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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第一章
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第8話~メイド、そして一ヵ月後~

 今現在は夜、城へと戻り自分の部屋にいる。夕食も食べ終わり、部屋の窓を開けてベッドの上で今日の訓練を思い返していた。

 訓練はというと……まぁ、最初ということもあり散々だった。

 兵士からの悪感情ゆえに空気が重たい為、居づらいことこの上なかった。空気だけではない、訓練においても落ち込む結果だった。

 俺のスペックは確かに高い。神を簡単にあしらえる、が前提だからな。訓練で疲れることだって無いし、強すぎる力も<制御技術マスター>で制御することも可能なのだ。

 ちなみに訓練中は<制御技術マスター>を使って力を制御しながらだ。さすがに制御せずにやってどうなるか分からないしな。

 問題は経験不足ゆえに知識が十全に扱いきれていないことだった。最初は<刀術マスター>や<槍術>などがあるから大丈夫だと考えていた。しかし、いざとなると酷い違和感に襲われるのだ。

 どのように武器を扱えばいいのかという知識はあるし、体も実行するに足るスペックをもっている。しかし、打ち合いの際には酷くなるのだ。これはガイゼルさんに訓練終了後、言われたことだ。

 今回の訓練の相手はガイゼルさんだった(俺が他の兵士と組むのは空気が悪くなるなどでまだ早いとガイゼルさんに言われた為)のだが、訓練が終了するとガイゼルさんは俺への評価を下した。


「まだまだだな。知識はある。身体能力も問題ない。ただ、圧倒的に武器への経験が不足している。そのためどのように武器を扱うか知識があっても、実際やると違和感あるものへとなる。最初は身体能力でのごり押しでいけるかもしれないが、それでは後々足元をすくわれる。その先に待つのは死だ。わかったな」


 厳しいお言葉であった。しかし、納得もする。元いた世界では武器を扱うことなんて無かった。持っていたら捕まっているしな。

 身体能力は十分、知識は十分、しかし圧倒的な経験不足がすべてを台無しにしている。それがはじめての訓練でわかったことだ。まぁ、おだてられていい気になるよりはいい。ちなみに当初は敬語だったのだが、俺はやめてもらった。俺は教えられる側、ガイゼルさんは教える側だしな。

 よし、俺の課題は身体能力や知識を十全に扱えるほど経験をつむことだな。

 自分への課題を考えていると、ドアがノックされる。誰だろうか、夕食は済ませたし、俺のところを尋ねる人など思いつかない。


「神楽嶋様、よろしいでしょうか?」

「あ、はい。今あけます」


 俺はドアへと駆け寄り、開ける。


「はじめまして、神楽嶋様。私の名前はミレイアと申します。本日から神楽嶋様のお世話をさせていただきます」


 目の前で優雅に一礼して見せた彼女は、こちらに視線をあわせて微笑みを浮かべる。

 肩まで伸び、ゆるくウェーブのかかった桃色の髪。そして髪と同じ色の優しげな瞳。身長は百五十くらいだろうか。美女といよりも美少女といったほうがしっくりくる。


「へ、は?」


 ぽかんとする俺と微笑みを浮かべ続けるメイド。静まる空間。


「本日から勇者様方一行には一人一人にメイド、ないしは執事がつくことになっております。そして、私が神楽嶋様につくこととなりました」

「あ、え、そうですか」


 いつの間に決まったのだろうか……。俺がいない時だろうから、訓練場を出た時以降に決まったのだろう。俺に対して悪印象を抱いているとはいえ、誰でもいいから伝えてほしいものなのだが……。おかげで突然の出来事に一瞬思考が停止してしまった。


「今日はもう遅いので失礼します。明日からよろしくお願いいたします」


 ミレイアは一礼しながらそう言うと、去っていった。確かにすでに夜であるから、頼むことなどない。挨拶のためだけに来たんだろう、明日でもいいのに真面目そうである。

 ドアを閉めてベッドへと向かい、横になる。窓の外を見ると、月が真上近くまでのぼっていた。

 余談だが、こちらの世界は時刻や月日などが、前の世界、つまり地球と同じである。貨幣ばっかりは街に出たことが無いのでわからないが。太陽も月も地球と同様。月や太陽が二つなど地球と異なるのかと思ったが全く同じだったことには少し驚いた。


「そろそろ寝るか……」


 俺はそう呟くと静かに目を閉じる。

 窓から吹き込む夜風は気持ちよく、俺はすぐに寝息を立て始めた。




 召喚されてから一ヵ月ぐらいだろうか。訓練初日以降、俺は部屋、食堂、旧訓練場のみを行ったり来たりする毎日を過ごしていた。

 朝起きたら食堂で朝食、そして俺を含む兵士全員が小さく粗末な布袋を引っさげて旧訓練場へと向かう。この布袋の中には昼食が入っているのだ。中身は干し肉と水である。当初これが当然だと思いガイゼルさんに聞いてみると、本来はこれにパンとスープ用の食材がつくらしい。

