第50話~王都、そして会議~
ハイデラで一泊した翌日の朝、泊まっていた宿を後にして王都へと向かう。
整備された道を囲むようにそびえる森の木々は、時折風に揺れてかすかに葉の擦れる音を立てていた。
思えばこの道は城を追い出されたときにハイデラへと向かおうと通った道である。あの時は城に戻るなんて事があるとは考えていなかったし、戻ろうとも思っていなかった。
(それなのにこうしてこの森を通って王都に向かっているとは皮肉だよなぁ……)
ロルに心配されないように内心で呟きながら自嘲的な笑みを浮かべる。
忘れたわけではない。俺への天ヶ上達の扱い、第一王女とお付のメイドの対応、結果的に城から逃げる羽目になったこと。
どれもが今もありありと思い出すことが出来る。そして苛立ち、怒り、そして諦念も。
かといって悪いことばかりだった、といえばそうではない。
ガイゼルさんやアキトラさん、ミルアにクロルといった兵士の面々との訓練は充実したものだった。最後は城から逃げる際も手伝ってもらったし。
そして思い出されるのは胸に刻まれたガイゼルさんとアキトラさんの言葉だ。
(驕るな、そして見誤るな、か……守れてんのかなぁ、俺……)
守れていないのではないか、そんな思いが強い。それを強く印象付けたのは特にオルブフとルルアラが騙された件だ。
あの時こうすれば、そもそも、そんなことを考えていっても際限が無いことは分かっている。それでも、どうしても考えてしまうのだ。
結局は守ることができていない、その一言に尽きるのだろう。
思いのほかストンと収まったようなその言葉は、思わずため息が出てしまいそうになるほど胸中を複雑なものにした。
視線の先、遥か向こうに見覚えのある城が見える。そろそろ森を抜け、王都に着くのだろう。
ロルを心配させないようにとため息を噛み殺しながら、肩が重くなったような感覚の中ひたすら森の中を歩いていった。
そこまで開いてもいない気がするが、久々の王都はやはり名前に負けることなく活気で満ちていた。
食堂や喫茶店、衣料品店や宿屋といった店が軒を連ね、舗装された道のあちらこちらには焼き鳥などの食い物はもちろんのことお土産などの品々を店頭に並べている出店もある。
親子連れや忙しなく通りを歩く男性、揺れるたびにガチャガチャと金属音を立てながら歩く冒険者と通りにいる人も様々だ。
門で手続きを済ませたのち、視線をあちらこちらに向けながら通りを進む。ルルアラ達を迎えに来て以来だが、あの時はそこまで辺りを見回る余裕などもちろん無かったため妙に新鮮に感じる。
最初に『アトレナス』に来た際、殆どを城の中か訓練場で過ごしたためというのもあるのだろうが。
活気づく通りがある一方で、薄暗い路地などには時折ぼろぼろの衣服を着た人の姿が見えた。誰もが誰も豊かなわけではない、そういうことなのだろう。
そんなことを考えながら歩いていると見覚えのある広場に出た。
中央には使うことができるようになった転移のゲートがある。そこから円形に広がる石畳の広場をぐるりと囲むように店が軒を連ねていた。その中には他の店より一階分ほど高いギルドも見える。
ルルアラとオルブフが連れて来られた王都の広場は当時のざわめきを残すことなく、日常のそれへと変えていた。
「ロル、ひとまずの拠点を探すか」
「ピッ!」
声をかけるとロルは元気良く答える。辺りをきょろきょろと見渡しながら人を避けつつ宿屋を探し始めた。
外に拠点というのは毎日門兵と顔を合わせることなども考えるとやりづらい。それならと宿屋を探しているのだが、どうやらそれも上手くいかないらしい。
「部屋が空いていなくてねぇ。すまないねぇ」
「いえ、構いません。それでは」
申し訳なさそうに言う宿屋の主人に軽く礼をし、ロルと共に部屋を出る。これで五件目だ。
