第55話~到着、そして掲示板~
ホラビル神聖国の首都、ホリービアの第一印象は白っぽい建物が多いというものだった。
アグレナス王国の王都やオブリナント大帝国の帝都、そして魔法学園と比べて多いように思える教会などの建物の数々。治療院にも見かけるシスターや神父の姿。どれもがホラビルに来たのだと実感させるほど、他の国の雰囲気とは打って変わっていた。
何より目についたのは街の中央にそびえる大聖堂だ。城のようなその建物は、窓から漏れ出る光もあいまって荘厳さにどこか神秘的な空気も併せ持っている。
視線を下へと落とせば、ホリービアを真っ二つにするように大通りが延びている。石畳ではなく剥き出しの地面だが、それでも長年その通りを人が通ってきたためか土ぼこりの少ない平坦な道となっている。
夜のために人が少ないのかもしれないが、昼ならばこれよりも人が多くなるのだろう。
聞こえる客寄せの声、漂う空腹を刺激する匂い。その中を通るのは何も一般市民だけではない。冒険者、さらには俺のように魔獣を引き連れている者の姿もある。
ホラビル神聖国に入る前に聞いた話の通り、街で魔獣を見かけたとしてもすぐ近くに飼い主がいる。運搬に使うための魔獣ならまだしも、冒険者にいたっては魔獣を置いて街を探索していないようである。やはり厳しいのか。
「ピニョピィ〜」
「少しの辛抱だ、ロル。耐えてくれ」
じろじろと見てくる視線に居心地の悪さを感じたのだろう、ロルは小さく体を震わせて俺に擦り寄ってきた。
そんなロルに対して申し訳ないと謝る。小さい頃なら頭に乗せてハイドでもかけるんだがな。今の体で頭に乗られたら重さでふらふらしそうだ。それに前が見えない、なんてことにもなりかねない。
「とにかく、だ。まずは拠点になる宿屋を見つけないとな」
「ピピッ!」
「いつもなら手こずることはあっても一日で見つかったんだが……。ホリービアじゃあ難しいか?」
今までの光景から見ても、ホリービア内における魔獣に対しての認識は話に聞いていた通りだ。むしろシーソイがアグレナス王国近くということもあり緩かったのかもしれない。
魔獣をあまり良いものとして見ていない国の首都で運搬用でもない魔獣と一緒に泊まることが出来る宿屋を見つけるのは難しそうにも思える。
いや、後ろ向きじゃあいけないな。とりあえず話を聞いていかなければ。時間も無い。
「ロル、片っぱしに泊まることが出来る宿屋を探すぞ!」
「ピッ!」
俺の言葉に元気よく答えたロルを微笑ましく思いながら、俺達はホリービアを二つに分ける大通りに沿って歩いていった。
「やっと、やっと見つけることが出来た……」
「ピヒョォ……」
時刻は気付けば真夜中である。
ここに辿り着いたときの気力は消え失せ、疲労と微かな腹立たしさで宿屋のベッドに倒れ伏した。隣からは同じようにもう寝る準備を始めているロルがいる。
あの後、宿屋を探すもどの店でも運搬用ではない魔獣が一緒となると渋った。中にはロルを見た時点で笑顔を浮かべながらも取り付くしまもなく拒否する宿屋もあったほどである。
それが十軒も続けばさすがに精神的に堪え、二十軒いくかのところで魔獣を連れる冒険者がよく利用する宿屋を教えてもらうことが出来たのだ。探していた辺りとは反対の区域にある宿屋だったけれど。
本当に教えてくれた宿屋の親父、ありがとう。教えてくれなかったら今頃、二十軒を超えているところだったよ。
宿屋の親父という救世主に感謝の念をささげながら、ベッドの上でゴロンと転がり仰向けになる。視界一杯に広がる宿屋の天井をぼんやりと眺めていれば少しずつ瞼が落ちてきた。
いや、とりあえず明日の予定でも立ててからだ。小さく首を振って眠気をどうにか飛ばす。横からは小さくロルの寝息が聞こえてきた。
「とりあえず明日は会議だ。すぐにでも大聖堂に行ってフロアを把握して、潜り込もう」
