077話 稽古の結果
俺の手には一振りの刀が握られている。
漆黒の刀はものすごく軽く、全く重さを感じない。
「純一様。やっと形にできましたね。でも、その力を上手く使えるか、これからが本番ですよ!」
レイは両腕で印を作り、目を閉じさらに瞑想をする。
次第に目の前の大蛇は大きくなり、さっきまでと比べ一回り大きくなった。
そして、新しい力を得たと思われる大蛇は、再び俺に向かってくる。
「レイさん。この大蛇を戦闘不能にしたら、この訓練は終わりでいいですか?」
刀を構え、俺はすぐに動ける体制を整える。
由紀は大蛇に絡まれ、さっきからピクリとも動いていない。
ぐったりとしていて、状況的にまずいと判断する。
「そうですね。初日ですし、そうしましょう!」
レイさんの声と共に、今まで以上の速さで大蛇は俺に襲い掛かってくる。
さっきまでの丸腰とは違い俺には今、一振りの刀がある。
俺に力を! 由紀を守る力を俺に!
大きな口を広げ、襲い掛かってくる大蛇に向かい俺は刀を払う。
「波っっっっ!」
胴体を切るつもりで真横に薙ぎ払った刀は、惜しくも空を切る。
ほんの少し距離が足りなかった。踏み込みが甘かった!
だがしかし、コンマ数秒の差で刀から黒い斬撃が大蛇に向かい、その胴体を真っ二つにする。
刀から黒い斬撃が飛び、大蛇に襲い掛かったようだ。
真っ二つになった大蛇はそのまま床に倒れ、全く動かなくなった。
同時に由紀を締め上げていた大蛇も消え、由紀は床に倒れ込んでしまった。
「や、やったのか?」
目の前にいた大蛇は消えてなくなり、道場はしばらく無音となる。
「じゅ、純一様。見事です……。初日でここまでできるとは、さすが奥様の息子ですね……。ぅぐ……」
レイさんは片膝をつき、口から少し血を吐きだしている。
そして、その場で仰向けに倒れてしまった。
「レ、レイさん!」
由紀を横目に、レイさんに走りより抱き抱える。
「じゅ、純一様……。見事な一撃でした……。わ、私の力を超える、その一撃はす、ばらし、かった……」
レイさんはそのまま目を閉じ、ぐったりしてしまう。
そ、そんな! ただの訓練じゃなかったのか!
あの大蛇を倒してしまったから! お、俺はなんてことを!
俺は半泣きになりながらレイさんを抱きしめる。
お、俺のしてしまった事が。まさか、こんなことになるなんて!
抱きしめるレイさんは、思ったより華奢で非常に女性らしいスタイルだ。
これが大人の女性か……。その唇には真っ赤な血が残っており、床に数滴落ち、血痕を作っていく。
数分経過しただろうか。そ、そうだ! 医者! 病院! いや、今すぐ救急車を!!
そう考えていると、後ろから声がかかってくる。
「兄さん。何とかなったんですね……」
由紀は少しぐったりしながら俺に歩み寄ってくる。
「由紀! 大丈夫か! いやそれよりもレイさんが! は、早く救急車を!」
無言で俺に近寄ってくる由紀はなぜか、黒いオーラをまとっている。
え? なぜに? この状況でそのオーラなんですか?
俺は少し目が点になりながら、近寄ってくる由紀をそのまま見ている。
「もうそろそろ目を覚ましたらいいんじゃないですかっ!」
そう叫んだ由紀はレイさんの頬をビンタする。
「アウチッ! な、何をするんですか! って、由紀様。お、おはようございます……」
「早く、兄さんの腕から! 離れなさい!」
由紀に無理やり立たされたレイさんは見た感じ元気そうだ。
あれ? そんなすぐに立ったら危険では?
「レイ。兄さんの腕の中で過ごした時間はどう? まさか血のりまで準備して……」
「え? いや、まぁ、その。居心地良かったです!」
半笑いのレイさんは思ったより元気そうだ。
さて、どういうこと??
「はぁ……。兄さん、騙されてはいけません。レイは元気で、血も吐いていません」
俺はレイさんの方を見ると、にこにこしながら口に着いた血? を拭いている。
「レイさん? その吐血は?」
「あ、これですか? 仕込みですよ。私は無傷で元気です!」
どうやら今回、俺の力を使えるようにし、最終的にはレイさんが俺に抱きかかえられるというように仕組んだらしい。
由紀の参戦は予想外で、そこは臨機応変に無力化せざえるしかなかったと。
にしては、やり過ぎじゃないですか?
「純一様。なかなかいい筋ですね。これなら入学までに何とかなると思います!」
レイは俺の手をにぎり、笑顔で話しかねる。
「あ、ありがとうございます。おかげさまで……」
そこに、由紀が割って入る。
「今日はもうお疲れでしょう! さぁ、部屋に戻りましょう!」
俺の腕を取り、由紀は無理やり道場から出て行こうとする。
「純一様! 明日は五時起きですよ! 五時にお部屋まで行きますからね!」
そう叫んだレイさんは笑顔で俺達を見送った。