 ではどうして干し肉と水のみなのかといったら原因は第一王女である。

 訓練二日目、以降昼食は旧訓練場でとるとガイゼルさんから聞いた俺とガイゼルさん、兵士達は厨房へと向かった。しかし、厨房の扉の前には第一王女が立っている。傍には多くの粗末な布袋。

 俺達を見た第一王女はキーキーと甲高いわずらわしい声で、これが今日からお前達の昼食だ、これ以外はもっていくことを許さないとわめいてそのままどこかへと行ってしまったのである。

 袋の中を確認すると、干し肉と水のみ。兵士達は怒るが、相手は第一王女であるからどうすることもできない。下手をすると処罰、なんてこともあるかもしれないからな。

 とまぁ、このような経緯で俺達は毎日昼を干し肉と水のみで過ごすしている。まぁ、食えるだけましなのだが、俺のせいかと考えると気分が重くなる。


 二回目以降も俺の訓練の相手はガイゼルさんだった。兵士達との不和が原因かと思ったら、それもあるが俺の身体能力が高い為に他の兵士が相手をして万が一があってはいけないためらしい。こちらとしてはガイゼルさんが訓練相手をしてくれることは願ったりかなったりなので不満はない。というのも、ガイゼルさんは教え方が上手いのである。

 俺の課題は剣や槍などといった武器の経験を積むことだ。

 ガイゼルさんは自分にもっともあう武器を見つけるため様々な種類の武器を扱ったことがあるらしく、訓練の際には使っている武器の握り方、基本的な扱う際の体勢、その武器のメリット・デメリットをわかりやすく教えてくれるのだ。そして教わったことをきちんと扱えるように訓練をし、違和感があれば注意を受け訓練を再開するのである。

 おかげで武器を扱う際に感じていた違和感は初日よりも感じなくなってきた。

 そんなことを休憩中にぼんやり考えていると、目の前から三人の兵士が俺のほうへと向かってきた。

 先頭は女性、後ろに俺より一、二歳は下であろう少女と少年が並んでついてきている。少女のほうは茶髪のボブカット、少年の方は茶髪をスポーツ少年のような髪型にしている。誰だろうか、今まで話したこともない人達だな。


「どうも、勇者様。調子はどうでしょうか?」


 先頭の女性が微笑みを浮かべながら俺に尋ねる。真紅の髪は肩の少し上で切り揃えられており、瞳は髪と同じく真紅。プロポーションは兵士ゆえか引き絞られているも女性らしさを感じさせる丸みがきちんとあり、快活に笑う姿が似合う女性だ。何よりの特徴が背中についたこうもりのような羽とトカゲの尻尾である。ドラゴンを連想させるな。っと、その前に、俺は勇者じゃないから敬語は要らないと言わないとな。


「あの、俺は勇者じゃありません。なので、敬語でなくてもいいですよ。えっと……」

「あぁ、自己紹介していませんでしたね。私はアキトラと言います。それで、本当に敬語でなくても?」

「はい」

「そう……それはありがたいね。正直敬語は苦手なんだ。勇者様、じゃなくて神楽嶋様?」


 素の口調に戻ったアキトラさんは俺の名前呼びに戸惑う。今まで勇者様と呼び名を固定していたためだろうな。


「シュウトでいいですよ、アキトラさん。あと背中とかのそれって?」

「ん、了解、シュウトね。あと、これは竜人という種族の特徴だよ。さてと、あとはこの子たちの紹介だね。二人とも、自己紹介を」


 なるほど、アキトラさんは竜人という種族なのか、だからドラゴンの羽や尻尾がと納得している俺をよそにアキトラさんは後ろの二人を前にだすと自己紹介するように促した。

 俺の目の前に出た二人は少し体を硬くしている。緊張だろうか、別に俺は緊張されるほど偉くなどないんだけどな。こちらの世界の人からしたら、そんなことは関係ないか。


「わ、私の名前はミルアといいます!」

「俺はクロルといいます!」


 大きな声で自己紹介をするミルアとクロル。声は緊張で少し震えており、見ていてかわいそうである。


「はじめまして。俺はシュウトだ、よろしく。さっきアキトラさんに言ったように俺は勇者じゃないから気軽に接してくれるとうれしい」


 俺はそう言いながら二人に笑顔を向ける。二人は最初俺の言葉に戸惑ったようだったが、すぐに笑顔で「はい!」と返してくれた。

 その後は訓練の休憩中に俺を含めた四人で色々と話した。といっても殆どがたわいのない話だったが。ちなみに三人が俺に話しかけてきた理由はミルアとクロルが話したそうにしていたのをアキトラさんが見てつれてきた、というものだ。話をしている中でミルアとクロルが目を輝かせて話すときは、年下に見えるということもあるのか二人の姿は微笑ましかった。

