閑話~思惑、そして反省~
「あぁ、くそ……、こうなることぐらい分かっていただろうが!」
第四工房の主が住む一際大きな工房。その一室で苛立たしげに呟かれた大ヶ島の言葉は思いのほか大きく響いた。
頭の中にあるのは『第五遊技場』の主を捕らえるために策を立てた日のことである。
整った相貌を歪め、がりがりと頭を乱暴にかく。椅子に深くもたれてもその苛立ちは消えない。目の前の書斎にはこの度の出来事に対する後始末について、ホラビル神聖国から来た書類が乱雑に置かれていた。
どうにかなる、そう思っていた。けれど蓋を開けてみればどうだ。目立たないようにしようと思ったものの、見事に逆効果ではないか。
苛立ちを抑えきれず、机を足で蹴る。主ということもあってか痛みは感じない。けれどそれが何より大ヶ島の苛立ちを増幅させた。
「あの時、確実に第五の主は怒っていた」
唇を噛みながら大ヶ島は呟く。
初めて第五の主と会ったものの、あれだけで第五の主が他の主と比べて抜きん出た力を持っているのは分かった。
けれどそんな人物が何故、辺りを威圧なりして周囲の人間を行動不能にしてからことに及ばなかったのか。それははっきりと分かる。
あの時感じた静かな怒気。力ずくという手法を取るほど、第五の主は怒っていた。
怒らせた原因は間違いなく、天ヶ上や大ヶ島達だった。それを考えれば命があること自体、喜ばしいことに思えてくる。
天ヶ上にいたっては今でも長期療養中だ。虫でも払いのけるかのように第五の主が腕を振っただけで、天ヶ上はそれに見合わない重傷を負っている。彼にはそれに加えて、大衆の前でみっともない姿をさらしてしまったこともあるのかもしれないが。
加えて今回の作戦で利用した上級神。自分達よりも強大な力を持っているはずの彼女でさえ、手も足も出ていない。
どちらにせよ、事態は大ヶ島の予想していた方には向かわなかった。むしろ悪い方向に向かってしまった。上級神の手を借りることが出来るようになったために、第二の主である岩久良の早速接触しようという案に乗ってしまった。
第五の主が怒っていたのならば、あの場にいた人物は間違いなくその怒りの対象になっている。
協力は――見込めない。
「それでもどうにか他の手段は無いかねぇ……」
苛立ちで沸騰しそうな思考をどうにか抑えつけ、別の手を考える。
怒るようなことをした相手にその人が協力するとは考えにくい。つまり大ヶ島自身だけでなく岩久良、天ヶ上達ハーレム組には第五の主と交渉する機会はほぼ失われたことになる。
そうなると交渉を頼める相手としては今回の作戦に参加しなかった『第一闘技場』の主である早瀬優と『第三商店街』の主である深山匡子、そして勇者の一人である樹沢だ。
「けれど簡単に動いてくれるとは思えないんだよなぁ……」
小さなため息と共に言葉を吐き出す。
今回のことは口止めしたとしても複数の人間に知れ渡り、特に天ヶ上達勇者の評価が大きく揺らいでいた。樹沢を除く残りの四人は、今では実力が足りているのか、勇者としてふさわしいのかとちらほらと疑問の声が上がってもいるのだ。
情報統制等を行ったため今のところその声は小さい。けれどその芽を完全に摘み取ることは出来ない。
そして影響を受けたのは何も大衆だけではない。先程上げた三人も例外ではなかった。
早瀬は無理やりなその行動に難色どころか更に顔をしかめ、樹沢は行動に対しての非難と止められなかった自責に駆られている。深山にいたってはあの狡賢い笑顔で「第四の主が何とも非生産的な行動を取るのね」と皮肉の言葉を送ってきた。
「思い出せばむかつくなぁ……!」
口の端を怒りで震わせながら、大ヶ島は苛立たしげに言葉を吐く。
結局のところ、今のままではどうあがいても自身に勝機が見えてこなかった。
「一旦、これから離れてみるか……」