どうにも部屋が空いていないということで前の四軒にもすまないと言われながらやんわりと拒否をされている。
この時期に何かあるのかと思い尋ねてみると、冒険者がよく利用しているのだが今回は少し勝手が違うようだ。
尋ねた際にあれが原因だと指差された先には宿屋の小さな掲示板があり、そこに『第五遊技場』の主を探しているといった旨の紙が張られていた。それを見た瞬間、こちらとしては頬が引きつりそうになる。
何でも懸賞金がかかっているらしく、情報だけでも報奨金が支払われるらしい。捕まえたともなればその額は誰でも喉から手が出るほどの額になる。
宿屋が混んでいるのはこの広場で『第五遊技場』の主が姿を現したために、何か手がかりでも落ちていないか、あわよくば見つけて捕まえられないかと来た人が多いのだ。
(うん、原因俺だな)
カランカランと鳴る宿屋のドアベルを聞きながら宿屋を出つつ、そう考える。結局のところ俺がここに来たためにこうして宿屋に泊まりづらくなっているのだ。
そう考えている間にも六軒目を訪ねるも駄目だった。そして七件目の宿屋の扉をくぐる。そこそこ広い木造の宿屋は一階が食堂でその上の階を宿泊用の部屋として使っているようだった。
「いらっしゃい!」
カウンターにいた恰幅の良い女性が笑顔で出迎える。皺がうっすらと刻まれた顔には笑みが浮かべられ、どこか頼りがいのある雰囲気を纏っていた。
「すみません、泊まりたいのですが部屋は空いていますか?」
「そこの魔獣と一緒かい?」
「はい」
答えると女性は手元の名簿らしきものに視線を落とす。少しどぎまぎしながら待っていると、女性は伏せていた顔を上げて笑みを浮かべた。
「それなら丁度良かったね、一部屋空いているよ」
「本当ですか!?」
「あぁ、そうだよ」
思わず笑みを浮かべて尋ねると、女性は笑みを浮かべたままそう答える。そして持っていた名簿へと視線を落とした。
「何日の宿泊だい?」
「詳しくは決まっていないんですが……ひとまず一週間ほど」
「ふむ、とりあえず一週間だね。代金は銀貨一枚に銅貨五枚だよ。もし泊まる期間を延ばしたいときは言ってくれたらいいからね、その分お代は頂くけどさ」
「分かりました」
宿屋の女性の言葉に一つ頷くと、ポケットから代金を取り出す。まぁ、本当はポケットに何も入っておらず、アイテムボックスから取り出したのだが。
「はい、これです」
「ん……丁度だね。んじゃ、これが部屋の鍵ね。部屋は二階の一番奥、二〇五ってプレートがドアの上部にあるからその部屋を使いな」
「分かりました、ありがとうございます」
「ゆっくりして行くといいよ。……あぁ、そうだ。ご飯のことなんだけどね、基本はここで食堂みたいに注文してもらうことになるよ」
「分かりました、ありがとうございます」
鍵を受け取って女性に再びお礼の言葉を述べながら階段に向かう。灯りでぼんやりと照らされた階段を上ると、二階の廊下に出た。
通りに面した壁には一定の間隔で窓ガラスがはめ込まれ、その向かいには同じように一定の間隔で並ぶ木造のドアが五つほど並んでいる。
そしてドアの上部には数字が書かれたプレートが打ち付けられていた。
二階の一番奥、二〇五という数字を思い浮かべながらプレートに視線をやりつつ廊下をロルと共に進む。ロルは空気を読んでか先程から静かだ。
「お、ここだな」
二階の突当りにあるドアの上部には二〇五と書かれたプレートが打ち付けられている。
ドアのノブを引くとキィと軋む音と共にドアが開かれる。中は簡素な作りで、魔獣も一緒に泊まることが出来るように考えられているのか狭くはない。
「もう大丈夫か……サイレント」
ドアを閉めながら小声で呟く。部屋にサイレントをかけたので隣の部屋に音が漏れることはないだろう。色々と情報整理とか『第五遊技場』との連絡があったりするからなぁ、念のために。
