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第15話


「新鮮な味がした…言うなれば、あれが野生の味というやつなのだろうな」


 と、王子は上機嫌そうには笑う。どうやら思いの外ルイードの作った料理が気に入った様子。


 王子の満足気にはゴロンと寝転がった。王子に続き、ルイードもまたその横には腰を下ろし寝転んだ。


「お口に合ったのなら何よりです」


 すっかり腹の膨らんだ2人の頭上に夜空は広がる。大の字で寝転ぶ2人の視界先で、幾千の星々が燦然とは輝きを放っていた。


「綺麗だな」


「ええ、とっても」


 王子の言葉に短く答えて、ルイードはうっとりとした表情を浮かべていた。


 自分はこんな幸福であってよいものなのかーーーそんな思いが、ただただルイードの頭を過る。


 そんな時だった。


「なぁルイード、これ」


 と、そう言った王子の手に、首から下げられた一つの宝石は煌めく。それを見て、ルイードは、あっ、と小さく声あげた。


「首飾りにしていたのですね」


「ああ、どうだ、似合っているか?」


「ええ、とても素敵ですよ」


 それは先日、ルイードが王子のお土産として城下町の宝石商で購入した宝石ーーブリジットストーンであった。


「気に入っていただけましたか?」


「え?もちろんだ。むしろ俺はこのような美しい宝石を見たのは初めてだぞ?このセントクルス王国に生まれて、これまでたくさんの宝石を身につけてきたが、これはその中でも一番美しい…流石トレジャーハンターだ、ルイード、お前はよく目が利くな」


「……よ、喜んでもらえて何よりです」


 精一杯の返事をして、ルイードはチラリと王子の横顔を流し見た。王子は手にもった宝石を見て、頰を綻ばせている。


 王子の方がよっぽど美しいんですけどねーーー心で思って、ルイードもまた口元を緩めていた。


 静かで、穏やかな時間が流れる。


 淀みのない優しい時を感じて、今この瞬間だけは王子だとか従者だとか、そんな身分の隔たりを忘れてる2人。


 不意に、ルイードと王子の目線が重なった。そうして、王子がゆっくりと口を開いた。


「ルイード、お前はずっと1人で旅をしてきて…その、寂しくはなかったのか?」


「そうですね、寂しくないと言えば嘘になりますが、あまり考えたことはありませんでしたね」


 実際、ルイードはあまり自身が1人で旅にする事に対して深く考えたことはなかった。唯一の肉親であった父親が病で亡くなった時も、それが自然の摂理だとは受け止める自分がいて、すぐには涙は止まっていた。


要するに、自然に身を任せて生きてきたルイードにとって1人でいる事は然程の苦ではなかった。生きることも、死ぬことも、等しくはただ存在して、その上で1人になったとするならば、それもまた仕方がないことなのかなと、ルイードとは妙に達観した感情を持ち合わせていた為である。


 そんなルイードの考えに王子は驚いた瞳を浮かべて、


「逞しいなお前は…羨ましいよ」


 と、目を細める。


「でも、その…1人ぐらいはいたのだろう?」


 途端に、そう言い出した。


 意味が分からずにルイードは首を傾げる。


「どういう、意味ですか?」


「いや…あれさ…その…恋…というやつだ」


「恋?」


「そそそ、そうだ…生きているうちで、そんな感情を抱く相手がいたのだろうと、そう聞いている」


「ああ、そういう意味ですか」


 ルイードはすんなりと答えて、そうですね…とは過去を思い返していた。


「どうなんだ、ルイード!?」


「ちょっと待って下さいよ…」


「駄目だ!今すぐ答えろ!」


「そ、そんなぁ……」


 剣幕を変えて詰め寄り王子に困惑して、ルイードは考えていた。そして、あっ、とは声を打った。


「そういえば、」


 と、閃いたようには口振りで、


「い、いたのか!?」


「ええ、でも、これを恋というのかは分かりませんが、昔、短い期間だけ一緒に旅をしていた人がいたんですがね」


「は、はぁ!?一緒に旅、だと?」


「え、ええ…どうしたんですか王子、そんなに取り乱して」


「い、言え!そそそいつはどんな奴だったんだ!?」


「は、はぁ…私より一つ上の青年です。とある深いダンジョンで迷い込んでしまい、途方にくれていたところを助けて頂いたのです。それからダンジョンを出るまでの間、よくして頂きました。頼り甲斐のある、素敵な方でしたねぇ…あれが恋と呼べるかは分かりませんが、少し、ときめいてしまいましたね…」


「は、はぁ!?ふざけるな!」


 王子は声を荒げて叫んだ。そんな王子を見て、ルイードはポカンと口を開けて驚く。


「お、王子?先ほどから様子が変では?」


「変じゃない!はっきり申せ!ではお前は…そいつと…どうなったのだ?」


「どうなったって、ダンジョンを出た後、お礼を言ってそれっきりですけど?」


「ほ、ほんとか!?ほんとなんだな!?」


「もちろんですけど…本当に大丈夫ですか王子?」


「……大丈夫だ。そうか、良かった…うむ」


 王子は嬉しそうには何度も頷いて、不意に、ルイードの手を握った。どうも様子のおかしい王子に、ルイードはただ困惑するばかりである。


 少し冷たい夜風が吹いた。そろそろ屋敷に戻った方がいいだろうと思うルイードは立ち上がって、王子に呼び掛けた。


「王子、そろそろ戻りましょう。体が冷えてしまいます」


「ルイード」


「はい?」


「俺は絶対、お前を離さないぞ…」


 王子はルイードの手を強く握りなおして言った。


「え、ええ…では、そんなに寒いのでしたら早く中へ…」


「馬鹿!そういう意味じゃない!」


「?」


「もういい!!」


 王子はそう言い残して、1人走っては屋敷の中へと戻っていった。そんな王子の背中を眺め、ルイードは意味が分からずに、


「…やはり、寒かったのかな…」


 と、静かに呟いた。


 

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