苦虫を噛み潰したような顔でそう呟く大ヶ島の視線の先には、机の上に乱雑に置かれた書類の一枚がある。
それはホラビル神聖国から、今回のことから一旦離れて落ち着くのもありではないかという一つの提案だった。
策を練って見事にそれが打ち破られた今の大ヶ島にとって、その提案は苛立ちを静めて冷静な思考を取り戻すのに必要に思えた。今のままではおそらく、前回の二の舞になるだろう。少なくとも平時の自分と比べて考えが浅くなっていると大ヶ島も自覚している。
加えて近々、主同士が集まっての会議も行われる予定だ。下手なことをすれば他の主達よりも立場が悪くなる。
小さなため息を吐いた大ヶ島はその旨が書かれた書類を手に取り暫く眺めると、その旨を伝えようとホラビル神聖国に向かう準備を始めた。
□ □
所変わって『第二図書館』の世界では、街の中枢にそびえる図書館内で岩久良がほとほと困った顔で書斎の椅子にもたれていた。
理由は大ヶ島と同じ、『第五遊技場』の主の案件である。
「誰が主なのか分かったのはいいが……ことが拗れてしまった」
はぁ、と小さなため息と共に力の無い言葉を吐き出す岩久良。天ヶ上が『第五遊技場』の主は神楽嶋であると伝えたために誰かははっきりしたが、問題の協力という点では何とも絶望的な状況になってしまった。
当初はこうではなかった。話し合いをすれば何とかなると、そう思っていた。その考えはどうやら甘かったらしい。
己の考えの浅さを恥じるように、岩久良は片手で顔を覆う。頼む相手も何もかも、間違っていたのだと今でははっきりと分かった。
それにしても、と考えを切り替える。頭の中にあるのは第五の主が現れた時の様子だ。
「力は間違いなく我々主よりも強い。上級神でさえ易々と撃破されてしまったほどだ。けれどあの怒りよう……」
大ヶ島と同じく、岩久良も第五の主である神楽嶋が怒っていたことははっきりと分かる。だからこうして落ち込んでいるのだ。
けれど注目したのはそこではなく、神楽嶋の感情であった。
「前の世界よりは成長しても、力が強くても、やはり同じ人間ということか」
上級神でさえ手も足も出ない程の力、その一端を見せた神楽嶋。けれど彼は仲間であるルルアラとオルブフの危機に対して怒っていた。
あの力なら存在を隠すことが出来たはずだ。その方法が何かまでは分からないし、もしかしたら詰めが甘かっただけなのかもしれない。
けれどはっきりと言えるのは、どれだけ強い力を持っていたとしても彼も同じ人間で、同じように喜び、そして怒りという感情を持っているということだった。
「……私は教育者、いや、長く生きた者として恥ずかしいことをしてしまったのかもしれんな」
自嘲するように笑みを漏らしながら、岩久良は呟く。
この世界に来てから、岩久良を含めて学校の人間は少なからず変わった。この世界『アトレナス』に適応するため武器を持ち、魔法を使い、考え方も変わっている。ただ、天ヶ上という例外はあるが。
神楽嶋も岩久良の知らないところで『第五遊技場』の主として仲間を得て、変わっていったのだろう。
そしてそれは、岩久良も例外ではない。背負うものが大きく、自分が気づかぬまに変わっていた。それこそ、相手のことも考えない程に。
「申し訳がたたんな、これでは」
椅子に深くもたれまま、小さなため息とともに岩久良は言葉を吐き出した。『アトレナス』に来て踏み誤った結果は、少なからず岩久良に衝撃を与えている。
椅子の背に体を預けた岩久良の視線の先、書斎机の上には今回のことについての報告書、及びこれからの行動についての書類が丁寧に置かれていた。大方口は悪いものの仕事をこなすエベラが置いたのだろう。
その書類に手を伸ばし、岩久良は手に取った書類をしげしげと眺める。今回のことはホラビルだけでなく魔法学園にとっても痛い出来事だ。
