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第12話


 その日、王子とルイードはまたもや庭園で昼食をとっていた。二人の手にはやはりといってサンドイッチが握られていて、最近ではこうして庭園で昼食をとることもあまり珍しいことではない。


「今日は一段と陽気な天候だな…そうは思わぬか、ルイード?」


「ええ、ほんとに」


 ルイードは王子の顔を見てニッコリとは微笑んだ。


 最近の王子はすっかり元気そうで、以前のように人を邪険にすることも少なくなってきていた。ただ以前として鉄の仮面は健在で、未だ仮面王子のままである。


 昼食をとる今でこそ仮面を外しているが、それは今だけの話で、隣にいるのがルイードだからこそである。


「ん?なんだジロジロと?」


「あ、いえ…あははは」


 王子の人離れした神々しい素顔に見惚れてしまうルイードは、慌てて俯いた。


 こんなに綺麗な顔をしているのに勿体ないなーーールイードはどうしたら王子が仮面を考えてはいたが、どうも良い案が浮かばないでいる。また王子の辛い過去を知ってしまって手前、果たして自分が余計な事を言っていいものかと悩みあぐねいていたのだった。






「何か良い案はないものでしょうか…」


 その夜、食堂にいたラッカルに相談を持ちかけてルイードは頭を抱えていた。


「そうですね…ルイードが来てからというもの王子の随分と穏やかにはなりましたが…あの仮面だけはやっぱりどうにもなりませんか…」


 八方塞がり、ラッカルもまた良い案が思い浮かばないでいる。


「ちなみにルイード、王子は貴女の前で笑ったりもするのですか?」


「…い、いえ…やっぱり笑ったりとかないですね…」


「そうですか」


「すみません、お役に立てなくて」


「いえ、貴女はよくやっていますよ?むしろ謝るのは私の方です。何の力にもなれなくて申し訳ないないわ」


 はぁ、とラッカルはため息をついて、すっかり冷めたコーヒーを口にして、またまたどんよりとした重たいため息を吐いた。


「こんな時、王妃様ならどうしたのでしょうかね…」


 不意にそんな事を呟いて、今は亡き王妃の姿を思い浮かべるようには目を瞑るラッカル。ラッカルの脳裏に、失われた王妃の笑顔が蘇っていた。その傍らには王子が居て、王妃同様にはニッコリと笑っていた。ただそれは失われしの日の記憶でしかなく、今となっては過去の幻影のようなものに過ぎない。


「ほんと、どうすればいいのかしらね」


「…何か、王子の心を突き動かすような、最高に楽しいイベントでも用意出来ればいいのでしょうが…」


「ん?それはどういうことですかルイード?」


「あ、いえ深い意味はないのですが、ただ王子を楽しませる事が出来れば、自然と笑顔も取り戻せるのかなと、そう思ったのです。以前、王子は仮面を取れなくなった理由について、『この仮面を被っている時だけ俺は自分を偽ることができる。この仮面を被っている時だけ、俺は王子として振舞わなくて済む』と、そのようなことを申されておりました。これは私の憶測でしかありませんが…王子は多分、以前の自分が王子としてどのような振る舞いをしていたのかを忘れているのではないかと…またそれに対して憤りを感じているのではないでしょうか?つまりですよ、王子が以前の自分を再び思い出すことができたのなら、仮面をつけて自身を偽る必要もなくなるのではないのかなぁーなんて思ったり…あははは、間違ってますかね、私?」


 と、自信なしげには尋ねたルイードに、ラッカルの驚きに満ちた眼差しが突き刺さる。


「ルイード…貴女、そういうことは早く言って頂戴な!?」


「え、え?」


「そうですよ…王子はきっと、自身の振る舞いに対して疑問を感じていたのだわ…ええ、きっとそうですとも。だってあの王子ですもの、根は優しい優しい、素敵な子なんですから…」


