さかさゆめ
仰向けになってゆらゆらと漂う体の下には夜空があり、天の川が流れている。
体の上には街があり、建物が落ちてきそうだ。
目をつぶり耳をすますと星が流れる音がする。
手を伸ばす。
いつもなら簡単に手が届くものが遥か遠くにあって。
いつもなら遥か遠くにあるものが簡単に手が届く。
ああ、目覚めたくないなあ。
気持ちよくて美しくてずっとこのさかさまの世界にいたいと思う。
でも、
煙草の匂いで目が覚めた。
ソファーの上に横たわる体の上には寝る前にはなかったタオルケット。
大切によけてベランダに出ると手すりによりかかりながら彼が煙草を吸っていた。
「あ、起きた」
穏やかに微笑まれて少し照れる。
肩まである髪が寝癖ではねていることに気付いて直しながら近づく。
「何してるの?」
横に並ぶと彼は「あれ」と空を指さした。
そこには曇り空が広がっていた。
「天の川、見たかったんだけどね」
残念そうに苦笑する。
私は夢の中の天の川を思い出した。
「ねえ、さっき見た夢の話してもいい?」
「ん? どんな夢?」
残念がる君の為、天の川を分けてあげよう。
あの世界は本当に気持ちよくて美しかったけれど。
君がいるから私はこの世界がいいと思ったんだ。