012話 盗撮!
車が動いている。ん、俺は寝てしまったのか?
隣には母さんが座っており、レイさんと何か話しているのが耳に入ってくる。
「純一さんは良く寝ているわね。疲れていたのかしらね」
「きっとそうですね。二日間も病院にいて、今日退院したばかりですから」
母さんとレイさんは俺について何か話をしているようだ。
確かに俺は疲れている。ゆっくりしたいのに、させてくれない。
母さんもそうだよ! ゆっくりさせてくれよ!
「……レイ。あなた、車の中を隠しカメラで撮影していたでしょ?」
ほわい? 隠しカメラ?
「な、何故お分かりに?」
「純一さんの事を撮影するために、仕込んでいたのを私は知っているわ」
「も、申し訳ありません……」
「ふぅ……。レイは純一さんに近づくために、この職を選んだのかしら?」
「……」
「沈黙はイエスととらえるわよ?」
「申し訳ありません……」
寝たふりをしながら、聞き耳を立てる。
レイさんはそんな人だったのか……。ちょっとショックですね。
「レイはなぜ自分が運転手に採用されたか知っているかしら?」
「一般応募から筆記試験、実技試験、面接を得て普通に採用されたと……」
「そう、レイにはそういう事になっているわね。実はね、レイのお母様から頼まれたのよ」
「お母さんが?」
「自分は男性と機会を持てなかったけど、娘にはせめて男性と少しでもかかわりのある職についてほしいって」
「そ、そんな……」
「レイのお母様は私の学生時代の先輩でね。当時は良くしてもらったわ。その恩返しね」
「お母さん……」
車内がしんみりしてしまったな。この状況では起きるに起きれない。
話のきりが良くなったらガバっと起きるか……。
「レイは今後、純一さんの事を主として、仕えてもらう事はできるかしら?」
「……はい。私の一生を、純一様に」
「ありがとう。これで私も一安心よ。所で盗撮のデーターは?」
「データーですか? このメモリに入っていますが?」
「そう、あとで私にもコピーを」
「……かしこまりました」
かしこまるんかい! 母さんもコピー貰うなよ!
盗撮って、俺の着替えじゃないか! そんなもの盗撮するな!
というか、俺が無防備で寝ているのに、二人ともノーアクションですね。
今までの展開だと確実に襲われると思ったのに……。
「レイは純一さんの事をお願いするわね。私も、もっと母親らしくします」
「はい。純一様にご迷惑をかけないよう、懸命に頑張ります」
「ふふ。私もこの子と結婚できるように、もっと良い母親にならなくてはね」
車が止まった! 信号? 起きるチャンスだよね!
「う、うーーん……。お、おはよう」
ワザとらしく背伸びをしながらムクリと起き上がる。
「おはよう純一さん。良く寝ていたわね」
「ごめんなさい、何か疲れが出てしまったみたいで」
「ふふ、そんな事無いわよ。もうすぐ家に着くわ」
再び車が走り出し、住宅街に入っていく。
やっと家に着くのか。長かったなー!
早くベッドでゴロゴロしたーーい!