そして何より、岩久良にとっても衝撃が大きい出来事であった。
「……これで第五の主と話し合おうなどおかしい話というもの。少しは考えろと昔の私に言いたいが……今言ってももうすでに遅い。それならば……」
そう呟いた岩久良は書類を机の上に置くと、ペンを手に取る。そして書く一歩手前で一度動きを止めた。
「第五の主のため、これ以上強固な接触は避けた方が良いかもしれん。もし、次会うことが、会う機会があるのだとすれば……その時は彼に頭を下げよう」
自身の考えを固めるように言葉を紡いだ岩久良は、止めていた手を再び動かし始める。
静かな部屋に文字を綴る音だけが響いていた。
□ □
『第五遊技場』の件に関わった一人、天ヶ上はアグレナス王国の王城にいた。
割り当てられた他の生徒達より広い部屋、そこで橘達女性陣に囲まれながら柔らかいベッドに体を沈ませている。
秋人による攻撃とも思えないような手の一振り、それだけで天ヶ上は長期療養を強いられているのだ。
実際、天ヶ上は勇者ということもあって体は常人より頑丈なほうである。加えて力も強い方であった。
けれど結果はご覧の通り、手も足も出ることなく大敗してしまった。いや、むしろ死んでいないだけ幸いと言えるかもしれない。
けれどそんなことを天ヶ上が考えるわけでもない。
「神楽嶋……、城から追い出されて改心したと思っていたのに……」
ベッドの中、天井を見上げつつ天ヶ上は悔しそうに呟いた。握られた拳は微かに震えており、さながら自身は被害者なのだと、そういわんばかりである。
そしてそのことに周りにいる女性陣は誰も疑問に思うことは無い。むしろその通りだとばかりに頷いた。
「勇気、あんな奴が主だなんていけ好かないよ」
ベッドの傍で心配そうに天ヶ上を見守っていた橘が悲痛な声を漏らす。そのことに天ヶ上もゆっくりと同意するように頷いた。
ことの顛末を知らなければ、一見して融通の効かない主に勇者達が苦汁を飲まされたように見えるだろう。けれど事態を知っている者が見れば何とも滑稽で、そしてどこかうすら寒いもののように見える光景であった。
天ヶ上達が今まで秋人にしてきたこと、それを考えればむしろ今回の方法は悪手と言える。そのことに彼が気づかないのは、一重に秋人が悪く自分は悪くないのだと思い込んでいるためだった。
己の行動や考えに一切の疑念を抱かない、天ヶ上は『アトレナス』に来る以前のままである。
「あの人、どうして先輩を傷つけたんだろう……。先輩、何もしていない……」
「小峰さん、今更神楽嶋君のことを言っても無駄よ。彼は人の思いやりも分からない子なのだから」
悲しそうに顔を伏せながら呟かれた小峰の言葉に、緋乃宮はフンッと鼻を鳴らしながら吐き捨てるように言葉を放った。
そんな緋乃宮に小峰はどこか冷たい瞳を向けると、小さく口を開く。
「それぐらい、分かっています。緋之宮先輩みたいに、周りが見えていないような人間ではありませんから……」
「……なんですって?」
小声で囁かれた小峰の言葉に緋之宮の眉がピクリと動いて吊り上る。体を向けないものの、互いに向ける小峰と緋之宮の視線の間には剣呑な空気が漂っていた。
しかしそれを誰もが止めようとはしない。天ヶ上という一人の男を好きになり、今まで他の女性よりも見てもらいたいと行動してきた女性陣だ。剣呑な空気になるのは今更であり、あわよくば二人で潰しあってくれれば万々歳なのだ。
そして天ヶ上は小峰と緋之宮に視線をやらない。ただ眉間に皺を寄せて天井を見つめている。
「やはり、僕がどうにかしなければ」
瞳を天井へと向けたまま、傍で流れる剣呑な空気をものともせずに天ヶ上がポツリと呟いた。その言葉で橘達は視線を天ヶ上へと向ける。彼の言葉を一言一句逃さないようにと、耳を傾けた。
