015話 一千万もらった!
テーブルの上に置かれた通帳とハンコ、それにカード一枚。
これを持って家から出て行けと? まさか、そんな事無いよね?
「これは?」
「そう、この記憶まで無いの……。これはあなたの通帳よ。高校生になったら渡すことに決めていたの」
通帳を受け取り、中を確認する。
一、十、百、千、万、十万、百万、一千万……。
ハイ? 一千万近くある。 何じゃこりゃー!
こ、高校生の持つ金額とちゃいますよー!
「驚いているようね。これは純一さんが生まれてから溜めているわ。国からの補助金よ」
「補助金?」
「男児が生まれたら毎月五万円、国から補助が出るの。それを溜めていたのよ」
「国が補助金を? 俺の為に国が?」
「そう。義務教育が終わるまでの期間、毎月振り込まれるの。純一さんのお金よ」
一千万。何でも買える。ひゃっはー! これは嬉しい! 大金もちじゃー!
……いいのか? 俺がもらっても……。
「これは、母さんが持っててください。俺は毎月の小遣いがあればいい」
渡された通帳一式を母さんに返す。
こんな大金持ったらおかしくなってしまう。それは良くない。
俺は普通の高校生でいたいんだ! でもちょっとは欲しいな……。
「そう、わかりました。では、ここから純一さんのお小遣いを毎月渡すことにするわね」
「すいません。わがままで」
「いえ、大丈夫よ。高校を卒業したら、今度こそ全てを渡すわね」
「はい。その時までお願いします」
母さんと話をしているとレイさんと、さっきの少女がリビングに戻ってきた。
「お待たせしました。買い物の整理が終わったのですが、他には何か?」
「ありがとう、今は特にないから、二人共席に」
レイさんは母さんの隣に、さっきの女性はレイさんの向かいに座る。
「純一さんはこの二人の記憶はあるかしら?」
まったくございません。この家も、妹も母さんも、この二人も私の記憶にございません。
俺はタイムスリップしたと思ったのだが、なんか違う。
母さんも、妹も、メイドもいなかった。家だってこんなにでかくない。
何かが違うというか、すべてが違う。
「ごめんなさい。二人事は僕の記憶には全く……」
「そう……。生活していく上で思い出せるといいわね」
「はい、努力します。あの、この場に妹はいなくても?」
「あの子は大丈夫。落ち着いたらきっと来るわ」
「そうですか……」
「冷めないうちにコーヒーでもどうぞ」
俺はカップを手に取り、一口コーヒーを飲む。
温かい、そしていい香りだ。うまいな……、本当にうまい。
「今日の予定はないから、部屋でゆっくりして、気持ちの整理をするといいわ」
「そうですね、そうさせてもらいます」
「何かあったら私でもレイでもマリアでも呼んで頂戴」
「マリア?」
「ええ、そこのメイド服を着ている子よ。そう、名前も思い出せ無かったのね……」
マリアというのか。可愛い名前ですね。
「えっと、レイさんとマリアさん? 迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
軽く会釈をすると、二人とも少し頬を赤くする。
「ひゃ、ひゃい! よろしくお願いしましゅ!」
マリアさんは盛大に噛んだようだ。
ちょっと可愛いかも。
「そんな事ありませんよ。何でも聞いてくださいね」
レイさんも俺を見ながらしっかりと対応してくれた。
良かった、これなら何とかやっていけそうかな。





