034話 近藤真奈美の想い
私の名前は 近藤真奈美。
そろそろ二十代ともサヨナラをする医者だ。
男性と少しでもかかわりのある職を探し、子供のころからずっと医者を目指してきた。
が、現実はそうは甘くなたっか。
毎日毎日毎日毎日毎日毎日、女性ばっかり。
たまに来る患者はおじいちゃん。
恋愛対象にするにはちょっと年が離れすぎている。
もし、自分に彼氏ができたら、あんなことやこんな事。
何でも聞いてあげるのに、出会いが皆無。
私がお嫁さんになったら、ずっと看病してあげられるのに。
今日も診察、巡回。もしかしたら街のショップ店員の方が出会いがあるのでは?
そもそも、男性は通う病院を選んでいる。
サービスや設備、自宅からの距離。
もしかしたら設備や立地が悪いのかもしれない。
はぁ……、こんな事ならもっと良く考えて職を探せばよかった。
でも、今の職はやりがいがある。
医者として患者を助ける。時には命を懸け。
命に男も女も関係ない。
私は目の前にある患者の事を考えるだけ。
でも……。
――――
――
「先生のおかげで、命が救われました」
「っふ、医者として当然のことをしただけよ」
「そんな事ありません! 先生は、命の恩人です」
「すくわれた命、大切にね」
「先生……。ありがとうございます」
「治って良かったわね。まだ、しばらく安静にしていなさいね」
「はい。せ、先生はご結婚されているのですか?」
「私? 私はまだ未婚よ。なかなか出会いが無くてね」
「そ、それだったら私と、け、け、結婚を!」
「いいの? 私はただの医者よ? いつでもあなたのそばにいる訳にはいかないわ」
「先生の、いいえ、私は真奈美の力になりたいんです!」
「ありがとう。無事に退院できたら考えてあげるわ」
「真奈美! 絶対に完治して、すぐに退院して見せます!」
「そう、頑張ってね。待ってるわ」
――――
――
とかさ! そんな出会いを期待していたのに!
まっっっっっったく出会いが無い!
ここ最近来た男性はおじいちゃんと、事故にあった瀕死のおじさん。
なんとか一命を取り留め、家族の元に帰っていた。
帰る場所があるっていいよね。
今日も一日何事もなく、平和な一日が終わる事を祈る。
――プルルルル プルルルル
緊急コールの音が鳴り響く。
おっと、妄想に浸っている場合ではない。
『第一病院へ緊急搬送。受け入れ可能か?』
「こちら第一。状態と人数を」
『外傷なし。気絶している模様で意識なし。呼吸、共に安定。年齢十代半ば。一名』
……熱中症か? まぁ、今受け入れても問題ないだろう。
「第一受け入れ可能。準備に入る」
『了解。感謝する。あと十分で到着する』
緊急搬送の準備に入らないと。
万が一のことも考え受け入れ態勢を整える。時間は十分。
――ピッーピッーピッー
私は看護師たちに緊急搬送受け入れの為、非常コールボタンを押す。
現在、手の空いているもの、空けられるものがステーションに内線をかけさせるためだ。
――プッー プッー
『鈴木です』
「里奈か、来れるか?」
『はい、あと三分で』
「第二受け入れ室の準備を。一名、外傷はない」
『かしこまり!』
――プッー プッー
『遠藤です』
「手は空いているか?」
『はい、五分ほどで』
「第二受け入れ室に、詳しい話は鈴木に」
「了解しました」
――プッー プッー
『宮原です』
「行けるか?」
『直ぐに』
「第二受け入れ室に。話は現地で」
『むかいます』
約一分経過。他にコールはない。
私を含め四人か。まぁ、大きな外傷もないし、大丈夫だろう。
――ピンポーン
私はコールボタンを押し、全看護師に通達を流す。
「全看護師に連絡。緊急搬送だ。第二に入る。私を含め四人対応。後は頼んだ」
通達もそこそこに私は受け入れるため第二に向かう。
第二に着くとすでに三人おり、準備も終わっている。
「準備はいいか?」
「「「はい!」」」
「今日も命の駆け引きがあるかもしれない。患者の命を最後まであきらめずに」
「「「はい!」」」
一人第二に残し、残りは受け入れ扉の外で待機する。
時間は昼過ぎ。まだ熱中症になるには気温は高くない。
まさか、薬か? ドラッグだったら厄介だな……。
そんな事を考えらなら一台の救急車が入ってくる。
緊急隊員が車から降り、ハッチを空ける。
状態は? 顔色は? 呼吸は?
確認しようと顔を覗く。
――おーまいがっ! なんてこったい。 メンズではありませんか。
うちの看護師も動きを止める。
いや、見とれるな! 動け、患者の状態を確認するんだ!
「二人とも、行くよ!」
「「はい!」」
隊員から説明を受けながら第二に移動する。
見れば見るほど好みのタイプだ。
それに若い。若い男……。いかんいかん、私は医者だ。
命最優先。個人の感情など出してはいけない。
でも、でも……。
第二搬送され、受け入れ完了の手続きを行う。
学校から搬出されているが、身元不明。
緊急連絡した人も不明で、彼だけがそこにいたらしい。
念のため学校にも確認したがそこの生徒ではないようだ。
学校で仲間とドラッグをして一人だけキまった? 仲間が見捨てた?
分からないことが多いがとりあえず、受け入れよう。
看護師たちは患者を取り囲みじろじろ見ている。
私も正直もっと見たい。触りたい。なでたい。すりすりしたい。
ぺろぺろ、チャプチャプしたい。
でも、私は医者だ。彼の意識が戻るまでは、控えよう。
「ほら! 何してるの! いつもの事でしょ!」
看護師たちは脈はかり、採血、外傷確認する。
誰が服を脱がせて確認するかもめていたが、じゃんけんの結果私と里奈になった。
全く、こんな事でもめるな!
私は医者だからじゃんけん無しで見る事ができる。
医者になって良かった!
服を脱がせ、全身を確認する。
綺麗な体をしている。うん、外傷はないわね。
この子寝ているのかしら?
少しくらい触っても大丈夫かな?
おっと、魔が差しそう。我慢我慢……。
意識が回復したら、きっと私に感謝するはず。
そしたらきっと私の事を……。
「真奈美。警察に連絡するの?」
いつもと違う表情。里奈はいつもおふざけキャラなのに、患者の前だと真面目。
いつも真面目だったら、もしかしたら彼氏ができるかもしれないのに。
「そうね、事故とか怪我だったらいいけど、ドラッグかもしれないわね」
「え? こんな若い子が?」
「可能性の話よ。検査をしないと何とも……」
「警察に通報したら、この子は?」
「高確率で箱に行くわね。男性でも麻薬、ドラックは重大な違法よ。性別年齢関係ないわね」
「……。どうする?」
「回復を待ちましょう。回復してから警察に連絡をしても遅くは無いわ」
「それがいいわね。一応、監視するわよ?」
「そうね。確か派遣で雇えたわよね?」
「ええ、いつもの所ね。アンナさんでいいかしら? あの金髪の」
「彼女だったら安心ね。すぐに連絡を」
「了解。検査が終わったら隔離部屋に移動するわね」
「ええ、お願い」
顔色が悪くないから薬ではないと思う。
でも、警察に引き渡す前に、医師としてできる事を。
きっと、この子の為になるはず。
もし、薬だったら私が何とかして抜かないと。
まだ若い。人生はこれから。あなたの人生、無駄にはさせない。
これは私の医者として、女としての意思。
大丈夫。きっと私はあなたを救えるわ。信じて。
――そして、私をお嫁さんに





