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036話 秘密の話


 俺は目の前のコーヒーを一口飲む。

落ち着いて、ゆっくり話せばきっと理解してもらえるはず。

信じてるぞ、薫。


「今から話す事を、最後まで聞いてほしい。信じるか、信じないかは薫に任せる」


「いいわよ」


 薫も真剣に話を聞いてくれるようだ。

薫もコーヒーを一口飲み、カップをテーブルに置く。

店内には静かなクラシックの曲が流れている。


「恐らく俺は、三年後の世界から来た。未来の俺は高校をすでに卒業している」


 沈黙の時間が流れる。薫は瞬きもせず、ずっと俺の目を見ている。


「階段から落ちたのが原因だろう。気が付いたら病院にいた。俺は記憶喪失ではない、この世界の記憶がもともと無いんだ」


「っそ! そんな事が、あるはず、な、いわよ……。あんたは、昔からあんたの事は私が知っている。十年以上も毎日毎日あんたの顔を見てきた。間違うはずがない」


 薫はひどく動揺している。まぁ、こんなこと言われたら誰だって動揺するか。

俺だって動揺してしまうよ。


「確かに、この姿、顔は俺だ。でも、ここは俺のいた世界ではない。原因は分からんがな」


「変な薬とかしてない?」


「するか! 俺は薬もしてないし、頭が変になったわけでもない」


「そう……。もっと詳しく聞かせてよ」


 俺はできる限り薫に詳しく話す。

俺が生まれてから小中高と通った学校の事、友人の事。

世界情勢、男女比、生活についてなど。

そして、階段から落ちたこと、病院で目が覚めた事、襲われたこと。

薫は見入るように話を聞いている。

まるで、物語を聞いている子供のように。



「信じられないわね。目の前のあんたが、別人だなんて」


「多分別人ではないぞ。この体にこの姿は間違いなく俺だ」


「でも、私の知っているあんたではないのよね?」


「そうだな。旧純一と新純一って感じかな?」


「一人の体に二人の人格がるの?」


「うーん、人格と言っても俺は俺で、他にはいないぞ?」


「あんたが知らないだけで、夜とか勝手に出歩いてるんじゃない?」


「それも多分ないな。あったら病院とか昨夜自宅で何かあってもいいだろ。特に何も言われていない」


 二人でカップを手に取り、喉を潤す。

ずいぶん話をした。薫は信じてくれるだろうか?



「ねぇ、いくつか聞いていい?」


「なんでも」


「あんたの発見された学校ってどこ?」


「そういえば聞いてないな。今度聞いてみるよ」


「それで、着ていた服は?」


「病院に保管されている。どっかの制服って言ってたな」


「その体は間違いなく、自分の体なのね?」


「ああ、見間違うはずがない。足の裏にあるホクロまで一緒だ」


「あんたの今着ている服、私の今着ているこの服、どこで買ったか覚えてる?」


「いいや、わからんな」


「この服、二着ともあんたが作ったのよ」


 わーお。確かに裁縫はそこそこできたが、ここまでの物を俺作っていたのか。

確かに部屋にあったイラストとかフィギュアとかみたら手先はめっちゃ器用そうだ。

俺にもそんなスキルがあったのか! というか、今の俺で作れるのか?


「そ、それはすごいな。自分で作ったのか……」


 再び訪れる沈黙の時間。薫は何か考えている。


「仮説を話してもいいかしら?」


「ああ」


「パラレルワールドって知ってる?」


「ん? SFとかに出てくる良く似た並行世界の事か?」


「そう。階段から落ちたショックでこの世界に紛れ込んだのかもね。時間の弱行も同じことが理由かも」


「つまり?」


「本来は過去に行くはずだったのに、同時に並行世界に入り込んでしまった」


「まぁ、現に俺はここに居るが、この世界は初めましてだ」


「これから、どうすんの?」


「どうもしないさ。このままこの世界で生きていくよ。帰り方なんて知らんし」


「随分ポジティブね」


「しょうがないさ」


 戻れない。まぁ、何かがきっかけで戻れるかもしれんし、それまではこのままでいいや。

何か。重大な何かを忘れているような気がする。

何だっけ? 大切な何か……。 思い出せない。

まぁ、そのうち思い出すだろ。


「私には分からないけど、あんた本当にそれでいいの?」


「まぁ、なるようになるさ。とりあえず、俺は高校に行って彼女を作る」


「あんただったら直ぐにできるわよ」


「その意味は?」


「クラスに男が二、三人しかいないわ。選り取り見取りよ」


 な、何だと! そんなのハーレムじゃないですか!

この世界では毎日ハーレム! チクショー! 通学が楽しくなるぜ!

あの子も、この子も、その子も先輩も後輩も!

ああ、楽しみでしょうがない!


「まぁ、期待しないで通学するよ」


「変なのに引っかからないでよね」


 少しだけ薫の顔が曇り、悲しそうな眼をする。

女の子の心は秋の空。何を考えているんだろう。


「そんな所で、俺の真面目な話は終わりだ。俺の事、嫌いになったか?」


「ならないわよ」


 おっと、ずいぶん即答ですな。少しは考え込むと思ったけど、即答だった。

薫には何か考えでもあるのか? 中身は薫の知らない人格だぞ?


「即答だな」


「私は私の考えがある。簡単に家族を見捨てないわ」


「そうか。話をしてよかったよ」


「私も話を聞けて良かったわ。これからが大変ね」


「まぁ、何とかなるだろ」


「それと、今の話は公にしない方がいいわよ」


「ああ、わかってる。薫だから話をした。俺だって、薫の事を信じてる」


 今度は薫が頬を赤くし、もじもじしている。

なんだ、照れてるのか? 可愛い奴だな!

しかし、薫は表情豊かだ。見ていて飽きない。


「そ、そんな事、急に言わないでよ! ど、動揺するじゃない」


「気にするな」


「気にするわよバカ」


 薫はコーヒーカップを両手で抱え込むようにとり、目線を斜め右下にしながら飲み始める。

俺は、真っ直ぐに薫の瞳を見ながら微笑む。


「薫に話せて良かった。すっきりしたよ。ちょっと不安だったんだ」


「別にいいわよ。気にしないから。何かあったらすぐに話しなさいよ」


「ああ、そうする」


「そ、そろそろ行くわよ」


「そんな時間か?」


 俺達は会計を済ませ、店を出る。

俺がおごろうと思ったのに、おごられてしまった。

この世界では女性が出すことがほとんどらしい。

財布を出した途端激しく拒否され、店の中で乱闘一歩手前までに発展。

マスターに物凄いガンを飛ばされ、仕方なくおごられることになってしまった。


 外に出ると少しだけ日が高くなっており、昼に近づいている。

再び薫は俺の手を握ってくる。

さっきより、少し優しい握り方な気がする。


 そして、俺を引っ張っていく手は力強く、身を任せてしまう。

安心するな。彼女とは違うけど、心が安らぐ。


 ……。これって恋?

この安心感、ドキドキ感は恋なのか?


 恋愛の神様答えて! 俺は、二度と失敗したくないんだ!


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