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第五遊技場の主  作者: ぺたぴとん
第三章
67/105

第53話~シーソイ、そしてラーケ~

 まさかのラーケ仲間入りを経て、『アトレナス』に戻った俺達は少し早いペースで街へと向かう。少しばかり時間が取られてしまったためだ。

 ラーケと出会った砂浜は依然として人の気配が無い(・・・・・・・)。あまりの静けさで先程から聞こえるといえば波の音と鳥の鳴き声ぐらいだ。

 どこかに立ち入り禁止の看板でもあれば納得するのだが、それらしい看板は見当たらなかった。


「ここいらじゃあ、あの浜辺は海水浴に適していないとかか? そうは思えないんだけどな」

「ピピィ」


 俺の言葉にロルは同意するように頷きながら鳴いた。本当にそうなんだよなぁ。

 人のいない砂浜を通り過ぎれば、しばらくの間は海の見える平原を海岸沿いに進む。

 ホラビル側の中継として目的の場所である街――シーソイは道なりに進めば辿り着く海沿いの街だ。海が近くにある街ということもあり漁業が盛んで、街の食堂など飲食店で出される食事も海鮮物をお勧めとしているそうなのだ。

 そのことを少し楽しみに思いながら歩いていけば、二時間も経たないうちにシーソイの街の姿が視界に入った。

 近づくほどに大きくなっていくその街は目に眩しいほどの白と深い海の青が建物などに多く使われている街だった。白い壁に青い屋根が多いその街は遠目ながらも海のイメージに合っている。

 ようやく辿り着いたシーソイは門を潜ればよりいっそう海辺の街らしさがあちこちに見られた。

 防壁に囲まれたその街は大きな通りは中央に水路が走り、両脇に敷かれた石畳の通りを人々が行き交う。時折、中央の水路をゴンドラらしい船が走っている。

 そこにはアグレナス王国や他の国々とは一味違った海辺の街の光景が広がっていた。


「いやぁ、すごいなぁ」

「ピィ……」


 今まで見た街とは全く異なる光景を前に呆気に取られ、思わず言葉がこぼれてしまう。隣に立つロルも小さく感嘆の声を上げていた。

 やはり主宗教が関係しているためか、周りのロルを見る目は他より厳しい。ここからはロルの傍を離れないように意識して行動した方がいい。

 そう考えてロルと連れ立って歩き始める。

 周りを見れば魔獣の姿はちらほらと見かけることが出来た。それでもいつも以上に冒険者や飼い主が傍から離れないのはホラビルという国の特性上だろう。


「ピィピニョォ」

「ん、どうしたって……あぁ、もう昼を過ぎているのか」


 隣で訴えるように鳴いたロルの方を見れば腹を撫でている。どうしたのかと視線を向けたと同時に俺の腹が空腹で鳴った。

 時間を確認すれば昼過ぎ。もうこんな時間になっていたのか。


「それじゃあせっかく海沿いの街に来たんだし、海鮮物でも食べるか」

「ピッ!? ピピニョォ!」


 苦笑混じりに提案すれば、ロルは嬉しそうな声を上げながら頷いた。その動きは先程よりも心なしか激しいように思える。体を震わせるたびに少し青っぽい触り心地のよさそうな羽毛が右に左にゆらゆらと揺れた。