「ピ?」
「何でもないぞ、ロル。それよりこれからの行動だが……」
「ピッ! ピニョ!」
これからの予定と口に出した瞬間、ロルが目を輝かせてこちらを見る。遊んだりしたいのだろう、そのことへの期待がこちらへと向ける目に現れていた。
そのことに小さくため息を吐きながら、口を開く。
「ここでやることが終わらない限りはあんまり遊ぶことはできない。それだけは分かってくれよ」
「ピィッ!」
元気良く返事をしてくれるが……本当に分かっているだろうか。そんな心配を他所にロルは部屋の中をうろうろしながら自身の寝床を見定めていた。
暫くしてベッドの近く、枕元に近い床へとうずくまるとブルリと体を震わせる。もぞもぞと体を動かしていたが、納得がいったのかここが自分の寝床だとばかりにこちらを見た。
「……とりあえず、ロルの寝床はそこなんだな?」
「ピニョピィッ!」
そうだと言わんばかりに強く頷きながら鳴くロル。
「とりあえず、先に仕事だからな……?」
「ピッ!」
念押しにとそう言うと、ロルは分かったというように頷いた。これほど強く言えば大丈夫だろう……おそらくだが。
まぁ、いざとなればこちらでフォローするか。そんなことを考えながらベッドに腰掛ける。
時間は……昼近くか。それなら昼飯を食べ終えてから仕事を始めるとしようか。
「ロル、昼近くだし腹ごしらえしてから始めるか」
「ピニョッ!」
俺の言葉にそれが良いというように鳴きながらロルは飛び起きる。そして服の裾に爪を引っ掛けると早く行こうとばかりに引っ張ってきた。
そんなロルにはいはいと返しながら苦笑を浮かべて起き上がる。そして半ば引っ張られるようにして宿屋の部屋を後にした。
□ □
宿屋で昼食を済ませると、さっそく王都をロルと共に見て回る。
一見して俺が以前来た時と変わっていないように見えるのだが、よく見れば数か所変わっていた。
まずは広場である。所々何かがぶつかってへこみ、壊れているところが見られた。思い出してみればあの壊れている場所、確か天ヶ上を吹っ飛ばしたところである。そこまで強くやったつもりは無かったんだがなぁ……。
他にもあの上級神である少女の攻撃による余波やらで壊れた場所も今は修理中となっていた。
そしてちらほらと見かける冒険者の中には『第五遊技場』の主を探している者もいる。大通りを歩いていると何人か第五の主について何か情報は無いかと尋ねてくる人々と出会った。
そこまで思い出したところで少しばかり眉間に皺を寄せる。昼の広場は活気に満ち、ギルドに通う冒険者はもちろん、おすすめ商品を宣伝する大声、ゲートを出入りする人々で賑やかだ。
そんな広場のある一角で自然と足を止める。顔を少し上げれば小さな掲示板が設置されていた。
木製のそれには大小さまざまな紙が貼られ、時折道行く人々がしばし足を止めてしげしげと眺めている。
書かれている内容はどこぞで店を開いただの、イベントがこの日に行われるなど様々だ。
「いや、でもなぁ……」
思わず呟いてしまう。ロルが不思議そうな顔でこちらを見ていた。
視線の先には貼られている一枚の紙。最近貼られたのだろう、あまり色褪せていない紙だ。そしてその紙には『第五遊技場』の主の名前、特徴、そのほか諸々と情報提供者に金貨五枚の報酬と書かれている。捕まえた人間にいたっては白金貨十五枚となっていた。
そして紙を見れば名前の欄には俺の名前が書かれ、特徴には一目見て分かる程眠そうな顔をしているとある。そこまでか、そこまでの顔なのか。
最後には第五の主へと呼びかけているのだろう、これを本人が見たのなら速やかに王城へと名乗り出るようにとある。
さながら指名手配犯のようなその紙を見て、呆れ混じりのため息を吐いてしまった。
(あんなことがあって本当に名乗り出てくると思っているのか?)
