069話 母さんとの面談 マリア
――コンコン
「マリアです! 入ります!」
私は今から面談される。この後の事を奥様から色々と話されるだろう。
しかし、こんな急に移動なんて。まったく……
チャンスじゃないですか!
ここで頑張って、頑張って、純一様と……。うひゃひゃ。
いかんいかん。奥様の前では真面目にしないと……。
テーブルの手前にお茶があり、座布団もある。
ここに座れって事か。
―― ブゥー――
「わっ! え? 何?」
思わず声を出してしまった。
「マリア。プープークッションってご存知かしら?」
座るとおならの音が出るあれだ。
しかし、なぜこんな時にそんな仕掛けを……。
「は、はい。知っていはいましたが、実際に触ったことはないです」
「座布団の下にあるから見てみるといいわ」
私は座布団の下に手を入れ、ゴムっぽい風船のようなものをひきずり出す。
「良かったわね。もし、それが致死性の仕掛けであれば命が無かったわよ」
奥様の言うとおり、完全に油断していた。
この家は完全に安全。侵入者に対しても、外部からの攻撃に対しもだ。
最近は家の中で警戒することもなくなり、気が緩んでしまっていた。
「奥様。これはもっと気を張れと言う意味でとらえていいのでしょうか?」
「いいえ。ただの悪戯よ。悪く思わないでしょうだい」
もぅ、奥様ったらおちゃめさんなんだから!
「奥様。本題を……」
「ええ、そろそろ真面目に話をするわね。私が不在の間、皆を守ってほしいの。特に胃袋を」
「それは、主に食事の事でしょうか?」
「そうよ。しっかりとバランスのとれた食事をお願いするわね。高校からはお弁当もお願いするわ」
「他には?」
「マリアには主に自宅内を任せるわ。不法侵入者に対してはレイと相談して」
「かしこまりました。」
しばらく奥様が不在になる。その期間は私がしっかりと皆様の面倒を見ましょう。
レイさんは、何気に料理が不得意だ。そこに私の勝機がある。
そして、由紀様。まだまだ幼い。ここは私の大人の魅力を十二分に見せつけましょう。
あんな下着やこんな衣装まで準備しております。お子様にはまだ早い服装ですけどね。
「所で。さっきまで二階で何をしていたのかしら? ここまで揺れていたわよ?」
えっと、正直に話すか? それともごまかすか?
仮に正直に話をして、純一様の部屋への出禁、純一様の衣服への接触禁止などになったら大変だ。
うん、ごまかそう。
「みんなでゲームしてました! 最近のゲームはすごいんですよ!」
「そう……。では、今度私に時間がある時に混ぜてもらいましょう」
はぐぅぅ。そう返してきたか!
「そ、そうですね! お時間ある時に是非!」
「さて、レイにも話をしていますが、今後についてはレイと詳しく話をしておいて頂戴」
「かしこまりました」
「そうそう、純一さんにボディーガードを一名付けます。後日顔を出しに来るので、粗相のないように」
「腕は立つのですか?」
「それなりに立つと思うわよ。顔見せの時にマリアが探りを入れてみて頂戴」
「了解です! 軽く探ってみますね」
私は一礼をして奥様の部屋を出る。色々と危なかった。
とりあえず、敷地内の設置危機見直しをしながらレイさんと打ち合わせをしよう。
数人だったら大丈夫だと思うけど、数十人で乗り込まれたらちょっと大変だ。
しかし、あれですね。奥様も大変だと思いますが、純一様はもっと大変ですね。
純一様はきっと詳しい話を知らないと思いますが、これからの高校生活、普通に過ごせるといいですね。陰からマリアは純一様をお守りしますよ? そして、純一様から……。うへへ……。
―― ブォォォォォン
「この掃除機、良く吸い込むわね……」
部屋の掃除をしている薫がふっとつぶやく。
「それは私が少し改造しました。掃除機は吸引力が命であり、掃除をすることによりダニやほこりから兄さんを守ってくれますからね!」
おぉ、由紀色々と考えている事やその手腕はすごいと思うけど、既製品の掃除機を改造してしまうのね……。
「さて、あらかた掃除も終わったな。助かったよ二人とも」
散らかった原因が二人にあるとも言えなくもないが、礼は言っておこう。
「そ、掃除くらい、問題ないわよ。そ、それに将来事を考えたら……」
「兄さん。私は家事全般それなりにできます。いつでも嫁に行けますよ」
「あ、あぁそうだな……。その話は今度ゆっくりしようか。薫はこの後帰るのか?」
外は日が暮れ始め、そろそろ夜になり様な時間。
女の子が一人で出歩くにはちょっと危険な時間に入るかな?
「そうね、そろそろお暇しようかしら。今日は一日疲れたわ……」
そうですね。俺も疲れたよ。まるで数か月とも言える時間を過ごしたような感じだ。
今日は、俺も母さんと話があるだろうし、夜はゆっくり寝たい! そう、安眠したい!
「薫さん、一人で帰れますか? 私が送っていきますか?」
「大丈夫よ。背中には気を付けて帰るわ。あと、これから仲良くしましょうね。純一の重荷にはなりたくないの」
「そうですね。姉妹のように仲良くはできませんが、良き友と書いてライバルですね。私も兄さんに迷惑をかけたくないし」
すっと、由紀が右手を差し出す。
そして、薫も右手を差し出し、互いに微笑みながら握手をする。
美しき光景かな。
互いに認め合い、和解する。
俺頑張ったよ。(何を?
これで本当の意味で、平和が訪れる……。
と、思いきや。
段々と薫と由紀の顔が赤くなり始める。
そして、握手した手が、腕がプルプルと震えはじめる。
え? もしかして、そこでも交戦してるの?