考えを纏めるように呟いていれば、振り払った眠気が再び襲ってくる。時間を確認すればもう日を跨いでいる。会議は明日、ではなく今日と言ってもおかしくはなくなってしまっていた。
明日のためにも、今日は遅くまで起きることは出来ない。明日の朝一から行動を開始しなければいけない。
そう考えればもう既に閉じかけていた瞼は完全に閉ざされ、薄っすらと瞼の隙間から窺うことが出来た窓越しの月もとうとう見えなくなった。
□ □
朝早くに起き、朝食を食べることなく宿屋を出てすぐ向かったのは街の中央にそびえる大聖堂である。朝早くということもあり道を歩く人の姿は少ない。
まずはフロアの確認、そして時間になったら潜入と考えていた。
「そう、考えていたんだけどなぁ」
思わず漏れ出た独り言は大聖堂近くの掲示板に反射して空中へと霧散する。隣ではまだ眠いのかロルが小さく欠伸を漏らした。
視線の先、掲示板に貼られた紙に書いているのは主による会議が一日延期されたということであった。すなわち、今日ではなく明日開かれるということである。
理由は明確にされていないが、おそらく昨日出会った魔獣の群れだろう。『アトレナス』の魔獣ならばまだしも、群れを成していたのは『第一闘技場』の魔獣だ。それをホラビル神聖国側も把握したのであれば、会議が延長されたのも納得がいく。
「ピィ……」
「不満そうな目で見ないでくれ、ロル。とりあえず今日一日という時間の猶予が出来たし、無駄ではなかったということで。それにここにこうして来たんだ、作業はするさ」
ロルを宥めるようにそう言えば、上を見上げる。辺りに人がいないことを確認し、快晴の空に向かってそびえる目の前の大聖堂を睨みつけながら小さく魔力を込めた。
「オープン・マップ」
小さく呟くと目の前に大聖堂内全ての見取り図が映し出される。
オープン・マップは簡単に言うと把握できていない地形を完全に把握することが出来るという魔法だ。
<レーダー>と違う点といえば<レーダー>は対象を赤い点として表示するが地形は把握できない。一方のオープン・マップは対象の発見が出来ないが、地形を知ることが出来るのだ。
ざっと見ていけばやけにでかい会議室らしき部屋を見つけた。一フロア丸々使っているような会議場だ、おそらくここで開かれると思ってもいいだろう。
<レーダー>の設定を各世界の主に変更して展開すれば、三人分の赤い点が大聖堂内にいることが分かった。『第四工房』の主はホラビルが所属国で当然だが、どうやら一人まだ来ていないらしい。予想としては『第一闘技場』の主あたりだろう。
<レーダー>に表示された赤い点はどれも別の部屋にある。どうも割り当てられた客室のような部屋で休んでいるらしい。
(とりあえず会議室らしい場所は見つけた。後は明日、<レーダー>で主の場所を確認しながら行動するか)
大聖堂を見上げながら当日の行動を決める。
そうなると次は今日取るべき行動だ。気になっているのは先日遭遇した魔獣の一件である。『第一闘技場』の魔獣が『アトレナス』にて姿を現したというのは一大事だ。会議のようにほかにも何かしらの影響があっておかしくはない。その情報も集めていこう。
あとはこの国の国柄を実際にこの目でもっと見るのもいいかもしれない。宿屋を探すためにあちこち歩いたものの、その時は泊まることの出来る宿屋を見つけようと四苦八苦して辺りを見回す余裕など無かった。ホリービア内を見て回るというのもいいだろう。
(ホリービア内の探索、魔獣についての調査か。魔獣ならばギルドか? そういえば見落としているだけかもしれないし、この掲示板に何かあるかも)
そう思い立って掲示板をもう一度じろじろと眺める。時間が少し経ったためか、あちらこちらで人の動く気配がする。あんまり長居をするのもいけないだろう。