 それならば早速行動に移さねば。ついでに宿屋を探しながら、海鮮物を扱う食堂なりなんなりを見つけるとしよう。

 そうと決まれば行動は早く、急かしてくるロルを宥めつつも水路の傍に走る通りを進んでいく。

 雲一つない空から射す日差しが家の壁に当たり、よりその白さを際立たせていた。



     □     □



「うっまいなぁ……」

「ピィ……」


 食堂の片隅、二人がけの席でロルと共にため息混じりの声を漏らす。その声は昼時の喧騒に混じり、かき消されてしまった。

 明日までの宿屋はこの店に来る前に既に決めてある。置くような荷物はほとんどアイテムボックスに入れればいいので、宿屋を決めた後すぐに店を探してこの店に来たのだ。

 大きな食堂というわけではない。

 周りを見渡せば見かけるのは漁から帰ったらしい漁師や子連れの母親、魔獣連れの人といった所だ。

 誰もが木製の丸椅子に腰掛け、海鮮物に舌鼓を打っている。

 魔法学園とは違い、以前の世界を彷彿とさせる料理は少ない。それでも現地で獲ったであろうエビを使ったエビフライや白身魚の味噌汁はどれもおいしく感じられた。

 エビフライは衣が湿ることなく噛んだ瞬間にサクサクと音が鳴るほどカラッと揚がっている。それだけでなく中のエビは肉厚で、一口食べた瞬間、口の中にはエビ本来の風味がふわりと広がった。

 そして味噌汁。濃すぎず薄すぎず丁度よい濃さの味噌は白身魚に染み、淡白ながら魚の風味がある白身魚の味をより引き立たせている。

 そして久しぶりに食べるであろう白米の味はどこか懐かしい。

 ただ、ただ、美味い。

 刺身や海鮮丼のようなものとは違うが、それでも確かに他国よりも海鮮料理がおいしく感じられたのだ。

 満足気にエビフライ定食に舌鼓を打てばあっという間に時間は過ぎる。

 食べ終えた俺とロルは料金を支払い、街の片隅にあった食堂を後にした。




 細い路地を出て水路のある大通りへと出る。視界を横切るように荷物を載せたゴンドラが水路を通って行った。微かに聞こえた歌声は船頭が歌っていたのだろう。

 時間は……まだそこまで経っていないのか。これなら夕飯まで宿屋で過ごすには長いし、そこらへんを散策でもしようか。

 散策するならば最初に大きな広場にでも行ってみよう。掲示板とかもあるはずだし。


「ロル、ちょっとギルドのある大広場へ行くぞ」

「ピ? ピピニョッ!」


 提案するとロルは少し抑え気味にしながらも快活に答えた。

 ロルの同意も得たところで早速大きな通りをギルドのある広場へと向けて歩く。

 石畳の通りには細い路地と違ってやはり人が多い。店から呼び込みの声が道行く人にかけられ、時折その声に誘われて人が店内に入っていく。

 シーソイにだって冒険者はおり、武器防具屋や雑貨屋へと足を運んでいた。

 通りに沿うように並ぶ店や屋台は他の国でも見たのだが、この街にはちらほらとゴンドラを使った屋台も見られた。

 水路に浮かんだ少しばかり他よりも大きいゴンドラには屋根が設けられ、その下では串焼きやら食べ物を客に渡している。

 そんな光景を横目に辿り着いたのは街の中央にある大広場だった。

 やはり大広場には人が多い。集まる多くの人を狙ってか、広場を囲うようにして並ぶ店のどれもが大きい。

 その中で最も大きいのはギルドだった。

 これは他の街でも同じだ。やはり国をまたいで冒険者は活動しているため、大きな街にはそれに見合った大きさになるのだろう。

 実際のところは知らない。俺は冒険者じゃないからな。


「えっと掲示板はっと……お、あった」


 広場を見回して目的のものである掲示板を見つける。木製の掲示板の前には一人二人と少ないながらも人がいた。

 掲示板をチェックしてみてもめぼしい情報は……って、ん?