思い出すのは王城での日々、そしてこちらの世界に来る前の生活だ。あれらを経てそれでも天ヶ上達に協力するというのであれば、俺はその人を本当に出来た人だと思う。
何をされても相手を信じ、それまでのことは水に流す。まるで英雄譚にでも出てくるような人物像。
けれど俺はそんな人間ではないし、なることが出来るだなんて思わない。以前のことを思い出せば酷くむかつくし、協力なんてしたいとも思わないのだ。
ため息を吐かず、内心で独りごちる。気持ちが顔に出ていたのか、ロルが心配そうに「ピ?」とこちらを見上げながら鳴いた。
「もしあの時何かしていれば、今が変わっていたのかねぇ……」
呆れ混じりの笑みを薄っすらと浮かべながら、掲示板を見つつ言葉を紡ぐ。ロルは依然として不思議そうな顔をこちらへ向けたままだ。
もし俺が『第五遊技場』の主だと隠さなければ、許すほどの器量があれば、今は違っていたのかもしれない。どこかの国に属して、違う日々を送っていたのかもしれない。
こんな風に、周りの目を気にせずとも良かったのかもしれない。
「ピィピ」
「……っ、何でも無いよ、ロル」
先の見えない思考の迷路に捕らわれそうになるも、ロルの鳴き声で戻る。そして心配そうにこちらを見つめるロルにどうにか作り上げた笑みを浮かべた。
暫くこちらを無言で心配そうに見つめていたロルだったが、するりと優しく体をすり寄せてくる。そして慰めるように頭を俺の脚へとゆっくり擦りつけた。
その姿がどこか慰めているようで、自然と笑みが漏れてしまう。
そう、だな。かもしれない、を考えても先など無いと知っているじゃないか。逆に考えれば幼いロルを拾うことも、リリアラ達『第五遊技場』の皆と家族のような今の関係を築けていないかもしれないのだ。
「選んだのは俺、だからな。後悔より反省しながら先に進むさ、なぁ、ロル」
「ピィ? ピピニョ!」
少し自分の格好つけた言葉にロルはこちらへと顔を向ける。そして体を離すと、からかうように小突いてきた。どこかその瞳もからかいの色がある。
わ、分かってるよ。結構自分でも恥ずかしい言葉言ったって。だから少し恥ずかしいんじゃねぇか。
言葉にはしないも、からかうロルの頭を仕返し半分で少し強めにわさわさと撫でた。そのことにロルは嬉しそうに声を上げている。
恥ずかしい言葉だったけれど、実際その通りなのだ。出来た人間のように確固とした、とまでは言えないけれど。
「それじゃあそろそろ他の場所にも行くか、ロル」
「ピッ!」
そう声をかけて返事をしたロルと共に掲示板前から立ち去る。
王都に入る前よりどこかすっきりしたような、もやが晴れたような気持ちでまっすぐ前を向きながら歩いていった。
□ □
掲示板の前を立ち去り、今度はアグレナス王城付近へと足を向ける。中枢ともいえる城の近くならば欲しい情報、もしくは確かめたい情報が手に入るだろうと思ってのことだった。
実際、歩いているだけでも話し声は聞こえてくる。その中で特に気になった話があった。
「おい、確かそろそろだよな。例の会議って」
「そうよねぇ。まぁ、私達のような庶民には関係のない話だしねぇ」
あちらこちらで聞こえてくる「例の会議」という言葉。王都の人々は雲の上の出来事のように語りながらも、それでも興味が尽きないのか頻繁にその話を聞いた。
その話を確かめたい、ということで場所を変えているのである。
暫くすると先程の広場よりもより大きい広場に行き当たる。先程の広場にはギルドはもちろんのこと様々な店舗が軒を連ねていたが、こちらはどちらかといえば高級店が多い。それに明らかに貴族のものであろう家の数が多くなり、逆に平民が住んでいるであろう家はあまり見かけなくなった。
石畳の広場を歩く人も貴族らしき姿が多くなる。それでも大きな店舗もあるためか、庶民や冒険者の姿もちらほらと見えた。
「えっと……お、やっぱりあった」
辺りをきょろきょろと見回して目当てのもの、先程の広場にあったものよりも巨大な掲示板を見つける。
気のせいだろうか、辺りを見回しているときにものすごく視線を感じた。田舎から出てきたのかしら、とでも言うような視線である。少しばかり居心地が悪くなる。
そんなことを感じながらも掲示板の前へと来た。うん、やはりこちらのほうが情報量は多い。
他の人に混じって見上げるように掲示板に張られた紙を見ていく。
「えっと……お、あったあった」