その中で天ヶ上は再びポツリと呟く。
「僕でなければ解決できないんだ、この僕じゃなきゃ」
天ヶ上の口で呟かれる言葉。それはまるで自身に言い聞かせるような色を伴って部屋に響く。
どこまでも前の世界と同じように自身を信じ続ける天ヶ上。今回の出来事は彼にとって少なからず今まで築き上げてきた歪なものを壊そうとするものだった。
けれど壊れない。築いてきたのはそんなやわに壊れるものではない。己の中でこれが真実だと、強固にそう思い込み続けたものだ。
自分は勇者である。前の世界でも特別だった。そして勇者となった今でも特別だ。そうだ、そうでなければならない。
――――自分が信じることこそ、本当のことなのだ。
壊れるにはあまりにも固く、築き上げてきたというにはあまりにも歪な形の思い。それは樹沢のように誰かが彼の根底へと強く衝撃を与えなければ変わらない。
けれど、彼の周りにはそんな人間がいない。誰もが今の彼を賛同し、取り巻く。まして彼自身に自分を変えようという意思はない。
どこまでいっても天ヶ上は、変わらず天ヶ上のままだった。
どう秋人を諌めようかと、ステータスを開きながら天ヶ上は考える。
天ヶ上の職業欄、そこに書かれた「勇者」という文字が微かに揺れた気がした。
□ □
「主は神楽嶋だったのかっ!?」
天ヶ上がステータスを開いていた頃、アグレナス王国王城の一室内に少年――樹沢藤二の声が響いた。
あまりに声が大きかったのだろう、その話を振った張本人であるキシェルは思わず耳に手を当てて、少し眉根を寄せる。そして少し嘆息混じりに樹沢へと口を開いた。
「ちょっと、声が大きい。けれど、驚く気持ちは分かるわ。あなたから話は聞いていたし」
「あ、あぁ、悪い。けど、神楽嶋が『第五遊技場」の主だなんて思いもしなかったぜ」
最初の俺からしたら思いつかなかっただろう、そんな言葉を樹沢は胸の内で呟く。
今思い返せば『アトレナス』に来て、いやそれ以前からなんとも阿呆なことをしていたと思う。何の根拠もない天ヶ上の言葉を鵜呑みにして、秋人には悪いことをしてきた。
勇者なんて言葉とは遠くかけ離れた、そんな行為だ。人間だから仕方がないと天ヶ上の周りにいる女性陣は慰めたりするのだろうが、彼らから離れた樹沢からすると馬鹿なことをしたと苦しい面持ちになることである。
芋づる式に引き上げられた過去の自分を思い出し、樹沢は眉間に皺を寄せた。
そんな彼の気持ちを察したのか、キシェルは近くのソファーに腰を下ろしながら、言葉を紡ぎ始める。
「トウジはその第五の主のことをどう思っているの?」
「……取り返しのつかないことをしてしまったと、すまないと思ってる」
唇の端を噛みしめながら、漏らすように言った樹沢の視線は地面へと向けられている。
苦しそうに歪められた顔、爪が食い込んでいるのではないかと疑うほど強く握りしめられた拳、何よりその深く沈むような声音が本心からの言葉だと物語っていた。
そんな樹沢の様子をキシェルは無言で見つめる。そして小さく嘆息すると、微笑みを浮かべた。
「話には聞いてた。聞いてて、あなたがしたことは便乗だとしても褒められるものではないと思った」
「……おう」
「でも、でもね? あなたは変わった。少なくとも私はそう思っている。あの時、あの名ばかりの勇者の言うことを聞かず、自分の意思で私の村を救ってくれたあなたは変わったのだと思うの」
キシェルの口から紡がれる言葉を樹沢は黙って聞いている。それを分かっているように、キシェルは言葉を続けた。
「第五の主はあなたが変わったことを知っているかどうか、それは分からない。もしかしたら知らず、まだ変わっていないと思っているかもしれない。……うん、少し回りくどいか。はっきり言う」
