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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第四章
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第71話~問い、そして答え~

 襲撃直後で混乱の只中にある里を突っ切り、転移門から第五遊技場へと転移する。一瞬にして景色が変われば音も変わった。喧騒と怒号は愉快な音楽と楽し気な笑い声になる。

 あまりの落差に、一瞬自分が先程まで見ていた光景が夢だったのかと錯覚しそうになった。掌や服にベトリと付着した血が、決して錯覚ではないと物語っていたが。


「秋人様、先程申されました話を聞きたい人、というのはどなたでしょうか」


 一拍ほど遅れて転移してきたリアナが尋ねてくる。同じく遅れてきたロルも不思議そうな表情でこちらを見ていた。


「この世界の主神、アトレナス様だ」

「アトレナス様ですか?」

「あぁ、主神に直接なんて色々な工程をすっ飛ばしてると思うし、お客様に聞くのもどうかと思うんだが。さすがにエルフの里で起きたことを考えると、そうも言っていられない」


 本来ならこちらで解決した方がいいだろう。それこそエルフの里で調べものをしていたのも、一番は何が起こっているかをこの目で見てちゃんと調べて自分で判断するためだ。

 しかし、実際に見てみた世界の実情はそんな調べる暇さえ許してくれないらしい。あまりに事が一気に起こり始めている。本で調べて、各地を見て回ってなんて悠長にはしていられないのだ。

 そうなれば手っ取り早い方法は一つ、主神に聞くことだ。


「リアナ、アトレナス様がどこにいらっしゃるか分かったりするか? いや、そもそも今日来園してらっしゃるのか?」

「少々お待ちください。来園の記録があるかどうか、入場の担当に尋ねてみます」


 リアナは答えつつ、素早く連絡用水晶を取り出した。水晶の先にいる担当と彼女が言葉を交わしている間、ただ静かに待つ。

 もし来園していなかった場合どうしたらよいだろうか。先程の戦いを考えれば、悠長にしている暇はない。主神以外で情報を入手するとしたら、最初に出会ったフロワリーテさんだろうか。


「秋人様」


 もしものことを考えていれば、鈴の鳴るような声で名前を呼ばれる。声の主であるリアナの方を見れば、連絡用水晶を持っていない。既に通信を終えたようだった。


「担当に尋ねたところ、アトレナス様は本日来園されているようです。今いらっしゃるのはレストラン街とのことでした」

「分かった。レストラン街まで行けば気配を探るなりして見つけられるだろうし、ひとまず向かおう」

「かしこまりました」

「ピッニョ!」

「あぁ、それと二人には主神と話をする際に周囲の警戒を。万が一のことがあるとは思えないが、念のためにな」


 俺の指示に二人は黙って頷く。第五への通行許可のことも考えれば、あの謎の人物が紛れ込む可能性が低いとは思いたい。しかしその万が一があっては困るのだ。念には念を、である。


 指示を出した後、足早に遊技場内を目的地へと向けて歩いていく。

 時間は夜、だというのに第五遊技場は遊具のライトにお土産屋から漏れる灯りと昼かと思うほどに明るい。空を見上げたら星なんて見えないほどだ。あちらこちらから聞こえる喋り声や音楽が、更に夜の感覚を薄れさせる。


 本来ならば今日も賑わっていると喜ぶところだ。しかしどうしても、先程の光景とこれからのことを思えば笑顔を浮かべることなど出来ない。


 目的地に向かって歩きながら、どうしてここまで気持ちが急くのだろうとふと思う。

 第五遊技場に直接的に関係ないと言えばそれまでだ。客である神々を除いて、この遊技場に来ることはできない。誰かと一緒に来るのだって無理だ。転移は誰かと一緒に入ったところで、その人自身に許可が無ければ無理だ。そうでなければ混線事故が起きてしまう。

 当初の目的は情報収集だったはずだ。第五を脅威から守るためだったはずだ。あくまで『第五遊技場』を第一とした行動だったはずなのだ。


 それならば俺の今の行動はその目的から外れていないだろうか。第五に今アトレナスで起こっている事態が起こるかもしれないと考えれば外れていない。 だが、もう一つの手段として完全に関わらないという手段だってあるはずだ。今までだってそうだった。


 第五を守ることはもちろんだが、もう一つ、違う思いが生じている。きっかけは樹沢とのやり取りか、それともエルフの里での出来事か。俺自身でさえはっきりできない。


(一度、話し合った方がいいかもなぁ)


 これからの行動にも影響することだからと考えていれば、前方に目的の人物の姿が見えた。これから食事でもするのだろう、傍にいるフロワリーテさんと何やら話しつつ目の前のレストランに入ろうとしていた。