つい先程掲示板へと辿り着いたような人の様子を演じながら、掲示板を見ていく。
「それらしいのはっと……。お、これって」
掲示板を見ていれば、先程見逃した一枚の紙が目に止まる。
それは人相書が幾枚か貼られている場所だった。中には俺の人相書まである。何度見ても犯罪者扱いされているようで複雑な気分にさせるなぁ。
いや、目に止まったのはそれだからじゃあない。
俺は自身の人相書の横へと目をやる。そこにはもう一枚の人相書があった。
ローブを羽織り、顔は目深に被ったフードのため窺うことが出来ない。けれど隙間から覗く赤い目がこちらを凝視している。全身をすっぽりと覆うローブだが、唯一そのタコのような特徴のある足が隠しきれていなかった。
見た瞬間に思い出す。たった一度会っただけだが、おそらくあいつだろうと想定できる特徴だ。
「こいつ、五大祭であった魔獣の騒動でも森にいたよな」
「ピ? ピニョピッ!」
俺の言葉に釣られたようにロルは俺が見ている人相書へと視線を移す。そしてその通りだと言わんばかりに鳴き声を上げ、頭を縦に激しく振っていた。以前情報を共有した際に見た姿を覚えていたのだろう。
それにしても『第一闘技場』の魔獣だと言うことで第一が何かしら噛んでいるのかと思っていた。けれど蓋を開けてみれば以前見たフードの人物が魔獣を転移させたと書いてある。まさかちらりと考えたフードの人物のほうが当たっているとは思わなかった。
ざっと人相書とその下に書かれてある特徴を見ていく。
「魔族の可能性が高い、か。というか報奨金、俺とどっこいどっこいじゃね?」
他の人相書に書かれた額を見比べても、フードの人物についての報奨金は群を抜いている。俺こと『第五遊技場』の主の報奨金よりかは低いが、その額の差は決して大きいものではない。
「理由は『第一闘技場』の魔獣を『アトレナス』へと転移させたからってあるけれど、本当にそうかねぇ」
少なくともこの手配書を見て分かることはまず『第一闘技場』の魔獣が『アトレナス』へ来たことを一般市民が知っている、もしくは知らないながらも『第一闘技場』側が何らかの理由で隠すことをよしとしなかったのどちらかだろう。
まぁ、それはどちらかだとしてだ。残るのはこの手配書を、これほどの報奨金もつけて出した理由である。
魔族の可能性が高いと書かれた高い報奨金の手配書。ホラビル神聖国とカリオ魔国との仲が悪いことを考えれば、多少なりとも魔族に対しての敵対意識が関わっていそうだと邪推してしまう。
もしかしたら、ただ転移の魔法を使うことが出来るために報奨金が上がっているかもしれない。ただの考えすぎならばそれでいいのだ。このあとの行動でカリオ魔国に行くかもしれないのに両国が火花散る状態となると正直困る。
「グルルルルゥゥ」
そんなことを考えていれば、隣から物騒な唸り声が聞こえてきた。
ぎょっとしてそちらへと視線を向ければ、剣呑な目つきでフードの人物が描かれた人相書を睨みつけるロルの姿があった。
「ロ、ロル、少し落ち着いてくれ。この街でそれはまずい」
そう言いながら辺りをきょろきょろと見回す。まだ時間が早いだけに昼時ほどではないが、宿屋を出てきた時よりも人の数が多くなっている。ホラビル神聖国内で魔獣はあまり良く見られていない以上、敵意が見られるような誤解を受ける行為はあまり良くない。
さすがにロルもそれは分かっているのだろう。渋々といった様子ながらも唸るのを止めた。良かった、聞こえる範囲に人はいなかったけれど、ロルに何かあっては困る。
ロルも落ち着いたようだし、まずどうしようか。いや、まずするべきことは決まっている。
そう思った瞬間、俺とロルの腹が同時に空腹で鳴る。静かな広場には思いのほかその音が大きく響いているようで、何ともいたたまれない気持ちになった。
「とりあえず、朝食を食いに行くか」
「ピッ!」