 視界の端を少しばかり気になる単語が掠める。何ということは無い、どの街でも見かける魔獣出没による注意喚起の内容が記された紙だ。

 けれど内容にひっかかりを覚えたのである。

 何が書かれているかと目を凝らしてみると、海辺に出た魔獣についての注意と討伐の時期が記されている。

 討伐日は明日の早朝、集合場所はギルドとなっている。

 討伐対象は海の魔獣、クラーキアである。クラーキアの出現場所は俺達がシーソイに到着する前に寄った人のいない浜辺だ。

 うん、このクラーキアって今『第五遊技場』にいるラーケのこと、だよな。種族だけでなく出現場所も心当たりがある、ありすぎる。

 先程名前をつけてパートナーとなったラーケが討伐対象とされていたことに、もしやあいつは人殺しをしたのではと疑ってしまう。

 解析をした際にそれらしい記述は無かったが、見落としていたのかもしれない。

 ふと視線を感じれば、こちらをじっと見つめているロルがいた。


「……ピ」

「うん、分かっているから。ちょっと、もう一度転移するぞ」

「ピニョッ」


 急遽、予定を変えてシーソイにあるゲートへと向かう。傍から見ればどの世界に行こうとしているのか分からないため、何の問題も無い。

 転移の魔法を使うのに人目を気にしなければいけないのならば、堂々と帰ることの出来る方法が楽だ。

 早くラーケを問い詰めたいのだが、ことはそうスムーズに進まなかった。


「なんだ、人だかりが出来ているじゃないか」


 一体何だろうと思いながらもそう呟く。

 『第五遊技場』に向かおうと転移のゲートに来たのはいいのだが、何故かゲートの周りには人だかりが出来ているのだ。誰もが困った顔で転移のゲートを見上げたり、隣の人達と囁き合っている。

 それでも中には転移のゲートを使用している人もいるのだ。故障であればそのようなことは無いし……本当に何だろうか。


「一体どうかしたんですか」


 事態を把握しようと近くの女性に声をかければ、その女性は困り顔のままこちらに振り向いた。


「いやね、『第一闘技場』に行こうとしているのだけれど、どうにも転移が出来ないらしいのよ」

「出来ないとは?」

「第一に行こうとしている人だけ、どうも転移も出来ないままゲートをすり抜けてしまうのよ。でも時々出来るんだから故障だとは思いたくないのだけれど……」


 最後に困ったわと締めくくりながら女性は頬に手を当て、ため息をついて転移のゲートを見上げた。


「これ、街側に報告は?」

「もう既にしているわ。だから今は修理待ち。あぁ、でも第一以外になら正常に動くらしいから使っても構わないわよ。ほら」


 そういって女性が転移のゲートを指し示すと、そこには先程も見かけたゲートを利用している人達がいる。

 なるほど、彼らは『第一闘技場』以外の世界に行っている人達なのか。


「あなたは第一に行きたいの?」

「いえ、別の世界ですよ」

「そう、なら通ることが出来ると思うわ」

「そうですか、ありがとうございます」


 女性にそう礼を言うと早速ゲートを潜る。戻るつもりなど無かったのだが、短期間で二度目の帰還である。

 景色は移り変わり、遊技場の入場ゲート前へと辿り着いた。ただ目的地は園内ではないため、すぐさまロルを連れてラーケのいる海へと飛ぶ。斜め後ろからロルのものである翼を羽ばたかせる音が耳に届いた。

 しばらくするとつい最近に見た白い砂浜が視界に入る。それと同時にゆったりと海を満喫するように泳いでいるラーケの姿が映った。

 砂浜に降り立てば楽しそうな雰囲気をこれでもかと放ちつつ、こちらへと近づいてくる。その様子はこれから聞くことを考えれば尋ねるのを躊躇われるほどだ。鳴き声は野太いけれど。


「ラーケ、少し聞きたいことがある」

「ヴォオ?」

「シーソイでお前の討伐依頼らしき張り紙を見つけたんだ。……人を殺してはいないよな?」


 少し剣呑な空気を放っていることは自覚しつつもそのまま尋ねる。腰に携えている≪駿影≫がカチャリと不穏な音を立てた。


「ヴォオオッ!?」


 慌てたような鳴き声と共にラーケはぶんぶんと頭部を横に激しく振る。ちぎれてしまいそうなほどのその勢いは見ている側がかわいそうに思えてくるほどだ。


「じゃあラーケ、お前にもう一度解析をかける。いいな? 否定は止めてくれよ、より疑わしくなるから」

「ヴォ、ヴォオ!」


 俺の言葉に今度は首を縦に振るラーケはどこからでもどうぞとばかりに堂々とその場に立つ。

 そんなラーケに解析を再度、かけてみる。思わず唾を嚥下し、出てきた結果を見た。

 スキルや使用できる魔法に隠蔽系のものは無い。だから偽装はまず無理だ。それならばとより詳しく解析を試みれば、やはり人を殺したという形跡は無かった。ラーケは人を殺していない。

