045話 ストーカー?
薫と二人、駅を後にする。何とか無事に帰る事ができそうだ。
俺はほっとしながら、右手に少しだけ力を込める。
その右手に目を向けると俺は薫と恋人つなぎしている。
安全の為らしいが、女の子の手は小さくて柔らかいんだな……。
ふと薫の顔を見てみると、少し頬を赤くしながらその目はまっすぐと前を向いている。
風になびく髪がとても綺麗でちょっといい匂いがする。
「なぁ、これからどうする? 真っ直ぐ帰るのか?」
「そうね。一度純一の家に行ってから帰ろうと思うんだけどいいかしら?」
「あぁ、俺は問題ないぞ」
薫の話だと、早めに婚約者というのを決めないと役所が勝手に人選するようだ。
俺の伴侶を勝手に決められたくはない! 俺の嫁は俺が決める!
心に強く誓いながら、右手を思いっきり握りしめる。
「じゅ、純一。手が痛い……。 急に握ってどうしたの?」
っは! 勢い余って思いっきり握ってしまった。
「す、すまん。ちょっと考え事を……」
「そう、純一も疲れているのね。色々と店を回ってから帰ろうと思ったけど、今日はまっすぐ帰りましょう」
「そうだな。あ、でもジャージは欲しいかも」
「そう。じゃぁ、そこの店で買ってから帰りましょう」
薫の目線を追ってみると、大きなデパートっぽい建物が見える。
大型複合施設ので色々な店がテナントとして入っているようだ。
「そうだな。ささっと買って、早く帰ろうか」
俺は薫と二人でデパートを目指し歩き始めた。
ん? 後ろから誰かついてきてる? 気のせいか?
俺達が歩くと、足音も近づき、俺達がその場に止まると、足音も止まる。
ほぼ確実に俺達が狙いだだ。俺は小声で薫に囁く……。
「(薫……。気が付いているか?)」
「っん……。じゅ、純一こんな所で耳に息をかけないで……」
「っち、違う! そうじゃない!」
頬を赤くしながら薫は俺の目を見てくる。
その潤んだ瞳に俺は吸い込まれそうになる。か、薫ってこんなかわいかったか?
いやいや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
「薫、そのまま聞いてくれ。俺達つけられてないか?」
「え? 今頃気が付いたの?」
「は? えっと、薫は気が付いていたのか?」
「まぁ、これだけぴったりついてこられるとさすがに……」
何という事でしょう。薫さんは気が付いていたんだってさ。
俺は今気が付いたけどな。
「で、この場合はどうするのが良いと思う?」
「心当たり無いの?」
うーん、心当たり……。以前の純一だったら心当たりあるかもしれないが、俺には全くない。
そもそも知っている人が少ないからな! 現時点で友達いなそうだし!
「ちょっとわからんな」
「普通に振り返ってみたら? 誰かわからないけど、答えはすぐに出るわよ?」
「いきなり刺されたりしないかな?」
「その時は私が返り討ちにするから安心して」
な、何と頼もしい!
って、女の子に守ってもらうとか俺ダメじゃね?
こんなんじゃ、将来ナイスガイになれないじゃん!
彼女もとい嫁さんに愛想つかされちゃうじゃん!
「か、薫。心配はいらない。自分でなんとかする。ただし!」
「ただし?」
「万が一ダメそうだったら……。わかるな、この意味が」
薫は俺の手を握りながら俺の顔を真っ直ぐに見る。
若干上目使いでかわいさが増しているのは今回気にしない。
「ええ、わかったわ。その時はその時ね」
俺は薫を信じている。俺の思った事を、考えている事を(多分)わかってくれている。
俺はゆっくりと後ろを振り返る。吉と出るか、凶と出るか……。
見た! 俺は見たぞ! そこの電柱の陰に誰か隠れた!
あっ! こっちを見てる! お、女の子? 何かこっちを電信柱の陰からジーッと見てるぞ?
ためしに、薫を指さしジェスチャーで【こいつに何か用事か?】と伝えてみると、電信柱少女は首を横に振る。
今度は俺自身に指を指し、再度ジェスチャーで【俺に何か用事か?】と伝えてみると コクコク とうなずく。
「薫。あそこの電信柱少女が見えるか?」
「見えるけど、純一の知り合い?」
ジーッと見てみるが全く心当たりがない。俺の記憶にない女の子だ。
さて、どうしたものか……。
こうやってお互いに遠くから眺めているのも時間の無駄になりそうなので、試に手招きしてみた。
電信柱少女は電信柱の陰から出てきて、服を払う。
そのまま真っ直ぐに俺達に向かって歩いてきた。おぉぅ、出てきた!
まぁ、手招きしたんだから当たり前か。
ゆっくりと近づいてくる少女。
背は低く、恐らく百四十センチ位。白色のスカーフが目につくセーラー服を着ている、
髪は真っ黒で腰までの長さだ。瞳もくりっとしていてなかなかな美少女だ。
少女は俺達の目の前まで来ると歩みを止め、姿勢を正す。
まずい、誰だかさっぱり思い出せない。俺の知り合いだろうか?
とりあえず、あいさつ位しておいた方がいいのかな?
「ごふんっ! こ、こんにち……」
「純一先輩! やっと見つけました! さぁ、勝負です!」
「へ? 俺が? 勝負?」
俺と薫がお互いに見つめ合いアイコンタクトで会話を進める。
『俺こいつの事知らないんだけど、どうしよう』
『とりあえず、勝負って言ってるから勝負してみたら?』
『え? こんな小さい子と? それに勝負って何の勝負だよ』
『さぁ、私に聞かれてもわからないわよ。純一の後輩なんでしょ?』
『そうみたいだけど……』
そんな声にならない会話をしていると、突然目の前の少女がスカートの裾をまくり始める。
あ、そんなにスカートまくったら見えちゃうよ! 見ていいの! このまま見てていいんですか!
セーラー服の少女はスカートの左右を指先で摘まみ、徐々にスカートをまくっていく。
通行人も少なくないこんな場所で、何と大胆な。でも、目が離せません!
そしてついに少女のスカートが捲れ、太ももがきらっと輝いた時、少女の手に何がが落ちてきた。





