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046話 清く正しい突き合い


 俺は物凄い速さで振りまわされる攻撃を避けている。

一歩間違えば恐らくかなり痛い目に合うだろう。

攻撃を避けながら、ふと薫の方に目を向ける。


――な、何だと!


 薫はベンチに腰掛け、缶ジュースを飲みながら何やら雑誌を眺めている。

こちらの事は一切お構いなしに、全くこっちを見ない。

お、俺がこんな目に合っているのに!









――遡ること数分前……


 少女はスカートの中から折りたたみ傘を二本手に取る。

なんでそんなところから出てくるのか、この際気にしないでおこう。

少女は傘を伸ばし、その切っ先を俺に向ける。


「さぁ、先輩勝負だよ。今日は負けないからね!」


「え? ちょっ」



 俺が声を出す間もなく少女は俺に襲い掛かってきた。


「薫! 何とかっ!」


 と、薫の方に目を向けると隣にいた薫の姿はない。

あれ? さっきまで隣にいたはずなのに……。

あ、いた。俺達の荷物を持ってすぐそこのベンチに座っている。

あ、これはもしかして観戦モードですか? 俺が頑張ればいいんですか?

はい、そうですね。俺の責任ポイし、頑張りますよ!


 再び目の前を傘の切っ先が通り抜ける。

危ない危ない。あと少しで当たるところだった。

しかし、まったく手加減していない速さだな。怪我するじゃないか!


「先輩! 相変わらず避けるの上手いですね! でも、今日はいつもと違いますよ! さぁ! その腰の物を早く使いませんか!」


 攻撃を避けているばかりでこちらから反撃していない。

この腰にぶら下げているやつで一発入れればいいのかしら?でも、女の子相手にね……。


……今のフレーズは危険だな。女の子から『腰の物を使えと』。

正常男子なら『このマグナムで一発!』とか、発想するんだろうな。

まぁ、こんな状況でそんな事を考えている余裕はないか。


「ちょ、落ち着けって! なんで勝負なんだ? 説明してくれないか!?」


 攻撃を避けながら叫んでみる。

そもそも俺にとっては初対面の少女に襲われている。勝負の内容も全く分からず、薫も蚊帳の外。


「先輩! 忘れるなんてひどいですね! 勝ったら交際してくれるって約束しましたよねっ!」


 え? 俺がそんな約束を? うーん、覚えてない! 以前にそんな約束をしたのか?

ふと薫の方を見てみる。凍てつくような目のまま微笑んでいる。

えっと、これはその……。俺の意思じゃないよ! 俺はそんな約束してないよ!

と、とりあえず攻撃避けながら、隙を見て傘を奪ってしまえばいいか……。


 俺は腰に付けているトンファーを左右の手に持ち、少女の傘を受け止める。



――キィィン



 え? 何この金属音。その傘ってただの折りたたみ傘だよね?

少女が振るった傘を受け止めると甲高い音が響き渡る。

しかも、重い。普通の傘と思ったが、受け止めた腕に相当な力がかかってくる。


「えっと、その傘、普通の傘じゃないね?」


「えへ♪ 対先輩用にちょっとだけ改造しましたよ! 今日こそは勝たせてもらいます!」


 さらに速度を増して俺に攻撃を仕掛けてくる。

ちょ、ま、待て! 俺は少女の攻撃を受け止めながら数歩後退してしまう。



――あっ


 一歩後ろに右足を置いた時、空き瓶を踏んで体制を崩す。

そのまましりもちをつく感じで地面に座り込んでしまった。

やばい。


「先輩! 今日は調子悪いですね!」


 目の前の少女は高々とジャンプする。

その両手には傘が。切っ先は俺の方に向かっている。

やばい、逃げられない。


 降下してくる少女のスカートが盛大にまくれ上がっている。

それに伴い、スカートの中が丸見えに! ご馳走様です!





と思ったが、短パン……、

なんでだよ! この状況で過去の展開考えたら違うだろ!



そして、俺の顔面の横、左右の耳の真隣に傘が突き刺さっている。

あ、あぶね! あと少しずれていたら刺さってるやん!


 少女が俺にまたがっている。

俺の腰の上に少女が座っている。はたら見たら騎○位ですね。


 少女は地面に突き刺さった傘から手をはなし、その小さな手で俺の両頬を挟んでくる。


「先輩……。どうして今日は手加減してくれたんですか? どうしてかえでに負けてくれたんですか?」


 負け? 俺は負けたのか? そもそもこれは何の勝負なんだ? 訳も分からず勝敗も決まるのか?


「えっと、楓ちゃん? でいいのかな?」


「せ、先輩? 私の名前初めて言ってくれましたね。本当に今日は先輩おかしいですよ?」


 しまった! 以前俺と面識のあるやつは、俺の現状を知らないんだった!

とりあえず、説明をして勝負とかなかったことにしてもらおう!

うん、それがいい!

 

 楓はそのままマウントポジションを維持し、俺のおでこに楓のおでこを ぴとっ と、くっつけてきた。

横目で薫を見てみるとこちらを ジーッ と見ている。

あの、見てないで、何とかしてもらえたら俺はすごく嬉しいな!

アイコンタクトで訴えるも、聞き入れてもらえず。完全にスルーされました。


 再び楓の方に目を向けると……




 ん……




 二人の唇が重さなりそうになっている。え? 俺はいったい何をされている?

どうしてこんな所でこんなことに……。

ゆっくりと二人の唇が近づく。楓は目を閉じ、頬を赤くし、満面の笑みを浮かべている。

さっきまで傘をぶん回していた人物と同じとは到底思えない。


「ごほん!! あー、何か喉が痛いわね! 風邪かしら!」


 ベンチに座っている薫が咳払いをする。

我に返ったのか、楓は目を開け俺の顔から離れていく。

惜しい! いやいや、こんな感じでファーストキッスはちょっとね……。ある意味薫に助けられたな。


「ん……。先輩、約束忘れないで下さいね」


「こ、こんな事今さら何だが勝負の内容って何なんだ?」


 楓は起き上がり、突き刺さった傘を回収している、

傘を短くするとそのまま背中に背負っているクマの形をしたリュックにしまい込む。

おい、なんで初めはスカートから出したんだ? というツッコミはしないようにしよう。


 スカートを払い、若干乱れた服を正す。

俺も、起き上がり、トンファーをしまい込む。

ズボンとシャツを手で払い、砂ほこりを落とし、楓の方を見る。


「今さらですね。今回楓に勝ちを譲ってくれたと言う事は、認めてもらったと捉えていいですね?」


「良くわからないが、いいんじゃないか?」


「ふぅ……。先輩が私に出した条件は『俺様より強い女』。楓が勝ったら、その、えっと……、清く正しいお付き合いをと……」


……身長百四十センチ前後。恐らく俺の後輩。

こんな子に俺はどんな約束した? 清く正しいお付き合い? お突き合い?

さっきまでこの子に突かれまくったけどな!


 俺は自分の記憶をさかのぼる……。


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