俺の体は重力(そんな物がここにあるのかは知らんが)に従って落ちていった。
落ちて、落ちて、落ちる。
と、いきなり周りの色が変わった。
赤い何かがテカテカと光っていて、なんか気持ち悪いなぁ...
でも、何か安心と言うか、落ち着ける気分だ。気持ち悪い筈なのに...なんでだ?
気づけば体が落ちる感覚も消えていた。今は、水の中にいる感覚がする。
いきなり、体が押し出される感覚に襲われる。
目の前が真っ白になった。
誰かが俺を、触っている?いや、持ち上げているのか。
と、手の主はいきなり俺を逆さにしてブンブン縦に振り始めた。
(うおおい!やめろぉ!)
俺は叫んだ。確かに叫んだ。が、出たのはアバー、アブーとかいう情け無い声だった。
あ、あれ!?なんで声が出ねぇんだ!?
俺の脳裏を答えが過ぎる。ま、まさか...
俺は試しに、手を目の前に持ってくる。
俺の目に映ったのは、ゲームだこのある逞しい?腕ではなく、柔らかそうな、まるで赤ん坊のような手だった。
俺は確信した。
(俺、赤ちゃんになってる!?てことはまさか...)
頭に浮かんだのは一つの単語。
今まで幾度となくゲームやラノベ(俺は本も好きなのだ)に出てきた言葉が。
まさか、俺...
(転生しちまったーー!)
こうして、俺の二度目の人生がスタートするのだった。