074話 力の具現化練習
部屋に入ってきた由紀は俺にスマホを渡す。
「設定完了です。何か分からないところがあれば、何でも聞いてください!」
終始ニコニコ笑顔で、接してくる由紀は何か大きなことをやり遂げたような表情をしている。
きっと、俺の為に色々と設定をしてくれたのだろう。
ここは素直に感謝しなければ。
「ありがとう、助かるよ。なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだが……」
まだ話の途中にも関わらず、由紀は俺の隣によって来る。
そして、腕をからませ俺に迫ってくる。
「何ですか? 何でも聞いてください。兄さんの為なら由紀の全てを教えますよ」
そう話した由紀はおもむろに服を脱ぎ始める。ワンピースの肩紐をサイドに落とし、細い鎖骨が見える。
俺はかるく由紀の腕を払いのけ、ちょっとだけ距離を取る。
「違う違う、そうじゃない。由紀のあの黒い竜ってなんだ? それと、同じような力って俺にも出せるのか?」
さっきまでニコニコしていた由紀の表情が一気に変わり、脱ぎかけた服も元に戻り始める。
無表情と言うか、少し冷めた顔つきになる。
「クーちゃんの事ですか……。兄さんには必要ない力ですよ。兄さんの代わりに、由紀が全てを払いのけます。ご安心ください」
「いや、俺にも自分を、由紀や薫を守る力が必要なんだ。頼む、教えてくれ」
俺は由紀の前に立ち、頭を下げる。
「あ、頭を上げてください! そんなこと……。わかりました。私の知る限り教えます」
――
軽く由紀から話を聞き、俺にも多分同じような事ができるかもしれないと結論付ける。
守りたいという想いを自分の中で固め、思い描いた形にする。
その形は多種多様。女性は動物系が多いらしく、本能に従っているらしい。
男性は主に剣や槍、弓とかなぜか原始的な武器の事が多いとのこと。
女性は守る為の本能を形にし、男性は守るための武器を形にする。
「じゃぁ、俺にも思い描いた何かを形にできるって事か」
「男性の力を直接見たことが無いので、何とも言えないのですがネットではそのように書かれていますね」
「それで、どうやって形にするんだ?」
「では、一度実践してみましょう。まず、自然体で立ち、目を閉じてください。そして、誰をどんな事からどのように守りたいがものすごく具体的にイメージして下さい」
俺は言われた通り、立ち上がり目を閉じる。
そして由紀や薫が大勢に囲まれて絶体絶命のイメージをし、そこに俺が空から登場。
地面にへたり込んでいる二人を横目に、俺は周りの悪漢達を薙ぎ払う。
全てを終え、俺は二人に手を差し伸べる。俺の手をとる二人は半泣きになりながらも笑顔になっている。
イメージ。妄想。夢。それを形にする。
「イメージできましたか? そしたら両腕を上げ、手のひらを正面にして自分の思い描いた力を手のひらに集中させてみてください。」
俺の思い描いた力。剣か槍か短刀か。大人数を相手に一掃できる何か。
なんだ? 俺はあの時どうやって一掃させた? もっと具体的にイメージをより鮮明に……。
集中していると俺の両手には何か柔らかい感触が伝わってくる。
この感触は何だ? 柔らかい。そしてさわり心地が良い。ぷにぷにしている。
「んっ……。に、兄さん、イメージを固めるために、絶対に目を開けてはいけませんよ。もっと、手に集中してください。イメージをもっと鮮明に、具体的に、より現実的に」
手のひらに何かが集まってくる気がする。
それにしても柔らかい。触っていて気持ちが良くなってしまう。手のひらに集中しながら柔らかい何かを激しくモミモミしながら集まっていく何かを感じ取る。
「あっ……、んっ……。に、兄さんもっと激しくイメージしてください。目を閉じもっと、もっと……」
――二十分後
俺はいまだにモニモニしている。
何か、こう力が手のひらに集まってくる気がするのだがなぜか下半身にも力が入ってしまう。
いかんいかん、だんだん集中力が切れてきた。そろそろ何か起きてもよさそうなんだが、イメージが足りないのか……。
「に、兄さん。由紀はそろそろ無理です。もうダメです。はぁぅぅ……」
なぜか由紀にも疲れが見え始める。
今日の今日でそんな急にはできないか。
「そろそろやめるか。また明日にしようと思うんだが、どうする?」
「は、はひぃ。あ、明日もお願いします」
と、急に俺のモニモニが消えた。
やっぱ集中力と連動しているようだ。難しいな、力の具現化って。
目を開けると、ぐったりと床に寝ている由紀が目に入る。
服が若干乱れ、息遣いが荒く、はぁはぁしている。
しかも、ものすごく紅潮しており、全精力を使い果たした感じがする。
「ど、どうした! もしかして、俺のせいでそんな事に!」
俺は大慌てで由紀を抱え上げる。俗にいうお姫様抱っこだ。
「ひゃっ! まだ、触らないで……」
由紀は俺の腕を払うかのように、部屋を出て行ってしまった。
いったい何がどうなっているんだ……。
俺はそのままベッドに座り、両手を見つめる。





