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第9話


「2年前、このセントクルス王国に於いての悲惨な出来事をついてはお前も知っているな?」


「…はい、確か…王妃様が病で亡くなってしまったと、そう聞いております」


「そうだ、2年前のとある日、セントクルス城にて、重い病を患った王妃様は病巣に沈み、死んだ…表向きにはな?」


「…え、表向き、ですか?」


「そう、表向き、にだ。実際にはそうじゃない。王妃様は、このセントクルス王国の転覆を狙う何者かに毒を盛られ、その結果亡くなってしまったのだ」


 ルイードに激震が走った。

 その真実に、耳を疑いたくもあった。だがルチェットの重たい口振りがそれを許さずに、真実であるとは語っていた。


「驚くのも無理はない。何せこの真実について知っているのはごく少数、セントクルス城の中でも、私とラッカルと王様と、そしてあいつ…ハリス王子だけしか知り得ない機密事項だ」


「そ、そうですか…」


 なんて反応していいか迷って、ルイードは取り敢えずコーヒーを啜った。そして喉を潤して、自身の喉がカラカラであったことを知る。あまりの衝撃に驚くルイードの口は開いたままとなっていて、乾燥しきっていたのだった。


「王子がセントクルスの民を信じられなくなったのはそのせいだろうな…だから野蛮人などと民を卑下しているのだろう」


「その…ルチェットさん」


「ん、何だ?」


「その…王妃様に毒を盛ったとされる犯人はその後…どうなったのでしょうか?」


 聞いていいのか迷ったものの、ついにルイードは尋ねてしまっていた。ただ普通に考えれば死刑、それも王妃様に毒を盛ったとするならばただ死刑に処するわけもない。


 少なくともルイードがこれまで歩んで来た国々の大概では、王家に仇した者に対して最も残酷死刑が要求されていた。民の前での公開処刑、それを死ぬまでの間永遠と罵声を浴びせられたり物を投げつけられたりしながらの、火炙りか、斬首かか、もっと酷いものでは…


 ルイードは首を大きく左右に振った。考えるのも嫌になる。


 そんな悲惨な出来事が、まさかこのセントクルス王国でも行われていたと知ってしまうと…ルイードに最悪の予感が走る。


 そしてルチェットの言葉を待って、重たく閉じられたルチェットの唇が開く瞬間を今か今かと待った。そんか嫌な空白が1秒、2秒と続いて、


「そう怖い顔するな。安心しろ、お前が想像しているような事はなかった」


 と、ルチェットは薄っすら笑って言った。


 安心していいのかいけないのか…ルイードは迷った末、やはり安心してホッと息を吐いていた。


「犯人はまだ生きているよ。まだ幼い子供だった。流れ者の孤児で、王妃に毒を盛ったのも私情による犯行だという」


「私情?」


「つまりだ、組織だっての犯行ではないということさ」


「…そう、ですか…では何故、その子供は…王妃を殺そうだなんて…」


「ただ殺したくなったと、そう語っていた」


「へ?」


 ルイードの声が裏返った。ルチェットの発言に意表を突かれたのである。


「その日はな、国を挙げての、一年に一回開催される仮面祭の日だった。その日だけは身分も身なりも関係なく、皆が仮面をつけて同等の立場になって楽しむという、民を心から信じていた王妃様が発案したお祭りの日だった。普通はあり得ないことだが、王妃様にはそれができた。実際この仮面祭が開催されて三年経つが、その年までは何事もなく無事に終わっていた。そう、#その年__・__#まではな」


「王妃様の元へ一人の少女が歩み寄ってきては、スープを手渡してきたんだ。どうぞってな。最初近くに居た護衛は不審がり、すぐさま止めに入ろうとしたのを王妃様は制止させた。そして少女からスープを受け取ると、少女を連れて護衛も連れず何処か消えていってしまったのだ。その後しばらくして、生死の境を彷徨っている王妃様が発見された。その傍らでは犯人である少女が泣いていたという」


「死に際、王妃様は言っていた。『この子に罪はないから、どうか許してあげて』と、そんなことを。結局真相は闇の中、少女は犯行の詳細についてを語らなかったし、ただ魂の抜けたようには今もセントクルス城の厳重な管理化の中では生きているという…」


 そこでルチェットの話は終わった。

 

 ただそんな末にも、現実味を感じられないルイードとはただ呆然としていて、ただマジマジとした瞳をルチェットへとぶつけていた。


「気分を悪くさせてたか?」


 ルチェットが尋ねて、ルイードは首を横に振って否定して、


「…この国も平和そうに見えて、いろいろと大変だったんだなんだなぁと、そう思いまして…」


 感慨深そうな声色ではそう言った。そんなルイードを心配そうに見ては、ルチェットはルイードの頭を荒々しくは撫で回した。


「わしくないぞ?お前は太々しく笑っていればそれでいい。王子もそんなルイードだったからこそ、心を開いたのだろうからな」


「え?」


「ルイード、お前は王妃様とよく似ている」


「わ、私がですか!?」


「そうだ。でも、美しさでは少しばかり劣るがな?」


「…と、当然ですよ。王妃様を見たことはありませんが、かなりの美貌であったと城の皆が口にしていました…ん、では私と王妃様の、何が似ていると言うのですか?」


「そうだなぁ…」


 と、ルチェットは唇に人指先を当てて、あっとは閃いたようには一言、


「雰囲気」


 これまた曖昧な事を言い出した。


 結局のところ、さっぱり理解できないルイードとは、困った顔を浮かべ、ただ冷めたコーヒーを啜っていた。



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