 では何故、あの時俺達を攻撃してきたのか。殺していないことからそこまで血気が盛んという性格でも無いだろうに、攻撃をしてきた理由が分からない。

 それをラーケから直接聞くことが出来ればいいのだが……。


「お前が喋ることが出来たらなぁ」

「ヴォオ……」


 俺の呟きにラーケは申し訳なさそうに体を縮ませた。しかし何かを思いついたように体をピンッと伸ばすとひらひらとしたひれをより震わせた。

 一体なんだろうかとラーケを見上げていれば、遊技場の方から近づく気配が二つ。そちらへと視線を向ければ金髪と銀髪を風にたなびかせた瓜二つの双子、リリアラとルルアラの姿があった。


「どうしたんだよ、二人とも」


 降り立った二人にそう問えば、二人は息を合わせたように視線をラーケへと向け、そしてこちらへと戻した。


「ラーケが、呼んだ、ので」

「そうなのです。何やら必死に呼んでくるので来たのです」

「え、てか二人とも、ラーケの言葉が分かるのか?」


 言葉が通じることを前提に話している二人に慌ててそう尋ねると、一瞬当然といった顔を二人はしたがすぐに納得したようなそれへと変わる。


「そういえば、秋人様に、話していない」

「そういえばそうだったのです。秋人様、私達が魔族であるというのは自己紹介の時に話したのです?」

「あ、あぁ。確かに聞いているけど」

「私達の、紋章は、水滴のような、形をしていました、よね?」


 そう言いながらリリアラとルルアラは白魚のような手でほぼ同時に前髪をかき上げる。そこには以前見たことのある、水滴を複雑化した紋様が描かれていた。

 リリアラとルルアラはかき上げていた髪を下ろし、再び口を開く。


「水滴のような紋章は水棲魔族である証なのです。私達は魔族の中でも水魔の血族なのです。水魔は文字通り、水に棲む魔族なのですが、水棲の魔獣とは意思の疎通が可能なのです」

「だから、ラーケが呼んだと、分かったんです」


 二人の言葉に賛同するように、ラーケは体を嬉しそうに震わせる。

 言われてみれば納得することで、思わずなるほどと呟いてしまった。やけに親しげにしている様子も、意思疎通が出来ることを考えれば当然のことと思えた。

 あぁ、そうだ。それなら丁度良い。


「二人とも、ラーケがどうして浜辺で俺達を攻撃してきたのか知りたいんだが」

「ラーケは、秋人様に、攻撃を仕掛けた……?」

「それは本当なのです……?」


 瞬間、二人から殺意が滲み出てくる。シックなメイド服で隠していたのか、それぞれの得物を取り出すと静かに構えた。

 昨日の今日ということもありそこまでは聞いていないのだろう。ラーケがその部分を伏せていたかもしれない。

 もちろん慌てるのは殺気を向けられているラーケである。

 二本の触腕を自身の前でぶんぶんと振り、否定の意志を示していた。余程必死なのだろう、振られている二本の触腕が風を切り鈍い音を辺りに響かせている。


「まぁ、殺意が無かったというのは本当みたいだったし武器を戻してくれ。とりあえずさっき言ったのが気になっているんだよ」

「む……分かり、ました」

「とりあえず聞いてみるのです」


 殺気を引っ込めたリリアラとルルアラはラーケと意思の疎通を始める。

 傍目からは無言で互いに見つめ合っているように見えるのだが、ラーケが先程と同じように頭頂部のひれをひらひらと動かしているのだから意思の疎通をしているのだろう。

 しばらくすると、会話が終わったのであろうルルアラとリリアラがこちらへと向き直った。二人の眉根は微かに寄せられ、整った容貌に影が落ちている。


「秋人様、ラーケは人を殺したことは無い、そうです。ただ、ラーケは魔獣という特性上、冒険者や人間に、何であろうと、敵としてまず見られます」

「まあ、そうだろうな。二人みたいに意思疎通が出来るならまだしも、普通なら出来ないだろうし」

「ともかく、それで冒険者達に攻撃されるわけなのです。自衛として秋人様にしたように攻撃を仕掛けるフリをして脅すことはもちろんのこと、人間に会わないようにとしていたらしいのです。秋人様、というよりもむしろ今回はロルだったのですが、脅す意味合いで攻撃したらしいのです」