そしてキシェルは顔だけでなく体も樹沢へと向ける。そのどこかかしこまったような動きにつられたのか、樹沢も姿勢を正してキシェルに体を向けた。
「もしトウジが前のように戻ろうとしたら、私が止める。間違ったことをしたら止めるし、私が間違ったことをしそうになったら止めてほしい。少なくとも私は村を救ってくれたトウジをな、仲間として信じているし、だから……」
頭の中で考えていた言葉が、口に出そうとすれば整わないまま吐き出されていく。回りくどずに言おうとしているのにキシェルは顔を少し紅潮させてうつむいた。
彼女にとって樹沢の第一印象は悪い。けれど彼が変わったところは見たし、それ以降一緒に行動してきて彼がどういう人間なのか見てきた。
少なくとも、変わった樹沢を彼女は仲間として信頼している。
単純なはずなのに、気恥ずかしさで熱くなってきた頭では形にするのも難しい。一方の樹沢は何を伝えたいのだろうかと不思議そうな目でキシェルを見つめていた。
このままではどちらにしても恥ずかしい。それならばとっとと済ませてしまおう。そう考えたキシェルは頬を薄っすらと紅色に染めて、口を開いた。
「だから……これからも仲間として隣を歩くって言っているの……!」
「……」
言い切ったとばかりに少し息を荒げているキシェルを、樹沢はポカンとした表情でしばし眺める。少しして彼は思わず笑みを漏らした。
「いきなりなんだよ。脈絡が無いだろう」
「むぅ……」
からかうような声音の樹沢にキシェルが唸り声を漏らす。振り返ってみれば確かにそう思える。
けれどただ、キシェルは伝えたかったのだ。
天ヶ上達のような歪な信頼とも呼べない関係ではなく、対等で互いを支え、道を正し合えるような仲間だと。
第五の主に対しての思いを聞いて、更にキシェルのその思いが強くなったのだ。
「でもまぁ、ありがとうな、キシェル。本当、あの時キシェルに怒鳴られなければ今頃あのままだった。これからもよろしく頼むよ」
からかっていた笑みから快活なそれへと変えながら樹沢はそう言った。
「それならいい、それなら……あと、さっきの回りくどさは忘れて」
「いやいや、すんげぇ回りくどかったよなぁ、さっきの」
一方、プイと照れ隠しに顔を背けながらキシェルは言う。けれど樹沢にからかわれると更に頬を膨らませて樹沢をにらみつけた。
悪い悪い、と樹沢は慌ててキシェルをなだめる。そして小さく息を吐くと、窓から部屋の外へと視線を向けた。
一見していつも通りの王都の光景である。けれど確かに秋人が残した影響は場所だけでなく関わった人間にも残っていた。いや、直接関わったわけではない樹沢にも影響がある。
「なぁ、キシェル。俺は神楽嶋に悪いことをした。だからこれからはあいつの味方でいたい。少なくとも、あの時のような関係にはなりたくない。でも、関係を良くしようなんて最初が悪い。道のりも遠いさ」
そこで一旦言葉を区切ると視線をキシェルのほうへと樹沢はやった。
「仲間として、支えてくれるか?」
眉尻の下がった、少し自信の無い樹沢の顔。その様子にキシェルは小さく笑みを見せる。
過去が過去だけに、彼の望みを叶えるには道のりが遠いだろう。むしろ第五の主を捕まえようという一件で悪くなっただろう。
けれど変わった彼なら仲間として共に道を歩み、道を間違えそうなら正そう。そういう意気込みでキシェルは先程の言葉を口にしたのだ。
それでもまだ樹沢が自信の無いなら、何度も言おう。
「もちろんよ。私は仲間、当たり前」
笑顔で返すキシェルに、樹沢も笑みがこぼれる。
それでは訓練に行こうか。そう話し合ってキシェルと樹沢は立ち上がり部屋を出る。部屋から出る直前、チェックだとばかりに樹沢はステータスを開いた。
ステータスの職業欄に書かれた勇者の二文字。それが妙に濃くなったような気がした。




