86話 世界で一番愛している
――カキィーン
金属音の響く中、俺と貴族女は互いに攻め合う。
貴族女は細いレイピアノ様な剣を両手に持ち、俺に襲い掛かってくる。
そして、俺は防戦一方。もし突きをされてしまったらトンファーで防ぐのは難しい。
「あ、あはぁ! いい感じ! ねぇ、楽しいでしょ? もっと、もっと私を攻めてぇー」
狂っている。そんなに男が欲しいのか?
「なぁ、もうやめないか? 時間の無駄だろ?」
「あは、そんな事無いさ。もうじき貴方は私と一緒に……」
その目はとろんとしており、頬も赤く、息遣いも荒い。
そして再び俺に襲い掛かってくる。
貴族女の細い剣先が俺の肩を貫いた。
「うぐぅっ!」
思わず声を出してしまった。
痛い! 痛いんですけど! 大声出していいですかぁ!
「な、何故避けない……」
「お、お前の目的は何だ? 何がしたい?」
「わ、私は……。い、一度でいいから、デートが、遊園地でデートがしたい……」
貴族女の手から力が抜けるのが分かる。
「ちくしょ、痛いじゃないか。訴えてやる!」
さっきまでの威勢のよい動きが彼女から無くなっている。
そして、表情も落ち着いており、握っていた剣も鞘に収めた。
「す、すまない……」
「許さん、これは傷害事件だ。いや、殺人未遂だな」
びっくりした表情になる彼女。
少しだけ肩が震えている。今さら自分のしたことを理解したのだろう。
「一つだけ言う事を聞いたら見逃してやろう」
「見逃してくれるのか?」
「あぁ、ただし、俺のお願いを聞いてくれたらだ」
無言で頷く彼女はもう敵意はないようだ。
「一回、俺とデートしようぜ。いつでもいい、そっちの都合に合わせる。場所は、そうだな。遊園地でいいか?」
びっくりした表情になる彼女は、両手を重ね、そして顔を隠してしまった。
「な、何でよ……」
「んー、今日遊園地に来たが、彼女を上手くエスコートできなかった。遊園地での経験が欲しいんだな」
「……あなたバカでしょ? 良いよ。いつでも、私もいつでもいいから……」
そう話した貴族女は俺に連絡先の書かれた名刺を渡し、その服装のまま階段を下りて行った。
よし、これで邪魔者はいなくなった。
再び、自分の緊張感を高め、大きく息を吸う。
「か、薫! そこにいるのか!」
俺はベッドへ息を切らせながら走っていく。
薄いカーテンを開け、中を覗くと薫が寝いている。
肩をゆすり、声をかけるが反応はない。
し、心臓は動いているのかな?
ここは、胸に耳を当てないとダメだよね?
これは人命に関わる事です。しょうがないですよね!
俺はゆっくりと薫のにかかっている服へ手をかける。
ド、ドキドキしますね。いいですか? いいですよー。
突然後ろから声をかけられた。
「兄さん、何をしているのですか?」
目の前にはいないはずの由紀が。
何をしている? それはこっちのセリフですよ?
「へ? いや、その、鼓動の確認をしようと……」
「どいてください」
由紀は寝ている薫の手首に手をあて、スマホの時計を見ながら数秒計測する。
「大丈夫ですね、ただ寝ているか、気を失っているだけだと思います」
「そうか、良かった……」
「所で、兄さん。このままでいいのですか?」
「何の事だ?」
「薫さんや私とこのままでいいのですか? 早く深い仲にならないと、これからもっと大変になりますよ……」
そう、一言伝えた由紀はそのまま何もせず、扉の向こうに消えて行った。
一体なにしに来たんだ?
それよりも薫だ、早く起こさないと!
「薫! 起きろ! 薫!」
起きない。ふと、枕の隣にあるプレートに目が行く。
『お姫様は王子のキスで目が覚める』
……あれですか? 多分、あれですよね?
しょ、しょうがないなー。
寝込みを襲うのは趣味じゃないけど、しょうがないよね!