空いた腹をさすりながらロルは元気よく俺の言葉に返事する。その様子に先程の剣呑さは無い。
朝早く起こしてしまったことだし、朝食は少し奮発しよう。ロルのことだから野菜……は食べないか。穀物は食べるな。すぐ想像できるのは肉を食う姿だけれど。
一体どこで朝食を食べようか。そんなことを考えながら俺とロルは掲示板のある大聖堂前の広場を離れ、店の建ち並ぶ大通りへと歩いていった。
場所を変えて大通りである。俺達が出たのは人の少ない早朝だが、時間も経って今はすれ違う人の数も多い。
出勤のために荷物を抱えて足早に進む人もいれば、時間にゆとりが無いのかパンを加えて走っている人もいる。あ、曲がり角で人とぶつかった。まぁ、相手はセーラー服を着た女子高生ではなく鎧を着た男性なのだが。
建ち並ぶ店のあちこちから開店の用意をする音、調理場から漂う空腹を刺激する匂いと大通りにはこれからさらに増すだろう人の活気が出てき始めていた。
宿屋から出る人の中には、槍や剣を腰や背中に携えた冒険者の姿もある。俺と同じようにパートナーである魔獣と一緒に行動している冒険者もいるが、魔獣の傍を離れないようにしている。
そんなホリービア最初の光景が繰り広げられる中、俺とロルは開いている飲食店を探そうと辺りをきょろきょろ見回していた。この辺りは冒険者の行き来も多いだけあって魔獣に対しての態度を除いて、アグレナス王国やオブリナント大帝国とほぼ同じように泊まることが出来る。
俺達が最初に来たところはギルドが近くに無いということから冒険者の利用も少なく、魔獣を連れた冒険者もいるという前提の宿屋が少なかった。そのために断る宿屋ばかりだったのだ。何という不運。
「ピピィッ!」
「ん、どうしたロル?」
大通りを歩いていれば、突然隣でロルが鳴き声を上げながら服の裾を鉤爪に引っ掛けて引っ張ってきた。
ロルが指し示す方向を見れば、そこには一件の食堂が建っていた。食堂ではあるものの酒場も兼ねているのだろう。窓越しに見た店内はカウンターの近くに酒瓶の並ぶ棚が設置されている。さすがに朝ということで飲む人は少ない。これから出てくるのかもしれないが。
そして何より、店内にいる人は冒険者が多い。中には俺のように魔獣を引き連れている人もいる。ここなら大丈夫だろう。
「よく見つけたな、ロル」
「ピニョォッ!」
褒めてあげれば、ロルは嬉しいような照れたような鳴き声を上げる。
さて、店も決まったことだし腹も空いている。とっとと店内に入るとしよう。そう決めて年季の入った木製の扉を押し開けば、カランカランとドアベルが来店を報せた。
「いらっしゃいませ、お一人様と魔獣一匹でしょうか?」
「はい」
「分かりました、こちらへどうぞ」
女性従業員と短くそう言葉を交わした後、彼女についてカウンター近くにある二人掛けの席へと案内される。
椅子へと座れば女性従業員は音もなくメニュー表を机上に置いた。
「こちら、メニューです。決まりましたらお呼びください」
一礼しながらそう告げた従業員はその場を離れた。それを目の端で少しばかり見送った後、机上に置かれたメニュー表を開く。ふむ、どうしようか。
そんなことを考えていれば、近くの席から世間話をする声が聞こえてくる。そちらへちらりと視線を向ければそこには三人組の冒険者がいた。会話に花を咲かせているのだろう、朝食を食べる手はゆっくりとなっている。
「おい、そういえば今日だったじゃねぇか」
「何がよ?」
「会議だよ、会議! 大聖堂で行われる会議だよ!」
少しばかり語調を強くした男性冒険者の言葉に杖を隣に立てかけた女性が呆れたような溜息をわざとらしく吐いた。
「ロル、先に決めていい」
「ピ? ピニョ」
意識は例の三人組に向けたまま、ロルにメニュー表を渡しつつそう言う。最初は不思議そうな声を出したロルだったが、聞くようなこともなく一声鳴いて手渡されたメニュー表を受け取った。本当に賢いよ、お前は。自慢の魔獣だ。