 アキトラさん、ミルアとクロルの三人がガイゼルさんを除く兵士の中で始めて交流を持てた人達である。俺はその事実にうれしくなりながらミルアとクロルの微笑ましい姿を笑いながら見ていた。




 三人と交流が持てた夜、俺は訓練から帰り夕食を食べ終えて自分の部屋へと向かっていた。あの後嬉しさで浮かれてしまい、ガイゼルさんからたしなめられた。浮かれてた俺、恥ずかしいな……。

 ちなみに、隣にはメイドのミレイアさんがいる。ミレイアさんは自己紹介をした翌日から俺を食堂まで案内、また訓練から帰れば俺の部屋へ案内してくれるのだ。他にもシーツ交換などもしてくれているそうだ。いやはや、ありがたい。


「どうかなさいましたか、神楽嶋様?」


 俺がミレイアさんへの感謝の気持ちを抱いていると、心配したようにミレイアさんが聞いてきた。いえいえ、あなたへの感謝の気持ちを抱いていたんですよ、なんて言える訳がない。恥ずかしいわ。

 俺は苦笑いを浮かべてごまかす。ミレイアさんは訝しげにしていたが、すぐになんでもないように前へと視線を戻す。

 俺も前へと視線を戻すが、すぐに立ち止まった。

 なぜなら、目の前に第一王女がいたからだ。偶然会った、というわけではないだろう。先ほどから廊下の中央に立ちふさがるように立ち、その場を動こうとしていない。明確に何かしらの意図があるのだろう。


「あら、神楽嶋様。奇遇ですね」


 言葉からにじみ出る侮蔑。というか奇遇じゃないだろ、明らかに狙っただろ。

 第一王女は笑みを浮かべながらこちらへと歩み寄る。笑みは浮かべているのだが、目は笑っていない。あるのは相手を虐げんとする意思だけである。


「訓練、がんばっていらっしゃいますか?といっても、あのような使えないステータスなのですから大して意味もないのでしょうが。城の訓練場に戻ります?戻っても他の方々の的になるぐらいしか役目などありませんが。ちなみに勇気様はすでにエリゼナに迫っていますわよ。本当にすばらしいお方です、勇気様!」


 最後にうっとりとした顔で天ヶ上を讃えるように言う第一王女。最初のほうは明らかに俺のほうを馬鹿にしている。できる役目が的だけとは、馬鹿にしすぎである。

 しかし、近衛騎士団長に迫っているのか。それが力押しでなのか、それとも技術も含めた総合的な面なのか、どっちだろう、少しばかり気になるな。だが、安心しろ第一王女。俺は今まで通りにガイゼルさんについて訓練を行うから、城の訓練場では的なんぞやらん。


「戦闘面で使えない、挙句に人としてもだめとは本当になんでしょうね。勇気様から聞いているのですよ、あなたが過去にしたことを。同じ人間なら改めるなどしたらどうです!あなたは――――」

「それ以上はやめてください、シェルマ王女様」


 興奮気味に俺を罵っていた第一王女の言葉をさえぎるミレイアさん。デマの話をだされてイライラしはじめていた俺はミレイアさんの行動に驚き、苛立ちが急速に失せていく。


「……今、なんと?」

「やめてくださいと申し上げたのです、シェルマ王女様」


 不機嫌そうな顔でミレイアさんを睨む第一王女。しかし、ミレイアさんは繰り返し言うと第一王女をじっと見る。

 場の空気が重くなっていき、二人の間など剣呑ささえ漂っている。このままでは明らかにまずい。


「それでは、もう夜も遅いので失礼します。行きましょう、ミレイアさん」

「あ、はい」


 早口で第一王女に言うとミレイアさんに声をかけ第一王女の横を通り部屋へと向かう。ミレイアさんも返事をして俺の後を追いかけてきた。俺達は後ろを振り返ることなく、少し早足で歩く。

 第一王女の視線が背中に突き刺さるように感じた。



 現在は俺の部屋の前。あれから無言で俺とミレイアさんは歩き続けた。


「先ほどはありがとうございます、ミレイアさん。俺をかばってくれて」

「え、あ、いいえ、それほどでも……」


 俺が感謝を示すとミレイアさんは少し笑みを浮かべて答える。ミレイアさんが第一王女の悪口を遮ってくれたこと、それは前の世界では滅多に体験などしなかった出来事でとても嬉しかった。悪口を一緒に言う他人はいたが味方になってくれる他人は少なかったからな。

 今日はアキトラさんたちやミレイアさんと知り合うことができて本当に良い日だった。


「それではおやすみなさいませ、神楽嶋様」

「はい、おやすみなさい」


 ミレイアさんが微笑みを浮かべて一礼する。俺は返事をすると、ドアを閉め鍵をかけた。

 閉めてからふと思う。

 気のせいだろうか、閉める瞬間ドアの隙間から見えたミレイアさんの微笑み。それが妙にゆがんだものであるように感じたのは。

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