俺は薫の肩に手をかけ、そっと唇を重ねる。
「んっ」
薫から少しだけ声が聞こえた。
息を吹き返したのか! よし、もっとだ!
薫の口を俺の口でふさぎ、肩を押さえつけ動けないようにする。
段々薫の動きが激しくなってきた。よし、そろそろいいかな?
薫は手足をばたばたさせ、もがき始めた。
「ぷはぁー」
息を止めるのは結構大変だよね。
「な、何してるのよ! 息が止まるでしょ!」
「え? キスの時は息を止めるのがマナーだろ?」
「そ、そうかもしれないけど……」
起き上がった薫は、思ったより元気だ。
良かった、怪我とかもしていないようだ。
俺は起き上がった薫をベッドに座らせ、足をベッドの横に垂らしてもらう。
片方の靴が無い。
「ほら、足出して」
「ん」
俺は薫に靴を履かせる。サイズもぴったりだ。
そりゃそうか、さっきまで履いていた靴だしな。
「良かったな、無くさなくて」
「そうだね、良かった。何だかシンデレラのガラスの靴みたいだね」
「これは普通の靴だけどな」
二人で起き上がり、テラスの方に向かって歩きだす。
「何でこんな事になったんだ?」
「もう少しで分かるんじゃない?」
テラスに出た俺の目の前に大きな花火が打ちあがっている。
パレードのラストだ。
ん? おかしいな。
ツンデレラ城を背景に打ちあがるはずの花火が、何故目の前で見れているんだ?
「この花火、私達を祝福しれくれているの」
「マジか? なんでそんな事に?」
「最後のアトラクション、面白かった?」
「最後のアトラクション?」
「お姫様を助ける、王子様。眠った姫をキスの魔法で起こして、無くしたガラスの靴を履かせて――」
おいおい、まさか。まさか!
「お城のテラスで花火を背景に、キスをして、めでたく結ばれる……。さぁ、王子様、この後はどうするのかな?」
俺は無言で薫を抱き寄せる。薫の瞳に映る花火が、より一層薫の美しさを引き立てている。
「私、純一の事好きだよ。いつでも、ずっとそばにいてね」
「あぁ、わかっている。きっと、俺達はずっと、死ぬまで一緒だ」
再び唇を重ねる。お互いに目を閉じ、互いに好きあっている事を確かめるように。
下の方からファンファーレが聞こえる。
音楽隊がきれいな音色を奏でる。まるで、俺達を祝福してくれているようだ。
その音楽を聞きながら、俺達は夜空に消えていく花火を見ていた。
薫、俺はお前をずっと守っていくよ。この先、何があっても……。
――ガ ガガッ
「コードネームドルフィンです」
『作戦はどうだ?』
「ほぼ成功です」
『了解した。引き続きターゲットを警戒しつつ、任務につけ。以上だ』
「了解。あ、あと一つ報告が」
『どうした?』
「ターゲットが予定外の女性と接近し、デートの約束を」
『ちっ。わかった。それも監視対象だ。引き続き任務に』
「了解」
――ガ ガガッ
男って、めんどいな。
でも、一途に想って、真っ直ぐになって、頑張れる男はいいと思うよ。
それが、たとえ、一人でも二人でも。好きな心は変わらないだろ?
でも、真っ直ぐな、偽りのない心で相手に伝える事が必要なんだ。
それには勇気がいる。度胸がいる。相手を労わる心がいる。
純一。お前は、どこまで見ている? この先、どこまで考えている?
純一。私は、いつまであなたの側にいることができるの?
純一。私はあなたと、本当の意味で結ばれたいの。
純一。貴方は私を見てくれるの? もっと私を見てよ。
ワタシは、世界で一番、あなたのことを――
――アイシテイルノダカラ
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
これにて第一部完了となります!
第二部は学校生活と純一や母性の修業、その他追加キャラもあり!
第二部が気になる方は、是非ブクマや、評価、感想などをお願いいたします!
こんなキャラほしい! こんなシーンが見たい!
などありましたらどしどしご応募を!
それではこれからも、当作品をよろしくお願いいたします!