視線の先に目当ての情報が書いてある紙を見つける。その紙の上部には大きい文字で「主による会議」とあり、その下には詳細が書かれていた。さながら新聞の一面である。
その記事によると、第一から第四の四人の主が集まって文字通り会議を行うそうである。行う場所はホラビル神聖国の首都、主催者はホラビルに属しているということもあり第四の主が行うと書かれていた。
記事を流し読みして行く途中でふと、ある文字が目にとまる。そして思わず眉間に皺を寄せてしまった。
(勇者も参加するのか……)
言葉には出さず、内で呟く。記事には天ヶ上達も護衛を兼ねて会議に同伴する旨が書かれているのだ。既にアグレナス王国王都を出立しており、ホラビルの首都へと向かっているとも書かれている。
この会議は情報を集めるのにうってつけだろう。現状も分かるだろうし、次の行動も知ることが出来るかもしれない。加えて今回の目的である天ヶ上達勇者、及び他の主達の動向をまとめて知ることも出来る機会だ。
逃す手は無い。勇者に関わりたいかと聞かれれば、すぐさま首を横に振るが。
「我がまま言っている場合じゃないよな。ロル、情報をある程度集めたら今度はホラビルの首都に向かうぞ」
「ピ? ピニョピッ!」
視線を横に向けてロルに向けて言うと、ロルは最初何だろうかというような疑問符を顔に浮かべた。しかしすぐに俺の前に貼ってあった会議についての紙に気づいたのだろう。納得したように頷きながら鳴いた。
うん、ロルも分かったようだし他にめぼしいものが無いか見てみるか。
そう思って再び視線を掲示板へと戻す。他にはっと……って、こりゃなんだ?
「へ? こりゃ知らなかった……」
小さく呟きを漏らしながらも視線はその紙から外さない。その紙に書かれていたのは樹沢についての記事だった。アグレナス王国内の渓谷、そこで道行く人を取っては食らっていた人面虎、マンティクアスを討伐したらしいのだ。
討伐した日はちょうどルルアラ達が上級神にアグレナス王国王都へと連れてこられた日である。
記事を目で追っていけば、他にも魔獣の討伐はもちろんのこと山火事の際の対処、犯罪集団をまとめて捕まえるといったものも載っている。どれもが樹沢が行ってきたことであり、そこに天ヶ上達の名前は無い。
そういえばルルアラ達を迎えに行った際、樹沢の姿だけは無かったがこのためだったのか。
「いや、それにしても本当にあいつか、これ?」
今だに信じられず声が出てしまう。声に反応したのだろう、隣で毛づくろいをしていたロルが不思議そうな顔でこちらを見つめてきた。
いや、俺の知っている樹沢は、天ヶ上の言葉をいつも正しいと思い込んでいるような奴である。けれどこの月日の間に彼に一体何があったというのか。記事だけを見れば樹沢は随分と勇者の名前に負けないような活動をしている。
あぁ……けどこの記事が本当か、なんて分からないんだよな。もしかしたらでっち上げかもしれない。
少なからずルルアラ達の一件で天ヶ上達は影響を受けたはずだ。勇者の名前に疑問符を浮かべる者や少しばかりでも眉をしかめる者がいただろう。
そうなればだ、勇者のイメージアップを図るためにあの場にいなかった樹沢を使ってでっち上げ話を作ってもおかしくはない。
まぁ、結局これも推測である。本当かどうか、実際樹沢に出会わなければ分からない。
変わっているのか、それとも天ヶ上と同じように変わっていないのか。一体どちらなのか。樹沢も護衛を兼ねて会議に来るようだし、良い機会だろう。
次の目的地はホラビル神聖国の首都、ホリービアである。
目的地は決まったので他の情報は無いかと掲示板をもう一度見る。けれどあるのはイベントや雇用情報などだ。
お、これは冒険者達から聞いた話についての貼り紙もある。バリエレイアから出た時に聞いた魔獣による誘拐、それについての注意喚起が貼られていた。
あとめぼしいものは……特に無いな。気づけば時間はもう夜に近づいている。
「とりあえずロル、夕飯にするか」
「ピ!? ピニョピッ」
俺の言葉にロルは嬉しそうに鳴きながら体を震わせた。
その様子を微笑ましく思いながら、俺とロルは掲示板の前を去る。夜も近くなってきた空は茜色と宵闇色が混ざり合っていた。これからとばかりに店から漏れる明かりが暗くなってきた辺りを照らし、夜ならではの賑わいを見せてくる。
そんな王都の街の中、ロルと共にその広場を去っていった。




