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058話 由紀の押し入り


 俺の目の前には目を閉じ、シャツのボタンが数個はずれ、下着がすこーし見え隠れしている薫さん。

ベッドに寝ている薫の胸はそれなりに盛り上がっており、俺のマグナムも盛り上がっている。


 俺は着ていたジャケットのボタンをはずし、思いっきり机の方まで飛ばした。

ヤル気の表れが出ているようだ。ジャケットはきれいに飛んで行った。


 ふと、飛んで行ったジャケットから一枚の封筒がヒラヒラと落ちてくる。

そのままパサァァっとベッドの下に入り込んだ。

まぁ、あとで拾えばいいや。それよりも今はこのミッションが重要だ。


 飛んで行ったジャケットは机の上に乗っている。後で綺麗に畳めばしわにはならないよね。

ジャケットを横目に、目線を薫の方へと移す。相変わらず顔が赤い。


「薫……、大丈夫か?」


 俺は目を閉じている薫の腹部をゆっくりとさすり始めた……。







――――


 カタカタカタ。パチーーン!

キーボードの打刻音が部屋に響く。


「終わった! やっと完成しました!」


 私は一人、部屋で歓喜の声を上げる。数か月の時間をかけ、ついに完成させた。

あとは、自分のスマホにダウンロードして、最終確認を待つばかり。

これで兄さんを今よりも安心して守る事ができると思うと、顔がにやけてしまう。


 作成したアプリを早速スマートフォンにダウンロードしようと画面を見たら真っ黒。

あれ? 壊れた? さっきまでは確かに兄さんの部屋が映っていたはずなのに……。

念のためアプリを再起動してみたが状況は変わらず画面は真っ黒。これでは部屋の状況がわからないじゃないですか。


 しょうがないので、映像はあきらめ、部屋の壁に耳をあて聞き耳を立てることにする。

何か話し声が聞こえるが、上手く聞き取れない。どうしよう……。予想外の出来事に、ちょっと焦ってしまう。


 しかし、いずれにしよ時間の問題。

私は自作の【触ったらちょっとだけ痺れる道具】を太ももの内側に装備する。

これは兄さんを守るために必要な装備。

ちょっとだけ歩きにくくなるけど、走ったりしないから大丈夫だよね。


 私は音をたてないように部屋から出る。つま先で歩き、兄さんの部屋の前にゆっくりと移動する。

扉に耳をつけ、中の様子をうかがう。


 中から兄さんの声が聞こえる……。


『薫……、大丈夫か?』


 どうやらまだ兄さんは襲われていないようだ。

私はいつでも部屋に突入できるようにスタンバイする。


 薫さん。短い間でしたけど、お茶を一緒に飲めて楽しかったですよ。

そして、さよなら……。







――――


 俺は全神経を右手に集中させる。

もし、黒い竜とか封印されていたら解除できてしまう位に俺の全てを集中させる。


 人生初の女性腹部。しかも生腹部だ。自分の腹筋が付いている腹部とはレベルが違う。

ここだけの話、俺の心臓ははちきれんばかりにドキドキしている。

このまま心臓が爆発するんじゃないかと、心配するくらいだ。


 全ての神経を右手に。いや、右手は八割位にしておこう。残りの二割は薫の声を聴くために必要だ。

薫は相変わらず目を閉じたまま、はぁはぁしている。

一体どうして、こうなったのだろう。さっきまであんなに元気だったのに。



 俺はそんな事を考えながら自分の右手を薫の腹部から少しずつ上へと移動させていく。



 父さん、母さん、俺は旅立ちます。

前人未到の双方山に登り、頂上に立ちます。



――ビリビリビリ



 ん? いったいなんの音だ? ベットの下から何か紙が破れるような音が聞こえた。

一気に不安になり、何となくベットの下を覗いてみる。


 そこには人がいた。

あーなたーはー だぁりぃでぃすかー? ちょっと片言っぽく言ってみた。

髪が乱れており、前髪の隙間からチラッと見えた奴の目と俺の目が交差する。


「いやぁぁぁぁぁ!」


 俺は腹の底から大声で叫び声をあげてしまった。



そして、ほぼ同時に部屋の扉が勢いよく開く。


「そこまでです! 兄さんの貞操は私が守ります!」


 部屋に入ってきたのはさっきまで一緒にいた由紀だ。


そして、ベッドの下からゆっくりと這い出てくる奴は前髪が下に垂れ、まるで某有名ホラー映画の井戸からに出てくる女性に見えてしまう。

奴は片手で俺の足首を握り、ゆっくりとはいずり出てくる。


 声を出そうにも出ない。周りの景色がゆっくりになる。

俺は自分に言い聞かせ足を蹴り上げ、握られた手を振りほどく。


 そして、ベッドに寝ている薫に布団をかけ、俺はベッドの後ろに移動する。

ゆっくりとベッドの下から出てきて立ち上がろうとする奴。



「っち! ちょっと予定外ですけど、兄さんの為なら」


 妹の由紀はスカートをまくり上げ、太ももをあらわにする。

おぉぅ。由紀さん、足長いのね。すらっとした由紀の足に瞬間見とれてしまった。

足首から太ももの根元まで、素晴らしい曲線になっている。


 由紀は手に取った道具を手に取り、奴に向けてスイッチを押す。


――カチッ ヒューーン


 二本。何かトゲのようなものが付いた紐が奴に放たれる。


「ピギャ!」


 奴に当たった瞬間、変な声が聞こえてきた。

ピギャ って……。


 ほぼ動かなくなった奴をベッドの下から引きずりだす。

由紀は扉の前から動かず、奴を遠くから見ている。


 さて、その面拝ませてもらおうか!


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