内心でロルを褒めた後、すぐさま意識を隣の席へと戻す。丁度溜息を吐かれた男性がジト目で女性に対して言葉を発している時だった。
「何だよ、何かあんのかよ」
「あんた、掲示板見てないんでしょ。昨日のうちに張り出されていたわよ、会議が明日に延期されたってね」
「まぁた何でそうなったんだよ。……いや、そりゃそうか」
女性の言葉に少しばかり口調の荒い男性は一人納得したように頷く。
そんな二人の様子を傍目で見ていた冒険者の青年は、何が何だかというように二人の顔を交互に見ていた。
さすがにその様子に気付いたのだろう。女性は、ん?と小さく声をもらしながら視線を青年のほうへと移した。
「あなたも知らなかった?」
「えっと、はい。それで、どうして延期になってしまったのか聞いても?」
「昨日、『第一闘技場』の魔獣が『アトレナス』へ転移されたのよ」
「え!? それって一大事じゃないですか!」
「ちょっと声が大きい」
驚いたような青年を女性は低い声音で諌めた。一方の青年は恥ずかしさと気まずさが混ざったような表情ですみませんと小さく呟く。
女性は青年に分からないまでもないけど、と返すと再び言葉を紡ぎ始めた。
「勇者である天ヶ上様達や樹沢様達が対処したから良かったものの、ホリービアに近い場所に現れたという話よ。しかも一つ目トロールやビッグタートル、マンティコアラの群れらしいわ」
「そんな……。『アトレナス』でもその種の群れならAランク以上は確実ですよ。それが『第一闘技場』の魔獣となると……AランクとSランクの冒険者がかなり必要じゃないですか」
すっかり食事の手を止めてそう言う青年に、女性はもちろんのこと冒険者の男性もうんうんと頷く。
「でもそれをわずか少数で全て討伐したのだから、やはり勇者様ということなのでしょうね」
「そうですよねぇ」
「昨日の夕方近くに凱旋があったらしいけどよ、マンティコアラに対して一人で挑んだときもあったそうだぜ。一人で対処なんざ、もう化け物としか思えねぇよ」
「ちょっと、言葉を慎みなさいよ」
男性の言葉に女性が眉間に皺を寄せて言う。それに対し男性は苦笑いを浮かべながらすまないと謝っていた。
そこでその話は途切れ、次第に今日彼らが行く依頼についての話に変わっていく。
(そうか。となるともう勇者達は来ているのか)
彼らの話では既にホリービアへと到着しているようである。それに彼らは彼らで『第一闘技場』から転移された魔獣と遭遇したようだ。樹沢の話も出ていたし、ホリービアには今、勇者達が全員揃っているのかもしれない。
天ヶ上を筆頭に橘、緋之宮、小峰、そして樹沢。彼らの顔が脳裏に過ぎる。
眉間に皺が寄りそうになるのをどうにか堪えた。もう条件反射だ。あれからどうなったかも知らない。樹沢が勇者らしい行動をしているようだが。
「ピニョォ」
「あぁ、すまない。ちょっとメニュー表を貸してくれ。すぐ決めるから」
さすがに辛抱が切れたのだろう。ロルがメニュー表をこちらへと差し出しながら催促の一声を上げる。そんなロルに俺は申し訳ない気持ちになりつつ、差し出されたメニュー表を受け取った。
さて、朝食はどれにしようか。すぐ決めるといった手前、時間をかけている余裕は無い。もっとも、そこまで食にこだわるほどグルメでもないのだが。
メニューをざっと眺めていれば、先程のことが頭を過ぎる。フードの人物なりと気になることが新しく出来て入るが、ひとまず目先の会議だ。
これから彼らがどう動くのか、今の勇者達は一体どうなっているのか、それらの情報を多少なりとも掴まなければいけない。
メニューを握る手に力を思わずこめて意気込むが、すぐさまロルにせっつかれて慌しく注文する品を選ぶ作業へと戻っていった。