 ラッカルは嬉しそうに頰を綻ばせ、ルイードへと向き直った。そしてルイードの手を握りしめると、弾んだ声色で、


「貴女はやっぱり最高よルイード!」


「は、はい…」


 曖昧な返事するルイードに対して、尚もラッカルは感謝の気持ちを伝え続けた。

 ルイードはそんなラッカルに困った瞳を見せては、ただただ困惑するばかりであった。


「ルイード、貴女のお陰で#ある妙案__・__#が思いついたのです!きっと王子も喜ばれる筈ですわ!」


 終始ルイードを褒めちぎっていたラッカルとは別れ際、そう言い残しては軽やかなスキップを刻み去っていった。そんなラッカルの後ろ姿を眺め、ルイードにはてんで理解が追いつかない。


 ルイードはそのまま自室へと戻ると、寝るまでの間ずっとその事についてを考え続けていた。


 一体、ラッカル様は何を思いついたのだろうか?


 程なくして、考え疲れたルイードは微睡みに沈んでいった。







 次の日の早朝である。ルイードは王子の部屋に訪れ、目を疑っていた。


「王子、これは?」


 ルイードはいそいそと荷造りをする王子に尋ねた。王子はルイードに気づいて、おお、とは呟いて、


「遅かったではないか!待ちくたびれたぞルイード!ほれ、お前も手伝え!どうもこういったことは慣れていなくてな」


 いつもよりワントーン程高い声で王子は言った。そんな王子を見つめ、ルイードは頭の上にクエッションマークを浮かべる。


「お、王子!?これは一体何事ですか!?」


「あれ、ラッカルから聞いてないのか?おかしいな…あいつはルイードが言い出したと言っておったのだが…」


「…私が、何て言ってたと?」


「うむ、ルイードが王子を連れて外泊したいと進言してきたとラッカルは言っておったが…あれ、違ったのか?」


 首を傾げる王子に頭を下げると、ルイードはラッカルの元へ急いだ。そうしてラッカルを見つけては詰め寄って、


「ラッカル様!これは一体どういうことですか!?」


「おはようルイード…あれ、どうしたの?そんなに取り乱して?」


「どうしたもこうしたもありません!ラッカル様、王子が言ってたこと本当ですか!?私が王子を連れて外泊したいと進言したと…冗談、ですよね?」


「ああ、その事ですか!いえ、冗談ではありませんよ?いやね、貴女の了承を得ないまま勝手に決めた事は悪いと思ったのだけれど、思いたったが吉日と言うじゃない?」


 悪い気もない様子でラッカルはタハハと笑った。ルイードは全く笑えなかった。むしろその顔を引き攣っていて、夢であれば覚めてくれと言いだけで、


「どど、どうしてそんなことに!?そ、それに外泊といっても何処に行くのですか!?王子ですよ!?王子様なんですよ!?そんなことが許されるわけーー」


「ああ、その事なら大丈夫ですよ?すでに王様にも了承は得ています」


「へ!?」


「うふふ…王子がウキウキしていると伝えたら王様も嬉しそうにしていましたよ?」


「そ、そんなぁ…」


 なんてことだ、ルイードはその場に崩れ落ち、うな垂れていた。どうしてこうなったとは呟いて、ゆっくりと顔を持ち上げる。


「外泊と言ったって、何処にいくのですか?」


 すっかり正気の失せた口振りでルイードは尋ねた。そんなルイードに微笑みかけて、ラッカルは胸に手を置いて、


「安心しなさい。その辺は既に決めております!そんなに心配しなくとも、貴女は普段通り王子と接してくれればそれでいいのです!」


「……ほ、ほんとですか?」


「ええ、もちろんですよ!大船に乗ったつもりでいなさい!全てはこのラッカルにお任せあれ!」


 高らかな笑い声をあげてそう言ったラッカルを見て、ルイードは疑念に満ちた瞳をくべる。


 本当かな…


 なにやら嫌な予感がする、ルイードのこれからのことを想像しては頭が痛くなる一方であった。


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