 ルルアラはそこで言葉を切る。なるほど、あの行為は自衛のための脅しだったのか。

 そう納得していれば今度はリリアラがルルアラの言葉を引き継ぐ。


「けれど、逆に、それが悪かった」

「その通りなのです」


 リリアラの言葉に頷いたロルは視線をラーケへと向けた。

 当時のことを思い出しているのか、ラーケはどこか遠い場所を見つめている。


「ラーケとしては自衛でも人間としては脅威なのです。私達のように意思疎通が出来る人がいたら話は変わっていたのかもしれませんが、そんな人はいなかったみたいなのです」


 そこで言葉を区切ると、ルルアラはこちらへと再び視線を向けた。


「何度も冒険者が討伐に来て、その度に怯ませては逃げる。それを繰り返していたみたいなのです」

「その結果が、秋人様の見た、討伐依頼になるかと……。生きるためにも、あの場にはいたくなかった、ようです。けれど、変に動けば、ギルドに動きが伝わって、すぐにでも討伐されるのではと、怯えていたようです」

「なるほどなぁ、生きたい為にしていた行動が全部裏目に出ていたのか……」


 俺がポツリと漏らした言葉に、ラーケは力なく項垂れる。

 殺意の無かった攻撃はただ生きるための威嚇だった。けれど意思疎通が出来ない人達にとって、その威嚇は俺が勘違いしたように攻撃に見えていたのである。あの海辺に人や船が見当たらなかったのはギルドなり何なりが注意喚起をしたためだろう。

 そうなればラーケにとって自身の首を絞めることになるが、それでも生きるためにやっていた。けれど事態を止めることは出来ず、むしろ最悪な結果を招いている。

 やりようならばいくらでもあったのかもしれない。

 けれどラーケがこの行動をとったことは事実だし、それを今更どうとも言えないのだ。

 命の危機があった海ではなく、今はこうして安全なここにいる。なんだかんだ、ラーケにとっては良い展開だったのかもしれない。


「秋人様は、ラーケを、追い出すのですか?」

 

 そんなことを考えていれば、リリアラがおずおずとそう尋ねてくる。何も言わないがルルアラもこちらをじっと心配の目で見つめてきていた。


「いや、ラーケが人を殺したわけではないということも知った。それにどうしてあの海にいたくないのかも知った今、戻れだなんて言えないよ」


 その言葉にラーケはもちろんのこと、リリアラとルルアラもほっと安堵したようにため息を吐く。なまじ意思疎通が出来るために、よりラーケに感情移入してしまったのだろう。


「とりあえず、それが分かったならもうあとは大丈夫だ。ラーケはこれからもここに住んでいい。それじゃあ、俺とロルは『アトレナス』に赴くから」

「ピニョピッ」

「分かったのです」

「分かり、ました。いってらっしゃい、ませ」


 ルルアラとリリアラに続き、ラーケもこちらに手を振って見送ってくれる。彼らに手を振り返しながらも俺達は再度、『アトレナス』へと向かった。

 戻ればもういい時間となっており、ロルとともに夕食を食べたあと宿屋へと戻る。既に外は暗く、空を見上げれば星が瞬いていた。

 薄暗い室内の中、ベッドのすぐ傍から聞こえるロルの寝息を聞きながらも窓から見える月へと視線を移す。

 明日には出立だ。そうしなければ主達の会議に間に合わない。

 陽の光とは違う優しい月光を見ていれば、自然と瞼が落ちてくる。頭の中で明日の段取りを組み立てている間も少しずつ瞼は下がり、そして完全に閉じられた。

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