「アトレナスさん」


 そう呼びかければ、二人分の視線がこちらに向いた。


「お伺いしたいことがあります。申し訳ありませんが、この後お時間大丈夫ですか」

「急ぎか?」

「はい」


 ふむ、とアトレナスさんは顎に手を添えて考え込む。小さく大丈夫かと傍のフロワリーテさんに聞けば、彼女は微笑みながら頷いた。


「フロワリーテも大丈夫なようだし、俺としても特段困ったことはない。だが、せっかくだ。ちょうどいいし食べながらでも?」

「えぇ、お代はこちらで出すので、是非に」

「お、いいねぇ」


 こちらの提案にアトレナスさんは笑う。こちらがお邪魔するのだから出費しようとかまわない。

 店の中へ入っていくお二人とは別に、リアナとロルに目配せする。二人は小さく頷くと、人混みへと消えていった。どこかに行ったわけではない。事前の打ち合わせ通り、人混みに紛れて警護をしてくれるのだ。


「彼らはいいのか?」

「大丈夫です。念のため、警護に行ってもらっています」

「ほう……。どうやら緊急事態のようだ」


 警護の言葉にアトレナスさんの声音も僅かばかり低くなる。その通りだと言葉に伝えることはなく、俺は無言で頷くことで示しながら先に立ってレストランへと入っていく。

 本来なら笑顔で入るべきだろうが、どうしても笑みを浮かべることはできない。場の空気から浮いていることは分かっていても、目的が目的なだけに楽しい気持ちにはなれない。どうか店員やお客様には今回だけ見逃してほしいところだ。


 店員に一言二言告げ、話し合いをするのに都合の良い個室へ案内してもらう。


 さて、いよいよ知りたいことを知ることができるのだ。早速とばかりに話を切り出そうとすると、アトレナスさんはスッと片手でこちらを制した。


「ストップ。まずは料理を注文させてくれ」

「……分かりました」


 焦れても仕方がない。頷きつつメニュー表を開いて適当に料理を決める。気付けばアトレナスさんたちはすでに店員を呼んでいて、早速料理を注文していた。流れるようにこちらに視線が来れば、思わず注文する言葉が早口気味に飛び出てくる。

 相手があまりにもごく普通の様子で、こちらだけが真相を知ろうと焦っているような感覚だ。実際そうかもしれない。


(落ち着いて、焦らないで)


 そっと息を吸って、吐く。少しだけ冷静になれた気がした。

 店員が去ったのを見計らって口を開く。


「さて、君が聞きたいことだが魔獣に関してのことだろう?

 

 出てこようとした疑問の言葉は、しかしながらアトレナスさんによって先手を打たれて消えてしまった。

 思わず驚く俺を見て、彼はカラカラと快活に笑った。


「そんな驚くことはないさ。今この世界で起こってること、そして直近で起こったこと。それらを併せれば君の聞きたいことが何なのか大体予想がつく」

「それならば話が早い。アトレナス様にどうしてもお聞きしたいのです……魔王のことについて」

「魔王か」


 俺の問いに、彼は笑みを浮かべたまま小さく呟く。


 エルフの里襲撃の時に聞いた魔王という言葉。それこそ絵本の中でしか出てこないような存在だ。しかしながら天ヶ上達のような勇者が存在するのだから、魔王が存在していてもおかしくはない。

 おかしくはないが、あまりにも魔王という存在についてこちらは情報がないのだ。


 しかしこの世界のことをよく知っている目の前の彼ならば、きっと魔王についても知っていることだろう。


「ふむ、まずは魔王に対しての君の認識を聞きたい」

「分かっていることと言えば、魔獣の群れを率いている存在であること、人間に敵対的であり人を食料とみなしているような口ぶりをしていること、そして何より……俺では魔王を倒せない」


 頭を撃っても駄目、左胸を撃っても駄目だった。撃たれた箇所はすぐに再生され、当の本人はケロリとしている。言った通りであるならば、俺にはあいつを殺せないのだ。


 アトレナスさんは俺の言葉に静かに頷いた。


「確かにそうだ。魔王は君には殺せない」

「それは何か特別な道具が必要とかそういった話ですか?」

「いいや、違うさ。魔王という存在だからこそ殺せないんだ」

「魔王という存在だから……?」


 殺せない理由は魔王という存在だからとはどういった意味だろうか。

 元から不死という様子でもない。それは魔王とのやり取りやアトレナスさんの言い方から察することができる。何かしら特別な道具で倒せる存在というならば、先程の問いに惜しいとでも言うだろう。


 耳に痛いほどの静寂の中、ただただ考える。アトレナスさんとフロワリーテさんがただ静かにこちらを見ていた。

 魔王という存在を殺せるのは、魔王と対を成すのは……もしや。


「俺が勇者ではないから殺せない?」


 ぽつりと出た言葉に、アトレナスさんは満足そうに笑みを浮かべた。


「その通り」


 彼は頷きながらゆっくりと言う。


「魔王は勇者でなければ殺せない」

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