生か死か転生か
超鈍行スピードで行きます
とある廃ビルの屋上。目の前には汗かきまくりのみっともねぇオッサンがいる。
「お、御願いだ、赦してくれぇ」
オッサン、いや田辺 一郎51歳は泣きながら俺に懇願している。コイツは俺に1000万の借金をし、それを、踏み倒そうとした。なのに、赦してくれだ?舐めてやがる。
「田中さんよぉ、俺は言ったよなぁウチは特殊な金貸しだって。ほんでアンタは解った上で借りただろ。金を返せ、とは言わないが、覚悟を決めろ」
ウチ直光金融は、どんな奴にも1億までなら貸してやり、しかも低金利という素晴らしい金貸し屋だ。しかし、そんな好条件でも金を返さない輩が現れる。そして、そんな輩にもチャンス(…………)を与える。それが社長である俺、直光 四五六の方針だ。
そして、そのチャンスとは
「ほらオッサン、始めようか。命を賭けた賭博を!!」
「ひぃぃいい!?」
おー、オッサンビビってる。だけどなぁ、全然満足いかない。俺はもっとスリルを感じたいのに、腑抜けた面晒しやがって。
「オッサン、ルールは簡単だ。この10階建てビルの屋上から飛び降りて、死んだら負け。その時はアンタに掛けた保険金で支払って貰う」
「いや、嫌だ、死にたくない、助けてくれっ!」
「あーもう、うっさいなぁオッサン。アンタに選択する権利は無い。大人しくルールを聞け。ほんで飛び降りて生きてたらオッサンの勝ち。借金チャラにして100万やるよ。な、良い勝負だろ」
「………………………………」
オッサンが黙ってしまったな。つまらない、そもそもオッサンは首吊る以外に解決させる方法は無い。
オッサンの奥さんとその娘2人は美人だから身体を売れば返せるかもしれない。しかし、俺はそんな事させたくないし、アレはオッサンの借金だ。
さて、そろそろ飛んで戴こうか。
「ほら、オッサン飛べ」
オッサンはユラリと立ち上がり、俺の方に突っ込んで来やがった!?
「死ね、死ねぇぇええ!!」
オッサンは鬼みたいな顔をして俺を殺そうと殴りかかってくる。
「アハハハハハハハ、楽しい、愉しいなぁ、オッサン!!」
こうだ!人間はこうで無ければいけない!50過ぎたみっともねぇオッサンが、俺に立ち向かってくる!俺を殺して生を掴もうと足掻いてる!素晴らしい!……が
「生憎俺は荒事に慣れていてな、俺を殺すならせめてチャカとドスもった怖いお兄さんを呼んでこい」
オッサンのテレフォンパンチにカウンターを決める。呆気ないな、これ。テンション揚がった途端にやられるなんて。俺はオッサンの足を掴んでフェンスまで引き摺っていく。
「まぁ、オッサン。飛ぼうか」
オッサンを蹴飛ばす。
「ーーーーーーーーーーーーーーッ!」
アスファルトに一輪の花が咲いた。
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「はぁ、飽きてきたなこの生活も」
人に金貸して、取り立てて、賭博して、殺して。この生活、いや人生が飽きてきた。
友人は皆死んだ。最愛の人(ユキ姉)は何処かに消えた。熱くなれる賭博はもう、この世界には無い。いっそ死んでみようか。
「いや、ただ死ぬ、では面白くない。俺もオッサンと同じ賭博でいこうか」
俺は屋上の縁に立つ。一歩でも踏み出せば落ちる。しかし、俺の心は穏やかだった。
「生きるに賭けるか、死ぬに賭けるか、生きる可能性は1%に満たない。それでも生きるに賭けるか?」
俺は、生きる事に賭ける。こんなにも不利な賭けは久しぶりだ。死のうと思ったが、生きるに賭けてしまった。
「俺は、生きるに賭け、」
ふと脳裏に先日読んでいたネット小説を思い出した。転生、これが、本当にあるのなら最高じゃないのか。
異世界チーレム無双、男なら憧れる事だ。しかし、転生なんて有るわけが無い。無いと思うが0%では、無い。賭ける余地は、有る!
「俺は生きるでも、死ぬでもない、第三の選択、転生を選ぶっ!!」
俺は屋上から飛び降りる。風が、俺を優しく包み込む様に吹く。俺を歓迎しているかの様に。
何も怖くない、何も恐れはしない。
俺は確信していた。この賭博での勝利を。